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行け!そのさきへ(バイク小説)コミュの【第2話】『オレはセカンドライダー(その3)』

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 (3)

 東京都下最大の市町村である八王子市。
 その西部、八王子市廿里町(とどりまち)に海田ファクトリーの本社はある。
 元々は武蔵野市で営業していた海田サイクルがそのルーツである。
 現社長の父である先代社長、海田 啓壽がそこから独立し、八王子で廃業したゴルフ練習場を買い取って始めた海田モータースが、現在の海田ファクトリーの先祖にあたる。
東京都内にあって、1周数百メートルの小規模ながら敷地内に試乗用テストコースを持つという、当時では考えられないほどの規模のバイク屋だった。
 海田モータースが開店した昭和40年代。バイクはまだ一般的に認知されるに至らず、一般の人々からはまだ白い目で見られていた。
 それだからこそ、逆に八王子にバイクの大型店舗兼工場が出来たという噂は、関東在住のライダーに瞬く間に広がり、関東、特に東京と在住のライダーたちに絶大な支持を集めることとなる。
 昭和50年の中ごろからオートバイレースの車両に部品の供給を始め、60年代にはパーツの開発のために自社でレースに参戦するに至る。
 それから20年足らずで世界選手権の車両にパーツを供給するほどにまで成長した。
 平成5年に啓壽が亡くなると、その息子の啓太郎が23歳の若さで会社社長を引き継いだ。
 現在では原付スクーターから大型バイクまで。あらゆる排気量のバイクパーツを製造する一方で、現在では大型チェーンソーや農耕機、果てはライトプレーンと呼ばれる超小型乗用飛行機に搭載するための500ccクラスの自社エンジンまで作っている。
 八王子市廿里町。
 株式会社海田ファクトリー本社。 
 そこが海田 啓二の実家である。

 ゴバララララ……!!!

 なんかものすごい音を立てて、ただの骨組みにエンジンをくっつけただけというような珍妙なバイクが目の前を横切って、敷地奥の山の方へと走り去る。

 ギュルルルル……!

 入れ替わりにまた別の骨組みだけのバイクが戻ってきて、彼らの目の前を横切ると工場の中へと消えていく。

 「おい、どした?」
 「?」

 新之助が振り返って言うと、並んで歩いていた啓二も不思議そうに振り返った。
 するとそこには、呆気に取られて突っ立っている七緒の姿。

 「飯塚さん?」
 「……はっ! な、なんだこりゃ? けいたろんちってここなのか?」
 「え? あ、うん。そうだけど……。」

 目を瞬かせて彼は頷く。
 七緒は『はぇ〜。』などとため息を吐きつつも、茶髪と短いスカートとを揺らしながらパタパタと小走りでやってきた。

 「……けいたろの家って初めてだけど…家って言うより……。」
 「会社って感じでしょ。」

 七緒の言葉を受けて啓二は苦笑して見せた。
 初めて家にやってくる人は大体同じ感想を口にする。
 もちろん新之助もその一人だった。
 まあ当時小学生だった新之助と、高校生の七緒が同じ反応を見せるというのは、少々可笑しな感じはするのだが。

 「とりあえずガレージ行ってみようか。」
 「おうよ!」

 彼が促すと新之助が待ちきれないとばかりに走り始めた。
 鉄筋コンクリートの建物。
 4階建てのビルだ。1階と2階の半分が工場で残り半分が倉庫。3階が海田ファクトリーの本社で最上階の4階が海田家の居住区になっている。
 1階の工場から建物内に入った彼らは従業員に挨拶しながら奥へと進む。七緒はやや気おされるように、ふたりから遅れては小走りで追いつき、追いついてはまた遅れ…を繰り返していた。

 キンコーン……。

 大型エレベータで2階へ。
 扉が開くと、そこはまるでオフィスの一角といった雰囲気。
 床がコンクリートの打ちっぱなしであることを除けば、油臭くも無く、壁も白く、空調も効いている。
 およそ工場という雰囲気ではない。

 「ああ、お帰り。啓二くん。」 

 啓二を出迎えた若者。八木 周人監督だ。

 「ただいま八木さん。ソメのマシンが完成したって聞いたから連れて来たよ。」
 「うん、ありがとう。よう、新之助くん。やっとこ修理できたぞ〜。そして、隣の彼女は?」
 「へ? あ、あ〜と……。」
 「飯塚 七緒。オレらのクラスメイト。」
 「あ、は、はい! どうも、飯塚 七緒です。どうぞよ、よろしく。」
 「はぁ? おまえそんなキャラかぁ?」
 「う、うるさいな!」

 彼女の反応に新之助がツッコミを入れると、彼女は『ぷぅ』と膨れた。

 「あはは。海田ファクトリーの八木です。よろしく。」
 「3号に置いたまま?」
 「ああ、そうだね。あそこから動かしてない。外装も乾燥したからとりあえず組み付けたよ。行こうか。」

 …と、八木は工場の奥へと歩いていき、その先の扉を開けた。

 カララララララ……。

 軽合金のスライドドアが開くと、果たしてそこにNSRはいた。

 「お、おおお?」

 まず声を上げたのは新之助だった。

 「……え? 外装新品?」
 「そうだよ。前のカウルを補修するわけに行かなかったしね。ちょうど1セット、NSR−Miniのカウルが新品であまってたからね。それを使ったんだ。」
 「うっは、超ピカピカ。しかもハンドルもステップもなんかみんな違うし。」
 「バックステップは海田の市販パーツの試作品。公道向けだけどレースで使ってテストするって言う社長の意向でね。啓二くんのマシンとキミのマシンの両方に装着されてる。あとはチャンバーもマフラータイプの試作品。従来のパワーで音量は控えめ。かなり静かだね。ちょっとした自信作。」
 「ほえ〜。スゲェ…。まるっきり印象違う。」

 これまで初期型の外装から、NSFタイプの外装を採用している啓二のマシンに比べてどうしても古めかしく見えた新之助のマシンだったが、現行型の外装になったことで一気に最新機種っぽくなった。
 フレームやホイールまでもがパウダー塗装を施され、確かに海田ワークスカラーなのだが、印象はガラリと変わった。
 外観で最も変わったのは排気系だ。
 これまでのストレートチャンバー形状だったものから、マフラータイプへ。
 膨張室は確かに車体下部にあるのだが、そのまま上へと曲げられたパイプがリアカウルと平行になるように配置されたかなりの太さのサイレンサーに接続されている。この消音能力には期待できそうだ。
 リア周りのシルエットはずいぶんと変わった。パッと見では4ストのバイクに見えてしまうほどだ。

 「あとは細かなポジションの調整があるから、あとでスーツ着て跨ってもらうからね。」
 「………………。」
 「?」

 八木の言葉に反応がない。
 彼は新之助の顔を覗き込んだ。

 「新之助くん?」
 「えっ?」
 「聞いてねがったな〜? ポジションの調整するからあとで跨ってもらうよって言ったの。」
 「あ、うん。わかった。」

 名前を呼ばれてあわてたように反応する新之助。
 頷きはするが、彼の目は新しく生まれ変わった自分のマシーンから離れない。

 「………………。」

 それを見て、八木が啓二に視線を向けると、彼もまた八木の視線に気づき、やや苦笑して肩をすくめて見せた。



■ つづく ■

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