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詩情の藍コミュの歌集初稿(散文)

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アンドレア・ゲイル


フォーゲル さあ、ここからはふたりだけのお芝居です。ご覧の通り、みんな追い払いました、もう邪魔は入りませんよ。あなたというヒロインを、この舞台は待っていたのです。
デクトラ 信じられない…いったい何をしているのよ!
フォーゲル 物語の結構どおりことを運んでいるばかりです。
デクトラ 取り憑かれてるのね…。
フォーゲル ええ、あるいはね。(不安に)…私は何ということをしたのだろう。連中は家族同様でした。(思いなおし)…しかし、家族もまた物語です。あなたの結婚が物語であったようにね。捨てるべき時が来れば、やむを得ぬ別れとなるのです。そして運命を更新させるのは常に新たな出会いだ。
デクトラ 近づかないで! あなたからは切れすぎる刃物の匂いがする。
フォーゲル そしてあなたからは錆び落ちようとする剣の嘆きが匂う。どうです、そんなら私の切れ味を、あなたに謹呈いたしましょう。さ、先ほどの続きですよ。(剣を差しだす。眼に妖しい光)
デクトラ (ひとり)もう…分かっている気がする、これを受け取れば私の未来がどうなってしまうか…。そう、分かってはいたの。この数年に起こったことは、まるで神話のようだった。ガリアがまつろう民となってもう千年以上も経つというのに、わが夫のふるまいは今だにまるで北の巨人族のように猛りたち、船首に女神でなしに牙を剥く狼を飾ったわが天狼号のゆくところ、逃げまどう敵兵どもの有様はまさに本物のシリウスに逐われて散り散りになるかと見えた。そうして…途切れた夢のように、いま私はこの茫漠とした海に放りだされている。イオランとはいったい、何者だったのだろう? そんな人がいたのだろうかと疑いが首をもたげるくらい、あの人は飛び抜けて異常な人物だった。言いすぎを承知で言えば、もはや「人」だったとすら、どうやらいえないようにも思う。だって、ただの人が――王とはいえただの人が――あれだけの熱い肉体と冷え切った心とを平然と双手に、破滅に向かって迷いなく突き進んでいくなど、いったいできることだろうか。人間にそんなことができるの? 夫は敵を憎んでなどいなかったし、財宝を得ても眉ひとつ動かさなかった。それほどの高みがみずからにはふさわしいとうそぶいて憚らない男だった。百人の兵を屠り、百人の女を貪り、百種の料理を喰らっても、その眼に驕りさえ浮かばぬほどに、世の中を超越しているのだとの自負…。富を溜めこみ女を漁るほどに夫の瞳に宿る「餓え」は、冷たく研ぎ澄まされていった。美食と狼藉と渉猟の果てに、やがて神に代わるもの、神々のいまさぬ世界にまで、辿り着こうとしているかのようだった。――天狼号には独特の秩序があって、まるでひとつの国だった。夫の采配は無茶なようで、しかし独特の雰囲気と、意外なもっともさを持っていた。分捕り品を分け与えるのも、傍目にはどうかと思う不公平さだったが、夫は敢えてそれをしていたのだ、かれは船員たちの不満をそのまま不満の集まりとしてまとめ上げ覇気にまでつなげる仕方を知っていた。分かち合うことに慣れては攻撃はできないのだと、よく言った。そして、この王の図抜けて恐ろしい姿は、略奪が済んで、船や町に火をつけて一切を焼き払う時に現れた。焼け落ちる家屋の持ち主が泣きながら手桶でなけなしの水を掛けるそばにはいつも、その火で暖を取る貧しき者どもがいる。厳しく対立するその勢力のどちらかに、夫はわざわざ肩入れをし、仲違いをさせた。彼らの眼に冷たい強さが宿り、私たちに向けられるはずの恨みが隣人への憎しみに転化したとき、もう事態の一切は夫のものになっていたのだ。「突き落とされた不幸の底から、多くの人々はもう一度這いのぼってくる。その強き無心が、俺の求める民草の姿。失われるものを惜しむから人は弱い、居直りかえってただ日々の漁や、果樹や蔬菜の世話や牛追いに励む時、連中は強くなる。それを『自由』と呼ぶのだ」と、夫は高らかに言い放つのだった。――私は…、私は、自分などない、従順であることが価値だと教えられ、それを信じて生きてきたただの女だったから…、夫の獣欲による苦痛も、それを快感と思えと言われればそうなような気もし、下々に冷たく当たれと命ぜられれば、王に代わって冷酷な裁決もした…。不満はなかった。私には不満というものがそもそもなかった。だけど…。いつだったろう、歌おうとすると(声が出ない)声が、出なくなっていたことに気づいた。
