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[mixi小説]BLACK OR WHITE?コミュのBLACK OR WHITE? 6〜誰が為に騎士は行く.part17〜

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 黒い竜の頭がミカエルに突撃する。ミカエルは最大の焔をまとわせた神剣で迎え撃つ。焔と共に竜は跡形もなく消え去り、リリムの背中に開いた穴から十何回目かの再生を行う。そしてまた突進。これの繰り返しだった。
 実に単調な、戦いとも呼べない作業である。しかし単純な力の衝突であるからこそ、他を寄せ付けない戦場が展開していた。無味乾燥であるが故にミカエルが黒い竜を考察する余裕もあった。
 まず、斬った手応えがない。すなわち竜が実体ではないことになる。霧の翼と漆黒の魔力が合わさった虚像。意志が乗っただけの、ただの黒魔力だ。
 そして、その魔力量が尋常ではない。ミカエルの剣、神の武器が発する焔があっさりと吹き消されてしまう。ルシファーにもできなかった、未踏の所業である。
 ただ、魔力の噴出元であろうリリムを斬った時ほど焔は弱まっていない。リリムを打倒するなど、認めたくないが現状では不可能だ。
 だが、黒い竜なら勝てる。
 魔力とて無限ではない。リリムの身体から出鱈目に漆黒の魔力を放出し続けていれば、じきに魔力は枯れ果てる。枯渇すれば虚像も消える。
 だとすれば、勝敗は両者の魔力量が左右するだろう。
 無駄に力を垂れ流す黒い竜に対して、自分は的確なタイミングで白魔力を使っている。消費量の差は歴然。過信している訳ではないが、自身の能力は信用に足る。
 勝てる。
 ミカエルが口元を結んだ。常人ならばむせるほどの熱気を肺に送る。精神を研ぎ澄ます。容赦のない黒い竜の猛攻を斬り捨て、容赦なく燃やし尽くし続けた。
 竜の血を浴びたミカエルの服は赤黒く染まりつつある。闘技場では黄金の焔が灼熱を撒き散らし、陽炎が生まれた。

 湧き出る漆黒の魔力が結界に触れ、紫に閃く。ヨハンナが放心し力の源を失った結界を引き継ぐのは、騎士三〇名、将軍二名、一般兵一名と天使が三柱。しかし、それでも教皇の魔力量には及ばない。ミカエルが黒い竜を打倒する傍らで結界の至る所に亀裂が走り、黒魔力が我が物顔で溢れていた。
 エリザベス、ガブリエル側。リリムに最も近い配置にて。
 ガブリエルは八枚の翼を広げて上方から魔力供給している。目を閉じ、より研ぎ澄ました感覚器官でもって、黒魔力の漏れを探索していた。
(エリザ、もうすぐ。八番、上方八メートルくらい)
 ガブリエルが啓示の力を使用しエリザベスの思考へ直接指示を送る。名前を覚えるのが面倒で、自分達に遣わされた騎士ら一〇名を右から番号で呼んでいる。
「八番だな!」
 エリザベスに啓示は使えない。口で返して魔力供給を中断、八番目の騎士の上方八メートル地点に向かう。
 軍服の上着を脱ぎ捨てると、エリザベスの鍛え抜かれた身体と髪の毛一本に至るまでが青白く発光する。褐色の肌と黒髪とは対照的な色合いのためか、眩しさが際立つ。
 光人化と呼ばれる、黒導国家のイェニチェリ部隊が編み出した白導武術である。身体のリミッターを結界によって解除し、筋繊維の一本一本に結界を張ることによって爆発的な運動能力と破壊力、防御力を獲得できる高等魔術だ。
