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行け!そのさきへ(バイク小説)コミュの【第2話】『オレはセカンドライダー(その2)』

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 (2)

 「明日ってお前、暇?」
 「土曜? 今のところヒマっちゃあヒマ」

 下校時。校舎を出たところで啓二が切り出した。リュックサックを肩から引っ掛け、新之助は振り返った。

 「どっか行こうっての?」
 「そろそろ教習所の下見に行こうかなって。」
 「あー…あーあー。そういえばそろそろだもんな。オレも考えなきゃいけないし、…行くか。」
 「よかった! ひとりでああいう所行くのって緊張するんだ。助かるよ。」

 苦笑する啓二。
 新之助としては意外だった。彼が一人で教習所の見学に行くのが緊張するとか、そういうことを言い出すとは。
 ちょっとその辺は新之助の理解の外にある。
 もっとも彼は特に『そんなこと』を気にするタイプの人間ではないのだ。

 「で? 教習所はもう決めてんの?」
 「現状では飛鳥かなって。」
 「飛鳥? ドコさ。」
 「16号と中央道の立体交差あるじゃん? あの近所。」
 「あー。高速の下にあるなぁ、そういえば。坂あがって左に入ったトコだろ?」
 「そそ。」

 確かに、そこなら遠くはない。
 もっとも、近いといえるほども近くはないのだが、そこ以上に近い教習所がどこかにあるかと問われれば、彼の頭にはすぐに思い浮かばない。
 だいたい日頃、教習所のクルマはよく見かけるが、それがどの教習所のクルマで、どこから来ているのか。つまり教習所がどこにあるのかまでは気にして見ていない。
 これからバイクの免許を取りに行こうと考えている彼ではあるが、クルマの免許を取得できるのはまだ2年も先。いまひとつピンと来ないので教習所のクルマを気にしてなんか見ていない。三角形のプラ表示板に数字が書いてあるのを見て『ああ、教習車だ。』くらいにしか思っていないのだ。
 そんな彼だから当然ながら教習所の所在にいちいち詳しくなんてない。
 新之助とも家が近い啓二が教習所を選んだのだから、彼も彼なりにしっかり探して選んだのだろう。少なくとも今現在の新之助よりは情報量は豊かなはずだ。
 その結果、いろいろ条件が合って一番近かったのが飛鳥自動車教習所だった…ということだ。いまさら新之助があれやこれやと口を挟む必要はまったくないのだ。おそらく。

 「教習所かぁ…。いくらくらいかかるんだろうな。」
 「どれくらいだろうな。20万くらいじゃないかな。」
 「うわ! けっこうかかるな。オレちょっとたんねーかもだ。」
 「…とは言っても実は俺もよくわかんない。わからないから調べにいくってかんじ。」

 啓二はカランカランと笑った。
 それもそうか。
 当然、啓二だって教習所に通ったことなんか無いわけだから料金がいくらかかるかなどと言う事を知るはずもない。

 「けど教習所かぁ…。もうサーキットでバンバン走ってるからなんかすごく『いまさら感』が……」
 「あ、ちょいまち。電話だ。」

 新之助の言葉をさえぎり、啓二がポケットからJポップの着メロを垂れ流す携帯電話を取り出す。

 「はい、もしもし? ああ、父さん。」

 電話を耳にあて小声で話し始める。電話の相手は啓二の父、啓太郎のようだった。
 しばらく立ち止まってそれを見ていた新之助。しかし電話をしながら啓二が歩き出したので彼もそれに並んで歩を進めた。

 「………………。」

 9月が来てからは毎日が過ぎるのが早い。
 日に日に涼しくなっていくのがわかる。ついこの間までの刺すような…痛みを伴うほどの日差しは既にない。
 まだそれなりに暑くとも、しかしもう秋の日差しだ。
 学校から駅に向かう道。彼ら以外にも多くの生徒たちが歩くいつもの通学の道。
 当たり前だが見知った顔もある。
 
