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SF小説『SAMPLE』を読んでみるコミュのSAMPLE -41-

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「先生もまだ帰ってなかったの?明日は朝早いのに」
「今日は徹夜かも知れないんだよ。あと少しのところまで、例の発作の調査が進んでるからね」
 ゆっくりと研究室の中に入ってきた未来に、普段と変わったところはない。彼女は紙屑と飲食物の空パック、分厚い専門書で散らかり放題の室内をぐるっと見渡していた。
「ここ何日かは帰れてないみたいだけど、私なら大丈夫だから。先生、今日は早く休みなよ」
「でも、まだ発作を治すところまで調査が進んでないんだぞ。大丈夫なんかじゃないだろ」
「そんなことない。私のことで無理はしないでよ」
 無精髭が目立つ杉田の顔を見る未来の声のトーンが落ちたが、穏やかな印象をもたらす調子だ。
「前にも言ったと思うけど、いつもベストの状態で戦えるって思ってないから。これから先戦地に行くときなんかは、多分どこか故障してても戦わなきゃならないでしょう?今のうちに慣れておきたいし」
 無意識のうちに小首を傾けた未来の長い髪が、さらりと揺れて白い顔にかかる。明るい茶色の髪を指で梳きながら部屋を一回りした彼女は、ブラインドがかかった窓の側で足を止めた。そのまま閉め切ったブラインドの隙間を指で開き、外の夜景に視線を流す。
 確かに、未来の言うことには一理あった。今回P2を倒し、後に軍事プロジェクトに本格投入されることになれば、治療や修理が間に合わなくても戦わねばならない場合もあるだろう。
 しかし、だからと言って今やれることをやらない訳にはいかなかった。
 杉田は頷いて、未来の側に寄った。
「わかったよ、時間を決めて仕事するから。今夜は遅くても日付が変わるまでには片付けて、宿直室で寝るよ。だから未来も、今日はもう帰って休むといい」
「うん」
 こくりと頷いた未来は、まだ窓の外を眺めたままだ。
「でも、分析は本当にあと一歩のところまで来てるんだ。明日はここに残る助手に引き継いで、もし結果が判明したら、すぐに連絡をくれるよう頼んでおくよ。トレーラーにもプログラム修正と転送ができる設備はあるし、その場で対応もできるからね」
「……うん」
 杉田が未来を安心させるために言ったことも聞いているのかどうか怪しく、目立った反応はない。未来は心ここにあらずの状態らしく、黒い瞳は外の夜景ではなくもっと遠くをぼんやりと見つめているかのようだった。
「その様子じゃ、疲れてるんだろう?もう戻って休んでおけよ。明日一番大変なのは、未来なんだから」
 そこでやっと未来はブラインドから指を離して、杉田へ顔を向けた。
「私も今日はここに泊まるよ。宿直室は男女別だし、申請もちゃんと出してあるから」
「え……自分の部屋に帰らなくていいのか?」
「うん。今日はみんなと一緒にいたいから。これが最後になるかも知れないんだし」
 そこで、未来の声がややうわずった。言葉を止めた彼女は、十数センチは上にある杉田の目を見上げてくる。何か言いたげなその黒い瞳から、若い医師は逃げるように視線を逸らした。
「そんな、縁起でもないこと言うなよ」
 彼はなおも見つめてくる未来をわざと振り切るように、身体ごと横を向いた。
 未来の眼を正面から見つめたら、今の言葉を肯定することになるようで怖かったのだ。
 自分たちが一緒に過ごすのは、これが最後になるかも知れない。
 本当のことだった。
 明日の戦いに万全の体勢で臨む準備はほぼ整っているが、勝利と生存が約束された戦いではない。まして敵であるP2は、恐らく今の地球上で最強の相手に当たる。未来は死を賭して戦う強い意志を持たねばならなかった。
