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あざらしの談話室2コミュのFreedom-Fighter 26-1

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26 オーガンシティーの戦い 1


「やはり、トサノコクはいずれ…」

「わかってる、皆まで言うな」

強襲揚陸艦ガーランドの甲板。その海兵隊ヘリコプターのそばで、APURGの将…アルフレッド=ロビンソンは静かに読書をしていた。その隣に座っているのは第6海兵師団の団長であるマリール=ウエストリバーソンだ。ちなみにリェスター率いる第301戦術海兵師団は第6海兵師団(ベルベット展開時に第6海兵軍に改名)の直属部隊である。

蛇足だが、第401海兵遠征軍団は第2海兵師団(第2海兵軍に改名)に属する。師団長はロビンソンが兼任中。


「マリール、この戦いは恐らくは人生で最も辛いことの連続となるだろう。君にはそれに耐えることができるか?」

読書を続けるAPURG最高司令官は、アラサーに突入した若き女性司令官に問いかけた。

「それは…あなたが今習得しようとしているコーヒー豆のおいしい挽き方と同じですよ?」

そう答えられ、ロビンソンは視線をマリールに向けた。

「…問題はなさそうだな」

ロビンソンは笑みを浮かべた。続けて

「ジェームス(第10潜水戦隊のアインスワード司令官)を越えるのはまだまだのようだな」

そういって読んでいた本を閉じて立ち上がった。

「シェリーと、久々に一杯やろうか…」

ロビンソンは本をマリールに渡した。マリールは無言で笑みを浮かべ頷いた。そして本をペラペラと流し読みする。

「閣下、これを読んで、すぐ会得できるようでは、ジェームスの立場がありませんよ?」

「ゆえに、自分でどうしたらいいかを考えないとね」

「恐らく、私はすぐに慣れてしまうでしょう。強いて言うなら、それが怖い」

マリールはかつてエルバート陸軍の衛生兵をしていた。クーベルトの配下で、常に最前線にいた。傷付いて苦しむ兵士をたくさん見てきた。顔を背けたくなるような場面にも…。


難しいもんだな


ロビンソンはそう言ってその場を離れた。

この頃からオーガンシティーはおろか、トサノコクにもリジェルバルタ軍の航空機が飛来するようになった。さすがにトサノコク領内への投弾はないが、先日の流れ弾の着弾は間違いなく民意を対リジェルバルタ制裁の流れに傾けていた。そのためか、レジスタンス活動するAPURGを支援しようと言う動きが密かに活発になりつつあった。

それを裏付けるように、APURGへの志願入隊が増えつつあったのだが…

「ほら、今朝の朝刊だ」

「もう夜だぞ?」

オーガンシティーの一番トサノコク寄りの山中…OCRG4番隊のベースキャンプ。キャンプベルベットを発って10日くらい。せいごから朝刊を受け取り、明かりの下でそれを読み始めたりょうすけ。

