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詩情の藍コミュの歌集初稿

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詞章集 「もとより帰れることを望みはしない」





目次

0.
天と地と 藤代
ニシンとアブラナ 上総

1.
ルーン疑問符 アイスランド
夢の涯 アイルランド
ケーニヒスベルク ケーニヒスベルク
日時計 シュトラスブルク
大正ブレーメン ブレーメン
定型と惑乱 アムステルダム
単玉一元論 デルフト
やさしいきもち ラリサ
赤道 葡領アフリカ
エリダヌス スーダン
最悪の道 マリ・中央アフリカ・ザイール
びお・めはにか ザイール
パパ・ナショナル ザイール
ベネズエラ ベネズエラ
ケ酢コ ボリビア
酢コケ カリブ海
あふろでぃしあす? アフロディシアス
地史と無名 カッパドキア
イスファハン ペルシア
ビストゥーン無名碑 バルチスタン
たちあおい インド
虎について スリランカ
ウラル ウラル
黒河 黒河
コケ酢 ワ郡
マカオ 路環島
葦舟の海 全羅北道蝟島
月舟 ウチナー

2.
春の檻
風媒
炎あれかし
ソフシス
見沼区民の歌
真壁村の仙太郎
はやぶさ
群馬
鍵野
煙にまかれて
死を舐める双子
赤い空
昼の月
六歳

はやびけ
おぼろ月
羊と葡萄

3.
月と電車?
せみ
あるチベット人の死
アンドレア・ゲイル
台風16号

4.
紅葉野






天と地と


木星のみおろす畦を自転車でのんびり帰る
ざあざあとコンクリ堰が私らの冷えたステージ
靴脱いでわたしはかもめ花束を虚空になげる
藪かげにひなぎくの咲く十代にまだ酔っていたい

半月のみおろす橋を僕たちは駆け抜けていた
音もなく黒く流れる大川に心がうつる
もりうごく破滅の日まではずれまい鉄の橋から
かやねずみひそかに鳴いて英雄に憧れている













ニシンとアブラナ


もとより帰れることを
望みはしない
東にのがれる雲は
あまりに速い

日かげをあびてもいつか
むねは乱れて
よぎりに汐のどよもし
堪えがたくきいている

(あらしは花にある)

ひばりよ飛びたて

  かずさのいわしの群れは
  あらわれ消えて
  きららの身をひらめかせ
  旅路にうたう

燃えながら沈んでゆく
あの貨物船






1.



ルーン疑問符


小さきはさみ そと ふるわせて
よろいぬぎすて おやもすて わかやぐ蟹の子は
なみのそこ かそけく
なにおもい 燃ゆらむ

いくさはてし ふね こけももの みなとにて朽ち
こうべさぐ かつての少年は
わらの死の とこにて
いかな文字 書くらむ



夢の涯


(おもてあげたるわが君の
 はれてくらき潮路ゆけば
 おもいいやましわれひとり
 裸足にてたちたり

 たそがれの汀にて 震うる手にぎりしか
 らちもなくよぎれるは 黒檀のひとみ

 おもきつとめよいさおしよ
 はてなき夢路ゆくひとよ
 おぼゆるそらの群青に
 わがかげのあれかし)

おとめふたとせひと待てど
なおたよりとどくそらなく
おぐらきなみのさざめきに
あわれ胸やみたり

ゆうされば麦畑の くろにさまよいいでて
(宵やみになく鳥よ 魂よりてしらせ)

おらびほえたりかの娘
むくろに身をばうち伏しつ
おくつきこけに鎖されて
いま いくさはやみぬ



ケーニヒスベルク


ゆびさき 天窓をあげて まちなみを みわたせ
ひぃらり きらり
鉢植えのむこう 恋人のかわら屋根

コウノトリ 煙突をまもり 夕日の波 みちくる
ほぅろり すらり
ゴンドラはすべり 恋人は吐息する

つまさき 階段くだれば 幽霊のたつ おどりば
ひぃやり くらり
よふけの霧には 恋人のおもかげよ

 ぐぅらり ぷかり
 駆逐艦はねむる
 六月の いくさを
 なぎさに よこたえ

 ぱぁらり さらり
 すなはまは歌う
 くにざかい
 ダンツィヒ 彼方に

氷河は ちひろの厚さよ 人の世も しらない
みぃしり ぴしり
トナカイの舞踏 オオガラスうたうとき

星ぞら 七つの問いかけ 川の面は だんまり
ぴぃかり ゆらり
のぞみを放すな みなもとにさかのぼれ

琥珀ひとつ そらは底に秘め 夏の日を ことほぐ者よ
ざぁわり はらり
地にある幸い 森ふかき われらのふるさと!



