秀真伝（ホツマツタエ）コミュのホツマツタヱとは如何なるものか

この小笠原長武氏・遺稿は大正三年七月三十日（１９１４年）に書かれたもので松本先生が宇和島の小笠原家より預かったものを昭和４２年発行の同人誌「ほつま」限定版０８号に発表されたものです。すでに9０年以上経っていますので皇室観や中国についても支那と表現されていますがそのままとしました。現代人にとっては非常に読みにくく感じますが「ほつま」を研究されるならば是非読んでみて下さい。　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『すざなる』

●完全無欠に伝えた世界無比の宝典
本紀は天地人の三部に大別して各部八巻を有して全て二十四巻、全四十章より成立たる稀世の神典であるが、全部完全に伝来されて少しの欠損無きは大いに賀すべきことである。天の部、地の部は神話を記したもの、即ち伊弉諾尊、天照大神その他諸神が談り（かたり）玉ひしもの、又は或神が講じ玉ひて之を記したのが大部分である。此の編者は櫛甕玉命（くしみかたま）であって、鵜茅葺不合尊（うがやふきあえず）の勅命に依って出来たものである。

この時神武天皇御即位前三、四十年前である。人の部は大直根子命（おおたたねこ）が神武天皇より日代宮（十一代景行天皇の御代）の時まで歴史的に編成し玉ひしものである。
この神典は、実に神代よりこの時代までの出来事を記載したるは云うまでもなく、顕著なる事物の発端が多数あるので、上代の諸疑問に解決を与えること多くすこぶる明快である。宛も（あたかも）東天旭日を見るが如く、神代の真相が益々鮮明に光輝を発するのである。要するに、本紀は我国日本民族の発達史であって且つ大教訓を有し人生に大幸福を与ふる完全無欠、世界無比の宝典である。

●天地開闢の記録で又人類発達史である
世界の各地には古伝説があってその中にはやや真に近きものがあろう。然れども多くは架空的のもので、教えの基礎となり、人類の幸福発達を指導するに足るものがない。
然るに、我国には古事記、日本紀があって天地開闢説がある。特に本紀には明瞭に詳細に記してある。それのみではない、人生、化成の神理がある。すなわち神役に依って霊魂の賦与、身体の結構及び成長を遂げるまでも保護し玉ふのである。しかして年老い命尽きこの世を終わるものは、又神役に依って元に還りその処を得るのである。
これは皆、世の始め天祖の神より定まった大原則である。けだし霊魂がことごとく元に帰る訳ではない。人々の行為の善悪に依って千種万様なるも今ここに記す遑（いとま）がない。然るに欧米には霊魂は何処より来りて何処に行くやと云う問題を生じたが、これを解決するものがない。これは甚だ尤もであるが、神の正伝に依って知るの外に人の解決する問題ではないのである。
太古は原始時代と称し、人類は蒙昧無智であったとは学者の一致した説である。しかれども、本紀によれば、天地開けて後、天御中主神（あめのみなかぬし）は地球の八方面に万子（よろずのみこ）を生みて、これに衣食を与え、保護し玉ふた。この万子を蒼生（あおひとくさ）と名づけたのである。しかして天御祖神（あめのみおやかみ国常立尊）は御子八神を生みて、地球八洲島の各地方へ降ろして蒼生の君主と為し、その民を治め玉ふた。これが親子君民の発端である。
それより二世三世を経て君臣民と成り立ち、農工商と別れたことは、八洲島の各地とも同一の経歴である。しかして、数百万歳の中には、人類の発達したことは驚くの外はない。後世人の夢想にも及ばぬものがある。神代に於いては、人智の深さは神明に通じ、体格の偉大にして強壮寿命の長きことは、今世人の疑いの種である。故に、人生の幸福は最上点に達すること数百万歳の久しきに及んだ。すでに神代に於いても、天照大神の後は体格も寿命も、漸々（ぜんぜん）衰え特に人皇の御代となりては、大なる差異を生じ、総て退化縮小したことは最も顕著である。
かくの如く退化して劣等になったのはおおいに原因がある。されど、或る種のものは還元することが出来ないとしても或る種のものは是非とも還元し復活せねばならぬと思ふ。特に精神上の退化は甚だ云い憎いことではあるが、人性が獣性に変じたものが多いのは甚だ嘆かわしきことではあるまいか。

