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行け!そのさきへ(バイク小説)コミュの【第1話】『とあるチームの憂鬱(その15)』

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(15)

「っかしいなぁ…。どこ行っちゃったかなぁそめちゃん……。」

表彰式と記念撮影も終わり、はやてはさっさとパドックをあとにしていた。
レースが終わってすぐにレーシングスーツを脱ぎ、普段着に着替えた彼女。
とにかくこの夏の日差しだ。暑さからは早いところ開放されたかったのだ、彼女は。
そして最初に向かったのは海田レーシングのパドックだった。
表彰式の前に一度、こまちと一緒に彼を訪ねて行ったのだが、歯切れの悪い返事しか返って来ず、なんだか早々に追い返されたような形になった。
しかしやっぱり新之助が心配だったのだ。再び彼を探して行ったがそこに新之助の姿はなく、ただ壊れた彼のNSR−50が置かれているだけだった。
一応海田のキャンピングカーを覗いてみたが、彼の姿はなかった。

「大丈夫なんかなぁ…ふらふら歩いて行方不明になるくらいだから、怪我とかたいしたことないのかなぁ……」

ブツブツ言いながら、サーキット施設を歩き回るうちに、彼女は駐車場のほうまで来てしまっていた。

「んー。まぁさすがにこんな方までは来る理由ないよねぇ、そめちゃん。」

…とは言いつつ、駐車場のほうをクルリと見回す。

「およ?」

ふと、目が止まった。
彼女からはワンボックスカーの陰になっているその向こう。
少し離れたところに黒いヒラヒラしたスカートが見え隠れしている。

『わぉ! 小夜さん発見?』

パッと表情を輝かせ、そちらのほうに小走りで行ってみる。
ややすると車の陰になっていた小夜の姿がはっきりと見えるようになり……。

「はへ?」

そして彼女は目を疑った。

パタタタッ!

あわてて針路変更し、そのワンボックスカーの陰に隠れる。

「……え? ……えっ?」

今、目にしたものが彼女の理解を超える物だった。
一度深呼吸してから、そっと首を車の陰から出し、もう一度そちらを伺う。

「………………。」

小夜がいた。
後姿だから顔までは見えない。しかしあの髪型と色。メイド服はそれが小夜であることを決定付けている。
そしてその彼女と一緒に…新之助はいた。
いまだ海田ブルーのレーシングスーツを着たままの彼が小夜の前に立っていて……。
背伸びをした彼女の手が新之助の顔に添えられていて、そのふたりの顔が……。
……ええと…あれはつまり……?

『……えええっ!?』

バッ!!

あわててはやては再び車の陰に隠れた。

『き、キス!? 今!?』

軽くパニック状態に陥るはやて。
これはとんでもない現場に居合わせてしまったのかもしれない。
だけどはやてがいるところからふたりがいる場所は少し離れている。20メートルほどか。
見間違いと言うことも……。

「………………。」

そーっ…と。
みたびそちらを伺ってみる。

「!」

ちょうどそのタイミングで、小夜が新之助を抱き寄せた。
彼の髪に指を這わせ、彼の頭を自分の胸に押し付けるように抱きしめる。

「!!」

一気にはやての頬…耳か? …が熱くなった。
頭の中が外へと抜くら無用な錯覚。耳の奥では耳鳴りもする。
もう見てらんない。またまた車の陰に隠れると、もうそのままふたりに気付かれないように全力疾走を開始した。

『うわーーっ! うわあーーーっ!! どーしよう!!』

ただ一心不乱に走る。
もうわけがわからなかった。
レースに来るときにしかふたりには会えないが、確かにその時に限っても小夜と新之助は仲が良い。
それにしたってふたりの仲がそこまで行っているなんて思いもしなかった。

『うわーーん! そめちゃん、やっぱり小夜さんと付き合ってたんだぁ〜っ!!』

もうただただ全力疾走。駐車場を横切り、パドックを駆け抜け……。
どれくらい走ったか。

「あっ!?」
「お?」

目の前に啓二がいた。
前傾姿勢で全力疾走。まったく前を見ていなかったのだ、はやては。
視線を上げてみればそこにいきなり啓二。
この時点で既に回避不可能な状況にふたりはあった。

がんっ!!

「びぼっ!?」
「ごはっ!!」

何とか避けようとしたはやてだったが、結局中途半端に避けた彼女は肩で啓二のわき腹にタックルを食らわせる形になっていた。

「うわぁっ!」

どさっ!

体格差もあり、たまらず地面に尻餅をつくはやて。

「……っててて…。は、はやてちゃん?」

転倒は免れた啓二がたった今、自分に突っ込んできたのが誰だったのかを確かめて、声をかけてきた。

「大丈夫か?」
「か、カイくん……。」

それを見上げるはやて。

「あっ! うんうん! 大丈夫!」

あたふたと彼女は立ち上がる。

「カイくんこそ、大丈夫?」
「うん、俺のほうはなんとも。どうした? はやてちゃん。すごい全力疾走だったな。」
「え? あ、ああ、ちょっとべつになんでもそれほどでも!」
「?」

日本語が崩壊しつつある彼女を前に、彼は首をかしげる。

「どっか行ってた? あのあと取材とかあったけど、はやてちゃんいなくなっちゃったからみんなで探したんだけど。」
「え? ああ、ち、ちょっと……。あ、あはははは……。」
「?」

ますます彼は不思議そうな顔をする。
そこに、秋川姉妹の姉のほうが通りかかった。

「………………?」
「あ、こまちちゃん。」
「え? あ、こまち。」

少し離れたところで立ち止まり、ふたりを見る。
啓二がそれに気が付いて手を振ると、無言で手を振り返してくる。
たった今着替えてきたのだろうか。その黒髪こそ汗で湿ってはいたが、彼女もまた普段着のワンピース姿になっていた。

「………………。」

そして彼女はそのまま、一言も発することなく、再び歩を進めてふたりの前を通過する。
彼女が歩くたびに、肩まであるつややかな黒髪がやや重そうに揺れる。
彼女は秋川 こまち。はやての双子の姉だ。
『サーキットの大和撫子』なんて呼ばれる和美人である。彼女は。
その雰囲気と言い佇まいと言い、およそバイクレースで表彰台に立つほどのライダーとはとても思えない。

「………………。」
「………………。」

そんな彼女を啓二とはやては共に目で追う。
その行く先には、ジュースの自販機があった。そこまで行くと、こまちはふたりを振り返り、くいっくいっ…と手招きする。

「?」
「ああ、なんか飲もうってさ。」
「えっ?」

はやてがそう言って啓二の腕を引く。

「あ、いや、俺サイフ取ってこないと……。」
「いいのいいの。どーせうちのパパが出したんだろうし。」
「いや、それって良くなくないか?」
「気にしたら負けだよ。ボクがいいって言ったらいいの。だから行こう。」

などと笑い、彼女は啓二を引っ張ってこまちの待つ自販機の前へと歩いて行った。

「………………?」

そのはやての手が少しだけ震えていたのを、腕を掴まれた啓二は敏感に感じ取っていた。

■ つづく ■

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