 ナゼワタシニ
 ダンスノオドリカタオシエテクレナカッタ
 ワタシノウゴキキメラレテル
 ワタシノシゴトキメラレテル
 オモイドオリニウゴケナイ
こんな人生には、どうやら体が堪えられない。これは巨人の生活だ。氷の大地ヨーツンハイムに引き揚げたトールやガルフピッゲン以下、気高い乱暴者どもの古い記憶がいま、夫に宿っているのだ。だが私はただの、コナハーの漁村の娘。グロスターでは幾度かの神託を授かりはしたけれど、生まれはただの漁師の小屋だし、預言などといったって私にしてみればさいころを振るような気紛れと思いつきで明日を見たつもりになっていただけ。幼い娘にはよくあることよ。でも世間はそうは見なかった。――村は貧しかった。ある年の十月、ベタ凪に凪いだ北の海に乗り出す村一番の漁船「アンドレア・ゲイル」には男盛りの六人の腕自慢が乗り込んでいた。私は前の晩に夢を見た。アザラシの皮を脱ぐ人魚たちの群れる岩場を見てしまった六人が、このことは誰にもいわないで下さい、お礼に子宝を授けましょうと請われ、十七人の赤ん坊を抱いて村に戻って来るという夢。超えてはいけない、魔界のものとのまぐわい…。不吉に思った私はすぐにその夢を祖母に告げ、祖母はまた慌てて、帆を上げんとする船へと走った。訴えが聞かれるはずもなかった。村は貧しかったのだ。カジキを求めて遠いグランドバンクスの瀬を目指したアンドレア・ゲイルの後を、嵐が追った。見たこともない、すさまじい嵐だった。ドルイドのお坊様方は必死に香木を焚き青銅の環を鳴らして堂宇に籠もったが…、船は、遂に帰らなかった。それだけならば私などは不吉なことをいう奴としてただ忘れられたかも知れない。しかしことは終わりではなかった…。半年ほど経って、村に住む十七人の娘が、いっせいに子どもを胎んでいることが分かったのだ。十七人といえば村に住む娘の半ばにもなる。幾たりかは恋人の名を白状したけれども、大半は相手の男さえはっきりしなかった。教会によれば、生まれてくるものは受け入れなければならない。でも、生まれてくるのは、何なのだろう。それは果たして人なのだろうか? 働き手を失った村はただでも急速に荒れつつあった。十七人の私生児を受け入れるゆとりなどありはしなかった。命を迎えるよろこびは、却って村人の肩をガックリと落とさせたのだ。いつかだれ言うとなく、これは私のせいだとの噂が広まって…。これがフランスだったらとうに火あぶりになっているところを、ドルイドのはからいで、村を外れた海辺の丘の上にある古代の遺跡に身を移したのだ。立ち枯れたファゼルの木の枝にそこだけ青々と寄生木の毬がぽつりとめだつその小さな古城で、私はそのまま餓えて消え失せるつもりでいた。私も、男たちが死んだのは自分のせいだと思ったから。私の白い手が指ししめす未来は、いつも不穏な未来でしかない、それならば、そうしかできないならば、もう何もすまいと思ったのだ。だが、ある日、沖合いに碇泊した一艘の軍船からボートで男たちが岸に着き、私の所まで上がってきた。船長らしい男が、井戸はないかと聞いた。井戸はあったが、とうに涸れていた。もう何十年も土を潤わせたことはないという。涸れた窪みで木の葉がかさかさ鳴った…。船長の男はひたと私を見つめた。私はただ魚のように黙っていた。かれはいう、「ならば、今からはお前が井戸だ。俺と来い。お前の村はたった今、焼き払ってきた。十七人の赤ん坊と一緒にな」――。何もかも見透かされていた。そして私も、かれの思いが透けて見えるように思った。ヨーツンガルトの王であることを知ったのは軋む船艙の寝床で一夜を過ごした後だった。まあ、いいか、と私は思った。土地を失うことは予感していたから、少々突飛ながら、運命が少し早くやってきたのだ、と思うことにした――。頬に触れると、少し上気していた。やはり嬉しかったのかしら…
(戯曲「デクトラ?」より)

