ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

[mixi小説]BLACK OR WHITE?コミュのBLACK OR WHITE? 6〜誰が為に騎士は行く.part16〜

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
刹那が、永遠かの如く振る舞う。
誰の耳も聞こえず、誰もが脈動すら忘れそうになっている。ミカエルが焔をまとった剣を振り下ろす雄姿を各々の瞳が捉え、各々の心が美しさに動く。この美麗な舞のために、その他の身体機能は止まっていた。
クロードの左胸は肋骨を露にするまでえぐれている。肉が焔に焼かれたため、傷の見た目に反して出血は少ない。膝が地に落ちる瞬間までもが、ミカエルの剣舞を引き立たせるために輝いていた。
恐ろしい。人が死ぬ光景のはずだった。だが、客席はそれを絢爛と感じてしまった。己の心が為したものなのか、神が生み出した至高の使徒が為す業なのか。ソフィアはおろか、将軍格のメイナードとエリザベスまでもがその一瞬に見惚れ、見惚れてしまった事実に正体不明の恐れを感じた。
永遠が終わる。一枚の絵画の様に美しかった場面から解放された客席が最初に聞いたものは焔が爆ぜる音と、クロードが地に倒れこむ鈍い音だった。
うつ伏せになったクロードが、ミカエルの足で仰向けにされる。生気のない顔、見開いた目、開ききった瞳孔。時折痙攣を起こしている。絞った呼吸が唇の隙間に擦れて、細い音を立てている。
クロードの腰にぶら下がったランタンが開き、中からルナが形振り構わず飛び出て来る。クロードの名を叫びながら、泣き顔で大きな傷口に寄り添う。僅かな光の力で、瀕死のクロードの身体を癒し始める。
剣の焔を沈め、ミカエルが言う。
「…肺には届いていない。ルナエル、そのまま治しておけ」
動揺が一転、客席の騎士たちからぽつりぽつりと歓声が沸き起こる。五〇人の喝采を背中で受けるミカエル。視線の先にはヨハンナ教皇が座している。
「猊下。終わりました。これ以上は不毛に御座います」
ヨハンナは黙って、首を横に振った。
「まだ、悪魔とは決着していません」
ミカエルがリリムのいる方へ向く。気絶はしているが、小さくなった身体は残った瘴気を全て吸収して傷を塞いでいた。
ヨハンナの声が闘技場に響く。
「ミカエル、わかっていますね?」
「…御意」
ミカエルはローブを翻し、地に伏すリリムに歩み寄る。

ここまでするなど、ミカエルは考えていなかった。ちっぽけな赤い弾丸にされた同胞への慈愛が、気付かぬ内に神剣を突き動かしてしまったのだ。
本来ならば、クロードが指一本動かせないようになるまで、いつまでも闘い抜くつもりだった。降参の一言を言わせるだけのはずだった。そうでなければ、ヨハンナ教皇が悲しむからだ。
微動だにしないリリムへと歩み寄りながら、脇目でヨハンナを見る。表情は至って冷静沈着。が、ロンギヌスを持つ手が泣き震えている。さすがに胸が痛くなる。
足元にリリムがいる。敵の間合いに入ったというのに、顔すら持ち上げようとしない。
ミカエルに殺気がないためであろうか。
ここまでの戦いで、これが本物のルシファーの娘、リリムであることはほぼ確定した。王族にあやかろうと、自らの子に皇太子や皇女の名を付ける親は、人間でも悪魔でも少なからずいる。今回もその類かと誰もが思っていた。だからこそ、クロードの勝利条件に『リリムの生存』があった。
だが、本物なら話は別である。リリムを殺すのはおろか、傷つけただけで国際問題に発展する。最悪の場合、黒導国家は総力を挙げて戦争を再開するかもしれない。良くて白導教皇庁の財政が傾くほどの事態は避けられないだろう。
「…封印式、白銀像」
神を称える言葉を紡ぎ、ミカエルの左手から光の魔法陣が浮かぶ。魔法陣はリリムの背中と四肢に軽く焼きつく。と、魔法陣の焼きついた部分からリリムの体が陶磁のような白い鉱物に変化してゆく。白い侵食が幼い身体を多い尽くす。これで、リリムは完全に動けなくなった。
これを黒導教皇庁に護送する。ひとまず、酷く衰弱していたということにしておこう。白導の技術での治療は不可能に近かったから、応急処置として封印式を用いた。上手く運べば、白と黒の隔たりを取り除く鍵になるかもしれない。ヨハンナは平静を保ち、教皇としてシナリオを練っていた。
だが、手の震えは止まらない。ロンギヌスが澄んだ金属音で鳴いている。
こんなことは、これまでに経験したことがない。
ミカエルの手が、石像となったリリムに伸びる。