日時計


がらんどうの空に
むちゃな口笛吹きつけて
「おお かたむく世界!」

ポケットには
あやしのすきま風うずまき
かれくさの残り香

 丘にのぼるとき
 やぶれ靴かたる
 ひるの星座めぐる
 旅の由来

 草穂はさざめき
 こがねのわたつみ
 ひとかけのパンのごと
 雲のかげよぎる

街をたたむ闇に
そっと日時計のかけら
なぜて胸にきざむ

(1832年初夏、シュトラスブルク)



大正ブレーメン


銀行員にでもなるべし 頭取さえも夢じゃない
伯父の誘いに悩んだけれど 「いいえ外遊します」
ナロードニキとはそも何ぞ 交換価値の原理とは?
しらうおの手で文庫本をば 打ち棄てたるはたち
浦賀の波止場までは夢みたいな道で
からの鞄カラカラ カラカラとカラカラと笑ったものさ

スエズすぎれば地中海 汗の玉散るマルセイユ
ひとり浮き寝の道楽者だが たどり着いたベルリン
古いドタ靴と 酸っぱい黒パンと
笑う馬車馬と ニシンに プロージット!

菩提樹立ち並んだ夢みたいな道で 愚かすぎた口笛
「デモクラート デモクラート・・・」熱に浮かされ
北の港に市が立つ ハバナの葉巻くゆらせて
ギャング家業に精を出すのだ 上部構造万歳
古いドタ靴と 酸っぱい黒パンと
笑う馬車馬と ニシンに プロージット!

祖国を離れて幾星霜 酸いも甘いも舐めはてた
俺はやどろく道楽者だが 届けられた電報
東京の惨事知ってるか 帝都丸ごと焼け落ちた
家が傾き満足しただろう すぐ切りあげ帰れ
古いドタ靴と 酸っぱい黒パンと
笑う馬車馬と ニシンに プロージット!



定型と惑乱


モンドリアン その悩みもて    途切れる線は

抽象の    あるべき象(すがた) 見極めんとす

我もまた   田舎とまちの    せめぎあえる場

前衛は    断絶の果て     幸をや招ばん



単玉一元論


流行りの二枚レンズ 凹と凸との組みあわせ
それは確かにかなりの能力でしょうが 私は使わぬ
単玉式顕微鏡 制限された性能で
羊の毛を見た時の驚きは それこそ
コーカサスの野原が 視野に拡がる思い
草笛の羊飼い 野辺に眠る心地
拡大された谷間の 微細なすきまのあわいに
見知られぬいきものの息づかい 感じたのはいつだったか

沼の水を覗くと 小さな渦巻きの草と
頭に二枚のひれをつけた エビの仲間が見えたのです
アカデミーの皆さん 報告を聞いてください
呉服屋レーウェンフックの 詰まらぬ観察
大きさわずかに二ミクロン ひとたらしの水にも
三百万匹ほどの 微生物がいること
この目で確かに見たが 学者の意見はいかがか
幻でないことは 顕微鏡に誓うものであります

(1674年9月7日、デルフト)



やさしいきもち


雲はかがやく 私は立ってる
風にこずえがゆらぐ
都会から 嫁いできた

竪琴の音色は野辺にたゆたい
小川こえることもなく
手のひらは乾いたまま

(畝のあいまに あなたはいる)

麻をまとった 幸せもある

だけどごめんね 行かなきゃならない
なぜって わからないけれど
どうしても 立ちどまれない hmn――

(1988年7月16日、ラリサ)



