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行け!そのさきへ(バイク小説)コミュの【第2話】『オレはセカンドライダー(その4)』

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 (4)

 いかに『たかが試運転』とはいえ、しっかりした装備でテストコースを走らせなくてはいけない。完成間もないマシンの試運転だからこそ、実際何が起こるかわからないのだ。
 当然のことなので新之助にはレーシングスーツに着替えてもらっていた。
 ただの服の着替えとはわけが違う。バイク用の革つなぎは多少着替えに時間がかかる。欲を言ってしまえば着替えに誰かの手助けがあるといい。それくらい脱ぎ着に苦労するものなのだ、レーシングスーツと言うものは。だが、高校生で体もソコソコ柔らかい新之助は、幸いにもまだギリギリ自分ひとりでスーツの着用が出来る。
 そんなわけでひと足先に啓二と八木、それから七緒はテストコースのほうまで来ている。
 新之助のニューマシーンを引いているのは啓二だ。
 1周450メートルだった元のコースに近年S字ヘアピンのセクションが追加され、コース総走行距離は600メートルほどになった。
 レースの使用に対応できるほどのコース幅はないが、ミニバイクなら2台でバトルすることが出来るくらいの規模はある。事実、啓二や新之助たち海田レーシング所属のミニバイクレーサーたちはこのコースで実戦形式の練習することが多い。
 そんなところにもこのチームが入賞の常連でい続ける理由がある。

 ガッコガッコ……!

 工場のほうからブーツを鳴らし、ヘルメット片手に新之助がやってきた。

 「ぶっ!!」

 突然七緒が吹き出す。
 啓二と八木が驚いたように彼女を見た。新之助はそんなクラスメイトの顔を、やや憮然とした表情で見る。

 「なんだよ。」
 「バイクに跨ってるときはかっこいいけど、遠くからガニ股でヒョコヒョコ歩いて来ると、なんか間抜けだなぁ!」
 「おまえ、こないだもそんなコト言ってたな。」
 「あっれー? 言ってた? じゃあ心の底からそう思ってるってコトだわ。なんか先っぽがトゲトゲしてるマッチ棒みたいだ。」
 「………………。」

 からんからんと笑って見せる彼女。ソレを見て新之助はやや深いため息をついた。

 「まあいいや。おまえ、八木さんやカイにメーワクかけんなよ?」
 「はいはい。おとなしくしてっから。はよいけ。なおにカッコイイところ見してみし。」
 「ちぇ。テンション下がるなぁ、おい。」

 軽く悪態をつきながら、彼はヘルメットをズボッとかぶった。
 アゴ紐をしっかり締め、続いてグローブをはめる。

 「ソメ。」
 「あん?」

 そのさなかに、啓二が声をかけてきた。

 「どした?」
 「この車体…ちょっと重心高いぞ? 乗りはじめ気をつけろよ?」
 「高い?」
 「ほんの少し…なんていうかちょっと上が重い。…違うな。下が軽い? とにかくそんなかんじ。」
 「ふーん? ……ん。わかった。」

 実際はちょっとわからなかったが、啓二からマシンを受け取り、スッと跨る。
 跨ってからいつも通りにステップに足をかけようとして……

 こつっ!

 「お?」

 ブーツのつま先がステップに当たった。
 ステップの位置が…高い?

 「ちょっとステップ高いな。」
 「高い?」
 「ほんのちょっだけな。高い気がする。」

 やや不思議そうにその言葉を聞いていた啓二が、ふと八木のほうを見やる。すると彼は『さぁ?』というように肩をすくめた。

 カキッカキッ!

 クラッチを握り込み、3速にギアを入れる。
 そのままバタバタと足で地面を蹴ってマシンを前に進める。
 小走りくらいの速度になったときに、クラッチをスコンと繋げる。

 ボコッ! ガココココ…カンッ! カカカ…カコオォォン!!!