「欲しいっていうから持ってきたが…たいしたことは書いてないぞ?」

せいごは少し前にすべてに目を通していた。

「ほんとだね、なにも書いてないや」

りょうすけが知りたい情報…戦況や街の様子はさわり程度にしか書かれていなかった。

「リジェルバルタ軍は本当にオーガンシティーに来るのか?」

疑問はもっともだ。ここ数日は空爆すらない。せいぜい航空機が偵察飛行する程度だ。そのたびに警報が鳴り高射砲がドンドコ撃つだけ。

「隊の半数は浮かれてる…なんか、拍子抜けだよな?」

4番隊だけではなく、他の隊でも似たような感じになっているという。

「10日経っても、なにもないんだもんな。気が緩んでも無理はないか」

「でも、そんなときが一番危ないんだよ?」

りょうすけとせいごが驚いて振り向くと、そこにいたのはハスティーと…

「ちとせじゃないか、久々だな」

「先輩もお久し振りです」

せいごとちとせがハイタッチ。

「いきなり背後でボソッと言うなよ、びっくりするだろ?」

りょうすけの抗議にハスティーは笑って謝る。

「APURGの最上級部隊の隊長が、レジスタンスのしたっぱに何の用だ?」

「久々に、2人に会っておきたくてね。あとは、ムスタング隊長に挨拶に」

ハスティーは被っていたヘルメットをとり、そばに座った。せいごとりょうすけも座る。

「貴様、上官に許可なく座るとは何事だ!」

「ちとせよぉ、ニヤニヤしながら言うなよ、威厳もなにもあったもんじゃないぞ?」

せいごが笑って座るように促す。

「一応、ミルフィー=クリーブランド上等兵って肩書きあるからな」

りょうすけも表情はにこやかだ。

「まぁまぁ…今はWhite-Wingのメンバーになろうよ」

ハスティーは、大学時代のはねすけになっていた。ミルフィーもヘルメットをとり、後輩ちとせになった。

「ゆかは、どんな感じなんだ?」

せいごもりょうすけも、ゆかの事が心配で仕方なかった。あれから、ハスティーの指示でずっとキックスに付き添っている。ゆか…アリソンが自分の責任だというなら、回復するまで彼をサポートしないといけないな。キャンプベルベットにやってきたロビンソンもそう命じたようだ。

「キックス准佐ってさ、いちぞうって名前なんだろ?」

りょうすけは以前ダガイで見た墓標の話をした。せいごも、2人の少女のことが気になっていた。

「あやと、ゆきのことか…2人はぼくの幼なじみだった…」

ゆきは2つ年下、あやはひとつ年下。今も生きていたら、はねすけ22歳に対して20歳と21歳だ。あやはせいごやりょうすけと同い年、ちとせとゆきも同い年になる。

「ゆきさんは…先輩のこと、好きだったんですか?」

ちとせが、当然気になる内容に踏み込んできた。以前キックスやゆかと話してたときに聞いたようだ。

「そうだな…今あの時の自分達を考えたら…」

ゆきが眠る直前に、はねすけにねだったキス…彼はそれを思いだし、少し黙ってしまった。

「キスしたのか?」

せいごがややにやつきながら質問する。すぐにりょうすけが年齢を考えろと制止するが…

「いや、いいんだ…そうだな、2人にもあの時のことを知っておいてもらおう」

はねすけは、ダガイの思い出を紡ぎ出すように語り始めた。せいごやりょうすけ、ちとせですら知らない内容もあった。月明かりに照らされて、はねすけの語りが続く。やがて話終わると…

「たぶん、ゆきさんは、先輩のこと好きだったはずですよ」

ちとせはなぜか笑顔だった。目の奥も怒ってはいなかった。むしろ


もし、先輩が好きだったら…女の子なら、死ぬまでに大好きな男の子にキスしてほしいですよ


はねすけはドキッとした。そしてうつむいてしまった。今度はちとせが慌ててしまった。

「あ、すみません…昔のこと…」

「…ちーちゃんなら」

え? ちとせはびっくりしてはねすけを見た。彼はうつむいたまま…


もし、ちーちゃんなら…死ぬ直前にキスしてもらえたら、笑顔で眠れるか?


そう言ってゆっくり顔を上げた。はねすけは笑顔ではなかった。対する彼女は、真剣な眼差しだった。


もうだめだと、自分で悟っても…悔いは残ると思いますよ? でも…


濁りのない瞳から、一滴の涙が流れた


ゆきさんは…ゆきさんの人生の中で、先輩が一番のボーイフレンドになったはずです


ちとせは、袖で涙をぬぐった。せいごもりょうすけも、静かに頷いた。

「ちゃんと…お墓も作ってくれた…最期にキスしてくれて…抱きしめて泣いてくれた…ゆきさんは幸せですよ…」

ちとせは…ダガイにいた頃にキックスから話を聞き、別の機会に、フリッツからゆきの最期を聞いていた。ゆきの亡骸はオーガン基地に搬送され、あやと共にロビンソン率いるエルバート共和国海兵隊第1戦術海兵師団の師団葬にて、丁重に扱われた。ゆきの遺灰は終戦後ハスティーがダガイに行くまで、オーガン基地のハスティーの部屋に置かれていた。基地を長く離れる時は必ず胸に抱いてじっと目を瞑っていた。

「今となっては…もっと優しくしてやれたら、なんて思うときがあるんだ」

後悔先に立たず、まさにそれを彼は今も実感していた。

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