赤道


遠き 涸れ川に 震える 鈴の音
見果てた ヴェルデの 岬

水主 艫づなに 枕し さすらい
抛げだす さだめの ガバオ

 ねじ
 巻き戻せば
 歴史 戻るものと
 帆に 願い託す
 無惨
 あこがれなど もう
 旗のもとに あるか
 さらわれた 子供
 ひとくみの サンダル
 遺されて

陸 ここに果て うすぐろ 波間に
聞こえぬ 人魚の 吐息

(1974年4月、コインブラ)



エリダヌス


青ナイル さかのぼると
おおきな みずうみに しずかな 海軍

赤さびに 朽ちてゆくさ
いくつもの くにざかいを こえてゆこう 次の時代へ

なぎさ さわぐ 母はなくとも
遠い 谷に こだまする 火の せつなさ

父さん おれ 抱きとめてよ
アカシアは 平原に とげ 投げた

ヘリオスの 馬車はおちて
山も野も ほのおの たける 熱い夢 道はあるのか



最悪の道


サハラを越えたガオの町
ニジェイル川のほとりには
無闇と手をだす援助乞食の群れができていた
オレはバイクを駆るぜ東のチャドへと向かおう
コンゴ川過ぎれば世界最悪の道だ

菌糸のように掌をひろげて川はオレを待つ
スコールは日に幾度も車上のオレに降りかかる
巨大な水たまり丸ごとトラックを呑む
最悪の道を突きすすむダメなオレの背中には
雨だれ黒くも毒蛇さえも



びお・めはにか


熱がでて夜風ふいた    大陸はどこにあるの
常夏の惑星にいて     ぼくらたどる蜘蛛の夢
けものにはからだはあるの 草木はなぜみどり燃すの

ビルの谷ぬって走る    小さな貨車に気をとられ
遅刻した日の夕ぐれ    団地のあかりオレンジ
この町はだれかのからだ  この星はだれのからだ

だれのだれかだれかのからだかな

オカピの鳴くのをきいたら ザイールの森
キブ湖にボート浮かべて  耳をすまそう
テラピアとびだすのは   あつい泥ぬま
はだしで通りすがれば   フライのおかず

風邪ひいて熱帯の夜    海原のうまれはいつ
レモネエドくださいとか  気らくな夢キリギリス
ここにいるぼかぁだれだろ きみの声かるいたから

かれのからだからならかたるかも

窓からジャズ飛びこむ   うぶげふるえて
ふちどりやや不確か    宿のアルバム
なつくさ沁みいる青    またたきのひま
ぼくら風のあずまや    あかるく滅ぼう



パパ・ナショナル
――モブツ・セセ・セコ氏に――


河はとうとうと流れてる パパ
大統領になって何年たつ パパ
マンゴーのジュース ジンで割ろう パパ
チェスの腕前はどうだい パパ

ブラザビル 影 川むこうから
櫓を押す 船頭の黒肌よ
ピローグは 半分沈むよう
蒸気船は 二千キロゆく パパ ah――

チェスのひと駒に裏切られ
軍用機で国を捨てる パパ
いくさを起こさなかったね パパ
僕らはしあわせだったよ パパ



ベネズエラ


火のつく
満ちしおに
汝れは
浮かび
漁りの
男ら
喚けども

今は
泡たつ
波の

胸そこに
凝れる
「鳥のうた」
山ざとに
生まれては
鮫の
顎を
逃れて
浜へ

降りかかる




ケ酢コ


(雲の眼をおもうこと知っていたの 地上絵
 野を駈ける雲の影 絵筆のように鳥えがく)


大佐の庭では痩せた軍鶏一羽が 煮えくる不満を
吐きだそうと土掻く 軒端も木蔭も灼けて爛れるよう
寝椅子を出すなど土地を知ればできぬわ つがいのコブラ
あおぐ澱む空 蝉さえ落ちる陽など望まぬわ
有り金のニッケル貨棚に積み数えた 珈琲をこそげては
妻に運ぶが俺の老い 母からのこのナイフ芋の芽を削れば 

酢の甕は土間にあり言葉もなしにひとり醗く

軍鶏蹴る切り株斧は大佐の痕 三十五年の
内乱を切り抜けた 待てども政府は年金を下さぬ
革命闘士の腕の張りは衰え 闘鶏だけが望みなる暮らし
孤独の果ての旅が南米だ 在りし日の面影にすがる
身の惨めさ 口の端に泡溜まる耐えたばかりの半世紀
妻の咳籠もる家うら饐えた香りよ