◆

目覚めると、目覚める前と同じ暗闇だった。
果たして、これを目覚めと呼んで良いものか。それほどの暗黒が広がっていた。だが、手を見ればはっきりと形も色もわかる。立ち上がるための足もある。地面は空と同じ闇色で境界がわからない。実に不可思議な空間に幼いリリムはいた。
「どこじゃ、ここは…?」
独り言が思いのほかよく反響する。自分の声だというのにリリムは僅かに怯えた。しかし、そのおかげで霞がかった思考が晴れ渡った。
「そうか。わらわは闘って…」
ミカエルとの決闘が再生する。死力を尽くしても決定打を与えられなかった。傷付くのは自分ばかり。最後にはミカエルに焔で吹き飛ばされた。後は覚えていない。
腕が震えるまで握り拳を作っても、しかめっ面で大粒の涙を落としても、悔しさは一向におさまらなかった。
何故負けたのじゃ?わらわは悪魔の長じゃ。全ての頂点に立つべき者のはずじゃ。なのに、何故こんな惨めな思いをせねばならぬ?
泣き崩れ、地面にへたりこむ。

「嗚呼、可哀そうに。そういう顔も悪くないがな、そうもばかり言ってられんのだ」
背後から、リリムの自問に答える声がした。地底から唸るような声だった。
「誰じゃ!?」
振り返ると白い城がそびえている。
いつからそこにあったのか。気配も何もしなかった。この目にした今でも存在の感覚が掴めない。だが、色も形もはっきりわかる。確かにあるのに、あると認識できない。奇妙な感覚だった。
城と言ってもそれほど大きくはない。建築から城とはわかるが、実に粗末なものである。これが石造りなのか何なのかわからない。ただ壁面は滑らかで繋ぎ目がない。門はどこを探しても見当たらず、代わりに人が潜れないほど狭い窓が無数についている。
窓の一つから巨大な目が覗く。
「リリム姫、悩む必要などない。わしがいる限り、主は間違いなく頂点に立っている」
目が三日月形に歪んだ。
ひるみつつもリリムが吠える。
「何者じゃ!?」
「おや、お忘れか?折角、迷宮で挨拶してやったというのに」
決闘前、腹を突き破って出て来たもう一人のリリム。そういえば声も似ている。夢でも幻でもなかったらしい。
城の中、もう一人のリリムが続ける。
「しかし無様だな。あれが死力か。たかが天使の一匹の剣で止められるものが死力か。情けない」
鼻で笑った。城の外でリリムはなおも吠える。
「黙れ!そこに篭って戦うことすら叶わぬ貴様に言われる筋合いはない!」
「筋合いならある」
城の窓が全て開く。どろりと濃い黒煙が溢れ出る。
息と言葉が詰まった。ミカエルと対峙した時以上の悪寒が背筋に走る。
「さて、無念を晴らしてやろう。姫よ」
黒煙が轟音を上げて噴出する。黒煙は一つとなって黒の濁流となり、リリムの幼い身体を呑みこむ。あるかもわからない空間の彼方へと、絶叫が消えて行った。

どれくらい流されたことだろう。濁流は全く衰えない。それどころか勢いを増している。が、リリムは荒波に揉まれる度に抵抗する力を付けていった。身体も大人になってきている。もはや流れが苦にならない。それどころか爽快だ。
一点の光が見える。おそらく果てだろう。
迷うことなく光に身を投じるリリム。その隣にも、飛び出す何かがいた。巨木ほど太く長い身体を持った、黒い目の闇の巨獣。
濁流以外の、生ぬるい飛沫がリリムにかかる。
「あ…」
赤黒い血を、体中から流す巨大な黒竜の姿を、光の中に見失った。