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台風十六号


人々 【(詞)さてもたてがみ振り乱す大型台風十六号は、日本海沿いをゆっくりとねめつけるがごと北上し、新潟富山をひと呑みに、大災害を置き土産、基幹山脈のし越えて、今宵いよいよ群馬から関東平野に差しかかる。梅雨前線とどこおり、かねて増水の各河川、消防隊ども勇ましくトラック・ポンプで立ち向かえども、かの悪相の一つ目はにたりにたりと西空にくれないの息もだしつつ、ここを先途とのしかかる。すでに北部の山沿いは八〇ミリから一〇〇ミリの激烈な雨量を観測し、山肌駆ける濁流は吾妻・渡良瀬・毛野・蚕養、おらび競いてひンがしに向かえり。名だたる川の龍神どもは、太平楽の眠りよりギロリとまなこひん剥いて、瘴気吐き吐き起きあがりたり。その逆鱗をむしり取り、荒さぶに任せてカン混ぜたかや、あるいは蛇体の三千丈、鋼の肌でプレートをごそりごそりと削ったかや、大地わななき空気は震え、民草の肝冷やしたり。調子づいたる眷属の小川や沼のがたろうどもも、悪戯心くすぐられこぞって川に繰り出せり。ひとりびとりは卑小な連中、ただし幾百ッ匹ともなれば、その青白い手のひと掻きが土ひと掬い持ち逃げたとて、いつかそちこちの堤防にあやしの亀裂入りたり。あるいはやなぎを根こぎにし川のくびれを堰き止める。あるいは地虫となりを変え百千の穴うがちたり。はたまた政治に長けたる輩は両ぎしの村にいさかい起こし、彼の手こそ切れよ、切れておくれと八幡菩薩に念ぜさしむる。海より百キロ入れども標高わずかに八メートルの日本きってのだんだら平野、ただ一尺が運命の分かれ目なれば隣人にかこつ恨みは四百年、百姓どもにいわせれば団結せぬのがこの地の掟。かほどた易き仕事があるか、我らがたろう一族に限ることではないとやら、ここでは田つくりの裔すらが胸の奥ではわたつみの大決壊こそ望むちょう、アラおかしやなおかしやな。大将々々龍神殿よ、わくらばにも似たこの野原、どう煮炊きして料理しょう。ソウさな時に貴君はたれじゃ。そこもとハ、国を申さば甲斐釜無の信玄堤に代々棲もう石和の輔とは申しはンべり。ウム、笛吹の濁流からか、よう来たよう来た遠慮は要らぬ、いずれ大水で生まれた土地よ、たれも恨みはしまじうゆえに、心置きなく荒れさせたまえ。こころえ申して候と、ひときわ阿漕ななりをした合わせ皿かづく大河童、郎等三百引き連れて、毛野の支流に入りたり。大将々々あじきなきわざぞ、甲斐のちんぴら田舎奉行に何程のはたらき有りや、鮭のぼるこのくろがねの大ドロ之介をお忘れか。多摩よりこちらは我らが領分、水戸のひょろひょろ徳川がたとい幾層に築こうが、那珂川土手はちゃッきり切って発電所ッから牛馬もろとも、冷たき海にざッと流さん。噴くまじ噴くまじ大ドロよ、鉄粉くそうて叶わんぞ、したが尤もなその猛りよう、北は任せた好きにせい。うけたまわって候と、これも川海苔のマントをまとい葦の楊枝をシイシイ鳴らす二癖三癖の悪河童、わずかばかりの手の者連れてあやしの水路につッとぞ消ゆる。
さてこそ坂東の水妖どもよ、ト利根の龍神おらびて曰く、本日この晩、利根本流を狂わす勇士はいずくにかある。小さな仕事はきゃつらだが大きな仕事をたれか請け負う。麝香の息でこう問えば、有象無象のカエルの一族、むぐと噤みて返答なし。龍神かッといかり立ち、さてさて頼り甲斐のないことかな、日頃のとろに性根も腐れて落ちたかやい。はたらき所知らぬは魔族の恥ぞ、嵐の夏は煤けた土地を洗濯するが我らの務め。浮かべる塩の島々に水ひッかむせる大役ぞ。さてこそ稗も豆もなり、大根、からばす、甘藍の果てまでむくむく生ようというもの。人なぞ大ごとにはなけれ共、おのが経営なおざりにして、のめのめ浮世をむさぼり給うな。疾う疾う出よや。一目天は目前ぞ。ト龍神のたまえば、応うる如く大粒のひと撫でざッと横ぎりて、陣の水面は華やげる蓮池の如く波立ちたり。その頃台風十六号は陸に上っても足なお速く、六〇ノット毎時にて、豊秋津の島ひと息に両断せんとこそ見えたり。各町村の消防隊は二食三食の弁当くくり、不慮の事態に備うるびょう、頬ひきしめて詰めており。ここに、蚕養のくびれに払い下げの中田をもつ浮島捨十、小作あがりの長十郎、頑固が取り柄の消防団長、はげちょろけたる地下足袋に釣鐘ガッパのいでたちでカンテラの灯ぽつねんと、土堤の上にぞ見張りおり。街灯もなき土手の上、川どうどうと渦巻くも雲の輻射でほの白く見ゆるばかり、時折の稲妻かッと閃けばその時ばかり雲海のごと音なく流るる恐ろしさ。月は望月、汐湛えれば思うに任せぬ低地の水はけ。梅雨と台風と大汐の、陸・海・空の攻撃より、杭と土嚢と地下足袋だけで、このくびれ、ひと夜よッく守り通さん。一方、龍の陣屋では、鹿島ハ大槌入道といッぱ田村以来の古なまず、召し出だされて長ゼン振い、陣頭にこそ今立ちたり。曰く、そこもとなどが老躯をおしてまかり出でるはみっともなけれど、若年ばらの意気地なさ、つい請け負わずにいられぬわい。龍神どのも心労よのう、世継にゃ頭も痛かろう。だがまァ仔細はいわぬとしょう、引き受けたからは河童衆、古なまずのはたらき、よっく見よやい!(唄)夜風とどろきひのきはみだれ、月は射そそぐ銀の矢並、打つも果てるも火花のいのち、太刀の軋りの消えぬひま。(詞)まさに魔界と人界とが、がッぷと組もうその刹那。大ドロドロの十八番。ところが、そのとき捨十は――】
浮島 や、ややっ?! 火だ、火の手が上がった!
(戯曲「ハメルンのうわさ」より)

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