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アフターパーティーコミュの35

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35

クリス達に何とか抑え込まれたとはいえ、一触即発の状態が落ち着くまで、裕に2時間はかかった。ミエは私とユウコを彼女の部屋へ誘導し、動物的な浩二と男性陣をリビングに残したまま、その間は男女別に別れて過ごした。ただ、浩二と離れたからといってすぐには私の恐怖は治まらず、意識化してきた無意識の恐怖と後悔とが過呼吸を引き起こした。

なんであんなことになってしまったんだろう。なんて、そんなのボンしたからに決まっている。でもまさか本当にボンで錯乱するなんて。カミでもシャブでもなく、ボンだけで。それに対してはこれまでずっと半信半疑だった。ボンでそんなことになるはずがないと。だが、今は確実に実感できる。そうだ、そう言えば一度体の中に回路を作ってしまうと、次はほんのちょっとの刺激でその回路が開いてしまうと根本が言っていたではないか。あんな気持ちの悪い上から目線の医者の言うことなんて、机上の論理だとまともに信じていなかった。どうしてあいつの話をもっと真摯に受け止めておかなかったのだろう。私が面倒を見るなんて言いながら、どうしてもっと浩二に対して責任を持てなかったのだろう。ふ、責任なんて、なんて重たい言葉。結婚もしていないのに。でもまさかこんなことになるなんて思いもしなかった。大体なんで浩二は吸ってしまったんだ。無理そうならやめてねって言っておいたのに。自分の体のことは、自分が一番分かっているはずなのに。そうじゃない?違うの?あの時、ノブがジョイントならいいんじゃないと言った時、それもダメだって私が止めてやるべきだったのか。私もジョイントなら別に問題ないと思いはしなかったか。それ以前に、私も浩二と一緒にボンを我慢するべきだったのか。ここへ来たことがまず第一の間違いだったのか。いいや、今更それを後悔しても後の祭りということは分かっている。おかげで本当に痛い目を見た。それにしても、あの回路とは何だ?回路が開いた先には何があるのか?バッドに堕ちるのか?神に出会うのか?さっき見た浩二の姿、あれが精神が崩壊した姿なのか。それとも脳が壊れたのか。そもそも精神と脳の関係とは何なんだ?別物なのか?イコールなのか?分からない。「繊細な人」とよく言うけれど、それは神経のことを差すのか、はたまた脳なのか。分からない。心は脳から生み出されるのか?嫌だ。こんなこと考えたくない。心?脳?一体どうなっているんだ、この頭の中は。私は頑丈なのか?脆いのか?

とにかくひたすらバッドに堕ちる、辛い2時間を過ごした。ドキドキと鼓膜の内側に激しく響く動悸が息苦しくて、何度も深呼吸した。吸っても吸っても満たされず、常に空気が足りない気がして、ただそうして何度も深呼吸する度に、心臓を叩く動悸の響きとスピードは増していく。まずい。過呼吸だ。頭で理解しても、どうやって抜け出せるのかが分からない。皮膚の神経が鈍り、指や手を摩ったり揉んだりして感度を確かめる。ダメだ。つねるくらいに力を入れても全然痛みを感じない。まるで重ね着したフリースの上から触られているような感覚だし、つねっている指のほうも同様だ。繰り返す生あくびの涙が瞼に溜まる。息苦しい。息が出来ない。こんなに一生懸命呼吸をしているのに全く肺に酸素が入っている気がしない。座ってみたり寝転がったり色々と姿勢を変えた。三半規管が故障したのか、姿勢を変える度に平衡感覚を失いそうになる。背中をさすって介抱してくれたミエとユウコにまで、私の悶々とした悪影響が届くような気がして罪悪感に苛まれる。こんな自分を見られたくない、そういう羞恥心も目覚める。ただそれでも、何も言わずにずっと傍についていてくれた彼女達のおかげで、少しづつ自分を取り戻すことが出来たのは間違いない。頭や背中を触ってもらえると、それだけで気持ちがいくらか落ち着いた。人の手には、ただ体温があるだけではなく、優しさとか思いやりといった目に映らない、しかし神々しい光のような温かさがあることを少しづつ実感した。そうして過呼吸と長い長い思考のトンネルにもようやく出口が見えてきて、ボンによるバッドな飛びから徐々に解放されつつあるのを感じた。