●絶対無上の神教があって救世の宝力を有す
本伝紀は、天祖国常立尊より伝来の神道によって、天照大神の極盛時代を生じ、この大神を中心として博学高徳の文臣、武勇万人と力量を等う（ひとしく）する武臣、温厚純忠なる諸臣、勤勉正直なる国民あって、君は臣民を子の如く孫の如く愛撫し玉へば、諸臣は君命を受けて万臣の豊穣と平和を祈り、明教を布き人生を全うした。故に、万民は皆、善政の恵沢を蒙りて初穂を奉りその恩恵の万一を報じ大御代の万歳を謡ふた。
然れども長年月の間には、種々事変災害等が起こったけれども、諸臣の威徳に依って甚しきに至らず治まったのである。これに依って大神等は猶ほ（なお）後世を鑑み玉ひて、最も有難き貴重の教をたてて遺し玉ひしは、君臣民の子孫の為である。かかる遺訓がある為に、万世一系」を主として特殊の国体は成立したものである。神代及び上世にあっても、神道盛んなれば国治まり民豊かであるが、これに反した時は国が穏やかでないのであった。
道衰え神教を守らず、人心が腐敗する時は、自然種々の災害等が生ずるものである。これ等の実例はすでに神代に於いて大神等の説き玉ふたことである。近世でもこの理（ことわり）あるは争うことが出来ない。然れどもこれ等の神理は、後世人の思想では容易に理解することが出来ない。ただ、疑ふのみに過ぎないことと思うのである。
しかし災害や道義の壊敗等は人生の幸福でなく常態でもない。故に憂国者は大いに焦慮して種々の方策を講ずるも、根本的最善の解決を得られないのはその原因の深淵なるを知らず唯、姑息の小細工を施すに過ぎないからである。
本伝紀は多く現幽両界に連亘する（わたる？）遺訓があって絶大の霊威を有するから人生に絶大なる幸福を与ふることは、他の何物にも及ぶ所ではない。故に人心を正しゅうし世を救うには無上の効力があると確信するのである。　

●貴重の遺訓があって不可思議の実効を顕す
本紀には、医術、薬物を用いずして不治難病を全治せしむる方法がある。これは、「はらひ、まじない」であるが、これを或る患者に行えば、その効あるものはたちまち種々の動作を起こして、奇異の状態を顕すものである。しかして漸次全快するものである。かくの如きは霊妙不可思議と云わねばならぬ。又、天災その他人力の及ばない或る災害も神事に依ってたちまち免れることが出来る。かく有効顕著の妙術は、本紀に伝わりて居るのみであって世界何所にも、この正伝の遺訓はないのである。日本紀には唯、大已貴命と少彦名命が禁厭（まじない)を行ふて大効を立て人畜に恵沢を施し玉ふたことが残っているのみである。これを見ても、神代には有効なる方法があったことが明らかになるのである。
一転して外国を見よ、太古には何国にも我国と同様に、古伝説、妙術等もあって或る時代までは伝わったであろうが、幾百万歳と云う長年月の間には天災事変等のために多くは破壊荒廃に帰して総て伝来の事物を滅亡したものと云はねばならぬ。我国にても既に多く固有の古伝を失ふたのを見ても明らかである。故に外国には古伝の妙法があると云ふことを聞かない。催眠術には類似の所もあれど、大いにその根本の性質が違うのである。我遺法は催眠術よりも遙かに有益で大いなる奇跡的の効顕を顕すことが多くある。特に病者によって自己の意識を失いこれに変わって他人若しくは死者の意識となり幽界の状況と神明の威霊とを確認することが出来るのである。
要するに、生前に悪業を為したものは、死後相当の神罰あることが分明になるのである。故に死してもその罪を免れることの出来ない大法則を明確に知りうるのである。これ等は治療の外に得る所のもので、実に有効無比の教戒となるものである。故に広く世に用い普く行う時は、種々の病患者を救い災害を除く中には、副生的に現幽の両界に連亘する大法則を現し、深刻なる教戒即ち勧善懲悪の活劇を実見することを得るのである。
されば、この遺法は種々の宗教的教戒にも勝るのでこれを実験すれば何人（なんびと）にても神の存在や霊魂の不滅を認定することが出来る。故に神の存在と霊魂の不滅を証明するにはこの上もない妙法と云はねばならぬ。かくの如く本紀は貴重の遺法があって不可思議の実効を顕すのである。