 未来はまだ23歳の女の子だ。普通の女性として生きていたなら、こんな悲壮な覚悟を抱かなくて済んだ筈なのだ。
 罪の意識に重い胸の痛みを覚え、思わず踏み出しかけていた杉田の足が止まる。
 その背中に、未来の細い身体がそっとぶつかった。
「未来?」
「何も言わないで」
 驚いて振り向こうとした杉田の胸へ、未来が白い腕を伸ばした。
 白衣に包まれた背中に顔を埋めるように、未来は頬を寄せる。晩秋の空気で少し冷えた肌に、服を通した温もりが心地よかった。
「少しの間だけでいいの。少しだけ、このままでいさせて」
 低く呟いた未来の声は寂しげで甘えたようでありながら、どこか拗ねた感じだ。背中から杉田に抱きついてきた小さな身体が震えているのが、はっきりと感じられる。
 未来は怖いのだ。
 明日、生命が絶たれてしまうかも知れない。
 そんな時間を待っている今、恐怖を感じない者などいない。
 少なくとも、生きている人間であれば。
 杉田の胸に、愛おしさがこみ上げた。
 が、しがみついてくる彼女に何をどう言えばいいのかわからなかった。
 安っぽい励ましや慰めの言葉など、却って傷つけてしまうだけだろう。
 ふと、疑問が心に湧き上がってくる。
 こんなに怯えている未来に、本当に大月を殺す可能性などあるのだろうか。
 このほっそりとした娘に他殺衝動があるなど認めたくないし、信じたくもない。
 様々に渦巻く思念は杉田の身体を縛り、動きを奪っていた。
 しかし、未来が愛に飢えていることはわかっている。P2の襲撃があった夜のように、結局何も言葉をかけられないままでいることは決してしたくなかった。
「未来、僕は……」
「だめだよ、何も言わないで。こうやって先生のこと、ただ感じていたいから」
 たしなめるような未来の言葉に込められた強い思いに従った杉田は、彼女の腕にそっと手を重ねた。そのまま少し冷えた手を自分の顔に導き、やや髭が伸びた顎に触れさせる。
「必ず僕たちのところに帰っておいで」
「……うん」
 低く呟いた未来の指先が、ゆっくりと杉田の頬を撫でる。
「絶対だぞ。約束したからな」
「頑張るよ」
 杉田は振り向かなかったが、未来が穏やかな笑顔を浮かべていることはわかった。
 二人の互いを思いやる気持ちは、決戦前夜にしてようやく通い合ったのであった。

 夢は見なかったようだった。
 眠っていたのがあまり長い時間ではなかった割に、目覚めたばかりの頭ははっきりとしている。眠りのサイクルで、浅い睡眠の時に丁度目が覚めたのだろう。
 小さな室内灯だけが頼りなげに照らす暗い宿直室の硬いベッドで、毛布と布団をどけ半身を起き上がらせる。壁にある電波時計のデジタル表示は、暗視フィルターを通した瞳に午前6時前であることを示していた。
 眼をこすりつつサイドテーブルの上にあるスタンドの明かりをつけ、未来は裸の爪先を床につけた。ひんやりとした硬質の感触に、今日という一日が現実であることを嫌でも認識させられる。
 彼女は就寝用に借りていた館内着を脱ぎ捨て、専用の肌着、スパッツ、ソックスを身につけた。次に、傍らの椅子に畳んで置いてあった分厚い、黒い服を取り上げる。
 ぴったりと身体に沿うつくりのそれは、パワードスーツ専用のアンダースーツだ。見た目はダイビング用のウエットスーツに近いが、これには金属を織り込んで特殊加工が施されており、防御力と耐火性が格段に引き上げられている。また布の構造自体が数重になっており、水密、気密でもあるため、着用者をあらゆる刺激から守ってくれるのだ。
 しかしその分重く、同じ素材のブーツとグローブを合わせると、10キロ以上の重量がある。将来的には人間用にも改良が期待できる材料だが、今はサイボーグにしか使用できないものだった。
 未来はグローブを除いたアンダーを着用してから天井の明かりをつけ、備え付けの洗面所で洗顔を済ませた。
