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リズモジカル -lismojical-コミュのHAN-SEN Vol3

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ドッステ・パッキリ
性別:男性
職業:色彩家


10分前にノックが聞こえた
ここ最近のいつもの合図だ
玄関には隣接した家に住む息子夫婦の嫁が作った夕飯がさめた状態でおきっぱなしになっているのだろう
以前は冷めないうちにと家の中に食事を持ってこられたが断った
食事の匂いが作業の集中力を鈍らせるのだ
ダイニングは彼女が死んでからもう使っていない
彼女は料理を作るときも洗濯をするときも
俺が作業をしている間は決して音も匂いも出さなかった


会話をしはじめると 相手が話を止めるまで作業を止めれなくなる
一度作業を始めると様々な彼らが入れ替わり立ち代りでやってきて語りかける
作業場には木製の作業代が並び壁には大小さまざまな瓶が並べられている
作業代には穴が何箇所か開いており特注で作った30cmほどの琺瑯のプールがはまっている
この琺瑯のプールで色と会話し新しい色を生み出している
瓶の中には様々な色達が生活していて
大きく自然界から取れたアロミシナンとイエラルシグがあり
もうひとつ人工でつくられたニャクのあわせて3種の原生色がある
昔はよくその産地に赴き自分の手で収穫していた
今は特定の狩人に委託して定期的に連絡をとって入荷してもらっている

ベースのアロミシナンにイエラルシグを掛け合わせるところから創めるのが俺のやり方で
徐々にアロミシナンの吸い込まれるような真っ青な声から
少し耳が痛くなるような高音のキャキャッというイエラシグが調和し始め
心地のよいグロンゴロンの色味に変化してゆく
そこに蓋を開けた瞬間にすべて蒸発してしまいそうな勢いのあるニャクを混ぜ合わせるのだ
コォォォォオとうなり声をあげるニャク
ニャクは自然界には無くここ最近の科学の産物だ
以前はアタチリ草の花に咲く時期だけその花に寄生しその花の花びらから茎まで真っ赤に染める色原料を使っていたが
アタチリ草が数が少なく色の寄生する時期も短く限られていたので高価でなかなか手に入らなかった
ニャクは暴れん坊で一滴たらしただけでアロミシナンとイエラルシグを食い殺そうとする
ニャクの分量と混ぜ合わせ方で仕上がる色味が変わってくるのだ
一番具合がいいのが別のプールでイエラルシグに対して3%ほどのニャクを混ぜ合わせて
イエラルシグとニャクを先に調和させとくと 驚くほどニャクはその凶暴性を失い
むしろその元々からの生きる力と自信を強調しながら他との協調性を増す
ただしイエラルシグの分量が多すぎるとその力強さは消えてしまい
まるで赤子のように静かに眠ってしまう

アロミシナンの入った瓶から取り出した時の ピキッピキッいう鳴き声を発する
蓋を空けた瞬間に海沿いの潮風のような香りがする
平らなところに垂らすと自分たちの限界まで薄く広がりすべてを覆いつくそうとする
ただし 自分の安定する場所が好きで広がりながらもバットの縁を見つけると
うれしそうに小さなサザナミをおこして喜ぶのだ
ガラス蓋付の瓶の中に入れて保存しておくのだが
時間が経つと少し自然な状態から分離し始め
原色でありながら上澄みの部分と沈殿した部分の性格と泣き声は変わってくる
始めは無理やり混ぜ合わせてひとつの原色として使用していたのだが
何十年もの間の付き合いでその上澄みだけを利用した色作りも試している
その瓶ひとつでその色達の家族構成は変わり新しい風味を出すことがあるのだ
だから俺は必ず産地によって同じ色を30から40ほどの瓶に入れ分けている
その中には俺が色彩家として駆け出しのころに使っていたアロミシナンもいる
青色の布で蓋をした瓶にはいったアロミシナン
ほとんど使うことはないが 新鮮なニャクが若すぎて瓶の中でも変色しそうになった時に
そのニャクに一滴ほど垂らして説得させるのに使っている
一ヶ月くらい放置しておけば大体話し合い(もしかしたら力任せに)ニャクを落ち着かせることができる
しかも少し氷で冷やしてやると純度100%で薄い半円の状態でそのアロミシナンをピンセットで救出できるのだ
ニャクは寒さに弱いから少し冷やしただけで少しオレンジがかって粘度が増し
寒さにつよいアロミシナンが凝固して分離するのだ
だがこの特別なアロミシアンでないと大概食われてしまう
ちなみに取り出したアロミシアンは決して元の瓶には戻すことがない
なぜなら 色の純度に100%は実は無いのだ いくら古い安定した色であっても
オリジナルの瓶から出たことやニャクを説得したこと という経験を経た色はあくまでも
オリジナルよりも違う経験をしたものであり別のものになってしまっているからだ


アロミシナンは彼女の一番好きな色だった
いくら美しく澄んだ深みのある色を作り上げてもその色を使おうとせず
彼女はいつもアロミシナン100%で加工した染料で仕立てた服を着ていた

その当時需要のあった染料は国の買い上げで高額を手にすることができたし
なにに使用されていたかもわかってはいたが子供もできて生活に変えることはできなかった
ほんとの意味で色達と会話しながらその原料を生かすことのできる
こんな小さな工房で生まれたとしてもそれも必然とした出会いと誕生になる作業ができていたら
もっと温かみのある色達が生まれていただろう
ニャクを使ってより丈夫で色味のでやすい染料を求められ それを作っていた時期が長かった

彼女は俺の作業が終わると仕上げた色の納品用の瓶を袋詰めしながら
少し寂しそうに減ってしまったアロミシナンの瓶をそっと眺めていた


結婚してまもなく二人でアロミシナンを採集しにボフロイに行った事があった
漁港で二人ですくい上げたアロミシナンのゼリー状の家族
取れた量はわずかだったけれど自然界にあるときの姿は工房のそれの姿とはまた違ったものだった
小さな瓶にアロミシナンを入れそっと耳にあてて声を聞く
量が僅かだったので少ししか見えない声だけど しっかり生きていることを証明してくれる
そっと白い布で蓋をしてそれを眺めながら彼女は言った


あなたのつくる色は好きな色
あの子達をしっかり生かしてくれてるからこそ
私は安心してこの服を着れるの





玄関を開けると
青い布にかかったお皿が置いてあり
その布をまくると中には手紙が入っていた

ふっと腰を上げその布とお皿を手にとって隣の息子夫婦の家に足を向ける
















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