●神代文字と国語にて記した物で後世人の偽作ではない
古事記日本書紀は、我国貴重の宝典ではあるが、外来の漢字漢語と少しの国語を挿入して記述したものなれども、本紀は総て固有の神代文字（おしで）にて古代の国語を以って、五言七言の句法にて記載したものである。他国の文字と文章に」依り記したものとその性質が異なるのである。本紀はあたかも長歌の如き一体をなしてある。しかしてすこぶる巧妙を極めたもので容易に説明することさへ出来ない。要するに、雄大、細微、優美等の記事も遺憾なく云ひ顕してある。然れども誇大架空の記述又は閑文字なく唯誠意に正直に直筆正記したものと見ゆるは実に敬服である。
本居大人（もとおりうし）は、日本紀よりは古事記の方を尊ばれたのは、古事記には国語を以て記載した所があるからである。かく国語は貴重なる主要分子でありとすれば、本紀は全部が国語から成り立ったもので、大いに尊いのであらねばならぬ。
平田大人（うしは尊敬語）は、我国には固有の文字が無いことはあるまい、必ず有るに相違ないとの希望を抱き、大いに探穿せられた所が、その結果「神字日文伝」（かなひぶみつたえ）を著わし文字ありしことを発表せられたが、その中に記してある神字がある。これが「おしで」
と云う神字である。（ただし平田篤胤は「神字日文伝」の附録の「疑字篇」という処に「おしで」をあげているので「ほつまつたゑ」を信じてはいなかった）

平田大人は、唯字体のみを発見せられたけれども、この字を以て記した古書は更に発見せられなかったのは、すこぶる遺憾であった。今、仮に本居、平田大人等が本紀を一見せられたとすれば、如何に歓びを起こし誠意を表わして大いに深く研究せられたことであろう。然るに今日では本居平田の如き篤学者に乏しく二大大人の系統とも目する学者が、本紀の説（断片的の見本）が古事記日本書紀と異なるが為に、固有の書ではあるまい、後世人の偽作したものであろうと唯疑念を起こし、能くも研究をもせず、軽々しく妄断するものがある。これ等は古事記日本書紀が絶対無上のものと確信の弊であろう。その他種々のことに囚われた為であろう。然るに、本紀は如何に文章が巧妙の人でも、後世人の偽作し得るものではない。仮に如何なる人が偽作することが出来るかと云へば、先づ歌人でなければならぬ。然らば、古来、万葉集及び古今集等の歌人に乏しくないが、長歌を自由自在に詠む人はすこぶる貧弱である。しかして試みに本紀中の長歌と万葉集の長歌とを比較対照する時は、万葉集の方が乱雑で、大いに劣っていることが明らかに発見し得らるるのである。故にかかる歌人では偽作どころか長編の長歌もよくは出来まいと思ふ。

