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あざらしの談話室2コミュのFreedom-Fighter 13-5

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「この音は・・・キャタピラだ」

トシが叫んだ瞬間、土煙の向こうに止まる大きな影が見えた。土煙が取れたそこには独特なシルエットの戦車が1両止まっていた。

「MAT-1A1・・・マリンタイガー!?」


さらに何人かの兵士がこちらに歩いてくる。

「あれは・・・エルバート軍の海兵隊です! 友軍ですよ! おーい!」

トシが大声を出しながら手を振った。

「ぼくはここの住民です!」

相手もそれに気付いたようで、駆け足でやってきた。

「怪我はないか?」

衛生兵を呼んでくれた。イチゾウは海兵隊員を建物に案内した。即席の担架に横たわるアヤとユキ・・・衛生兵の指示で近くまできていた装甲車のそばに移動、そこで応急処置を施すことになった。

「こっちの女の子はすでに亡くなっているね」

アヤは発見したときにはすでに死んでいた。でもせめて自分たちのところに連れていきたかったから、運んできただけである。一方ユキのほうは、体力もかなり消耗していて、危険な状態だった。衛生兵曰く「ここではまともな治療ができない」ということ。すぐにヘリをよこして、近くに駐屯する陸軍の野戦病院に搬送する手続きがとられた。

「・・・あぁ。少女だ。背中にふたつの銃創だ。体力も消耗していて危険な状態だ。15分後にそちらに搬送する。受け入れ態勢をよろしく頼む」


―了解した。すぐに準備させよう。あとそちらに1個大隊を派遣している。それまで辛抱してくれ。あと1時間ほどで着くはずだ。


「わかった」


―しかしロビンソン、君も大変だったな。君の戦術海兵師団にも迷惑をかける。


「それは言いっこなしだ、クーベルト。君もあまり考えるな。今後に支障をきたす」


―あぁ。


「君は指示されたとおりにやっただけだ。結果的に村民を救うことはできなかった。悔いは残るが・・・な。それは私も同罪だ。もっと早く許可を取り付けたら・・・」


―決して忘れてはならない。このことだけは・・・2度と繰り返しては・・・。


「同感だ」

海兵隊の隊長らしき男が受話器をおいた。

「君たちにも謝らなければならない。すまなかった」

隊長は頭を下げて謝った。周りにいた兵士も全員、彼に続くように頭を下げた。異様な光景だった。一般人に、それも子供に立派な兵隊が頭を深々と下げて謝っている。普通ではあり得ない光景だった。そんなに安々と軍人が・・・しかしそれは彼らの誠意であり、信条でもあると知ったのは、もう少しあとのことになる。ともかく、それを見せられてしまってはイチゾウらも怒りを覚えられなかった。

「・・・隊長さん、どうか頭を上げてください」

「そうです、兵隊さんがこんなではだめです。堂々としていてください」

イチゾウに続きトシも彼らに声をかけた。

「隊長さんを恨んでも、アヤは帰ってきません。村のみんなも帰ってこないんです。それは曲げようのない事実なんですから」

イチゾウはただ、そう言った。

「隊長! 少女の容態が・・・」



「おい! ユキ! しっかりしろ!」

「ユー・・・ちゃん・・・」

ユースケはユキを抱き起こした。

「死ぬなよ! まだ死んじゃだめだ!」

盛んに呼びかけるが、ユキの意識はどんどん遠のいていた・・・。

「向こうで・・・ユーちゃんがびっくりするくらい・・・女磨いとく・・・なんて・・・ね・・・」

「そんなこと言うなよ! 死んじゃうみたいじゃないか!」

ユースケは・・・ユキを抱き起こした。

「わ・・・私・・・ね・・・ユー・・・ちゃんに・・・言っておきたいことが・・・ある・・・んだ・・・」

最後の力を振り絞り、何かを伝えようとしている彼女を見て、ユースケは半泣きになっていた。

「私・・・あな・・・たの・・・ことが・・・だ・・・いす・・・き・・・です・・・」

「やだよ! こんなときにそんなこと言うなよ! 聞きたくないよ!」

必死に身体を揺するユースケ。それに対しユキは首を横に振った。

「好き・・・です・・・ハ・・・ネ・・・・・・・・・スケ・・・・・・くん・・・が・・・」

ユースケは流れる涙を止めるのに必死だった。泣いちゃいけない、男が泣いちゃ・・・でも、涙が止まらない。

「・・・ユー・・・ちゃん・・・ひとつ・・・お願い聞いても・・・らっても・・・いい?」

「・・・なに?」

「・・・キス・・・して・・・」

もうどうしていいかわからなかった。判断かつかなくなっていた。ユースケはぎゅっと目をつぶり、ゆっくり開けた。ユキは目をつぶっていた。ユースケはゆっくり頭を下げて・・・そのとき、彼の頭が止まった。

「へへ・・・ファーストキス・・・あげ・・・ちゃった・・・これで・・・あた・・・しも・・・お・・・となの・・・仲間・・・入・・・」
ユキの目が一瞬大きく見開いた・・・でも、笑顔だった。すぐに、一筋の涙が流れ・・・

「・・・・・・」

全身から力が抜けたのが、抱きかかえていたユースケにもわかった。

「ユキ? ユキ? ユキ!?」

衛生兵が脈をとった。片目を開いてペンライトをかざす。そして・・・ゆっくり頭を振った。

「ユースケくん・・・だったか。ユキちゃんは・・・たった今・・・」


思いっきり泣いた・・・思いっきり叫んだ・・・ユキの名前を・・・



力いっぱい泣いて叫んだ・・・



ユキの表情はとても明るかった。幸せそうな・・・そんな表情だった。



ナガハマ ユキ・・・衰弱死にて没

享年・・・10歳



セーイチの姉・マリはその後ヘリで病院に搬送され、そのまま入院。しかし精神的なショックは癒えず、3年後、弟セーイチがラプターとして初陣を飾る直前に、病室のベランダから転落、2日後に亡くなった。享年18歳。死因は全身打撲・・・それが自殺だと、弟に伝えられたのは、彼が戦場から一時帰還したときだという。



結局ダガイ村の生き残りはユースケ・イチゾウ・マコト・セーイチ・トシタカの5人だけだった。いや、正確なことは一切不明だ。他の村民は全員が殺害されていた。人口1000人強の村は、数日間のうちに全滅に追い込まれたのだった。

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