 車体がガタガタと振動し、タイヤが幾度か車体を止めようとするが、すぐにチャンバー出口から真っ白い煙を吐いてエンジンを始動させた。

 「?」

 驚いた。
 啓二と新之助がだ。

 「なんだこのエンジン音?」
 「チャンバー変わるとこんなに音も変わるんだ…。スクーターに近い音ですね。」
 「まーね。膨張室が後ろギリギリまであるから、こんな感じの音になるかな。」
 「ふーん?」

 よくわかったような…わからないような声を啓二は上げる。新之助にいたっては既に聞いてすらいない。今はとにかく、一秒でも早くコースに出たい。そんなかんじである。

 コースのほうに歩いていく一行。
 エンジン始動後間もない新之助のマシンは、組み付け時に使用したワセリンが燃え、普段以上に白煙を吹く。なので彼らの後ろをニュートラルのまま足をパタパタさせて付いていく。この時間を利用して暖機運転を済ませてしまえばいい。49ccの単気筒のエンジンだ。水冷とはいえあっという間にエンジンは温まる。

 「そいじゃあ。行ってらっしゃい。慣らし中ってコト忘れないようにね。」
 「あいよん。」

 テストコースのゲートわきに置かれた小屋に啓二と七緒。それから八木は入っていく。

 プィイイィィィィン……!

 そしてその横を、新之助のNSR−50が立ち上がっていった。
 アクセルをあけると、ひときわ大きく白い煙を立ち昇らせ、合流路上の停止線で止まる。コース上を走っているマシンをすべて把握してから……。

 カッパァァアアアアアン!!!! 

 新之助はコースに飛び出していった。

 「なんか…音を聴く限りだとマイクロクラスの車体じゃないみたいですよね。」
 「スクーターみたいだよね。なおのセピアみたいだ。」
 「あー。確かにあんなかんじの音だ。」

 七緒の言葉に啓二が笑った。

 「多分、マフラーそのものの音もそうだけど、キャブが静かって言うのもあるんじゃないかな。」
 「あ、キャブ変わってるんですか?」
 「キャブと言うよりは、エアクリーナーね。カーボンの遮音板取り付けたから結構静かになってる。」
 「へぇ!」

 慣らし中なので、エンジン回転数を上げられないとはいえ、それなりのペースでテストコースを駆け抜けていく新之助のNSR。

 「レース中、後ろに付かれても音がしないと気付かないんだよなぁ…。」
 「え? ミラーとかで見たりしないの?」
 「レースマシンにはミラーがないんだ。だから後ろ確認するには振り返らなきゃいけないんだけど、振り返るのって物凄く怖いんだよね。」
 「へぇー…。そーなんだぁ…。」

 そのため、たとえばヘアピンなどで後続との差を測ったりする以外は、相手のエンジン音などで接近を知るのだが……。
 何しろレース中は自分のマシンの音や風きり音でなかなか後方マシンの音は聞こえづらい。ただでさえそうだから、音が静かなマシンが後方から接近してきたら、なおさらそれに気付くのには苦労する。
 マシンスピードがそれほど高くなく、常にどこかしらで接近戦を余儀なくされる小排気量車のレースではこれはなかなか強力な武器になるはずだ。
 ニューマシンを与えられた新之助が、このあとどんな戦いを見せるのか。啓二自身、彼とどんなバトルを繰り広げるのか、正直今は想像がつかなかった。
 何しろ新之助はまだ、言ってしまえば『未完成』なのだ。
 今後、絶対伸びてくる。
 さらにはこまちとはやて。あの双子も下からドンドン伸びてきている。近い将来、秋川姉妹のどちらかが表彰台の一番高い所に立つ日が来るはずだ。

 「………………。」

 この先は、さらに苦戦を強いられることになるだろう。
 
 「あっ!」
 「!」

 そんな時、七緒が声を上げた。
 驚いて顔を上げる啓二。
 彼女が見る先。コース上の一番遠いところで、新之助が転倒していた。



■ つづく ■

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