本紀中に、天両神の天地歌（イザナギイザナミ両神の四十八音の「あわの歌」のこと）、天照大神、春日神、金折命（かなさき）、日留子命（ひるこ）、天孫瓊々杵尊その他諸神の長歌短歌がある。しかもその調べの高潔なるその意味の深遠なるその徳量の広大なる等は万葉集又は古今集中の歌に比較することが出来ない。
本紀中の神歌は或る神事に用ゆれば奇効を現はすことがある。かかる神歌は絶対に偽作が出来るものではない。不思議の神効を顕すのは真実の神典であると云はねばならぬ。即ち本紀には神霊が宿りたる確証である。これが言説以外の有力なる神書であって神の保証とも云ふことができる。故にこの保証は如何に疑ふても論争しても少しも云ひ消すことの出来るものではない。実に貴重の神字と古代の言語とを以て記述されたものでこれぞ絶世の神品であると信じて疑いはないのである。

●古事記、日本紀を敷衍（ふえん・言い換えて詳しく説明）補足して編成し得るものでない
古事記、日本紀を基礎として本紀を作るのが容易であるか、又は本紀を原料として古事記、日本紀を著わすのが容易であるかと云へば、先づ結論から述べれば、前者は容易でないが、後者は容易である。例するに前者は一の写真を本として拙劣なる文人画に模写したものの如く、後者は写真であるから全く真相に違ひはない。されど、文人画の方は千二百余年も経て伝来したもので、早くも種々の破壊を受けたものであるからこれを引き伸ばし焼き直しをなし、補足加筆しても元の写真のように、完美の肖像には仲々成り立つものではない。これに反して、写真を文人画に作るのは敢えて難事ではあるまい。故に、繰り返して云ふ、本紀を基礎として記紀を作るのは容易であるが、記紀を原料として本紀を作るのは甚だ困難である、否な絶対に不可能である。
以上は、大体について異なる所を弁じたのであるが、今一、二の実例を挙ぐるに当たり一言することがある。即ち本紀、記紀中には最も貴重で最も重大の記事で、真に主脳精神とも云ふべき所が本紀に多くあるも、記紀の方に乏しきのみではない事実を誤りたる所がある。これ等は能く比較する時は大いに発明する所が多数ある。試みに少し挙げてみよう。

記紀の方では、高天が原の場所が不明であるが、本紀では実に明瞭である。高天が原は、元は天上の天御祖の神（天御祖神を中心として八神子その他神）の在ます所を指して尊称したものである。この神等を高皇産霊神が日高見の国の宮殿に祭り玉ふたので、これより君主の宮殿をも高天が原と名付けたものである。故に、全く天上と地上とに高天が原がある訳である。尚ほ今でも宮中を雲の上と云ふのは、古代の意義が残存したのであろう。天降又は降臨（あまくだり）は記紀では天上よりする意味となるので、他に変更することが出来ないのである。これは既に述べた通り高天が原天上と決定して抜き差しの出来ぬ為である。されど、天上の高天が原が地上にもあると定まれば、天降々臨は君主の御進幸又は行幸を尊称したものである。如何なるを天降りと云ふたかと云へば、宮中を天に比すればこれに対して地方を地に比したからである。本紀中には、高天が原と天降りとの記事が幾十所もある。その中の一、二の実例を挙げてみる。
天孫瓊々杵尊の高千穂の峰に天降り玉ふたのが、最も顕著な記紀の叙述であろう。されど、本紀の方では大いに異なるのである。今これを述べるに大省略を以てする。瓊々杵尊よりも前に天孫火明尊（ほのあかり・瓊々杵尊の兄君）は日高見国の宮殿を門出して鹿島宮に到り、九十九浜より岩樟船に乗り、順風に帆を揚げ大海を航行して紀の国熊野神宮を拝み、その所より難波に向い船を変えて河内の川上に遡り、斑鳩峰に天降りこの所に宮居し玉ふた。ここより空に見つ大和の国と名付けられたのである。然るに瓊々杵尊はこの時、伊勢の国伊佐和の宮の祖父君天照大神の御側に侍し玉ふた。
天照大神は火明尊の門出して陸行し、中津国に降臨あるを聞き玉ひ、その道筋の農業を妨げては農民の苦労であると思ほし、深き御心にて瓊々杵尊に命じ、手力雄命を副（そえ）へ鳥羽浦より船出して鹿島宮に到り、兄火明尊に陸行を捨て船行せよとの御論を伝へ玉ひ、尚ほこれを日高見の国へ行き父君忍穂耳尊（おしほみみ）に報告し、又伊勢に帰りて復命し玉ふたのである。さて、瓊々杵尊はこの後新治（にいばり）の宮を作り民を治め、又、富士山麓に宮殿を作り蓬莱宮（はらみや）と名付けこの所にて民を撫で玉ふた。

