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リズモジカル -lismojical-コミュのHAN-SEN Vol.1

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リッピ・マスイター
性別:女性
職業:コック



朝を迎えるといつだって見えない手の振るえにおびえている

18歳からこの世界に入り
がむしゃらに仕事をしてきた
自分が一流のコックになりたい なんて希薄で曖昧な夢は
生まれた町を出る時の後押しに過ぎず
この大都市マタラトウの下町のレストランで仕事を始めてからは
ただただ 与えられた仕事をこなして
ひたすらに同期や先輩コックを蹴落として
自分のポジションの確立に努めてきた
女だからといわれれば言われるほど
むきになって 就業時間以外に調理場に残って仕事をしてきた
いつしか目の前の仕事だけをこなして
評価という報酬を得るだけの単純作業になってきている

何からやってくるかはわからない
包丁を握れないんじゃないかという不安に襲われるくらいの
その手の振るえをここ数年感じている
目覚めるとやはり右腕の手首のところを左手で握っている
まるで その右腕が取れて新しいものにかわってしまうような恐怖心から
その右腕の付け根を押さえて取れてしまうのを抑えているような




左手でマカリタを押さえ込んで
右手に持つ包丁で切って切りまくる
マカリタは芯に近づくほど硬くなる
芯の部分はいくら煮込んでも苦味が残るので取り除く
包丁を皮を剥いた表面に差し込むと
力ではなく重力で芯のところまで切れ込み
徐々に抵抗を感じながら芯の寸前で包丁を止めると
綺麗に芯は取れるのだ
私はこの芯の寸前の部分に刃を入れる瞬間の爽やかな抵抗感が好きだ

私の働くレストランの一番名物のマカリタのスープの仕込み
皮をむいたマカリタを千切りにして巨大な寸胴なべに投げ入れてゆく

切っても切っても右側から次々皮の剥かれたマカリタが自分のまな板に置かれていく
切りながらマカリタが運ばれてくる方を見ると
まな板は広大な厨房の見えなくなるところまで続いていて
私の隣には、出っ歯で 飛び出してきてしまいそうなほどでっぱった目のコック帽をかぶったリスが
その前歯で タキャーとか叫びながら皮を剥ぎ取っては意外と丁寧に目の前に並べてゆく
その皮の剥かれたマカリタを今度は 顔が人間ほどある垂れ目のウサギが
アンバランスなほど小さいコック服を身に纏って
自慢のつめでマカリタの下の根の部分をくりぬいては
ピョンと跳ね 着地と同時にひっくり返したマカリタを綺麗に等間隔でならべてゆく

どんどん処理されたマカリタが並べられ
その数が増えて私の切る速度が彼らの処理の速度に追いつかなくなると
まな板が自動で伸びて 彼らが遠くにいってしまう
なんだかそれを望むかのように彼らは躍起になって仕事をしている

タキャー ピョン タキャー タキャー ピョンピョン タキャー


ハハッ

思わずにやついて さらに手の速度を上げる
まだいける ぎりぎり指を切らないという速度
これ以上早くすると自信がない

すると私の横に置かれたマカリタがみるみる減ってゆき
彼らがまた自動的に近づいてくる
二人ともちらりと自分たちの仕込んだ減っていくマカリタをみて
汗だくになりながら作業速度を上げてくる
リスの皮むきが追いつかなくなり
ウサギがマカリタを手にとってもいないのに思わず
空を爪でくりっとやってピョン

ギャバー っとその大きな顔をリスに向け怒鳴っている
リスは皮の処理で前歯に2個分のマカリタを銜えている

すると突如現れた扉から続々とリスとうさぎが厨房に入ってきて
その永遠に続くまな板に並び タキャー と ピョンを繰り返しながら下処理を始める

あっという間に彼らが見えなくなるほど並べられるマカリタ

一瞬手が止まりかけたが
私も速度を上げる
左手の保障も取っ払って ひたすらに切り続ける
あまりの速さに右手が切っているマカリタと同化しているように見える
まだいける 今日は調子がいい

ふっと気づくと 右手は自分の体を離れ 勝手にマカリタを切り始めている
私はもう左手でマカリタを支えているだけ
右手は綺麗に手首の付け根から離れ もう右腕の力を必要としていない
自分の体の伝達から消えた右手
油断をしたら左手さえも切り刻んでしまいそうだ
マカリタの芯部分の心地よい抵抗感も伝わっては来ない

その元私の右手が私の立っているところからマカリタを千切りにしながら
さっきまで隣でいたリスとうざぎの方角に切る速度を上げ進んでゆく
まな板の縮む速度が追いつかないほどに

徐々に タキャー と ピョンの 掛け声が近づいてきて
彼らの姿が確認できたときには 元私の右手は彼らの処理していないマカリタや
手にとってこれからくりぬこうとしている爪もろとも千切りにしてゆく

バッタバタとウサギとリス達を切り刻んで
十数人いた彼らを飲み込み
マカリタが永遠に続くまな板を千切りのリズムにのって進んでゆく
私は思わずその右手の進む方に駆け出し追いかける

永遠に続く木製のまな板
その木製の大蛇のごとく綺麗に一直線に伸びるまな板沿いを右手を失った状態で
左手でその取れてしまった手首を押さえて走る

ふと見るとその取れてしまった手首の断面は綺麗に平らで
まるで故郷の町を見渡せる小高い丘の頂上の広場のよう
もしかしたら春には芽が出て花が咲くかもしれない
そしたらゆっくり育てて大きな木になるまで待つのもいいかもしれない
その形がなんであれ もう少しゆっくりと時間の進む世界もいいかもしれない

大きな木に育ったらその枝で一番丈夫な枝を選んで
手作りのブランコを下げて

ゆっくりと近づいたり離れてゆく 小さな町を眺めよう

















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