◆

ミカエルは、二つの思い違いをしていた。
一つは、ヨハンナの手が悲しみに震えていると思ったこと。これはむしろ、ロンギヌスが歓喜に先走っていると言った方が正しい。
そしてもう一つは、リリムがたった一匹の悪魔だと思っていたことである。
ロンギヌスの振動が、次第に強くなっている。気付いた時には両手で押さえなければならないまでに激しく打ち震えていた。いくら聖遺物に数えられる槍でも腑に落ちない。得体の知れない不安が、ヨハンナの両腕に伝わって来る。
「これは一体、何なの?」
そう言いきるかきらないか、突然にロンギヌスが自らの矛先をリリムへと向ける。持ち主の意に反して動いたため対応できず、ヨハンナの身体が僅かに浮く。思わぬ事態に控えていた二人の近衛兵が後ずさった。
リリムに向かおうとするロンギヌスを、両手両足で踏ん張って留める。が、それでも矛先は前に進む。玉座前の床を、靴が擦って行く。呆けていてはならぬと、近衛兵らがヨハンナの身体を取り押さえる。やっと前進が止まった。
しかし、ロンギヌスはリリムを求めて猛進し続ける。三人がかりで進行は止まっても、リリムを渇望する意志は抑制できない。
教皇として、聖遺物にこのような感情を抱いてはならない。それでも、ヨハンナの理性に反して本能が血の気を引かせる。
神聖の象徴たるヨハンナが、下賎な叫び声を上げる。
「ミカエル、なりません!下がりなさい!」
同時に、白い石像となったリリムから力強い鼓動が放たれた。大気すら押し退ける波動に近い生命力が、ミカエルの肌にしかとぶつかる。
考えるよりも先にミカエルの身体が動く。闘技場の中央に横たわるクロードとルナを抱え、端に安置する。クロードを背後に守る形で、石像となって動かないリリムと対峙するが、自分はおろか相手の間合いにも入ろうとしない。神剣を両の手で握り構える。
ルナには訳もわからなかった。
「あ、あの、ミカエル様…?」
「絶対にそこから動くな」
ミカエルの目はリリムを捉えたまま放さない。クロードとルナに構っている余裕などなかった。今、意図もせず両手で剣を構えている。これだけで現状の説明に余りある。
ミカエルが、本気にさせられた。
客席がざわめく。既に勝負は着いたはず。にもかかわらずミカエルは間合いを取り、剣を両手で構えている。不可思議でならない。結界で守られている客席は、石像と化したリリムの脈動など知る由もなかった。
一際力強い心音が木霊する。ミカエルのローブが揺らいだ。
「…来る」
リリムの背中の魔法陣に亀裂が走る。隙間から怒涛の勢いで噴出するどす黒い魔力。闘技場全体、地上の教皇をも巻き込んで空気が振動し、地響きに似た重低音を伴って闘技場を黒く染める。耳には聞こえないほど低い音だが、皆の心臓が爆音に共鳴して絞めつけられていた。
幼いリリムの石像から、大人のリリムが出る。亀裂から外殻を脱ぎ捨て黒い霧の翼を広げる姿は、蝶の羽化を思わせる。蝶なら良い。生命の神秘と感動すれば済む。だがこれは、禍々しい魔物の誕生に他ならない。
無邪気だった笑い声は、悪意に満ちた笑いに変わっている。