かくて民豊かに国治まり旺盛時代となり「磯輪上秀真の国」（しわかみほつま）と国名も生まれたのである。然るに、数十万歳の泰平で人は非常に長寿し、国民は年々増殖すること最も盛んであった。瓊々杵尊は「年々民は増えるもその割合に田は開けず糧が足らぬゆゑに争いが起る」と語り玉ひ、伊勢の国に十数か所を開拓し多く田を作り玉ふた。それより西へ向ひ大和に到り兄尊に逢ひ玉ふて後摂津に行き、ここで水利の為川を作りて神崎川と名付けられた。これより北国に到り白山を輿（こし）にて越え玉ふてこれより越の国と名に負ふたのである。
それより淡海の高島に出で、美濃、科野（しなの）を経て蓬莱参山（はらみ・富士山）に登り、その裾野に大開拓を為し莫大なる新田を得玉ふた。その後宮殿を淡海に営み瑞穂の宮と名付けしかして西国に巡幸し玉ふこととなった。即ち月隅（つきすみ・九州）に降臨あって、長年月の間、月隅の国全部に亘り新田開拓、水利道路の大工事を為し又教訓法令を施し広大なる恩沢を与え玉へば、国は治まり民豊かに万歳を謡ふた。又山陽山陰の国々を巡幸ありて到る所、新田を開き植林を教へ玉ふた。
かくの如く治国安民の為に偉大なる功績を立て玉ひしが、遂に御齢傾き天寿の極まることを前知し玉ひ、瑞穂の宮を門出し山背（やましろ）を経て室津に出で玉ふた。この時天津日嗣（ひつぎ）の君彦火火出見尊（ひこほほでみ）は奉送の上ここにて尊き御遺勅の教訓を受けて別れ玉ふたのである。この室津より大亀船（かめぶね）に乗り月隅に着き鹿児島に暫く止まり玉ひしかして高千穂の峰に登り東方朝日に向ひこの世を辞し神霊は昇天し玉ひしは最も奇霊（くしび）なる恐しこき極みである。この時より日向ふ国と名に負ふて今にも変わりがないのである。
天照大神は女性として記紀の方には確定した説であるが、本紀では女性ではない御男性である。然るに記紀を信じる人々が女性として疑わないのは次の理由による。即ち記紀の中に、第一に天照大神の名を「大日霊貴（おほひるめのむち）」と尊称するがその「おほひるめ」の｛め｝が女称である。第二に、素佐之男命が天の安河に行き玉ふた時、姉の天照大神とある。第三、后妃が一人もいない。この三要点あるが為に動かすことの出来ない確説となったのである。陽神でありながら斯く女性の神として疑ひを容るる所がないのである。然るに本紀はどうであるかと云へば、第一が「おほひるぎ」｛おほ｝は大なり、｛ひ｝は日なり、｛る｝は日の神霊なり。｛ぎ｝は杵、男称なりとある。第二は素佐之男命が天の安河にて逢ひ玉ふたのは天照大神の姉、日留子姫である。即ち記紀では、三年足立たずとある方で、天両神（ナギ、ナミ）の長女であるが足が立たぬのではない。第三、后妃を有し玉ふのでその后もあればその父神の名もある。しかして子女を生み玉ふた宮殿もあれば后名もある。故に剣珠の交換もなければ、殊更奇異の記述がないのである。ここに於いて剣珠の交換は誤謬ではなく或いは大不忠の野心家が女帝を立てつる先例として毒筆を加えたものではあるまいかとの疑念が起こるのである。　　
その他豊玉姫の王子を生み玉ふ時、八尋鰐（やひろわに）云々とあれど本紀の方には跡形もない。鵜茅葦不合尊が姨（おば）玉依姫を妃となし玉ふとあれど姨ではない。御母の弟の娘に当たりますのである。このように兎に角好ましくない方へ筆が曲がっているのは最も恐懼（きょうく）の情に堪えない。加ふるに諸神等の尊ぶべき遺訓功績等の大主脳とも見るものはすこぶる乏しく子孫の模範となり幸福となり国の光となるものは保留して記載を見合わせたものか甚だ判断に困難である。
ゆえに、古事記日本紀の欠点を補足して編成したものでないことは明々白々であると思う。