あの軍鶏を酢と煮れば今夜ばかりは笑えるか



酢コケ


オハヨ! ケッコーな早起きですね
野良には朝もや出てるカモカモ コロコロ転げてカエル寝とぼけ
ケッコーな昔むかしのおはなし聞かせておくれ カラカラ
コガラがついてくチドリに

おいで コッケーのむすむす岩のベンチに腰かけてみよう
ホラホラ ほら吹きじまんの鼻たかガエル
コッケーな昔ばなしさお題はあとだよ ごらんソラソラ
ある日の夜明けに空から

(舌はやわらか出まかせ 芋づる引こうつなひき
 そらヒーローお出まし 仮面を取れば)

コケッコ ケコッコ スコッケ

チキータ! 君をさらう怪盗 カリブのアジトに逃げた
ユラユラ ボートは真珠の小島をたどる
ケッコーなお宝つんだボートは沈んで海は ひねもす
のたりのたりかな めでたし小だし

コッケーなおはなしすんでお腹もすいたね
みんなジャラジャラおひねりはここの帽子に チキータ!
酢っぱい芸でござりますお粗末しごくでござい
それでは小銭をさらってドロンと

スイー スラッラー スラッラー スケッコ!



あふろでぃしあす?


丘にかけあがり 南をながめてみよう
どこに海なんて見えるのさ ねえ おじいちゃん
ひつじ追いかけて この丘にいつもいて
僕のくち笛は あの道もこえやしないもん

女神? ここで何してたっていうんだろうな?
バッタとりならね そりゃ すごいのがいるけどさ?

ロバとバスに乗ろう いつか海までいこう
道に立ってみた 雨ぐもがとぶ ちへいせん
女神とは すれちがうような 気がするなあ



地史と無名


アネモネなら
どの時代にも
わけへだてなく咲く
鳥も歌う

梨の小枝
高地にふるえ
雲は名もなく過ぎ
影ははしる

この土の道を
ヤギもロバもゆく
そのあとを僕らは
いかにたどるか

(みちびき、よ!)

風に打たれ
たおれた家は
つぎ来る人びとの
庭の砂さ

山しずまり
時はめぐって
雨とせせらぎとが
掘りぬいたの

やせたオリーブや
かわいた玉葱
この宝かついで
僕らはゆこう

(みちびき、よ!)

(2001年秋、西アジア)



イスファハン


ザグロスの山なみにあたたかく抱かれよう
地下水のうた聴こう枯れた井戸につるべおろし
握る砂は手のひらからこぼれても
よもぎやいらくさに生きるすべ学び

文字もある教典も闇と火の信念もあるさ
山羊皮のテントでは息子たちと眠るのだ
千年の眠りの空を夜間飛行の機体がわたる
おれたちは地上の星座あいつはのろまな流れ星だな

梢のザクロを手折るとき
景色にうたがやどる



ビストゥーン無銘碑


しずくは崖つたい 文字をかき消さん
ペルシアの谷あいに 槌おと鳴る

ローリンソン指揮とれど 崖はくずれゆく
取りつく棚場さえも 砂の時計

クルドの少年が 名乗りもあげずに
岩場を攀じてゆく 碑文めざし

歴史にそぼ降る 雨

(1847年、ケルマンシャー郊外)