天を仰ぎ、完全に羽化したリリムはミカエルを下目で見て言い放つ。
「不思議じゃのぅ!実に不思議じゃのぅ!不可思議ここに極まるのぅ!」
魔力の噴出は未だに続いている。爆音が声を掻き消してしまうが、高揚感が口と声帯を動かせと命じていた。
「ボロになるまで負けたというのに、もはや負ける気がせぬ!」
どこにこのような力を隠していたのだろうか。魔力は限界を知らぬと誇示するかの如く猛々しくうねり、霧の翼は無限に成長を続ける。リリムの角と牙は更に凶悪に尖り、瞳は鮮やかな紅に光っている。
心から狂い笑い、心から満足した。神妙な面持ちに切り替わり、誰にも聞き取れない小さな声で言う。
「クロードよ、勝たせてやるぞ。わらわが勝って、貴様も勝つ。こやつに勝たねば、虫がおさまらぬ」
リリムは蔑む視線でミカエルを睨み殺す。対してミカエルも睨み返す。ミカエルの頬を冷や汗が一つ流れる。圧倒的な黒魔力は積乱雲となり、電光がほとばしる。まだ魔力は噴出を続けている。翼の巨大化も止まらない。ミカエルの剣を握る手に力が入る。
無言でリリムがミカエルに手をかざす。それに応えて霧の翼が腕に変化し、巨人の雄雄しさを誇っている。
「この屈辱、倍にして返してやろうぞ!まずは貴様も地に伏してもらう!ミカエル!」
かざした腕を一直線に振り下ろすリリム。巨人の腕が侵攻する。ミカエルはやむなしと、剣を振り上げて突撃を仕掛けた。
だが、腕の攻撃はミカエルではなく、玉座の方向を向いていた。
「なっ…!?」
客席とヨハンナはおろか、ミカエルでさえも反応できなかった。黒い豪腕の一撃で結界にひびが生じたが、結界の力が勝って腕は掻き消えた。
雄叫びとともにミカエルが突進して来る。神剣はリリムの左肩を捉え、金色の焔を猛り狂わせながら胸の肉を斬り開く。乳房の肉が破裂し、赤黒い血と紫になった炎のグラデーションが生まれる。花が咲いたようだった。リリムは傷を何とも思わず、ただ呆然と立ち尽くすばかりだ。
花は儚いものだ。瞬時に回復し、傷痕すら残さなかった。
「貴様ァ!!」
ミカエルが怒りに任せて剣を振るう。人の目にはわからないが、神剣が融け出している。赤い弾丸で受けた天使の血とミカエルの怒りが反応した。だが芳しくない。神に従う者としての怒りは、剣も譲歩して大目に見るのだろうか。
再生するリリムの翼と肉体を細斬れにする度に、黄金の焔は紫の炎へと変化する。血飛沫が花と咲く。しかし、花は儚く消えるものだ。
リリムは何もしない。何かが信じられないという表情だった。斬られるがまま、ミカエルの攻撃など取るに足らない事柄に成り下がっている。
「何故猊下に手を出した!?彼女は関係ないはずだ!!例え黒導の王族でも許さん!!」
「…で…い」
精魂の抜けた声でリリムが答える。
「わらわではない…」
ミカエルの剣は止まらない。見るに耐えない、一方的な暴虐だが、リリムには何一つ重要ではなかった。
再び、焔が剣に収束する。ミカエルはリリムをなぎ払った攻撃をこの至近距離で放つつもりだ。
「この期に及んで白を切るなッ…!!」