「……余計なことは考えないようにしなきゃ」
 歯を磨いて長い髪をまとめた後、自分の顔を見つめる。不安に揺れる影が、瞳の中に見え隠れしているのがわかった。
 大丈夫だ。
 今日の戦いは一人ぼっちじゃない。
 お前には、頼もしい仲間がいる。
 勝ち残ることだけを考えろ。
 心の中で反芻して眼を閉じ、顔を伏せて深呼吸を繰り返す。
 再び未来が眼を開けて鏡の中の自分と向き合った時、生き残ること、勝つことだけに貪欲になった戦士の顔がそこにあった。
 力強く頷いてから小さなナイロンのセカンドバッグとグローブをひっつかみ、未来は宿直室を後にした。宿直室を出てすぐは短い廊下に面しており、もう夜が明けている外の様子が大きな窓の外に見える。空の色は明るく、低い植え込みの緑の色がくっきりと映えている。
 今朝は少し冷え込んでいて肌寒そうだが、密閉式のパワードスーツを着て戦うには丁度いい。未来は体感温度を汗が出ない適温に調整しつつ、窓の側を足早に通り過ぎた。
 体感温度の調整は、体内の発電装置、電池と並んで便利な機能だ。このお陰で戦闘時も暑さ寒さに影響されることはないし、ちょっとした温度差であればエアコン要らずだった。
 また、食事で摂るエネルギーの余剰分は体内電池に蓄積できるため、いくら食べても太ることがない。スタイルをいつも気にしている後輩の翔子が聞いたら羨ましがるだろうが、実は未来の体重は70キロあるのだ。
 改造前は48キロ前後で今も体型だけは変わらずとも、移植された様々なパーツの重量が加わって重くなっている。これはどうやっても落とせないだけに、女心として複雑なものがあった。
 そんな未来が歩きながら口にした朝食は、アルミパック入りのゼリー飲料だ。試供品としてケルビムから大量に支給されているもので、味は万人受けするヨーグルト風味である。緊張から食欲は殆どなかったが、胃が空っぽだと気分が悪くなることがある。しかし戦闘で内臓に受けるダメージを想定すると、あまり食べないほうがいい。そういった場合は、このようなゼリー飲料は有り難かった。
 廊下からAWP棟一階のだだっ広い玄関ホールに出たが、流石に早朝の今は誰もいない。カフェテリアのシャッターも固く閉ざされ、二階天井までの吹き抜けの空気は、朝の喧噪が始まる前の楚々とした明るさに、そっと身をゆだねている。大きく静かな空間には、未来の大理石の床を打つ足音だけが響いていた。
 彼女はホールの隅にあるゴミ箱に飲み終えたゼリー飲料のパックを捨て、エレベーターに乗り込んだ。すぐさま地下二階のボタンを押し、作戦に使うトレーラーがあるガレージへと急ぐ。
「今日積み込む消耗品はこれで全部?」
「よし、最終チェックはこれで完了。意外と早く終われましたね」
「見ろ、他は殆どもう片付け始めてるじゃねえか。俺たちが最後にならないように気張れよ」
「弾丸の数が違う?そんなはずないですよ。もう一度……」
 降下中のエレベーターで聴覚の感度を上げると、ガレージで仕上げの作業に当たっている職員たちの喧噪が飛び込んできた。交代しつつ、一晩中作業を続けてトレーラーを整備してくれたのだろう。会話は、聞き取れたものの殆どが作業完了の内容だった。今日の戦いのためにこれだけ尽力してくれている皆のためにも、無事に帰って来てお礼の一つでもせねばなるまい。
 部署ごとに、菓子折りの一つでも差し入れよう。
 地下二階に着いたエレベーターから降りた未来の考えはとりとめがない。そのお陰か、戦闘を前にした重苦しさは胸中になかった。
 地下ガレージの入口付近に黒いアンダースーツの未来が現れたとき、その姿を目にした職員たちの動きと会話が止まって一瞬の沈黙が生まれた。
「おはようございます、未来。具合はどうですか?」
「至って普通だよ。リューこそ、徹夜明けじゃないの?」
「昨日は日付が変わる前に寝て、30分くらい前にここへ来たんですよ。睡眠不足は、この世で私が一番苦手な敵の一つですから」