たちあおい


田のくろも舗道とかわり
丁字路にゆきどまるとき
そらにつづく平原を背に
俺をむかえた たちあおい

せせらぎの時はすぎても
逆さ吊りの盂蘭盆の熱も
やり所のない腕のたぎりも
うけとめようというのか 君は

台風のひとつもくれば
君のすがるのきゃしゃな腰など
ただいっときで仆れようものを
それでも今は 炎と立つか

ここは大陸でもなければ
無法の地平を抱えてもおらぬ
東の果ての小さな野原
せめての怒りを 俺に向けるか

 紫のサリーをまとい
 鴉をさげて路地をゆく
 凛とした目の若い母親

ここは恋路のゆきつくところ
もだえるような繚乱は
通りすがりの俺を目で抱き
夏ごとに 燃える



虎について


セイント・トマスの乗る舟は
アラビア湾の貿易風に帆を掲げ
ケララに着いた 二千年も前の話さ

見たものしか信じないといったんだ
甦った神の子にしっかと手を触れて
ああ やっぱりいらっしゃるといったんだ

セイント・トマスは疑り深い
祈りも科学も底から疑い
進んできたさ 二千年もの時をかけて

北緯一〇度のケララには牛がいた
牛のような男ども 仔牛のような子どもらも
ああ この地にどんな教えなら伝わるかな

セイント・トマスという語り部が
ボロをまとって裸足で往くよ
髭の奥できれいに光る眼 グリオの眼

楽園はここだというものがたり
アダムはひたすら東に向かう
ああ 獅子と虎のすむあの島へと

セイロンに橋かけて渡ろうよと歌う
珊瑚の首飾りみたいな海の道
ああ アダムの倒れたあの争いの楽園よ



ウラル


みじかき秋にわれ逐わるるを
ふしぎのいくさに阻まれたり

河のこちらへ誰ぞ
越えきたれるしるしあり

槍つぶてなかりせど
深手なるひがしの民つよかりき

川も森も山も氷さえ
ついにとどむる能わずときの氷河

こけももの瞳にそらひそむ
かんじきうさぎぬくき毛皮よ

さらば根の土地
ひえ萌ゆるうるおいのさとよ

ウラル越えておちゆける
われらが部族のゆくすえしるや

群れをはなれツンドラを東へ
若きこそが罪のあかしとや

おお よしや音にきく海をみれば
彼方くろき島にわたるこそ定め



黒河


こうりゃん畑 越えゆけば 矢のような道は不意に尽き
寂しさ果てなむ国境の黒河 湯気みつ町並 空はとおい

鷹はかけて 笛の音で鳴いた 荷台の麻ぶくろに寝れば
ベリアまぢかな森の気配して 焚き火の香りも漂うよ

ぼくはいま ただのりの旅

モミの葉ずえ黒く輝く冬 幹は裂けて空気ふるわせても
北を目指す僕の心持ちは ひと握りの熱い炭火みたいだ

凍てつく白いアムールを 乾いたエンジン音ひびかせて
黒熊トラック無理矢理に渡る 幌は破れて 空はのぞく

ぼくはまだ ただのりの旅

モミの葉ずえ黒く輝く冬 幹は裂けて空気ふるわせても
北を目指す僕の心持ちを 送りだした港ある町ヘイホー



コケ酢


雲南四川と貴酬にまたがる杏の里こそ我らが国
でも誰もその国見た者はおらず踊りと歌とで思うばかり
我らビルマの山巓ぐらしよジープゆく尾根みち暗い谷間
凍る朝露ケシにかかりアブの子目覚めて身震いした

 コケ酢は そま路をたどる担ぎ屋に
 粗塩盛らせよ 芭蕉の葉に
 若鶏は絞めたら 手早く捌いて
 塩樽につけて ひと月待て

 おかぼ炊けたと 叫ぶ子ども
 しゃもじでまま切る 酒と塩と
 肉と米とを 練りあわせて
 竹筒に詰めて 土に埋けよ

我らの里には軍隊はいるけど酔いと踊りとに明け暮れてる
中央の部隊が我らを攻めたらコケ酢を背中に森に逃れ
宵は焚き火で「すし」噛みしめ口伝や民話を学ぶ木蔭
アヘンひとつで我らは悪この生き様こそ知られるべし



