混沌図書館 深淵書庫コミュの艦橋のエインヘルヤル　７話

【バァル星系外縁部、転送門（ポータル）周辺宙域】
　海賊と遭遇…。


「はぁ…、可愛かったなぁ…」
　ポータルへと向かう間中、うわ言の様に繰り返すヘリントン…。
「その独り言、もう何回目だよ…」
「ああ、彼女こそ俺のマイ・エンジェル…」
　人の話を聞いていない…。ダメだこいつ何とかしないと…。
「いや、確かに可愛いけどね？でもやっぱりゲーム内のＣＧだから」
　俺の当たり障りの無い忠告。しかし彼は。
「うむ、そのＣＧを越えてまで彼女の内面的美しさが具現化するのだ。まさに美！」
「…　…　…　…」
　何で俺はコイツと友達なんだろうか？思わずそんな疑問が頭を過ぎる…。
「おい、頼むからちょっとは自分をセーブしてくれよ」
　と、その時だった。
『艦長。艦隊後方より高速物体の接近を感知。巡航ミサイル。数は１０』
　警告音と共に索敵ＡＩクルーからの唐突過ぎる報告。
「なっ…！奇襲！？迎げ…いや！回避！」
　俺の率いるクリューデアビス?と護衛艦１０隻は即座に艦列を広げて回避行動に移る。迎撃しようにも転回した瞬間に横っ腹にぶち当てられるのは勘弁願いたい。
「え？紅夜！何なんだ！誰だよ！」
　うろたえつつも少し遅れて回避行動を取るヘリントン艦隊。そうこうしてる間にもミサイル群は俺達の居る宙域に到達し…。
『ミサイル１から８の回避に成功。９は護衛艦Ｂ-１が迎撃に成功』
　残りの１発は…？
「うわっ！」
　へリントンの短い悲鳴。それと同時に宙域を照らす爆光が一つ。
「やべぇ！こっちの護衛艦に命中した！」
　見ると、ヘリントンの護衛艦１隻が艦尾の一部。エンジン部分をごっそりと失っていた…。しかしまだ動いているので大破に近い中破って所か。
「っ！誰だこらぁ！」
　へリントンの絶叫…。ミサイルが飛んできた方向に向かって索敵網を最大まで広げると、後方６．５辺りの宙域に怪しい艦隊の反応２つを確認。だが遠すぎる為に相手の艦隊構成は不明…。
「あいつ等か？ミサイルぶっ放した犯人は」
　巡航ミサイルの射程は最大で７．０…。周囲に他の艦艇は無し。どう考えてもその２艦隊が犯人だった。
「おい！何のつもりだ！」
　へリントンがその艦隊に向けて通信を開く。そしてその答えが…。
『後方の艦隊、ミサイルを発射。数は１０』
　俺はすぐさまヘリントンに向けてコマンドリンクを要請。指揮権をこちらに渡してもらう。
「紅夜、頼んだ！」
　どの艦よりも早く俺の乗るクリューデアビス?が戦闘準備を済ます。他の艦は回避行動を取りつつ迎撃準備…。そして攻撃態勢を整えた俺の艦は後方３．０辺りを目標に広域殲滅弾を１発だけ撃ち込んだ。
「へーちゃん！射線確保していつもの精密射撃！俺が前に出る」
「あいよっ！」
　相手の正体は十中八九【海賊】だろう。しかも【素行の悪いタイプの海賊】…。そして俺は問答無用で襲いかかって来る連中に対し遠慮は要らないと判断した。
『目標地点にて広域殲滅弾炸裂。敵ミサイル１から６までの誘爆を確認。７はコースより逸脱。８から１０は突破。ヘリントン隊３番護衛艦が目標の模様』
　ＡＩオペレーターの報告。手負いから仕留めるか…。
「Ａ-１Ｂ-１Ｃ-１は迎撃、３番艦は回避優先。他は命令あるまで自立行動」
『了解』
　護衛艦による迎撃が開始された。ビーム砲による範囲斉射。それによりミサイル２発の迎撃に成功。そしてその攻撃を潜り抜けた残り１発は近接防御のビームガトリングによって破壊する。
「ミサイルの数からして最低でも１０隻以上か…。当たればいい程度のミサイルでも威力だけはでかいからな」
　巡航ミサイルの撃てる数は１ターンに付き１発…。射程外からの攻撃が可能だが命中率は低め…。だが破壊力は大口径のビームキャノン並みであり、当たり所が悪ければ大破、もしくは撃沈である。
　ちなみに消耗品アイテム扱いなので搭載出来る数に限りがあり、おまけに巡航ともなればそれなりに値が張るだが…。
「押し戻すぞ！へーちゃんの巡航ミサイル使ってもいいか？」
　俺はあえてそれを使用する選択。
「分かった。遠慮無くブチかましてくれ！」
　彼から了解を得た俺はヘリントン隊の５隻にミサイル発射を指示。目標は敵艦隊の中央部。
「撃て！」
　護衛艦が巡航ミサイル５発を発射。それと同時にヘリントン隊をその場に残し、俺の艦隊は相手との距離を詰めるべく発進した…。