 リューと未来の普段通りの会話が始まると、他の職員たちもまた自分の作業へと戻っていく。リューは色が落ちたデニムの上にグレーの分厚い作業用ジャケットを着込んでおり、ところどころに新しいオイルのしみがつけられていた。
「杉田先生と生沢先生は?」
「もう少し遅いと思います。医療機器や消耗品の積み込みはもう終わってますしね」
 リューの作業用の革グローブをつけた手が、腰のバッグによく使い込んだ工具を放り込む。
「私も武器の最終チェックが終わったところです。もうすぐ助っ人が二人来ますから、未来は先にトレーラーに入ってて下さい」
「え、私には紹介してくれないの?」
「彼らは私の元部下で、部外者なんです。貴女とは直接接触しないほうが無難ですよ。通信で紹介します」
 リューの元部下ということは、国防軍の人間なのだろう。未来の素顔は、軍関係者とは言え部外者に晒さないに越したことはない。納得した彼女は頷いた。
「わかったよ。一人じゃ退屈だから、誰か来たらトレーラーに来てもらえるようにしてね」
「中には助手が待機してますから、すぐにスーツを着るようにしてください」
 トレーラーに向かいかけていた未来は、リューが後ろから投げかけた言葉に手を挙げて応えた。
 作戦に使う大型トレーラーは、ガレージの屋内入口を出て左に数メートルの場所に停めてあった。公道を走る中では最大の積載量を誇る大型車で、コンテナ部分はは目立たない白だ。通常の出入りは、コンテナ後部二箇所に設けられた出入り口のうち、洗浄室を通らない狭いほうになる。
 出入り口に取りつけられたスロープを上がり、レバーのノブを引いてドアを開けると、その先は簡易待機所になっている。細長くてスペースとしては狭いが壁面には備え付けの椅子があり、ここを通って奥の処置室に行くことができるのだ。その椅子に座っていた男女二人の若い助手が、未来が入室すると緊張した面持ちで立ち上がり、頭を下げてきた。
「おはようございます。スーツの状態はどうですか?」
 見慣れたグレーの作業着姿の二人に、未来が微笑みかける。
「整備は完全に終わってます。アサルトライフルと機関砲の手入れも大丈夫ですけど、念のために後で確認してみてください」
 女性のほうの助手が壁に固定された二丁の巨大な銃と、床に置かれたコンテナに入った鈍く光るパワードスーツとを交互に指し示す。コンテナの蓋は既に開いていて、男性の助手が重そうにヘルメットや胸部、太股部分用といった大きなパーツを取り出していた。ばらばらに置かれているところを見ると、まるで中世の騎士が着る鎧のようだ。
「じゃあ、準備ができてから見ておくことにしますね。着るの、手伝ってもらえますか?」
 未来が手に持っていたグローブをはめながら装備品を見やる。彼女が数キロはあるだろう、衝撃を受けると瞬時に硬化する特殊金属の臑当てをひょいと持ち上げた。それを合図に、二人の助手が頷いてスーツを着せにかかる。
 パワードスーツを着用するには、まずアンダーを全て身につけてからペン型の小さな装置を使い、各部位の継ぎ目を一時的に特殊加工させて密封する。その上に基本となる特殊金属の装甲を纏っていき、通電を確認しながら更に厚い装甲を装着するのだ。この助手たちはいつもパワードスーツの装着を手伝ってくれているので手つきは慣れたものだが、それでも30分近くはかかる。
 装甲には機械が内蔵されているものも多く、動力は電気である。電源は着用者の体内電源ユニットから直接取り込むため、電力が枯渇する可能性は限りなく0に近い。
 三人は金属パーツの表面に走る無数のケーブルやパイプ、歪な形をした装甲部分を確認しながら、黙々と装着作業を続けていく。未来の耳には、パーツに電力が供給される度に低い駆動音が上がるのが届いていた。聞き慣れて親しんでいる音に、緊張した精神が幾らかほぐれた気がするが、この段階ではまだスーツ全体に通電していない。そのため筋力補助機能の効きが悪く、80キロのスーツがまだ重く感じられた。