マカオ


まかおについたら   のべ竿をかりてね
泥のなかうみで    はぜを釣ろうよ

まがり釘みたいな奴を こんがり焼いて
ライムをしぼって   ぱくぱくたべよう

まかおのはぜなら   いつまでもいるのさ
わたしが去っても   いつまでもいる



葦舟の海
          ――全羅北道蝟島面大里――


朝は 西海 島の影
にしん いしもち なぶら征き
船は焼き玉 板子 哭き
おどや 帰れと 待つせがれ

(ちゃらり いせさぬる さるごいんね)
海は くろぐろ 口あけた
雪も みぞれも 呑みこんだ
揺れる 海ねこ 半万年

うさぎ きさらぎ 月満ちて
星の 水ごり はま凍れ
栗と なつめを 炊き合わせ
棚に 捧ぐが 習いじゃね

朝は 裏手の 山迎え
五色 はたあげ 列をなし
のぼる いただき 幟さし
空に 鳴る鳴る てびら鉦

砂利の 打ち寄す 黒浜で
葦の 小舟を 編みあげて
わらの 船のり 顔描いて
汐を 待つ待つ 祭りじゃね

(ちゃらり いせさぬる さるごいんね)
つづみ チャルメラ 舞ううちに
舟は 漁船に 曳かれたり
西に ひろごる うろこ雲



月舟


蟹の唄う汐ひけば 月の目が浮かぶ
何ごとも起こらぬ 静かにお眠りよ

東シナのまどろみは やがて割れ揺れて
つらい別れふえる どうして堪えられよう

 穴あきシャツ まとう子ら
 リアカーには 鍋釜と
 さいころふたつ 漫画本
 トンビの口笛と 抜けた歯と

楠の穂花かおりたち 午後の蔭おちた
うたと劇のうたげ 宵までつづきたまえ

コメント(5)

2.



春の檻


もどる道は とぎれ 小砂利に 風が
吹きつけた 午後には 胸に海が 充ちて
うばめがしの 梢 ひよどり ひとつ
嵐の旅 おわり くるぶしの 痛みよ
ラ タリオリオ
愛は ゆき過ぎる 春の檻



風媒


あなたの膜と私の膜とがふれあって 割れ
充ち充ちた水がいれかわるとき 未来にうたがやどる

南の波そこの砂にも 明るく風が吹くという
揺られ揺られてまどろむフグはどれほどの過去を思うだろう

静かに川をくだるひとしずくのあぶらのように
景色にまじらず 景色をせおい 未来に消えてゆきたい

風によって風はうまれ風の命が尽きて私はうまれた
空はしんしんと鳴る 思いだされてくるあたたかな過去



炎あれかし


あれかしよ ほのおあれかし そらのはて
かく語る  酔漢ひとり   駅にたち
澱みたる  その瞳もて   宙を追い
油つく   震うる指で   弧をなぞるらん

(あれかしよ ほのおあれかし  そらのはて
 放課後の  科学雑誌に   魔はくだり
 ビッグバン そのいつわりの まこともて
 少年は   耳を病みつつ  そらに酔うらん)

空か無か 宙宇の果ては 冷涼の
質量の  その粉微塵  ただ駆けるてふ



ソフシス


はがきは根岸をさまようぞ
門柱おばけのかくれんぼ
大八ひきひき書生は笑うぞ
あの蔵たおれりゃふとん虫干し
谷中の桜に手をふりながら
やみ坂たどって潮みる岡へと
のぼる ソフシス