●諸神の功労と遺訓とは人類の為め教の基礎となして実に無上のもの
我国中昔儒教仏法の渡来後は固有の教えを忘れて外教に心酔し、その中毒に罹るもの多くしたがって我が国体を傷つけ治安を妨げたことは最も甚だしきに至った。例えば源平二氏の騒乱もその後数百年間の戦禍も多くは支那の学術を学習した結果である。見よ彼の思想戦術等の種を播いたが為に遂に支那の歴史を (復習）繰り返した。即ち収穫したのである。これより前全国に大寺院を建築し普く仏教を宣伝せしめたので財力を浪費した。加ふるに固有の神蹟霊地を奪い寺院を造り又は神を仏に変造し固有伝来の地理的歴史を滅茶苦茶にした。

斯く儒仏の為に外尊内卑に陥り遂に諸神及び祖先を軽蔑するものが多く出てきたのである。故に、当時有形無形となく国体を破壊する野心家不忠者が出たのは自然の成り行きである。即ち古書を書き換えるが如きは彼らに取りては朝飯前のことである。例するに蘇我馬子、弓削道鏡等は最も有名な大不忠大野心の親玉である。一は史伝を改造して天津日嗣を奪わんとした。一は暴慢跳梁で国政を私せんとした。斯く古書を骨抜きとなし末代までも誤りを伝え、皇室の古伝古書を自家に蔵め兵火の為に烏有（うゆう）に帰した。この事実にて、我国固有の神典その他貴重の史伝が殆ど全滅したのである。（この時本紀は独りその危難を免れた詳伝があるも記すに遑（いとま）がない）
かくの如く我国の大危難を生じしかして大害を千万歳に残したのである。これは実に切歯大息の極みと云わねばならぬ。想うに昔より釈迦を拝するものは印度を愛し孔孟を学ぶ者は支那を貴び今日では英独米を学ぶ者はその学ぶ所の国を敬愛するのは自然の状態とも云はれるのである。されば、我が国体を完美にする為、国民の幸福を進むる為には、天祖の大御教を伝承し玉ひし天照大神の神教遺訓を始め諸大神等の神教又は言行功績を以て我国の国教とすれば、これに勝る所の教訓は何国を尋ねてもあるまいと思う。故に一日も早くこの遺訓神教を復古活用して普く実行することを希望するのである。
顧みるに祖先の遺訓を忘れ、他国の教に従い尊ぶのは子孫として名誉ではあるまい。いたずらに彼を崇拝するは自己を侮るものである。もし良教がなければ万止むを得ないとするも今は他に超越した無比の明教があるから少しも遅疑するに及ばない。故に種々様々に迷うのは最も愚かであると云はねばならぬ。

