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アフターパーティーコミュの28

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28

「ごめんね、繭子。こんなことに付き合わせちゃって。退院したらすぐあっちに戻ろうな。」
自分がどれほどの信頼を失墜したのか一番分かっていない浩二は、電話の向こうで軽々しくそう口にした。今回の出来事に対し、どれだけ家族が心を痛め悩んでいるかを彼は知らない。きっと彼の前では気丈に振舞う芳江の様子からは、それを伺い知ることは出来ないんだろう。彼とも彼の家族とも直接連絡を取り合っている板ばさみの私とすれば、このお互いの激しい温度差を感じずにはいられない。一方は彼を手に負えない狂人かと疑い嘆き、片や本人は周りの大袈裟な行動の被害者にでもなったような態度だ。
「どうかな。そう簡単にはいかないと思うよ。家族のみんなは絶対すぐには出してくれないと思う。」
「そう?俺ってそんなに信用されてない?ちゃんと説明してもダメかなぁ。」
「ダメダメ。だったらそんな所に入れられたりしないでしょ。一度アタマおかしくなったって思われたんだよ。すぐに信用はしてくれないよ、普通。それにボンのこともあるし。検査結果でなんか引っ掛かっちゃったら、それこそ暫くは自由にさせてもらえないと思うよ。」
「そうだよねぇ。あーもう。」
今となっては後悔先に立たずというやつだ。あとは何とか今後の対策を練るほかない。
「ねえ、病院に入れられる前に、なんかボン以外のものもやってた?」
「うーん、パーティー行ったらバツとかカミとか摂ってたけど、あの時はどうだったんだろう?本当にさ、全然記憶がないみたいなんだ。」
では何が出るかはその時までのお楽しみという訳だ。ただ、これだけの事態を引き起こしたんだから、ボンだけということはないだろう。LSDとかマジックマッシュルームのような幻覚系薬物が作用していたに違いない。
「あのさぁ、少し考えたんだけど、浩二が退院した後暫くは実家に住ませて様子見るってお母さんが言ってたし、私も一緒に住まわせてもらうってのはどうかな?今まで結構家族の人達と話してきたから、私のことは信頼してくれていると思うんだよね。だから私が一緒に住んで、一緒なら大丈夫っていう所をみんなに見せるの。そうしたら早く一緒に東京へ戻させてくれるかもよ。」
「マジで?それいい!俺も繭子が一緒にいてくれるほうが心強いし。いや、やっぱり正直、出てから家族とサシでいるのはしんどいなぁと思ってたんだ。繭子にも一緒に住んでもらうって俺から母ちゃんに言ってみるよ。」
「うん。ただし期限をつけよう。私もそう長くはいられないと思うし、1ヶ月をメドにしようと思う。」