見沼区民の歌


沼はもうないけれど あかるい風と
とおく秩父の峰の 沢の音と

フナにハヤのあそぶ用水わたり
自転車でゆくゆく 龍のいた土地

見沼 ハラヒ ホラホ 見沼
自治の旗をみよ

東の荒れ野には
われらが住まう



真壁村の仙太郎


みかげ石うかぶのは 筑波の高台で
天狗が手かざして みはるかせば
桜川こえる道よ お江戸は霞むだろ
帆曳き船のきしみさえ 田の面を渡るだろ

おかぼ畠こぐばかり 藁しべを握れば
霧雲たれこめて 峰をふさぐ
桜川よどむにぶさ お江戸には流れぬ
わかさぎのひらめきよ この地ふるわせ

トゥールの麦畑では 採り入れまぢか
娘かご振り ブドウつみの野辺さ
旅の楽士どのの 掛ける道しるべ
あぶない定めさ お気をつけ遊ばせ

秩父にはヤーゲル銃 くさり鎌ひらめき
天狗の高笑い 落ち葉に消え
高麗川のもみじ紅く お江戸など要らない
山ひだの奥深くに 起源を探るべし

ル・アーブルの刈り畑 いもむし這い出
あぶさん一息 ぐいと傾け語る
ペンキ屋風情でも いいたいこたぁあるさ
王様こけても 親亀はこけやせん

カレーの民ぐさ 塩キャベツかんで
チョークの断崖 カンツォーネにて唄う
西にも東にも 救いの地はない
俺の腰だけが 頼りになるばかり

手のひら伐りかぶ 樫の木も倒そう
手のひら伐りかぶ 樫の木も倒すぜ



はやぶさ


荒くれたこころには 西風が吹くという
ものがたりの扉は  あおい鍵であく

山をはせたおとこは 旅人とらえあやめ
金と食いぶちおもう とぅとせにわたり

ふと 背すじを はやぶさ 切りとり 飛び過ぐ
(崖ぎわには おまえの 死に場所 ある)と

足ごしらえもどかし 山をすておとこは
真一文字 はやる息 ひた 西へゆく

あすに夢もたずば  石すら苔むさぬと
町場のざれ唄はいう 酒におぼれつつ

わらじ破りおとこは 潮のかおりかいで
ついに海をみおろす 崖のはたにでた

ふと みおろす 藍色 裂き飛ぶ はやぶさ
沖をすべる いかだは 夢か 笑いか

時すぎひとはかたる 荒くれたこころは
崖うえの木のまたに 西をみつめたと
群馬


弁官符す。上野の国、片岡の郡、緑野の郡、甘良の郡あわせて三郡のうち、三百戸を郡となし、羊に給いて多胡の郡となせ

×

羊よ
田に苗を植えるがごとくに
おまえをこの野に放とう
火の山のふもと 田畑なき野に
高麗のかみの
猛る馬の背でみた夢に
思いは馳せゆくだろう
火の山のふもと 軽石うかぶ野に
利根・浅間なる名をこそ
遺して狩人は北に去った
羊よ この野に殖えよ 地に充ちよ
だがいつか羊よ
夢の馬はおまえをふり落とすか
それでも 行く末をのぞみて 気高く飢えよ



鍵野


八千世のひざし 虻はかなでた
苔むす岩緒の 遠いそら

霧にまで鍵を 姉さん差しこみ
野に消えてゆく 鍵の野に

山羊なら乳あふれ この谷うずめて
夜更けの滝つぼに 鯉どもひしめき
(僕を呼ぶ

僕には心も 思いもうつつも夢もないけど
(向こう岸)

左の岸には 葦舟に添うて
もうひとりの僕 川下る



煙にまかれて


車の窓すこしあき朝からとおい焚き火かおる
小銭こぼれてるな破れシートをきしませて地面の草におりた
川べりに立つねむの小枝もも色の花ゆれるのか
たばこは湿り火もつきゃしない遠い国道ひくく鳴る

彼女はレジを打ちそこなって叱られたこと話したのさ
ポンコツの軽でも俺たちには恋と涙のせる大事なそり
またあしたねと彼女かえり俺は川原でひとり寝
うつらうつら白む夜ながめてほんのかすかな煙かいだ

ぼくらのむかう
ひとすじのみちをことほぐ



死を舐める双子
――安田理英、黒谷都に――


ほうき星 肉がうずく
素足の誓いが震う ぼろぉん
見通すは 野山練り歩く
あの なでしこの精さ
土と愛の よごれおどり

三日月 笑う卑猥さ
透明の嘘がうたう ぼろぉん
木のからだ 木の手 木の瞳
愛と死 一度に抱く
しゃべれぬ者の 言霊よ

愛の双子

ぼろぉん



赤い空


はしごを たてかけ
やねのへり ふみこえ
夕やけの やまなみ ながめた

にしぞら はるかな
すじぐもの かなたを
ひかるもの すらりと よこぎる

 いかだは 宇宙に
 はなたれて めぐります

 ときながれて 死にはてても
 かがやき のこるね

ねず鳴き かすかに
まくらに ひびくころ
燃えさかる 夕暮れを
夢みている きみ



昼の月


ヤブガラシに 鎖されている すべり台を 知ってる
その空地なら 林の中 いつかどこかで 夢みた

マルハナアブ がりがり唸る しろい日差しの 底さ
うらがえされた スクリーンごし いつかの昼に 夢みた

まぶた開けても 逃げられナイヨ ナイヨ 生きるなら
そらには (てのひら) ダヨ

ふらふら おちて この世へ

顕微鏡を のぞいてみえた かさなりあう 景色が
夢の正体 僕は知ってる ひみつの 朱い はなぞの



六歳


不思議だな
いつから僕は いるのだろ?
 
