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アフターパーティーコミュの17

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17

「有坂さん、こちらへどうぞ。」
間もなく、先程とは別の若い看護婦が私達を呼んだ。
奥は診察室。狭い部屋の壁際に置いてあるデスクに向かい、何か書き物をしている先生の後ろ姿がある。看護婦に勧められた椅子に腰かけると、タイミングを見計らったかのようにくるっと椅子が回転して先生が顔をこちらを向けた。銀縁の眼鏡をかけた、中年の男性だ。
「どうも。有坂浩二君のお母さんと、・・・こちらは婚約者の方だったかな?」
「はい、そうです。」
どうやら、芳江と先生の間で私のことは大まか伝わっているらしい。
「では今日は、彼女にもちゃんと説明しないといけませんね。初めまして。有坂君の担当をしております根本です。宜しく。」
第一印象、嫌な奴。彼の口調と目付きがふてぶてしく傲慢で、自分の主義主張は完璧という上から目線、そしてそれにそぐわない者には陰湿な嫌味を言うタイプのような気がした。
「えーっと、聞きたくないような話もあるとは思いますが、ここはひとつ気を落ち着けて私の話を聞いて下さい。」
そう言うと、根本は浩二の現状をゆっくりと話し始めた。

「えー、まず、入院当時、彼がどういった状況にあったかと言いますと、まあその辺はお母さんから聞いているかもしれないが、非常に興奮状態にあった。これは、脳に大量のドーパミンが分泌されていたからなんだけども、ドーパミンが増えすぎると幻覚や幻聴などの症状が出たり、強迫観念に取り付かれたりと精神的に悪影響があるわけなんです。で、何故大量のドーパミンが分泌されたかと言うことなんですけども、まず、先天的に脳に障害を持っているケース、例えば癲癇などの発作持ちだとか。でも彼の場合、そのようなことはないとお母さんから伺っています。一応こちらでも脳波や心電図などの検査をしましたが、どこにも異常は見つかりませんでした。過度のストレスなどからこういった症状が出る人もいますが、彼の場合は過去に錯乱したような経歴もないようですので、えーそうなるとですね、最も疑わしい原因は何かしらの外的要因、要するに薬物からの影響なんですね。」
根本は、表情を余り変えずに口先だけでゆっくりと話した。眼鏡の向こうからじとっと送られる視線は、「薬物」という言葉に私がどう反応するか窺っているような気がした。
「退院の目処はついているのですか?」
「はい、それでですね、二度とこのようなことがないように原因をはっきりさせる必要がある訳です。これはご家族の方と相談して決めたことなんですけども、それが分かってから退院、ということで。先程も言いましたように、脳波などの検査では異常はなく今は薬物反応の検査中で、これは結果が出るのに約1ヶ月かかります。」
「1ヶ月もですか。」
随分と時間がかかる。予想以上の時間の長さに、私は思わず口にしてしまった。
「そう、一言に薬物と言っても種類は色々ありますから。錯乱の原因が薬物であるなら、それをやらなければいいわけですから答えは簡単です。ただやはりどんなものでも依存してしまっていると、そう簡単な話ではなくなる。それを断ち切るには本人の努力はもちろんですが、周りの人々のサポートが大変重要なのですね。そのためには、何の薬物が関係しているのかを突き止める必要があるわけです。」
そう言って、根本はA4サイズの1枚の紙を手渡してきた。見るとそこには、覚醒剤をはじめ、大麻、トルエン、ヒロポン、LSD、MDMA、DMT、コカイン、ヘロイン、阿片など知っている限りの全ての薬物と、あとは、メチルフェニデートとかフェニルメチルアミノプロパンとか難しいカタカナがズラズラと羅列していた。絶句ものだ。これは、終わったな、という気がした。正直私も原因はほぼ100%薬物だと思っている。何が出てくるかは分からないが、覚悟を決めなければならない。私はその紙を根本に返した。
「興奮することというのは誰にでもあることですので、脳にドーパミンが増えるというのは普通にあることですが、大抵の場合、それを自ら鎮める治癒力が働きます。まあ一番の方法は寝ることなんですけども。知ってます?人って寝ないだけで幻覚幻聴の症状が出るんですよ。それくらい”寝る”というのは、脳を休めるという上で、非常に大切なことなんです。でも、例えば極度のストレスや緊張、あとは薬物摂取などね、そういったキッカケで眠れなくなる。脳は休めずに興奮状態になり、そうすると更に不眠になる。悪循環が積もり積もって非常に危険な状態になるわけです。有坂君も、恐らく不眠の時期が続いていたと思います。入院当時のドーパミンの量は、もう自分では手に負えない数値でしたのでね。要するにこう、振り切っちゃった状態です。」
根本はペンを手に持ったまま、秤が数値を振り切ったジェスチャーをした。
「まぁ普通だったら、こんなことはない訳なんだね。それで、これから面会して頂くにあたり、覚えていて欲しいことなんですけども、今、彼には脳の興奮を鎮めるために非常に強い薬を使っています。睡眠薬の一種なんだけども、この薬のせいで、本人はだいぶいつもよりぼーっとした感じになっていると思います。集中力が欠けた感じですが、興奮した脳を意識的に休めてあげている訳です。とりあえず、まず一旦元に戻してあげないといけないのでね。」
「普通に話しとかは出来るんですか?」
「そうですね。その後、状態は非常に安定しているので話は出来ますよ。ただ、同じことを繰り返し話したり、というようなことがあるかもしれません。他に何か質問はありますか?なければ彼をここに呼びましょう。」

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