 「そんなわけで。」
 「お?」

 いつの間にか電話を終えていた啓二が新之助に声をかけた。

 「ソメは帰りにウチによるように。」
 「あ?」
 「マシンがほぼ修理完了。ポジションの微調整するらしい。」
 「お? マジ?」

 前のレースの大転倒で派手に壊れた新之助のNSR50。
 それが修理を終えたらしい。それは何を置いても見に行かなくてはならない。

 「やったぜ、行く行く!」
 「ドコに?」
 「あ?」
 「お?」

 そんなときだった。
 突然背後から声がかかったのは。
 女子の声だ。
 ふたりして同時に振り返る。すると果たして声の主はそこにいた。
 
 「わあっ!?」
 「よっ。」
 「飯塚さん。」

 いつの間に忍び寄っていたのか。
 カバンを背中に引っ掛け、茶髪の女子生徒が立っていた。
 クラスメイトである。名前は飯塚 七緒。
 その鮮やかな茶髪が原因で、コトあるごとに教師に小言を言われる。それが気に食わないとかで、成績で学年トップを取り教師を黙らせた。多少の素行の問題も、いい成績を取ってさえいれば関係ない。それが彼女の持論だ。
 しかしその一方で、彼女の風体から絡んできた同級生やあろうことか上級生までボコボコにする始末。腕っ節の強さはそこらの男子生徒の比ではない。聞いた話では空手・剣道あわせて5段のスーパー女子高生なんだとか。
 この学校の教諭陣にとって、目下最大の頭痛の種は間違いなく彼女だ。
 まあそれでも、中学の頃は酒のタバコのと、ずいぶんとやんちゃしてきたようだが、高校に入ってからは多少方向転換したらしい。しかしそれでもどっちみち浮いた雰囲気の付きまとう生徒なのである。彼女は。

 「『オレんち寄ってかなーい?』とか、いいねぇ。青春だねぇ。」
 「あー、そーだね。青春だね。ほれ、行こうぜ。カイ。」
 「あ、オイ。なんだそのいい加減なあしらい方は。もーちょい面白い反応期待してんだガッカリさせんな。」

 新之助が適当に受け流すと、七緒は少しムッとして新之助の後ろ襟をつまんで引っ張った。

 「なっ、うわー。はーなーせー!」

 新之助の反応を見てけらけらと笑う七緒。
 こんな彼女が、何ゆえ新之助たちに興味を示したのかはよくわからない。彼らがバイクレースに参戦しているというのを知っており、本当にたまにだが観戦にもやってくる。自分のバイクで。
 どうやら相当なバイクキチである。彼女も。
 プライベートでは輸出仕様を更にフルパワー化したバカっ速いRGVガンマを乗り回し、学校には教師に煙たがられながらもフルチューンのアドレスエンジンを搭載したセピアV100で現れる。
 その辺の事情から、新之助や啓二に『同族の予感』を感じたのかもしれない。

 「飯塚さんは今日はバイクじゃないんだね。」
 「あ? あー。うん。おとといコンビニ帰りにコケてな? 燃えろセピア号はただいま入院中。」
 「なんで原チャでコケてそんなピンピンしてんだよ、おまえはよ。」
 「あれだ。なおには神様がついてんだな。きっと。」
 「不良の神様か。」
 「そそ。茶髪の神様。」

 『あっはっはっ!』…と、彼女は笑い、新之助のツンツン頭をぐりんぐりんと撫で回した。

 「そんなわけで徒歩で下校。なんか面白いネタを探してんだけど、提供してくれん?」
 「そんなもんあるわけねぇだろが。頭はなせ!」

 ガックンガックン首をやりつつ新之助がわめく。

 「さっきマシーンがどうのこうの言ってたじゃんさ。今から見に行くわけ? けいたろ。」
 「えっ? ああ、うん。そんなところ。」
 「そめたろがコかして壊したんだものな。ああ、何だよそめたろもレースマシンでコケてピンピンしてるじゃんか。原チャでコケてなおにどうこう言える立場か? おおん?」
 「う……。」

 バツの悪そうな声を出して、新之助は黙り込んでしまった。
 それを見て『ニィ』と笑う七緒。

 「よっし。なおもそめたろが壊したバイクを見に行くさー。けいたろんちでいいんだよな?」
 「え? あ、うん。ウチの工場にあるはず。」
 「よっし。そうと決まったらレッツゴー。」
 「えっ? あっ……。」
 「あだだだだっ!! 首! 抜けっから!!」

 新之助の頭をヘッドロックして引きずるように彼女は歩き始める。
 一瞬目をしばたたかせて、啓二もそれに続いた。


■ つづく ■

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