歯ごたえのない感想などいらん！コミュのパフューム　ＴＨＥ ＳＴＯＲＹ ＯＦ Ａ ＭＵＲＤＥＲＥＲ

最近みた作品で、チョット気になった映像が抜群の作品でした。
社会的な倫理感は、抜きにして。
バンパイア的作品としてみるには、楽しめましたので・・


監督：トム・ディクヴァ
出演：ﾍﾞﾝ･ｳｨﾝｮー　ﾚｲﾁｪﾙ･ﾊｰﾄﾞ=ｳｯﾄﾞ　ｱﾗﾝ･ﾘｯｸﾏﾝ　ﾀﾞｽﾃｨﾝ･ﾎﾌﾏﾝ　ｶﾛﾘｰﾈ･ﾍﾙﾌｯﾄ

　彼の本能は匂いへの執着心。生まれたときから本能だけで、生きることを示唆された彼は、自然を知る対話の方法として、匂いを感じることで、物を知る臭覚を持っていた。

1738年セーヌ河沿岸に並ぶ、魚市場の片隅に生み落とされた、ｼﾞｬﾝ=ﾊﾟﾃｨｽﾄ･ｸﾞﾙﾇｲﾕ（ﾍﾞﾝ･ｳｨｼｮｰ）。大勢の人の生活臭の中、悪臭を放つこの場所で彼は奇跡的に息をする。

作品は、グルヌイユが、究極の香水を作るために辿った、ロードムービー的サイコサスペンス。

いずれ、天才的な調合師となるグルヌイユは、多くの『におい』を手中に止めようとする。

ある日、運命を左右する香に出会う。道で見かけた美しい赤毛の女性。彼女が放つ香しさに引かれ後をつける。
そして彼は、自分の本能のまま行動し人としての一線を越える。
究極の香は、何処にあるのだろう。香水の香しさは、つけた本人の体臭と交じり合い、人の官能を刺激する。
さらに、香りは、嗅ぐ人の感性で色んな風に変化する。

作品の中の映像は空気を持っている。カメラが追う先に用意された物の一つ一つ。その物のにおいは、人が記憶している代表的なものだ。

魚、泥、虫、金属、白粉、ラベンダー、ミント、水仙、バラ。多くの香豊かな色彩を画面に散りばめ、匂いを誘うように、それらを混ぜ合わせ、そこに立ち上る、ほのやかさに、観客の深呼吸を誘うのだ。

監督は前作まで無償の愛情を色彩豊かに描いてきた。愛情のひたむきさが、画面の情景にピッタリと寄り添うように、細かいカットで追って行く。
カメラのアングルの置き方も愛情の方向性と同じ視線を与えていた。
しかし、今回は異常な愛が対象である。愛情を見えない『におい』に注ぐ。カメラは物質の内部へとズンズン入る形態をとっているのだ。

さらに人のツメの先、毛穴、産毛まで細かく見せて、人が視覚で、匂いを感知する距離に迫っているようだ。思わず、鼻をクンクンとさせてしまうほどなのである。

　また、鮮明な画像は、18世紀のパリの混沌を見せている。
ぬめった市場の風景で、生活の悪臭を描きだす。
そして、洒落た街並みには、むせる香の貴族たちの小物をちりばめる。
彼らの趣味のエッセンスを振りまいて、扇でそれを拡散させるのである。そこいら中に、澱んだ空気の層を感じさせるのだ。

オープニングは、グルヌイユの鼻のアップである。バンパイアは、牙を見せること人ではないことを知らせてくれる。同じように、鼻は彼の狩猟の武器なのである。

監督作品で、赤毛の躍動感を源にしたような「ラン･ローラー･ラン」とはまた違った、魅惑の赤毛が今回は登場する。
長い赤毛が、誘惑の権化のように女性にからまる。その巻き毛は、彼女たちの血管のように見えてくる。

バンパイアの獲物のように透き通る白い肌。首もとにまとわる赤毛は、生きる証をそこに止めている。その色合いはホットだ。
グルヌイユは、髪の毛から丹念にオイルを絞りだす。最後の一滴まで精気を吸い尽くすかのような錯覚を起こさせている。
香を削がれたとき、彼女達は、白く横たわり、抜け殻は、クールだ。

香を愛する彼自身は、体臭を持っていない。
彼自身の中においては、存在がないのかも知れない。彼は、常に影の内側にいて、光の中には、出てこられないのだ。

求めるものを手にいれたとき。彼の周りには、光りが経ちこめる。しかし、そこには、彼は意味を見出せない。
孤独はあくまでも孤独で、本当に愛されることに恵まれない。

人になれない青年の悲しさが、青い抜け殻として残っている。ラストカットで光の下に消え行く、バンパイアの宿命のように。最後の一滴を残して。

　『におい』をビジュアルでどう表現するかと思っていた。しかし、ちゃんと画面の向こうに想像も絶する匂いが、ほのかに漂い、視覚で満足させてくれる。

香の国フランスの話をドイツ人監督が、英語で語らせる。実に、ヨーロッパ的な作品。

歴史の空気の重さに湿り気が加わり、ほどよい画面のぬめりが、時代背景の生活感を充分に漂わせ、異臭も目で見事に演出した。

私自身は、香水にはまったく興味がない。しかし、究極の香水ってどんな風に人を惑わせ、乱して行くのか知りたい気もする。コレこそがパフュームなのだろう。