ミカエルが剣を振り下ろす直前だった。
不意にヨハンナの手を離れ、ロンギヌスが自らの意志で飛ぶ。力の支えを失ったヨハンナと近衛兵らが後ろに倒れた。ロンギヌスはヨハンナの結界を破ろうとしている。結界との接触面で閃光が暴れる。僅か数秒でロンギヌスは糸を切ったかの如く床に落ちる。ピクリとも動かない。
畏怖、それしかない。口は動くばかりで言葉を発せず、腰は抜けて脚に力が入らない。
それと同時にリリムの心臓が激しく、大きく、速く高鳴る。中から胸を突き破る激痛が襲う。動悸が肺を押し退けて呼吸がままならない。焦点は空虚に向き、一点に定まっていない。それらは取るに足らないことだ。
問題は、リリムから放たれている魔力の質が変化したことである。
最初は霧状の黒い魔力が身体中から噴出していた。しかし今は、何もかもを呑み込む漆黒の魔力が湧き出ている。身体にまとわりつく非常に濃い魔力だがその割には透明で、根源であるリリムの姿を容易に視認できる。
構わずミカエルは黄金の焔とともにリリムを斬り捨てようとした。しかし、焔がほんの僅かに漆黒の魔力へ触れた瞬間、消し飛ぶ。蝋燭の火を吹き消すほどの労力もなかった。
ミカエルには信じられなかった。眼前に起こる全てを理解の範囲におさめようとしても、その全てが理解の範疇から逃げて行く。脳が止まる。
束の間の空白。ミカエルの思考が再び起きる。悪意だ。ミカエルだけではない。神の創造物の全てに対する甚大な敵意だ。ルシファーと対峙した時もこれほどの嫌悪を味わったことはない。胃から込上げて来る。
咄嗟にリリムから離れる。両手に残る黒い油のような物体。漆黒の魔力が神剣を伝ってミカエルの指先に触れていた。それは小声でミカエルに語りかけてくる。「返せ、返せ」と。
おぞましい。
何だこれは…?
ミカエルが気付く。これは、リリム以上に危険だ。
「騎士団員二〇名!!直ちに猊下の警護に当たれ!!」
事態を飲み込めずうろたえていた騎士たちの表情が一気に引き締まる。互いに顔を見合わせ、頷く。前列の二〇名がサーベルを抜き、ドーム状の結界を軽く跳躍してヨハンナの下に集結する。
「残りの騎士団員は一〇名ずつ、見届け人と共に結界の補強に当たれ!!」
ソフィアがもたもたしている間にエリザベスとガブリエル、メイナードとラグエルが席を離れて闘技場入り口上に立つ。三〇名の騎士たちが三つのグループに分かれ、見届け人たちの下に集まる。総力を挙げて結界に白魔力を注ぎ込む。
「何ボサッとしてんの!ソフィアもやるの!」
ハニエルの声でようやく事態を把握し、ソフィアが遅れて加勢する。透明な結界が太陽よりも強い光を放ち始める。熱気に満ちた風が踊る。
空を切る絶叫。この世の終わりか、はたまた生きながらにして殺されるという時にしか聞こえてはならない声で、リリムが叫ぶ。立ちすくんでいた身体を抱え、地面に膝を突く。
悶え苦しむリリム背中、翼の付け根から骨でできた枝が無数に伸びる。昆虫の脚にも見えるそれらは皮膚を貫いて、身をきしませながら生長を続ける。きしむ度にリリムの絶叫は止むが、休むほどの間もなく再び阿鼻の叫喚が続く。
枝が生える中心に穴が開く。穴からは濃い漆黒の魔力が止めどなく湧き、巨人の腕と化した霧の翼を巻き込む。翼は一つに縛られる。巨人の両手は指を組んで口を作る。霧よりも邪悪な眼が二つ現れる。
背中の穴から現れたそれは、首に巻きつけた鎖を鳴らし、赤黒い血を身体中から流している。常識外れの量の魔力を垂れ流しながら、己の誕生を喜び、咆哮する。
ヨハンナ警護に当たった騎士の一人が呟く。
「黒い…竜…」
隅で死にかけているクロードや回復魔法に集中するルナは勿論、対峙するミカエルに目もくれず、黒い竜は玉座に向かって突進する。
「させるか!」
ミカエルが立ち塞がる。怒髪天を突き、最大限の力で剣から焔を作る。黄金の焔は巨大な刃の形となって、黒い竜を三枚に下ろす。想像以上に簡単だった。しかし消し炭になったと思った刹那、リリムの背中にできた穴から竜が再生した。
竜がやっとミカエルの方を向く。今し方、初めて存在に気付いた顔だ。
闘技場は騒音に満ち溢れている。魔力噴出の地鳴り、リリムの絶叫、結界に魔力を供給する騎士たちの雄叫び。にもかかわらず黒い竜の声は驚くほどはっきりと聞こえた。
「ほほぅ…久々の外に、誰が待ち構えているのかと思えば…神の従僕か。
カハッ…カハハハッ!
これは滑稽だ。いざ目覚めれば、このわしの眼前に龍殺しの使徒がいる。それどころか、哀れなほどに脆弱な鉄板を振り回して、このわしと、このわしの器を叩き斬ろうとしている。このわしをだ」
黄金と漆黒がせめぎ合う闘技場中央には、紫の炎がたぎっている。ミカエルが神剣の焔を最大放出したまま言う。
「…自分ではない。なるほど、奴は正しかったようだ。貴様は何者だ?」
「生憎、貴様と戯れる暇も惜しい。これほど愉快な宴もそうそうないが、享楽できんのが口惜しい」
「…答えになっていない」
黒い竜は気に留めず、自分の言葉を続ける。
「悪いことは言わん。そこをどいてくれんか」
返事の代わりに、竜の首から上が斬り飛ばされた。だが、首はすぐさま生える。邪悪な瞳は、不本意だと言っている。
「嗚呼、わかった。わかったとも。訂正しよう。そのままで良い」
にわかに竜は首をミカエルへ近づける。呼吸を感じる距離、言葉を一つ吐く度に血の玉がミカエルにかかる。
「死ねよ御前」
言葉の代わりに、顎下から両断される。再び竜は燃え落ち、リリムの背中の穴から再生した。





BLACK OR WHITE? 6〜誰が為に騎士は行く.part16〜 part17に続く

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

[mixi小説]BLACK OR WHITE? 更新情報

[mixi小説]BLACK OR WHITE?のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。