今日は、Sさんの洗礼式があります。私たちはそれぞれ、この世界で生を受け、そして人生の歩みを進めますが、その途上でどのような出会いが与えられるかはとても大切なことです。人との出会い、趣味や、職業、一生打ち込めるようなものとの出会い、思想や理想との出会い。そして、これらのすべての根底にあるのは、主イエスとの出会い、そして神との出会いです。ひとつひとつの出会いに、特別なものを感じる時に、私たちは神さまが導いていて下さっていることを感じます。Sさんにも、ここで、神さまとの出会いが与えられました。そして今日、洗礼を受け、心に神を受け入れ、これからの生涯を、復活の主イエスと共に歩む決意が与えられました。 私たちも、ひとりひとり、特別な出会いが今までにあったことを思い起こします。そして、それらの出会いが、乗る電車がひとつ違ったら、ある人との出会いがなかったなら、あの礼拝や集まりに行かなかったら、なかったかもしれないというような、そういうものでありながら、ちゃんと出会いが与えられている、というところが素晴らしいですね。 今から、15〜6年前ですが、NHKのドキュメンタリーで、イエス・セミナーという取り組みが紹介されていました。様々なバックグラウンドを持つ聖書学者が集まって、福音書のイエスの言葉ひとつひとつを細かく分析して、投票するのです。それぞれの言葉がイエス自身が語った言葉か(赤いボール)、イエスのおそらくこのようなことを言われたのだろう(ピンクのボール)、イエス自身が語った言葉ではないが、そこにある思想はイエスの思想と近い(グレーのボール)、イエスが語った言葉ではない。後の時代のものや、他の伝統を表している(黒いボール)と4種類のボールで投票するのですが、その手法はアメリカらしいなあと思いながらも、参加している学者たちの真剣さに引き込まれました。 この取り組みは、The Five Gospels-What did Jesus really say?(Macmillan)「五つの福音書、イエスは本当は何を言ったのか?」としてまとめられました。五つ目の福音書は、エジプトのナグハマディーで発見されたトマスによる福音書です。その頃、私はテネシー州のクリスチャン・ブラザーズ大学に留学していました。アメリカで人気のある聖書に、Red Letter Version(赤字版)というものがあります。これは、主イエスの言葉として書かれているところがすべて赤字で印刷されているのです。私の友人たちも、「これは便利だよ。忙しくて、ゆっくり読めない時も、主イエスの言葉だけサッと目に飛び込んでくるからね」、と言っていました。その感覚で開けてみると、このThe Five Gospelsには赤字の少ないこと!大変驚きました。興味深い取り組みで、この取り組みを通じて、聖書学に一般の人々の関心を集めたことは意義があったと思います。 歴史や習慣などをしっかり学んで、主イエスの言われたことを、その時代にはじめて聞いたなら、どのように人びとは感じ、どのように人生が変えられてしまったのだろうと考えながら読み、それを皆さんにも感じて、主イエスの言葉を味わってほしいという姿勢は、このイエス・セミナーにも参加していたJDクロッサンの研究に触発されたものです。 トマスによる福音書を読んでみたいと思っておられる方には、「トマスによる福音書」(荒井献 講談社学術文庫)をおすすめします。