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詩情の藍コミュの紅葉野

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時 現代あるいは天長元(823)年長月

場 埼玉県宮代町大字姫宮373番地姫宮神社前あるいは武蔵ノ国百間ノ里紅葉野

人 シテ 宮原中学校歴史部2年女子生徒あるいは桓武天皇の皇孫女、宮目姫
  ワキ 旅僧





*本作は能舞台では上演されない。


第一場 ふくろう

ワキ (そり)刈田にも早やひこ生えの、刈田にも早やひこ生えの、剣あおあおと伸びつらん。
(あにり)これは六十余州漂白の旅僧にて候。鼓打つ身とて住む寺もあらず候。さていまだ東国を見ず候おほどに、このたび端妻行脚と心ざし候えど、遠く武蔵にいたり、たちまちこなた霧の刈田に踏み迷いおり候。
(そり)小諸過ぎ、碓氷越えれば上野の牧、川の湧く平らに下りて、目途なき広野をたどれば、関宿は名のみにして、泊まりも果てぬ旅のならい、憂き身はいつも破れ小舟、鮒にたづぬる浮かむ瀬を。
(あにり)よおよお急ぎ候おほどに、霧晴れれば、これははや何たる紅葉にて候おものぞ。立ち寄り眺めばやと思い候。見れば見るほどに見事な紅葉にて候。

シテ (中学生、面=イタリア風革製チヴェッタ、女子制服、資料ファイル)こんちはぁ。横内さん、来てます?
ワキ これは旅の者にて横内殿にてはあらず候。おことはこのあたりの人にてわたり候おか。
シテ はぁ、すぐそこっす。あの、郷土資料館の横内さん、いませんか?
ワキ さて存ぜぬが、左様に候わば、まず近お御這入り候え、尋ねたきことのござあり候。
シテ はぁ、じゃ待ってようかなぁ。(座る)んで訊きたいことって、なんすかぁ?
ワキ 尋ね申すは余の儀にあらず。これは見るほどに見事な紅葉にて候。
シテ まぁ、紅葉野ですからねぇ。
ワキ ほお、紅葉野と申し候おか。
シテ ウン、今は姫宮ってんだけど、昔は紅葉野って。そのことでちょっと待ちあわせてたんだけどなぁ。
ワキ 今日った紅葉野とは申さぬと。
シテ えぇ。
ワキ 道理なれ、先ほどより只事ならぬ気配を感じおり候。姫宮と呼ばうちょお、その謂われ、御存知においては語って御聞かせ候え。
シテ はぁ、よくは知らないんだけど、ていうか急いでんだけど――まぁいいや――あたし、そこの宮原中の歴史部なんですけど、ちょうど調べてたとこなんで。
(たんか)むかぁし昔の平安時代、桓武天皇の孫で宮目姫っていう人が、京都からお嫁にもらわれて千葉へ行く途中で道に迷って、この辺に出ちゃったんだって。ちょうど秋で、楓が真っ赤に色づいてて、それがあんまり綺麗だもんで、迷ってんのも忘れてずっと見てたら、何だか急に具合が悪くなって、癪が起こって、歩けなくなっちゃった。旦那は慌てて看病したけど、こんな田舎でお医者もいないし、とうとう夜になって死んじゃったんだって。旦那は大泣きに泣いたけど後の祭りで、しょうがないから亡骸を埋めて、ひとりで千葉へ帰ったんだって。あとにはお墓だけぽつんと残って、ただ近所の人が時々花とかあげるだけだったんだって。そしたら何年かして、何とかってえらい坊さんが来て、話を聞いてそりゃ可哀相だってんで、お経あげて小っちゃいほこらとか建てたげて、姫宮明神って呼んだんだって。それっきり。でも、こんな話、おもしろい?
ワキ これはねんごろに御物語り候おものかなさりながら、見事な紅葉とはいいながら、癪を起こし滅却するまで美しう候えしものか、まず不審に存じおり候。
シテ まぁ、そうだけどさぁ、いいじゃん、なんかロマンチックで。ね、おじさんって、お坊さんでしょ。
ワキ さん候、恥ずかしながら漂白の旅僧にてござ候およ。
シテ じゃ、ちょっとお経でも上げてあげなよ。これも縁じゃん。
ワキ ちかごろ不思議なることにて候おほどに、しばらく逗留いたし、ありがたき鼓打ち、かの御跡をねんごろに弔い申そおずるにて候。
シテ お願いします…でも…え? 鼓って何すか、お経あげてっていってんだけど?
ワキ まことに念仏申すことは遠き道なれ。前仏ったすでに去り、弥勒仏ったいまだ来たらず、かく中間なる夢幻の世に生まれきし身の、何をうつつと思おべき。かって愚僧に大華厳二十八品教え説き候いし高麗の鼓僧、名を姜東柱と申し候おが、かく語り候いしことのあり候。(ガラリとくだける)
(たんか)思えば人なぞよりずっと前から景色はあるのじゃ。仏法に輪廻を説く流派は多々あるがの、なんの、死んで腐れて草木と生まるるならば、何も説法は要らぬ、自然も祈りも同じことよ。ただ、人の世は苦しく、苦を平穏に転ずる思いの険しさが、衆生を祈りに傾けおる。が、な。見さっしゃれ、この塗胴はただの松、かぶせたは安い牛の皮じゃ。撥に至っては何の木かも知らぬ、それでも。…とどん、とどん、とんくらみ。手を回し間合いを取れば、世界が浮かぶぞえ。のう。回る輪廻も渦巻く渦も、この軽い手首に宿るのじゃ。
シテ お坊さん、普通に話せるんじゃん。
ワキ (ニヤリと笑う)こは能曲にあらず、からみそ田楽にてござ候。
シテ あっそ。まぁ頼むわ。あたし、ちょっと調べものあるから。じゃぁね。
ワキ 心得申してそおろお、じゃん。
シテ ぎょぎょっ?!(退場)
ワキ (そり)ほお、ほお、阿弥陀仏よや、阿弥陀仏よや、おいおい。――


