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テンペストワルツ愛読者集合☆コミュの三章 第七話 激化する戦場

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青森防衛ライン B地点 地下通路網


 味方の砲撃が、また一機「ヴェスターナッハ」を仕留めた。無線機越しに友軍の歓声が聞こえる。B地点戦車隊指揮官の井上美佐子は満面の笑みでそれを聞いていた。

 美佐子はかつて、自衛軍が誇る精鋭師団の一つ、中国方面軍第二戦車師団に属していた。だが、男尊女卑が根強く残っていた中国方面軍内で、当時所属していた大隊長を殴ってしまった為に、特殊軍第一大隊へと転属させられた。元々特殊軍が創設された大きな理由は、優秀だが、上層部に反抗的な者達をそこに追いやることにあった。中央の思惑を噂ながらに知っていた美佐子は、半ばうんざりしていた。しかし、そこでであった上司は今まで出会ったことのないような男だった。

 草壁圭馬。彼は第二次日本海防衛戦でその頭角を現した、自衛軍の若きカリスマだった。後に、「日本の懐刀」の異名で称えられた一兵卒にとっての英雄だった。彼のような人物こそ、軍のトップにいるべき人物であると美佐子は思っていた。だが、前線の兵の支持を得る者ほど、中央では倦厭されるものだ。特軍が創設されたのも、彼に対する民衆の支持が予想以上のものになったからだろう。

 特軍は確かに癖の多い連中であったが、圭馬はそれらをうまく乗りこなしてきた。元々高い戦闘技術に日本屈指の頭脳が加わった特軍は、強力な隊へと生まれ変わった。師団規模しかない特軍は自衛軍最強部隊の座を得た。特に中核である第一大隊は、自衛軍最強と謳われた第一師団に模擬戦で勝利したこともある。自分たちをうまく指揮できるのは彼しかいないだろうと、美佐子は確信していた。

 その彼が唯一一勝も上げることが出来ない男があのファントムギアスなのだ。
この戦闘は東北同盟軍が北海道へ撤退することを前提に行われている。ここで戦うこと自体無意味なのかもしれない。だが、例え自分たちが全滅しようとも、結果として東北同盟軍本隊が撤収できれば勝利なのだ。

 これはただの負け惜しみなのかもしれないが、戦争の勝敗など常に曖昧だ。意味のない勝利と意味のある敗北。どちらも同じに見えるが、大きく違う。次へとつながる敗北ならば、それは決して無駄ではないのだ。少なくともそれが美佐子の戦争論だった。だが、美佐子はこの戦いで死ぬつもりはない。この戦争が終わるその日まで生き抜く覚悟だった。

『外円部守備隊に通達! レーダーに新たな機影を捕捉! 機動性から見て飛行ユニット搭載型と思われる。全隊対空戦闘用意!』

 美佐子は通信機を掴んで怒鳴った。

「敵は何機!? もっと詳細な情報をよこしなさいよ! あんた分かってんの!」

 通達を行なったオペレーターは、唖然として口を閉じてしまった。だが、一拍を置いてキーボードを勢い良く叩く音が聞こえた。

『敵は一機! 『ヴェスターナッハ』と思われます!』

 美佐子はその報告に眉をひそめた。飛行ユニットを換装しているとはいえ、たったの一機ではこちらの対空砲火を一斉に浴びて、撃墜されるのがオチだ。敵の目的はいったい……。

『よし! 対空戦車及び各機関砲で迎撃する! 撃ち落せ!』

 その合図と共に、対空砲火の光が空へ向けて線を描いた。点々と見える曳光弾の光が「ヴェスターナッハ」に向かって飛んでいく。だが、「ヴェスターナッハ」は手から地面へ落ちていく紙のように易々と躱わしていく。そのアクロバティックな回避運動は、まるで人間がダンスを踊っているかのように優美だ。全長八メートルの兵器とはとても思えないほどの動きだった。

 その動きに面食らって待避壕へ下がることを忘れた対空戦車が一両、「ヴェスターナッハ」の射撃を受けて大破、炎上した。錯乱した一両が銃撃しながら対空ミサイルの発射体勢に移った。それに気づいた「ヴェスターナッハ」は銃撃を加え、戦車を撃破する。