 迅雷の如くエリザベスが騎士たちの合間を縫って疾駆する。駆ける音でさえ落雷のそれだった。秒もかからず、ガブリエルの啓示した地点に到着する。
 直後、その点にひびが入った。内部の黒魔力が漏洩する前に魔力を供給し、結界を修復する。
 地上に降り立ち、光人化を解くエリザベス。息を荒げながらも再び魔力供給に戻った。光人化は体内に張り巡らせた結界が互いに干渉し合うために術者へかかる負担が非常に大きい。
 だが、術を解くなど許されない。
(次、五番の正面)
「…お前、動くこっちに身にもなれ!畜生めっ!」
 再び光人化し、ガブリエルが指示した地点を目指す。
 心外である。ガブリエルが溜め息をついた。
「それはあの竜に言ってくれないかしら?」
 メイナード、ラグエル側。ミカエルら付近の配置にて。
 一〇名の騎士らの後方で、ラグエルは銀のナチュラル・トランペットを、メイナードは草笛を手にセッションを繰り広げていた。ただ士気を鼓舞しているだけにも見えるが、彼らの音楽は路頭で哀れなバイオリニストが弾くものからも一流の楽団の演奏からも一線を隔している。
 白導教皇庁軍鼓笛隊、その旋律は魔法そのものである。
 音階の一つ一つに魔力を宿す。メロディーやコード進行は呪文に等しい。曲のほとんどは幻術や精神強化といった補助的な役割のものである。
 メイナードとラグエルの演目は『大いなる加護』という曲だった。混乱極まる非常時にはそぐわない、悲しげで尚且つ荘厳な曲調だが、結界の魔力結合を強化し、術者の集中力と潜在魔力を引き出す効果がある。
 戦場においては地味な能力かもしれない。しかし、彼らの結界が最も安定している。騎士たちの統率も取れている。時折、ミカエルの剣が放つ熱気が噴出することもあったが、その度にメイナードやラグエルがアドリブを加えて対応する。
 今のところ問題はない。それでも、結界にひびが入る頻度は次第に増してきている。
 どこまでいけるかな。と、メイナードが思った。
 ソフィア、ハニエル側。玉座の対向にて。
 ここが一番に乱れていた。
 丁度、ミカエルと黒い竜の力が正面衝突する場所だ。結界の崩壊も速い。騎士やソフィア、ハニエルが必死になって魔力を注いでも、瓦解は止められない。
 結界に穴が開く。穴から漆黒の魔力が漏れる。騎士がひるむ。魔力供給が途絶える。また結界が壊れる。…悪循環だった。各人の焦りも加速する。
 ソフィアは慌てて良いのか泣いて良いのかもわからなかった。
「ねえ!?ハニエル!?どうしよう!?こ、これ…これ、止まんないよぉ!!」
「落ち着いてよ!今は結界を作ることだけに集中して!私たち、元々こういうのに向いてないんだから、頑張るしかないでしょう!?」
「でも…!でもぉ…!」
 と、ソフィアの左側にいた騎士が突然倒れた。騎士の正面の結界が破れ、漆黒の魔力に曝されたのである。
 絶句。ソフィアには戦意の欠片も残っていない。何を考えるべきか、何を選択し、どんな行動を起こせば良いか。次々と光速で脳裏を回るが、どれにも手を出せない。糸が切れた風にその場に腰を落とした。
「ソフィア!!」
 結界が一部破裂する。もう限界が近い。
(…あー、エリザ?)
 何だ、もったいぶるな。
 ガブリエルの啓示に返事ができないことが鬱陶しい。
(あー、これ何て言ったら…えーと、マイナス四番?マイナス四番からマイナス六番の全体?)
 何だよマイナスって…。
(ソフィアちゃんトコがヤバイから手伝っ…)
 始めからそう言え馬鹿が!!