「あ、リューさんですか?」
 最後の大物である胸の装甲を装着している時、男性の助手が右耳に挿したレシーバーの通信に応答した。
「はい、問題なく終わりそうです……わかりました、伝えときます」
「私はここで待ってろって?」
 多少聴力の感度を上げてあった未来には、通信の内容が聞こえていた。
「はい。特殊通信のテストも、念のためにもう一度するそうなので。スーツを着たら、通信のスイッチを入れておいてくださいってことです」
 再び装着作業に戻った助手が、額に浮いた汗を拭う。彼は胸の装甲の通電を一通り確認すると、背中部分の装着にやや手こずっている女性の手助けに回った。ほどなく、駆動補助用の最後の細い電源ケーブルがうまく接続される金属音が上がった。同時に最後のパーツから装甲の表面に走っていた全てのケーブル、パイプ類が表面を走っている深い溝に引っ込み、一瞬のうちに塞がれた。
「全ての装甲での通電を確認しました。ランプはオールグリーン、異常ありません。吸気フィルターの換気状態も良好です」
「ありがとうございます。あとは自分で駆動確認できますから」
 リモコン状の装甲確認専用スキャニング端末を片手に、きびきびとした口調で女性が報告してくる。それに応えた笑顔の未来は既に顎まで青いチタンの装甲に覆われ、顔から下はロボットの如きいでたちとなっていた。
「出発までは俺たちが待機してますから、何かあったら呼んでください」
「頑張ってくださいね」
 相変わらず緊張した調子で言ってから未来に頭を下げ、二人の助手はトレーラーの外へ通じるドアの外へ出ていった。
『未来、聞こえますか?』
 彼らの後ろ姿を見送ってから左耳のピアスを捻ると、早速と言わんばかりにリューの声が飛び込んできた。
「感度良好。スーツも異常ないよ。あとはもう、マスクとヘルメットをつければ出られるから」
『通信状態はいいみたいですね。ついでなので、今日の作戦の助っ人を紹介しておきますよ。戦闘中に未来と直接話すことはありませんけど、司令の補助をしてくれますから』
 と、レシーバーを渡したらしい数秒の間をおいて、低く落ち着いた男性の声が聞こえてきた。
『榎本です』
「……よろしくお願いします」
 再び数秒間空けて、今度は未来よりも若そうな男の声が届いてきた。
『大橋と申します。よろしくお願いします』
「はい、よろしく」
 機密上の問題があるため、印象に残らない言葉を選び適当に返しておく。彼らと直接話すのはこの挨拶が最初で最後だろう。
『他は社内エンジニア二人がもう来てますが、生沢先生と杉田先生ももう来ます。メンバーが揃い次第出発しますから、それまでそこのテレビでも見てて下さい』
「作戦内容のおさらいでもしてるから、いいよ」
 リューが言う通り、待機所の壁には丁度いい位置に小型のモニタが仕込まれているが、彼の緊張感のなさには呆れるところだ。
『あんまり気張ってても、うまくいきませんよ。何なら、私の持ってる映画でも見てますか?』
 リューはいつも、お気に入りの作品を携帯動画プレイヤーに入れて持ち歩いている。しかし彼の趣味を考えたら、必要な緊張感までもが削がれること受け合いだった。
「映画ったって、全部アニメか特撮なんでしょ?いいって、ニュースでも見てるから」
 苦笑しつつ、未来はセカンドバッグから携帯電話を取り出し、リモコンにモードを変えて小さなプラズマテレビの電源を入れた。
 映し出されたニュースでは、上品なピンクのニット姿の女性アナウンサーが、これから千代田区で行われる危険物処理作業について原稿を読み上げていた。

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