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テンペストワルツ愛読者集合☆コミュの二章  第六話 交わる三つの剣 後編

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「チッ……しくじった」

 相馬は心のそこから後悔していた。空中戦において東北同盟軍は、既に敗北が確定していた。自分の部隊を含め百機近くいた大航空隊は、今や見る影もなく三十機近くにまで撃ち減らされていた。残っている機体も満足に飛べるかどうかも怪しいくらい損傷を受けているか、手持ちの弾薬全てを使い切ったかで、そのほとんどを基地に撤退させている。

 戦闘空域に残っているのは、相馬を筆頭としたエース二人と古参のパイロット四人程度だった。その彼らも基地防衛の為、今はいない。つまり、第二防衛ラインにいる航空戦力は相馬ただ一人ということだ。それでも、本来の任務である陣地守備隊支援の任務続行を本部から通達され、不満たらたらながらも、命令に従っていた。

 敗軍のエースは温存されるものだが、決戦になるともっとも過酷で不利な戦場で投入される。エースなんてものは損ばかりであまりにも見返りが少なすぎだ。適当な理由をつけて撤退するのもよかったが、航空艦隊から新たに十数機の<ヴェスターナッハ>が飛び立つのを見たとき、それもできなくなった。

 飛行能力を有するフレームが十機いれば、航空戦力のない大抵の拠点は陥落する。それを防ぐためにも、相馬は一機でも多く敵を削らなければならない。生憎、武装と燃料もそこそこに残っていた。<イグナイト>は単身<ヴェスターナッハ>の編隊を相手に渡り合った。

 正直生きた心地がしなかったが、相手が空中戦になれていなかったおかげで、なんとか敵を半数近く戦闘不能にした。何の神の悪戯か、機体に目立った損傷は見受けられなかった。さすがにミサイルは使い切り、機関砲も残り三十発程しか残っていなかった。これ以上の戦闘は不可能だったので、基地に戻ろうとした。防衛ラインが気になり、地上に目線を向けると、そこには銀色に輝くナイトがいた。

 別にその機体に嫉妬していたわけではない。ただ、全長八メートルの巨人が、優雅に戦う姿に見とれてしまっていたのだ。あの危険を度外視した思い切りのよい戦い方を、どこかで見たことがある気がしたのだ。
しばらくその機体を目で追っていると、相馬の視界に嫌というほど見てきたシルエットを見た。森林迷彩を施した機体……これまでも何度か戦った、あの指揮官機だ。

 フレーム同士の戦いというものを相馬は見たこともなかったが、恐らく銀色のフレームの方に分が悪い筈だ。現に銀色の機体が押され始め、<ヴェスターナッハ>は余裕を持ってチェックをかけてきた。

 ……出会ったのが運命の分かれ目ってことか。

 相馬は、銀色のナイトを援護することに決めた。

 あの指揮官機は、気に入った敵を見つけたとき、突拍子もない戦法で相手の力量を計ろうとする節がある。つまり、ナイトフレームにとって最大の死角……真上からの急降下だろう。思っている内に<ヴェスターナッハ>は、相馬の予想通りの行動に移った。相馬があの機体に出会った時と同じ反応だ。

 ――奇襲をかければなんとかなるか? ――

 まあ、三十発しかない機関砲でできることはこの程度だろう。<ヴェスターナッハ>の真後ろについた。引き金を引いた。機関砲から砲弾が吐き出されるが、紙一重のところで避けられた。それを追う間に残弾を確認して、更に後悔した。

 ――残り十一発――この状況を<最悪>と呼ばずしてなんとするのか。うなだれていると、通信機に大声がなり響いた。

「<成田の荒鷲>! 私の邪魔をしないでもらいたい!」

 この声には聞き覚えがあった。戦場で幾度となく降伏勧告を発していた敵司令官の声だ。確か、ファントムギアスの側近だったか……?

「好きで邪魔しているわけじゃない! お前が邪魔せざるを得ないようにしているんだ!」

 二機は高速ですれ違い、隆弘は機体を即座に反転して、サブマシンガンを連射する。相馬も予めそれを予期し、<ヴェスターナッハ>の右側に機体を大きく旋回させる。

「私には成せねばならんことがある! こんな所で足止めをくうわけにはいかんのだ!」

 サブマシンガンの死角に入られた隆弘は、<イグナイト>の後ろにつこうとする。しかし、相馬は縦横無尽な飛行を続けて、<ヴェスターナッハ>を取り付かせない。

「それはお互い様だ! 俺にも会わなきゃならないやつがいる! それまでおいそれと殺されてやるものか!」

 言い返しながら、相馬は燃料を確認した。レッドライン。もう長くは飛べない量だった。

――冗談じゃねぇ! 俺にはまだやることがあるんだ! それをこんな所で……。この間二秒となかったが、隆弘が距離を縮めるのには十分だった。

「私の時間……返してもらうぞ!」

 <ヴェスターナッハ>の機関砲弾がうなりを上げて相馬の機体のすれすれを通過していく。いや、正確には相馬の絶妙な操縦テクニックで、寸前のところで回避しているのだ。だが、そんな神業が長く続くはずもない。空中戦において、後ろをとられた時点でもう勝敗は決まる。頭では自分がもうすぐ死ぬことを認識しているのに、心ではまだ諦めがつかない。

「荒鷲よ! 空へと還れ」

 隆弘は勝ち誇るように叫ぶ。相馬は仕方なく脱出装置に手を伸ばした。次の瞬間、<イグナイト>と<ヴェスターナッハ>の間を一条の光の奔流が貫いた。隆弘は慌てて機体を上昇させ回避しようとしたが、間に合わず左足がビームの光に呑まれて消滅した。相馬は唖然として左側に視線をみた。そこには、ブルースチールの戦艦がこちらに砲口を向けていた。

「あれはまさか……<ブルーシンフォニア>!? まだ試作段階だったはずだぞ?」

 隆弘が驚愕に声を荒げた。相馬は<ブルーシンフォニア>を見つめながら思うことがあった。

「蒼の交響曲……か」

 実際に音楽は流れていないが、相馬には空の青と戦艦の青が、音のない音楽を奏でているように見えた。

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