「浩二は?」
時間の感覚が狂っていて、ものすごく久し振りに声を出したような気がする。喉の奥はかすかすに乾いていて、案の定掠れた声はいつもより低い。私は本当に喉が弱い。すぐに声が出なくなってしまう。
「繭ちゃん、もう大丈夫?」
話が出来るまで戻ったのを確認しに、ミエが私の顔を覗き込む。同時にユウコがペットボトルの水を手渡してくれた。
「ごめんね。もう大丈夫。ほんと、ごめん。」
乾きすぎた喉を水で潤すと、ごくんごくんと一飲みごとに大きな音がし、食道に冷たいものが通って落ちるのを感じる。そう、この感覚。さっきから必死に感じようとして感じられなかった体の感覚。冷たいとか温かいとか痛いとか、ようやくそういう感覚を取り戻せて嬉しい。
「ううん。うちらは全然大丈夫だよ。気にしないで。それよりさっきはマジ驚いたよ。」
「ごめん。私も驚いた。まさかボンであんなことになるなんて。」
「ねえ、浩二だいぶ悪かったの?あんなに暴れるなんてさあ。」
「実は私も半信半疑だったの。医者とか家族とかには色々言われたけど、今まで別に普通だったから。」
「ふうん、そうなんだ。でも、ちょっとあれは行き過ぎだね。」
「うん。私もそう思う。」
「でもそろそろもう抜けてるんじゃない?向こうも静かだし。」
「そっかな。だといいんだけど。あのままじゃ私、やばいよ。」
「どうする?あっち行ってみる?私達も向こうの様子は全然分からないんだ。」
「そうだね。行ってみる。っていうか、もし大丈夫そうだったら家に連れて帰ろうかな。戻れば医者からもらった薬があるし、それ飲ませれば少しマシになると思う。」
「繭ちゃんも大変だね。これあげるよ。少しだけど。」
ミエが小さなビニールに包まれた飴玉のようなものをくれた。よく見るとチャラスの欠片だった。私はそれを無造作にポケットにしまい、それから3人でミエの部屋を出た。

部屋を出たものの一旦浩二との対面に怖じ気づき、廊下でもらい煙草をして、いくらか気持ちを安定させることが出来るようになり、そうしてようやくリビングへ戻る決意をした。あの状態がしばらく続いたのなら、交代で浩二を押さえ込んでいた男性陣は、もうへとへとに違いない。私は恐る恐るリビングのドアを開けた。薄暗いリビングに、テレビの光がチラついている。映し出されているのは、海外のトランスパーティーの映像だ。私が蹴倒した物やこぼしたジュースは綺麗に片付けられ、修羅場の名残は見当たらない。私は開いたドアをコンコンと軽く拳でノックした。ドアに背を向ける形で静かにテレビを見ていた男性陣が振り返る。
「お、繭ちゃん。どう?もう大丈夫?」
まず声をかけてきたのはクリスだった。テレビの画面を見つめたままの浩二は、私のほうを見ようともしない。
「ごめん。もう大丈夫だと思う。」
あれからの浩二の様子を聞きたかったが、本人を目の前にしてその質問をするのは気が引ける。浩二はどう?と、彼の後姿を指差してクリスに目で尋ねると、ただうんうんうんと数回頷いたので、まずまずじゃないかなといった返答だと受け取る。みんなの視線が注がれているが、誰もが余計な口を慎んでいるので何だか気まずいムードが漂う。今日はもう潮時だ。私は、体育座りのように立てた膝を抱え込むようにして、部屋の端のほうで小さくなっている浩二の傍へ寄って行った。
「浩二?」
彼がテレビ画面から私の方へ、顔を上げた。
「大丈夫?」
言葉はなく、黙って頷く。歯を食い縛っていたせいか、さっきより頬がこけたような気がする。
「もう帰ろうか?」
今度も同じだ。私の問い掛けに、ただ黙って頷いている。
「ごめんね、みんな。なんか無茶苦茶にしてしまって。今日はもう帰るね。また連絡する。本当にごめんなさい。」
私は浩二を立たせ、腕を組んでクリスの家を後にした。

高円寺はまだまだ人通りが多く、ぶっ飛んだ名残の自分を世間の人々から見透かされているような被害妄想に囚われそうになる。私はこれ以上他人の目に晒されることに耐えられそうになかったので、駅前のロータリーでクレジットカード払いが可能なタクシーをつかまえて帰路についた。車窓に流れる東京の街並みを見ながら、家に着いたらまず浩二に薬を飲まさないとと、それだけを考えていた。安定剤と眠剤を飲ませて少し眠れば、きっとすぐに良くなるだろう。ただタクシーの中でも、浩二はまるで言葉を失ってしまったかのように黙って外を見つめ、一言も発することはなかった。

コメント(4)

は、は、はやく次!!(笑)
読みながらすんごい力入っちゃって、指つりそうでした◎
まさにさっき、読み返したところだったから、新作アップに超あがったー!
こ、こわ
そんな回路いらなーい

おもしろかった
ねー、イタ電マニアさんウッシッシ

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