彼の家族に監視されたような私達二人の生活は、そこそこうまく行っていた。退院当日の夜は、有坂家の全員が集まって食卓を囲んだ。いつもより早く仕事を終えた浩二の父と姉、芳江、それから浩二と私。ここ最近で起きた劇的な変化に対し、それぞれの思いが交差するぎこちない空気の中、芳江の作った和食の料理が1品1品しっかりと人数分小皿に盛り付けられテーブルに置かれる。大皿でどんと出された料理を各自で取り分ける私の育った家での食事とは勝手が違い、厳格さと品の良さがある。私を客人として扱うがためにこのような形で食卓を用意してくれたのなら申し訳ないと思い後から浩二に尋ねたら、これが有坂家の日常なんだそうだ。
「繭子さんはビールは飲めますか?」
浩二の父が尋ねたので、私はいいただきますと明るく応えた。少しでも早く打ち解けるには、遠慮しすぎないほうがいい。お酒の力もお互いの緊張を解きほぐす薬になってくれるだろう。
「すいません。浩二のためにこんなにして頂いて。繭子さんには本当にお世話になります。」
浩二の父は、芳江同様柔和な雰囲気の男性だ。
「いえ、いいんです。私も好きでやってますから。かえって押しかけてしまってすみません。」
「お恥ずかしい話、浩二は下の子で甘やかして育ててしまったのかもしれません。まさか東京で麻薬なんかに手を染めていたとは。」
父は深い溜息をついた。
「うん、でもまあ、やってしまったものはしょうがないと言うか。しょうがないと言う言い方には語弊がありますが事実ですから、今は今後のことを考えていくしかありません。当然ですが二度とこのようなことがないように、私達家族一丸となって彼の更正のサポートをしていくつもりです。これから彼には色々と辛い時期があるかもしれませんが、きっと乗り越えさせます。」
父の口調は柔らかかったが、手元のビールグラスから視線を外さすに話すその言葉からは強い決意のようなものが感じられた。ただそれは、今後浩二を待ち受けている薬物依存の禁断症状に対するようなものに感じられた。もしもそうだとしたら大麻に中毒性などないのに、と私は思ったが、もちろん何も言わなかった。薬物に対する知識をひけらかすようなことは、墓穴掘り以外のなにものでもない。浩二も黙って父の話を聞いていたが、苛ついているのが分かった。
「それで、繭子さんには酷だと思うけど、今度のことでまだまだ通院も必要ですし、浩二には当分の間こっちで暮らしてもらうことに決めました。」
しばらく俯いた姿勢で止まっていた父が顔を上げ、はっきりと私の目を見てそう言った。
「ふざけるな。何ひとのこと勝手に決めてんだよ。」
浩二が噛み付き、父親を睨みつける。
「あんた、当たり前でしょ?どんだけのことしたと思ってんの?あんたのしたことで、どれだけお父さんとお母さんを傷付けたか分かってないの?よくそんな態度がとれるよね。まずごめんなさいじゃないのかよ。」
すかさず浩二の姉がぴしゃりと釘を打った。その正論に浩二はただ黙って周囲に飛び交う会話を受け入れるほか手段はない。両親には反抗的な態度を取れるが、姉には絶対的にかなわないという様子だ。芳江は相変わらず物静かなな態度で、家族のいざこざを全て受け入れていた。浩二に腰を折られた話を父が続ける。
「これ以上繭子さんにご迷惑をおかけする訳にはいかないので、浩二とのお付き合いはここまでにするということであっても、こちらとしては致し方ないと思っています。もし、」
「いえ。そのつもりはありません。」
遠まわしに別れを切り出そうとする父の言葉を、私は即座に否定した。
「ただ私にも今後のことがありますし、来月には職場復帰を予定していますので、そう長くはこちらにお邪魔するつもりはありません。それと、これはご理解頂きたいのですが、彼には東京に仕事があり、出来るだけ早く戻りたいと思っています。それでもしもみなさんの了承が頂けるなら、私は彼と一緒に東京に戻りたいと思っています。その後の彼の更生のサポートは私が支えていきます。もちろん、まず彼の体調や精神状態が良いという上でのことなのは分かっています。これから先、彼とは長く一緒にやっていきたいと思っておりますので、それなりのサポートは私のほうでもしていきたいと、ただそう思っています。」
私の意志は明確だった。強い覚悟も伝わったと思う。
「そうですか。そのように言って頂いて恐縮です。」
また暫く考えこんだように俯いていた浩二の父が、グラスのビールを飲み干した。

その後の会話は、つかの間の和気藹々とした家族団欒だった。みんな私をまるでお嫁さんのように迎え入れ、浩二の幼少時代の話などを順番に聞かせた。ただ逆を言えば、みんなが浩二と薬物の関係性について言いたいことを言えず聞きたいことも聞けず、それについては腫れ物に触れるようななんとなくぎくしゃくとしたものだった。しかし、私という家族以外の者がいることで、その場の雰囲気をかえって良いものにしていたのは間違いない。浩二の姉だけが時々きつい言葉で弟をたしなめたが、父親も母親も薬物依存からの脱却と信頼回復への励ましの言葉をかけるだけで、決して叱ったりはしなかった。家庭に戻った浩二は末っ子で育った故の甘えが見え隠れし、私はこれまで付き合ってきた過程で感じた彼の甘さの正体を知ったような気がした。
また、私は密かに、大麻と覚醒剤などを同格にする彼の家族の言葉に対して憤りを感じつつ、大麻が錯乱の直接原因になったという点に、ひとり不信感を募らせていた。大麻は自然界の物だし、煙草より害がないと聞いたことがある。他の科学化合物と比べて体への影響は少ないはずだ。それなのに何故。彼の家族の口から「麻薬」という言葉が使われる度に、私は自分の秘密に爪を立てられているような気がしていた。

コメント(3)

ありがとう!ファンの皆様!
(自意識過剰にもほどがあるって?)

続きの用意も進んでますので、次はサクっと近々UP予定です。

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