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『神誤忍法帖』コミュの第二十四章

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呼吸するのさえままならぬ二人。その命はいつ尽きるともわからない状態であった。いや、尽きていたのかもしれない。尽きていてもおかしくは無かった。肉体の限界は既に越えている。失血量は互いに致死量をオーバー、筋肉や骨、内臓器官等の破損はあまりにも酷すぎて程度を確認することさえ無意味な作業といえるような状態であった。

二人が生きていると確認できること、それは「眼光」であった。互いを確認し、そして睨み、そして見つめ合う。それは極限状態においても仲間の存在、そして無事を確かめ合おうとする『孤異厨』の忍びの本能、そして『血』のようなモノであったのかもしれない。しかし二人の間にはもはや『忍び』や『血』という関係さえ意味をもたない、何人にも説明のできない繋がりのようなモノが出来上がっている。

言葉にはならない、言葉には出来ない、言葉にする必要もない、二人だけが分かち合える「何か」。

喀血が続く。辺り一面に血の匂いがただよう。死神を呼び込む匂い。小刻みに震える『神誤』が『西孤』を見る。そんな眼でみないでおくれ、私が悪かったよ、こんなになっちゃうなんて自業自得だね、でもお前には何の罪もないのにね、でもどうして抱いてくれなかった―

「だ、だ、ゴボッ、ゴブッ、抱けるか、か、よぉ!!」

『西孤』の意識を遮るが如く、『神誤』が声にならない渾身の叫び声を張り上げた。血が口から滴り落ちる。眼光の鋭さは変わらない、しかしそこには『神誤』が独りでいままで背負ってきた「忍び」そして「人」としての「哀」が漆黒の瞳に映し出されていた。

ああ、そうか、よかった、よかったよ、やっぱりお前は私は同じ気持ちだったんだね―血を流しながら『西孤』は心の中で『神誤』にこう語りかけた。

『卍』様にお前を抱けと命令された時、私はできないと言ったんだよ。そりゃあ、理由なんていくらでもあるさ、でもその一つ一つを説明していったって、それがお前を抱けない理由を完璧に裏付けるものになんかなりはしないんだよ。

変に男と女を意識していたくせに、いざとなったら抱けないなんておかしいよね。それも「忍び」の分際でさ。自分で自分の未熟さや弱さが情けなかった。でもそんな事はどうでもいい、私はお前の気持ちが1番知りたかったんだ。

―抱けるわけない―そうだよね、理由なんてどうでもいいんだ、抱けないよね、それでいいんだ。私だって「抱けない」から。抱きたいのかもしれない、でもね、「抱けない」んだ。ありがとうね、もうこれで充分だよ。お前に会えて本当によかったよ。

『神誤』が息絶え絶えに小刀を取り出した。「斬奴」である。『西孤』は血まみれの笑顔。既に右手に神経は通っていない。かろうじて自由の効く左手で同じく小刀を取り出した。「刹奴」であった。「斬奴」と「刹奴」。元は一刀の刃。『西孤』が持っていた刀工「天国」作といわれる小烏丸を『孤異厨』の里にいる刀鍛冶に頼んで二つにしてもらったものだ。その「斬奴」を『神誤』が生まれた時に強い男になるようにと『西孤』が渡したのである。

言葉にはならない、言葉には出来ない、言葉にする必要もない、二人だけが分かち合える「何か」。二人の手に握られた「斬奴」と「刹奴」。



黒い影が立っていた。地面にうずくまる『神誤』からは実像以上に巨大に見える影であった。『西孤』はまだその存在に気が付いていない。歩いてきた影が『西孤』の背中側に立ち止まる。その右手には全長1メートル近くある青龍偃月刀。三国志演義にて武将の関羽が愛用したと言われる大刀である。 そしてその右手から躊躇することもなく、青龍偃月刀が振り下ろされた。

『西孤』の首は青龍偃月刀を握った『卍』の足元に転がり落ちた。


第二十四章:終わり---

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