 戦車は爆発の瞬間ミサイルを放つが、それもアクロバティックな動きに追尾しきれず、市街地に落ちていく。辛うじて追尾できたミサイルも、いともたやすく二十ミリリニアサブマシンガンの餌食となる。あっという間に六両の対空戦車が撃破された。

「対空砲火やめ! 敵はかなりの腕を持ったフレーム乗り……よ」

 美佐子の言葉は尻すぼみとなった。戦車の短距離レーダーが数十機のフレームを捉えたのだ。移動速度から見て、全てが飛行ユニットを搭載した機体だろう。このままでは敵に制空権を奪われ、待避壕から出ることすらできなくなってしまう。とてもではないが、対空兵器の温存などできるはずも無い。青森防衛ラインの弱点を読み取った、敵の作戦勝ちだった。

「なによ……これじゃ壕から出る以外ないじゃない……」

 戦闘が開始されてか既に一時間が経過し、友軍の撤退も順調に進んでいる。だが、ここにきて青森防衛ラインは危機に陥った。防衛ラインの唯一にして最大である、強固な護り手の地下要塞は事実上封じられたも同然だった。


「……よし、予定通りだな」

 隆弘の予想通りにことは運んだ。案の定敵の対空砲火は脆弱だった。隆弘の目算では対空戦車はあって二十台程で、後は移動式の機関砲ぐらいしかないだろうと予想していた。敵がここで戦闘を継続する理由は無い。あるとすれば、北海道へ撤退する本隊の時間を稼ぐことにある。

 ならば、これから北海道には少しでも多くの兵と火力を必要となる。となれば、青森に大規模な兵力を置くわけにはいかない筈だ。なら、精鋭の戦車隊を中核とした部隊で構成以外なく、貴重な対空戦力をこの防衛ラインへ回すことはできない。

「敵のことではあるが、同情せずにいられない……『日本の懐刀』も心苦しいところだな」

 新たな射線に向けて銃撃を加えながらしみじみと言った。これで隆弘が潰した対空陣地は戦車を含めて十五を超えた。あちらはもう地下陣地に籠もることは許されない。通常の戦車と比べて対空戦車は装甲が薄い。しかし、機動性の高いフレームに対抗できるのは対空戦車ぐらいのものだ。戦車隊は数の少ない対空戦車を守るために、自らを的にするしかないのだ。

『将軍。全機出撃完了しました!』

 隊の指揮官が通信を送ってきた。その言葉に自然と隆弘に笑みが浮かぶ。これで囮となろうとする戦車隊を始末する戦力は整った。後は戦車が出てくるのを待つだけだ。

《主。ポイントF―04より所属不明(アンノウン)を確認。一機は昨日見た銀色のフレームですが、もう一機は該当機種なし》

 アラームとともに個別AI「シンシア」が報告した。

「ぬ。あのシルバーナイトか……ということは『ブルーシンフォニア』もいるのか」

 それは分かるとしても、もう一機は誰が乗っているのか……ファントムギアスから聞いた情報では新造艦と共に、三機の新型フレーム「トリックスターフレーム」と言われるシリーズも奪われたらしい。トリックスター……リジェネレイト軍にとってまさに引っ掻き役という名称はぴったりだった。

『し、将軍……あれは!』

 部下の狼狽した声が聞こえた。飯沼隊は秋田戦においてあのシルバーナイトに十機を戦闘不能にされたと言う手痛い失態を被っている。パイロットの動揺は仕方の無いことだった。だが、隆弘の目線はもう一機の方に向けられていた。