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[1] mixiユーザー 02月16日 15:38

●純潔の神典で奇怪の説と不可解の記事はない
本紀は総て外国の言語を用いない崇高純潔の神典であって事理明白少しも曖昧の所がないから深霧中にて迷うような感もない。ことに奇怪の説も不可解の記事もない。唯平坦のように見ゆるも意味は最も深い。ただし世上に伝わらぬ言語が少うない為に意義が徹底せぬ所があるけれど、前後の語脈に依ってほぼ理解することが出来る。今日に伝わらぬ言語あるは本紀の最も旧き一証とも見られるのである。然るに漢学渡来後は我が国語を錯乱し滅亡したことは最も驚くべき数であろう。しかしてその滅亡した（本紀は生きている）言語が有っても無くても差し支えないものなれば強いて論ずるに及ばないけれども、多くは便利、明白、簡単等の性質を備え、又は今日用いる所の対句とも云ふべきものを失ふたので大いに不便となった。それに悪いことには多くの言語を紊乱し誤謬語を族生せしめたのである。
故に固有の語が退隠したことがほぼ知れるであろう。すでに記紀を始め漢字漢文で書かれたので大いに国語を失ふたのみでない上代文字をも失ふこととなった。これぞ漢字舶来は我国の大害となった確証である。然るに漢学の為に我国の文運は開け幸福を得たものと推想するのは、全く上代の文化善政の真相を知らず唯未開草昧の国であったと信じたからである。古語拾遺の序文中に上世未だ文字あらずと記してある。これを見て我国には文字すらなかった幼稚の国であったのを支那文学の為に、仁義忠孝の道を教えられたと妄信して自ら堯舜孔孟（ぎょうしゅんこうもう）等を尊びて崇拝するのである。
かくて大恩徳ある大神等を軽視することとなったのである。さて文字あらずと記したのは外教心酔者の不忠ものの所為であろう。これはすこぶる拙劣な小細工であるが意外に害毒が深かったのである。然るに日本紀の中には文字があることを確実に記されている。それは「一書曰」と記してある所が数十か所見ることが出来る。一書とは種々の書物を云ふので即ち書物は必ず文字で記したものに相違がない。しかも一書の中には本紀を訳したものに違いがないと思う所がある。これを見ても文字があったことが分明になるのである。本紀の序文中には当時（日代宮の御世）に七家の伝記があって誤謬訛伝を生じたのであるが、秀真伝紀は正確であることを例を掲げ比較証明してある。されば本紀は古典中に実に正確のもので崇高純潔の神典であることは明白である。

●貴重なるは譬ふるに語なく比するに物がない
我国に於いて最も貴重なる書物は如何なる物かと問うならば、第一に古事記日本紀であると答えねばならぬ。この記紀のある為に神代の事もほぼ伝わり皇統の尊厳で万世一系等顕著のことが今日に残されている。しかして我国を神国と云ひ国民を神孫と称え来たのは記紀の証明に依って疑う所がないのであって大いに我国の誇りとするに足るのである。されど記紀では十分に神代の事を説明したものであるが、神代の真相を写したものであるかという疑問はあるとしても貴重なるには違いがない。
しかして幸いにも本紀の伝わったのは我国の為、広く云へば世界人類の為大いに賀すべきことである。さて記紀では我国のみの略歴史とすれば外国に関係がないように見える。されど本紀は世界創造史であるから世界共通の宝典と云はねばならぬ。特にこの法典には世界無比の明教を含有するを以て地球上総ての人類に大幸福を与ふることが出来る。故に全地球上の人類はことごとくこの教えを奉ぜなければならぬ。

