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テンペストワルツ愛読者集合☆コミュの一章  第五話 戦火に身を投じる者たち

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関東方面軍 成田統合基地


 自衛軍に出動命令が下ったのは、攻撃が始まって二十分も経った後だった。都内は未だかつてないパニックに陥り、戦闘車両はとても通れなくなっている。現代のように機械化の進んだ軍にとって、一番の障害は交通渋滞だった。避難誘導を行う筈の警察は既に消滅し、自衛軍の交通誘導隊と憲兵隊が兼任する羽目になっていた。そのせいか、成田空軍基地では現地に向かう部隊はなく、空港守備に就くよう命令が下っていた。草壁相馬含む戦闘機パイロット達にも、いつでも出撃できる様にと待機命令が出ている。


「警察庁が占拠されたそうよ」


 同僚の伊藤紗香(いとうさやか)中尉が話しかけてきた。


「おいおい……いくらなんでも早すぎるだろ? だいたい東京のど真ん中で、自衛軍がドンパチやるなんていつ以来だ?」


 隊長の草壁相馬(くさかべそうま)が隣の安藤優(あんどうすぐる)少尉に聞いてみた。


「自衛隊の時には、情報保全隊という防衛省直属部隊が、二千十六年六月十二日午後十一時に、カルト集団のアジトを攻撃したこと以来はありません」


 優は黙々と語った。そもそも今の情報は旧自衛隊有数の極秘である筈なのに、この男は何故知っているのだろう。この男もまた、相馬の指揮する草壁航空小隊のメンバーである。


「優……もう少し知らないことがあってもいいんじゃないか?」


 相馬は言いたいこと言っておく。


「情報は命です。俺は知ることに貪欲でありたいんですよ」


 優は淡々と答えた。


 ある程度予想はしていたが、あまりにそっけなさ過ぎるのではないか。相馬はふてくされた。彼からしてみれば、一部隊の指揮官なんて自分の柄ではないのだ。


 草壁家の売れすぎた名前のお陰で、最新鋭機を受領できたのは良かったが、その名の効果がありすぎたらしい。士官学校を卒業した途端、大尉にまで一挙に昇進してしまった。齢二十三歳の若さで、軍内政治を知る羽目になってしまった。


「兄貴はなにをやっているんだ。あの策略好きの腹黒兄貴が、俺に何も言って来ないなんて……」


 相馬は本気で圭馬のことを心配していた。


「今は信じるしかないわ……圭馬さんを」


 紗香は相馬を慰めた。紗香とは小さいころからの付き合いだ。相馬が落ち込ん
でいた時、支えてくれたのは紗香だった。


 親と同じ道を歩むことは、家柄上産まれる前から決まっていた。勿論この国にそのような法律はない。だが、国を守るという意志が希薄なこの国では、必然的に侍の血筋がなければ国防は成り立たなかった。だから兄の圭馬は、草壁家の長男であることに誇りを持っていた。だが、見えない圧力を感じ続けていた相馬は、自分が生まれ持った運命を呪っていたのだ。


 そんな相馬を励まし、紗香は「そんなに嫌なら私も一緒に軍人になってあげる」と言ってくれた。普通に考えて、幼い女の子が夢見る職業ではない。だが紗香は本当に自衛軍に入隊してしまった。彼女は、相馬とともに生きることを決めていたのだ。最初は半信半疑だった相馬も、彼女が寝る間も惜しんで、戦闘機のシミュレータで訓練する姿を見て、心から感謝の気持ちが湧き出て涙を流した。


 ――コイツには何もしてやれてない……誕生日であるこの八月十五日に結婚のプロポーズをせにゃと思って買ったこの指輪が、この騒動のお陰で台無しになっちまった。早く終わらせないと――


 指輪をポケットにしまうのと、基地中に警報がなり響いたのは、同じタイミングだった。


周回軌道上 機動降下艦隊


『第一フェイズ終了。作戦は第二フェイズに移行中。第一、第二フレーム部隊は降下準備』


 軌道上に待機する艦隊全てにその通信は行き渡った。ファントムギアスが集結させた宇宙艦隊は五十数隻に上る。その半数が地上に降下する強襲艦であり、ファントムギアスが生み出した奇跡の産物とされる兵器の一つだ。これらの艦は、大気圏内を飛行することが可能で、地上の制空権と地上制圧を同時に行うことを想定して建造されている。


 そして、周囲に密集している輸送艦群の船底が一斉に開放される。内部には半径十メートルはある傘上の物体が縦に四列並んでいる。それは、リジェネレイトカンパニーが密かに作り上げたもう一つの兵器が収納されている。


 兵員不足であるリジェネレイトが戦力を補うために開発・量産化した装脚式機動踏破兵器<ヨトゥンズアーマー(YA)>―つまりは人の姿を模した機動兵器――が搭載されている強襲用降下ポッドだ。中でも、リジェネレイトの技術の粋を集めた最新兵器である完全自立型の無人兵器<ドロイドフレーム>が一際多く搭載されている。


 他にも、ドロイドフレーム開発の過程で生み出された有人式ヨトゥンズアーマーである<ナイトフレーム>用のポッドも搭載されている。


「各機。最終チェックを怠るなよ」


 指揮官用YAKF<ヴェスターナッハ>のパイロット、エミリアン・フォーティエが、通信機で部下に伝えた。ナイトフレームは現在二種類の機種が運用されていて、エミリアンが搭乗しているのは最新鋭の機体である。既に量産化されているYA―01<ガルム>とは異なり、この機体は作戦決行の三週間前にようやく試験運用のレベルに持ち込めたばかりだ。


 言うなれば、今回が始めての実戦での運用となる。<ガルム>の二倍近い出力がある……となっているが、試作機である以上どんなアクシデントが起こるか分かったものではない。故に、この機体を与えられているのは指揮官か、シミュレータでトップの成績を持つエースのような不測の事態に対処できる人物が扱うことになっている。今回の戦闘データを元に実用化にこぎつける予定だった。


 エミリアンは元々、会社の警備部門でファントムギアスの身辺警護を担当していた。ファントムギアス達はエミリアンを慕ってくれて、エミリアンの妻のリュートにも良くしてくれた。子供が産まれた時も、一番喜んでくれたのも彼らだった。


 ……あの日、ファントムギアスが血相を変えて走って行った後を、夫婦で追い掛け、その先でみたものに、エミリアン達は何も言えなかった。血まみれになった彼女を抱き締めながら、泣き続ける彼の姿は、今でも忘れられない。リュートは目を覆っていた。


 葬儀でも彼は泣き続けていた。思えば本来果たすべき職務を、あの時誰も果たしていなかったのだ。彼に恨まれても仕方ないと誰もが思った。しかし、彼は身内を責めることはなかった。その方が楽な筈なのに、彼はあえて癒されぬ道を選んでいった。自身の無力を呪い、過去の自分を仮面の下に隠してしまった。そんな彼の姿は、多くのリジェネレイト社員の胸を打った。


 この時、エミリアン達社員やその家族は固く誓った。この人が望む限り自分達は彼に尽そうと……。


 今、彼の計画が花開こうとしている。彼の望みが戦いならば、俺は彼が望む限り戦おう。


『降下ポイント最終確認終了。GOサインをどうぞ』


 降下ポッドのAI音声がコックピットに響く。


「よし。全ポッド降下開始!!」


 同時に次々とポッドが輸送艦から分離していく。傘は、地上を求めるかのように東京ヘと降下していく。


 我らがファントムギアスの為に!!


 誰もがそう叫びながら大都市のネオンに向かって降りていった。

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