第二場 ますかみ

ワキ 嬢買 鉢雌戚 箭聖 陥 賠陥
嬢買 鉢雌戚 箭聖 陥 賠陥
箭聖 陪嬢 箭聖 陪嬢
嬢買 鉢雌戚 箭聖 陥 陪嬢
箭聖 陪嬢 箭聖 陪嬢
嬢買 鉢雌戚 箭聖 陥 陪嬢
嬢買 鉢雌戚 箭聖 陥 賠陥
嬢買 鉢雌戚 箭聖 陥 賠陥
〔日本語訳〕
おほ 坊主が上手に 寺こわす
坊主が上手に 寺こわす
お寺をこわす お寺をこわす
あら すっかり寺こわす
お寺をこわす お寺をこわす
あら すっかり寺こわす
おほ 坊主が見事に 寺こわす
坊主が見事に 寺こわす

シテ (宮目姫、面=十寸髪、唐織脱下、狂い笹)かしましや。
ワキ あれはいずちの草陰よりあらわれし女性なるぞ。もし、御身はもの狂いおわしますか。
シテ (そり)苦しやな、紅葉むなしきを知り流水こころ無おして、おのずから生ける昔に帰る野良の、紅葉が原にたなびくけぶり。
ワキ これは言語道断、不思議なることを聞き候おものかな。さては桓武天皇が孫女宮目姫と御見受け申し候。
シテ さてめずらしきことを聞き候。いかにも桓武帝はわが祖父にておわし候。
ワキ してここにて滅したまえりと聞きおよび候おが、この原の紅葉とて昔日ったかほどに美しきものにてあり候わば、何とぞ子細御聞かせ候え。
シテ (そり)うまし紅葉をくぐりて、うまし紅葉をくぐりても、人は死ぬこと能わじ。わが胸のさわぎと脳の痛みは、けしてあくがれにあらざりしものを。
ワキ すりゃなによおにして滅したまい候おぞ。
シテ (そり)くにづくりのむごさに、わが胸は裂けたり。おお神仏った照覧あれ、祖父の所行を赦されよ。都は荒れてうち捨てられ、こおろぎの棲み家となりはて、悪疫は猖獗をきわめ、日なかに大路を山賤のゆく。人の罪を赦されよ。わけても大叔父早良ノ宮、淡路に流さる身となりしが、由良の関にて討たれしを聞き、かにかくに都を逃れたる罪のわが身ぞ。罪のわが身を代償に、ただわれを思おて手引せし夫、国幹殿をば赦されよ。われは卑劣の女房なりき。婚礼のめでたさすら、この紅葉をくぐるにおよび、はた虚しく思いき。われはわれを祈りはせで、皆を祈り申す。
ワキ うたてやな、むごき御物語聞き候さりながら、早良ノ宮におかれては、はや成仏され候いしこと御伝え申し候。
シテ 何と成仏されたと申すか。
ワキ なかなか、げに桓武帝の御計らいにて宮が怨霊をなだむるびょお慰霊法会を催せし始めは大同元年、以後崇道天皇と追号され法会は彼岸会と呼ばれ六十余州あげて千年これまで続きおり候。まことに衆生の死者を思うこと、あらたかになりおおせ候。さらば御身のわが身を責め、もの狂いたるさまも、はや要らずなり果てたりと存じ候。ここにて成仏召されたく御願い候。
シテ (考える)御坊の心、かたじけなく思い候えど、なお務めの残りたる心地のござあり候。
ワキ 何とまだ務めのあり候おか。
シテ (そり)この原に紅葉のある限り。
ワキ (そり)ここに紅葉のある限り。
シテ (そり)ひとりの御霊が安ろおとて、皆の御霊をいかにせん、無常の紅葉の葉隠れに、無常の紅葉の葉隠れに、祈るわが身を残さばや、霧わき時雨とおり夜鷹啼く紅葉野を、祈るわが身を残さばや。風どおと吹き、葉のざざと鳴り、ただ祈りの静かに流れ、おいおい、おいおい。

コメント(3)

読みました。
(そり)(あにり)(たんか)などはわかりませんが、
話の筋、霊をおもう尊い声なのはわかりました。
おそろしく美しいと思います。
あ、どもです。ほんらいHTMLで僕の戯曲を読むのは不可能なのでw
雰囲気しか伝わらないかと思いますが…。

そり、あにり、たんかはト書きで、
ソリは朝鮮語で「歌う」
アニリは同様に「語る」、
たんかは「啖呵」でちょっと激し目の切り口上みたいに語る、くらいの感じ。

夏の上演をこれにするかどうかもっか検討中です(^^
ご検討のうえ、ご決断ください。
(ほかの選択肢はなにですか?)

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