 光人化。脚力のみでソフィアらの援助に向かう。
 結界が破裂した箇所からはダムが決壊したかのように漆黒の魔力が雪崩て来た。その先には、事態が己の許容範囲を超えて動けなくなったソフィア。
「駄目ッ!!ソフィアあぁ!!」
 ハニエルがソフィアの下へ駆け寄る。結界は間に合わない。身を盾にして守るしかない。
 ハニエルがソフィアを押し倒した。
「…ハニエル?」
 ハニエルは困った様子で笑っていた。
 ああ、私は馬鹿だ。
 やっとわかったことは、今、自分は泣くべきということ。取り返しのつかないことだった。ソフィアは無力を呪った。
 瞬間、雷が轟く。
 光人化したエリザベスが、拳の一つで漆黒の魔力の雪崩を消し飛ばした音だ。術が解けるが、これはむしろ魔力の雪崩に相殺されたと言うべきだろう。
 迫る脅威を抹殺するや否や、エリザベスは結界の再構築にかかる。ソフィアの比ではない。瞬時に崩壊部分の九割以上を修復した。
 立ち尽くすエリザベス。覚束ない足取りでソフィアが立ち上がる。
「あ、あ、あの…ありがとうございます。エティエンヌ将ぐ…」
 突如、エリザベスが膝から崩れる。右腕を押さえて苦しんでいた。ソフィアが身体を支えに寄ると、右拳の骨が折れて手の甲を突き破っている。更には腕があらぬ方向にねじれ、肘までが暗黒に侵されている。
「だ、大丈夫ですか!?」
「…大丈夫に見えたら、お前も病棟送りだ」
 答える声に覇気がない。力なく震えている。危険な状態だ。
「何、心配ない。まだ左手も…両脚だってある」
「で、で、でも!!」
 泣くのか心配するのか、どっちかにしろ。と、エリザベスは思った。決して軍人向きの性格ではないが、だからこそなかなか得られないものも与えてもらえる。不思議と痛みが和らぎ、自然と微笑が浮かんだ。
「テンダー伍長指揮下の騎士諸君に告げる!」
 ソフィアの周りで魔力供給を行っている騎士の内、倒れた一名を除く九名が作業の片手間にエリザベスの言葉に耳を傾ける。
「ただ今より、諸君らは私の指揮下に入ってもらう!テンダー伍長、ハニエルは下がって負傷した者の手当てをしてくれ!」
 当然の処置だろう。だがソフィアは悔しかった。歯の根を噛み、頷いた。
「テンダー伍長、早速だが腕がイカレた。治してくれ」
「…はい!」
 ソフィアがエリザベスを担ぎ、結界修復から離脱する。ハニエルも倒れた騎士を抱きかかえて後方に回った。
 回復魔法の穏やかな光が、エリザベスの右腕を温める。骨折と傷はまだ治せそうだが、この暗黒の侵食はしつこそうだ。
 自分のやれること。それに尽くそう。エリザベスを癒しつつ、ソフィアの戦いがやっと始まった。

「猊下!御気を確かに!猊下っ!」
 魂が抜け蒼白になっているヨハンナの両肩を揺すり、騎士の一人が呼びかけ続けていた。可能な限り失礼のないように配慮して女性の騎士が当たっている。だが、反応がない。床に転がっているロンギヌスを呆然と眺めているだけだ。
 女性騎士が歯をきしませる。畏怖に心地悪い汗を流し、意を決して手を上げる。
「御無礼を御許しください!!」
 乾いた音がした。女性騎士は手を振り下ろして教皇であるヨハンナの頬を打っていた。赤らんだ左頬を撫で、驚いた様子で女性騎士の方を向くヨハンナ。女性騎士は生きた心地がしなかった。
 空かさず床に膝を突いて礼の姿勢になる。
「申し訳御座いません!処罰は後ほど、謹んで受けさせていただきます!
 しかし、事態は困窮の極みに御座います!現在、結界は将軍様方と騎士団員らで維持しておりますが、それもいつまで持つかわかりません!
 我らの無力を棚に上げて進言するのは痛み入ります!ですが、猊下の御力がなければ、地上に悪魔を解き放つこととなりかねません!