[2] mixiユーザー 02月16日 15:40

●本紀の存在するは実に不思議である
支那では秦の世に書物を焚き学者を抗にしたことは最も著明であるが、唯それのみではない。彼の国は数回の厄難があって古伝古書を滅亡したので今日に残存するものには真正の古書はほとんど絶無と云ふことである。又各国の古伝を見ても開闢以来太古の真相を伝えた古書がない。然るに本紀は完全に古実を伝えたのは大幸であるが、外国には我と比類する古伝のないのは甚だ遺憾と云はねばならぬ。併し何所も皆支那のように古書を失ふたのであろう。我国も已（すでに）も太古伝来の古書を失ふて漸く（ようやく）本紀を残すのみとなった。支那交通後国の風土記と云ふ書物が出来たが今は初度のものは殆ど失ふたと云ふことである。
かつて児島高徳の有無の論が持ち上がったことがあった。斯くの如く都て（ママ）確実の伝を失えば事実までも抹殺して無きものとなるのである。斯かる理由で記紀等の古書に記載なき事物は全くその時代に無かったこととなるのである。それで多くは外国から輸入したものか又は世が開けて出来たものとする筆法が多い。然れども本紀を見れば多く発見する所がある。今一、二の実例を挙げれば文字のあったのは云ふまでもない。各種の書物もあれば貴重の明教もあった。天照大神御世には金銀銅鉄の金属もあった。菊も「ここな」又は「ここなし」と称えて天照大神はこれを賞し薬効あることを説き玉ふた。しかして皇室の御紋章として用いられるのは深い原因がある。尚ほ「きく、くりいわい」（菊、栗祝）、「ももにひな」（桃に雛）等がある。然るに菊は和名もなく「キク」は字音であって応仁帝以降に舶来したものとするはすこぶる悲想の見ではあるまいか。その他算へ（ママ）来れば際限がないのである。さて外国には本紀に比すべき古書がないからこの本紀も真正のものではあるまい。後世人の作物であろうと速断を下すものもあろう。それ等はすでに述べたのであって最早疑う余地がないと信ずる。故にここに断案を下して本紀の存在することを明らかにしたいと思ふ。
抑も（よくも）本紀の存在するは並尋常のことではない。実に天祐である。あたかも万世一系の皇統あるが如く、他国に絶無なるも我国にのみあることを思えばあえて疑うに当たらない。さらにこの皇統と本紀があって益々皇室の尊厳を加ふるので大いに国体の精華を発揮するのである。しかして本紀は実に世界の宝典であって又古典中の大君主である。（了）

●●あとがき（略）●●
この小笠原長武氏・遺稿は大正三年七月三十日（１９１４年）に書かれたもので松本先生が宇和島の小笠原家より預かったものを昭和４２年発行の同人誌「ほつま」限定版０８号に発表されたものです。すでに9０年以上経っていますので皇室観や中国についても支那と表現されていますがそのままとしました。現代人にとっては非常に読みにくく感じますが「ほつま」を研究されるならば是非読んでみて下さい。　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『すざなる』
松本先生のあとがきー抜粋
ホツマツタヱは天保元年に近江国三尾神社で和述估三輪容聡（わにこみわやすとし・井保勇之進）先生の遺した写本を小笠原通当（みちまさ）先生が見つけてから、その熱烈な信仰に生きたとは云え、天下は本居宣長、平田篤胤の復古神道派の壟断（ろうだん）する処であったから、「神代巻秀真政伝紀」十二巻は、通当先生五十一歳の時、天保十四年に版を起こしたものではあるが、当時においても注目する処とならなかったから、この書物は今では、殆ど見ることはできない。小笠原家にも伝わっていない。しかし、この書がホツマツタヱについて、版木を起こした初めであり、そして最後であったわけである。
しかし、こういう事もあった。通当先生がホツマツタヱを読めなくて困っていた時に、偶然目についたのが、僧溥泉（ふせん）の「春日山紀」（安永九年刊）という書物だった。これにはホツマツタヱの原文に振り仮名をつけたものを引用しているので、その読み方がわかったのである。この著書にはホツマのほかに、ミカサフミからの引用もある。これによって通当先生はホツマ研究を始めることが出来たのだから、溥泉という坊さんは、小笠原三代の先生にとってもその末流たる我々にとっても恩人になるわけである。・・・・・・

いずれにしても、小笠原家三代通当（みちまさ）、長弘（ながひろ）、長武（ながたけ）先生の地道で気の遠くなるような研究がなければホツマツタヱは露と消えていたと言え、又、松本先生のホツマ探索の行動がなければこの神書を私たちは手にすることはできなかったはずです。
ホツマツタヱがこの世にあるのは神縁、奇縁、まさに奇跡ですね。

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