「あの機体(トリコロール)……興味をそそるな」

 ここへ来て隆弘の悪い癖が再発してしまった。戦場で見られぬ敵を見つけたら一度対峙してみたいという欲求が。

「風見、シュトーレン、バルトレスでシルバーナイトを押さえろ。オルファードは風見達の隊を率いて引き続き敵主力の掃討を継続しろ」

 隆弘は的確に指示を飛ばす。指示を出した四人は隆弘が率いる部隊の中でそれぞれ隊長を任されている。隆弘が信頼する直属の部下たちだった。

『閣下……それは無いでしょう。我々の仕事を横取りしないでください』

 陽気な声でそう言うのはシュト―レンだ。彼は特殊部隊の副隊長をしていたが、「イギリスの梟」と呼ばれた英雄、ジェームズ・ユンフェルトに誘われて特殊部隊ごとリジェネレイトに参加した。半ば五十を越えようとする老将は、ゾディアックの一人に任命され、今はヨーロッパ戦線で戦っている。

 シュトーレンは隆弘がジェームズに頼み込んで引き抜いた男でフレームの腕もある。何しろ、こちらの軍には本物の戦争を知る者が少ない。実戦を経験した兵を、均等に配備すべきというファントムギアスの意向だった。それ故に彼との協調に苦労するだろうと思っていたが、意外にも彼は隆弘に好意的だった。

「そう言うなよ。俺は前線で本領を発揮する部類なんだから」

 そう言う隆弘に罪悪感らしきものは見受けられない。むしろ楽しんでいるようにも見える。

『……仕方がありませんね。仰るとおりに致します』

 シュトーレンはあっさりと引き下がった。この三ヶ月一緒にいたことで彼の病気には慣れてしまったようだ。

「さて、そこ行く騎士(ナイト)君。君の力を見せて貰おうか!」

 トリコロールの機体に向けてリニアサブマシンガンを連射する。一秒間で十発の機関砲弾を吐き出すサブマシンガンは、乱れることなくトリコロールの機体に向かっていく。だが、トリコロールは左へバレルロールして砲弾を巧みに躱わした。

 隆弘は、銃撃を続けながらその砲口をずらす。対するトリコロールは射線を見切り、それをことごとく避けた。反撃と言わんばかりに、腰に装着されたサーベルを抜き放つ。刀身が瞬く間にオレンジに染まり、隆弘のヴェスターナッハに切りかかってきた。

「そう来るか……中々に面白い!」

 対する隆弘もサーベルを抜き出し、ブースターを全快にして突進させる。その刀身もまた、オレンジ色に染まっていた。

 この対装甲電熱刀「グレン」は、全フレームシリーズに正式採用されている。電動力兵器の最大の問題は、駆動系・制御系の全てにかかる負荷熱だった。これまでも、全動力を電気エネルギーに置き換えた兵器は開発されたが、その活動限界時間が極端に低下するという問題点が浮き彫りとなった。戦車などの第二世代兵器と呼ばれる兵器は、大型の放熱ファンを取り付けるなどで対応が可能であった。だが、第三世代であるフレームシリーズではそうはいかない。

 人を模すが故に出てくる最大の問題。それは駆動部分が多く、弱点が容易に露呈してしまうことにある。解決策として、人間の血液のように水を機体に循環させる冷却システムを導入し、その手法で製造されたのが「ガルム」だった。だが、冷却水路を余分に作る必要があるので、いかんせん機動力を犠牲にしなければならない。

 そこで考えられたのが、熱エネルギーの兵器運用である。「グレン」を装備すると同時に伝熱路を本体に接続し、負過熱を刀身に流し込むことで高温を発する電熱刀を生み出すのだ。結果、熱による負荷を大幅に軽減し、絶大な切れ味を誇る武器を製造することに成功した。省エネルギーが叫ばれる中、もっとも時代の理にかなった兵器でもあったため、開発者の間では「エコブレイド」の愛称が付けられた。

 二機の五千度近い高熱を発する電熱刀の刃がぶつかり合った。二本の刃が接する部分から猛烈な火花が飛び交っている。

「はっははははは! 素晴らしい太刀筋だ! 気に入った!」

 そう笑いながらサーベルを振り上げ、サブマシンガンを乱射した。そのことごとくを受け止める目の前のトリコロールに、隆弘は釘付けとなった。

「小手調べは終わりだ! そろそろ本気で行かせてもらうぞ!」

 その言葉を受けて、ヴェスターナッハは猛襲をかける。隆弘の顔は、一人の戦士が見せる強固な意志が漲っていた。

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