 御願い申し上げます!猊下!結界を御張りください!」
 ヨハンナの瞳に光が戻る。何をもたもたしているんだろう。皆が戦っているのに、自分が、教皇が、指導者が前に立たないとは何事だ。
「…ごめんなさい。貴女のおかげで目が覚めました。モンテイユ公」
 叩かれた頬を擦りながら、ヨハンナが立ち上がる。女性騎士モンテイユは顔を上げない。
「私めなどの名を…?恐れ多いことです…!」
「早く面を上げなさい。とにかく貴女も戦いに戻るのです」
 ようやく上げた顔は、闘志に満ちた喜びが咲いていた。
「私としたことが…然様で御座いますね」
 立ち上がり一礼する。そしてモンテイユは仲間の下へ向かった。
 ヨハンナがロンギヌスを拾う。微動だにしない。いつも手にしている聖遺物、ロンギヌスの槍に相違なかった。
 結界の状態は最悪だった。所々で崩れかかっている。ヨハンナなら全修復も容易にできるが、ただ直しただけでは再び壊れる恐れがある。
 ロンギヌスの矛先に額を寄せる。目を閉じ、息を冷たくして、水面が鏡になるまで心を静める。ヨハンナと水面以外は何もない境地で、三聖頌を心で幾度となく唱えた。
「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、 昔いまし、今いまし、のち来たりたまう、主たる神」
 神を称える言葉を連ね、水面の透明度を高める。僅かな邪念も洗い落とす清らかな水が足元にあるイメージだ。
「緊急八鏡議会召集。議題、バチカン霊脈の第一級限定解放」
 ヨハンナを取り囲むように、水中から八つの鏡が現れる。鏡に映ったヨハンナが口を開いた。男、女、低い、高い…それぞれ違う声で満場一致の議決が下る。
「是としましょう」
「…感謝します。アーメン」
「アーメン」
 ヨハンナが境地から現実に戻る。相変わらずの喧騒。渦巻く白と黒は紫となって燃え上がる。結界は崩落間近だ。
 騎士たちを下がらせて、ヨハンナは結界の正面に立つ。身が震える。何かを決断する時の、身体を巡る血が熱を増したような感覚。この高揚感はいつまで経っても慣れない。
「バチカン霊脈を第一級限定解放!結界の補助魔力に回します!」
 教皇の一声と同時にロンギヌスを床に突く。三六の翼をあしらった魔法陣が波紋となって拡散し、バチカンの地下に眠る霊脈を覚醒させる。白い魔力が霊脈から闘技場へと流れ、ヨハンナ結界に直結。大きな地鳴りと共に、透明でドーム状だった結界は白い円筒状に変化した。
 もはや外界から内部を確認することは叶わない。ほぼ完全に隔離された空間である。ただリリムから湧き出る漆黒の魔力の濁流が結界に弾ける音、ミカエルの焔の唸り声だけが聞こえ、その度に闘技場が少し震えた。
 耳が割れるほどの喧騒から、遠い戦火の音に成り下がる。フィルターがかかたように音がぼやけているが、騎士たちの安堵の声とヨハンナへの歓声は皆の鼓膜に確かに届いた。
 一息ついてヨハンナが高らかに声を発する。
「ひとまず静かになるまで霊脈の解放を続けます。これであの悪魔が外に出る心配は、まずありません」
 歓声が再燃する。
「動ける方は、負傷者の手当てに回ってください。病院に搬送といきたいところですが、生憎、決闘の結果が出た訳ではありません。騎士団長ミカエルも戦っています。見届け人の命を受けた以上、皆さんにはそれを全うしていただきます。ごめんなさい」
 歓声は衰えない。騎士は皆、戦士としての誇りを骨の髄にまで抱いている。戦いの中での負傷は数に入らない。
「ありがとう。それとガブリエル」
 呼びかけに応え、ガブリエルがヨハンナの御前に降り立つ。ひざまずいて忠誠を示した。
「いかがなさいましたか?」
「貴女の啓示の力なら、結界の中の状況はわかりますね?」
「…なるほど、承りました」
 ガブリエルが一礼し、結界の方を向く。目を閉じ、優れた感覚器官を更に研ぎ澄まして結界の内部を探る。
 騎士たちが負傷者の手当てに走る中、ヨハンナは神に祈りを捧げていた。そして、聞き取れないほど小さな声で「クロード=スティグマン」の名を呟く。
 ガブリエルにだけ、その声が聞こえたが、特に気に留めることなく結界内の状況を探り続けた。





BLACK OR WHITE? 6〜誰が為に騎士は行く.part17〜 part18に続く

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