目の前に 野原のまなか ひとすじのアスファルトみち
登下校 べつにいいけど 何となく割り切れないな
覚えてる それは確かさ お母さんお父さんとも
こないだは 梨狩りに行った 嘘じゃないよく覚えてる

それでもなぜか 不思議だな
いつから僕は いるのだろ?

もしかして ただいまの僕 思い出もつくりものでさ
信じてる ことだけがある 抜け殻のよくできたので
このからだ この目にうつる 原っぱのいつもどおりも
本当は へろへろのうそ かざりかも知れないじゃない

やっぱりなぜか 不思議だな
いつから僕は いるのだろ?

だから僕 いつも帰りは みちばたに立ち止まっては
呼びかける 野原のまなか 自動車がうねりぬけるたび
「もし僕が いつわりならば 目にとめて知らせてください」
なけなしの ストップモーション メッセージ送り続ける






その駆け去った背中をみたか
逃げるためだけのばねの脚あとを

刈られた葦はら ざざざと鳴る鳴る
雲はひとすじすぱりと切る切る秋空を

鷹や野犬のほろんだあとも
みじかい耳を澄ませる兎

とっぷりと洪水が葦はらを覆ったあの日
かれはどこまで逃げたのだろう
はやびけ


けろ!
窓あけた
クラスのみんなが
ぽかんと口あけて
みるよ
あたしほんとはカエルで
(アマガエル!)
雨ふり
しょぼしょぼでも
いいの
(いいの?)
バス停かけぬけ
水たまりとぶよ
きいろい傘まで
泣いてる
下駄箱なんか
忘れ
あかるい雲のふる 野原



おぼろ月


野辺に夕もやが充ちたら たどろうよ小径
うさぎかやねずみ すこし早すぎる蚊ばしらもね

暮れるばかりとみえて ひそかにのぼる月に
すぎた秋と冬とを ふりあおいでみるすすきよ

河はしろくしずかにゆく こころはどこ 追いかけず
草魚ねむるみなそこには やすらぎよあれ

世界の奥かくされたかやかげ ひかるひみつの沼はある
ほころびさえ 笑いとする たしかなみのも

あれたおもいすぎたことさ このてのひら かかげれば
かもはめざめおぼろ月の 虹ふりかかる

いまひとたび望むをゆるされよ この身わんどの瀞とても
小ぶなやはぜ やごに田にし 見まもることを



羊と葡萄


いつか 羊のように大地おおい
ひとの糧となる 無名の群れに

いつか 葡萄のように大地おおい
恋を醸しだす ルビーの酒に

すべての愚かさを すべての醜さ
すべての憎しみを ありとある別れを

ただじっと 見てる僕 君の愛はしりぞけ
ただじっと 見ているものになりたい





3.



月と電車 ?


夕暮れ
田んぼの畦へ 一歳になる息子を抱いてでました
そろそろ蛙も泣きやんだ 秋のなかばです
むこうの用水路の遠くに 小さな踏切があって
東京から郊外へ そしてもっといなかの山の方へ
ぞうげ色の電車が走ってゆくのを
見るのが 息子は大好きで
まだことばも分からないのに
(あわー)(おー)と 遠ざかる電車を指さします

電車の走りさるのは どこなのか



月が出ていました
枯葉のような 五日の月が
暮れてゆく秋空の 藍色にかかって
私たちは 小さな家にかえります
息子はみちみち 月をじっとみつめていました
ときどき(ゆー)(うー)といって指さします
明かりの消えた部屋にはいっても
窓わくに手をのせ いつまでも眺めていましたが
やがてそこに眠りました

はるかなはるかな 窓辺です
濃いですね。ごめんなさい、目を通すのが精一杯で、コメントまでできません。
素晴らしい作品群、ちゃんと本にして欲しいです。

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