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テンペストワルツ愛読者集合☆コミュの第一章 動き出す歴史の歯車 第一話〜時代の逆行

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 西暦二千六十七年……世界は、果てない犠牲と膨大な死をもたらす鉄の力を借りながらも、やっとのことで世界を七つの国家群にまで統一を果たしていた。だがその平穏も十年と続かず、たった一つの事象で世界は瓦解することとなる。


 世界に存在する油田から突如石油が枯渇し、世界各国が貯蔵する石油が全てとなってしまった。それは決して予測されていなかった事態ではない。それを予期して、旧来のバイオエタノールや、水素電池を含む人造燃料構想は導入する準備も進められていた。だが、それは数十年後を想定して計画が進められており、エネルギー生産量は限られていた。未だ石油を原動力とした経済成長が、世界を占めていたのだ。


 世界安定が実現された途端の、世界経済の破綻という人類史上最悪の危機……この発端となった石油枯渇事件を、世界は後に「ブレイク・デイ」と人々は呼んだ。この事件は、世界を分裂させるに十分な威力を誇っていた。各国家群は、国家分裂防止の為の軍拡路線へと邁進することとなる。


 国防の名の下に、人造燃料精製工場は軍の<備蓄基地>と名を改めていた。ユーラシアや北米大陸では、燃料不足が引き起こした凍死者が年間百万人を超え、人々は燃料を溜め込む政府に怒り、銃を手に取った。


 多くの血を流しながらも大陸統一を果たしたユーラシア連邦は、僅か五年で分裂し軍管区駐屯部隊は小国の反乱を抑えるのに必死となった。人口が多く、エネルギーの乏しい中華統一連合は国民に対し武力による一層厳しい弾圧を行うようになった。世界最強を誇るアメリカ統合連邦でさえ、軍の燃料備蓄基地をしばしば襲撃されるようになった。


 世界各国の国軍基地周辺には、銃を持った民衆の死体で溢れかえり、反国連勢力はその光景を目の当たりにし、膨れ上がる一方だった。


 だが、そんな混乱の中でも平和を保つ国が存在した。中東連合・台湾公国・そして日本の三国である。これらの国はエネルギー危機からいち早く脱出した国々である。


 それは各国の国交が良好で、技術開発も協力しあったからこそだった。しかし、最大の理由はある巨大企業の存在にあった。


 リジェネレイトカンパニー……今や宇宙進出まで果たした一大コングロマリットである。リジェネレイトは、月面クレーター<静かな海>に巨大都市と資源採掘基地を建設して、その資源を元に莫大な富を築いた。


あらゆる動力システムの電動化・軌道上に配備された七十七基の静止衛星による電気エネルギーのマイクロ波送信ステムに、二酸化炭素を減少させる人工光合成システム。そして核エネルギーを相殺し分解する<オラクル・ルミエール>システムは、高コストに関わらず多くの国が導入を希望した。核兵器が主軸となると予測されていた第三次世界大戦を、リジェネレイトカンパニーは未然に防いだのだ。


 これらの技術を考案し、実用化したのは、リジェネレイトカンパニーの総帥ファントムギアスという人物だという。世界の情勢悪化を伝えるニュースが続く中、彼の企業がもたらす技術は人々に希望を与え続けていた。その彼が後に起すことは、誰にも予期することなどできなかっただろう。


 人類は一人の男の手によって、過去の罪の清算を強いられる。行く末の知らぬ戦いと共に、多くの人間の物語が動き出そうとしていた。



第一章 動き出す歴史の歯車



 証明を落とした室内で二人の男がいる。一人は椅子に座ってもう一人の男に背を向けている。椅子に座しているのは、黒いコートを身にまとった三十代近い男だ。もう一人の男性は紺のコートを羽織り、腕を組んでもう一人の男の方に体を向けている。顔の右側にかけて裂けている傷が印象的だ。


「人が戦いを始めてしまったのは何故なのだろうね」


 椅子に座った男が話を切り出した。


「そんなもの……それぞれの未来を守るため、生きるために武器をとるのだろう? 大体、戦争なんてものは人間のすれ違いの最上級みたいなもんだ」


 問いかけた男は、その答えに皮肉の笑みを漏らした。


「そうだね……答えはいつでもそこへ辿り着く。いつだって人は、生き残るために戦い続けてきた。ならば戦うこと自体が矛盾じゃないのかな? 戦争とは死を生み出すものだからな」


 傷の男は、話の意図が読みきれていないらしい。図りかねたような顔をしていた。


「君に一つ質問を出そう……戦争が始まる明確な理由は何だと思う?」


 傷の男は少し考えた後、言葉を選びながら口を開いた。


「……敵対関係にある国が、思想の違いや領土的野心で侵攻してくる……そうい
うことではないのか?」


 傷の男は、迷いながらも答えを出した。これまで戦いの中で生きてきた戦士の答えである。戦争が絶えない地域で育った彼には、それ以上の答えは必要なかった。


「それは表面上の名目だよ。戦争にはいつでも闇が隠れているものさ……世界の深い闇が。世界はその闇に踊らされ、戦い続けなければならない……すべては世界安定の名の下に……ってね」


 男の席が傷の男に席ごと振り向いた。その顔の半分が黒い仮面に覆われていて、その姿は傷の男よりも異様だった。傷の男は彼の姿には慣れているようで、あまり動じてないようだ。


「それで……お前がその『深い闇』とやらに挑むのか? <世界の救世主>というのもまた、報われんものだな」


 仮面で表情が隠れているが、傷の男が唯一覗くことができる口には笑みが浮かんでいる。どうやらまったく堪えていないようだ。


「闇を払うのは一条の光だが、闇を暴くことができるのは、僕と同じ闇だけなのさ」


 言われたほうは苦笑がにじんだ。彼が自身を闇と呼ぶのなら、その闇に加担する自分はどうなるのか。傷の男は不条理に感じながらも、決してそれが不快ではなかった。


「お前は悪役を演じるわけだ……お前と手を組んだのが運の分かれ道、と思うしかないな」


 仮面の男は、つい微笑んでしまう。そういう彼も、自分とともに戦う決意を固めているようだ。酔狂であるが、仁義に厚い優しい男だ。


「君には悪いが、しばらく僕に付き合ってもらうよ……僕の計画には君が必要不可欠だからね」


 仮面の男は肩をすかして笑う。あながち本気とも取れない声で言われた傷の男は、眉を歪ませた。


「……お前の言葉は、話半分で聴いた方が良いのかも知れんな」


 苦し紛れにそう言うと、仮面の男は大声で笑った。その様子に傷の男は更に眉を歪ませる羽目になった。少し間をおいて、仮面の男は真剣な口調で話し始めた。


「この星はやがて、かつて無い規模の災害に見舞われる。唯一人が起せる災害である戦争という嵐に。新たな崩壊はすでに始まっている」


 そう口火を切ると傷の男は一挙に真顔になり、仮面の男を鋭い目つきで見据えた。


「……始まるのだな、第二の『ブレイク・デイ』が……俺はお前の指示に従おう。我が盟友、ファントムギアス」


 そう呼ばれた仮面の男、世界の亡霊と呼ばれる<ファントムギアス>は、傷の男に顔を向けて笑みを見せると席を立った。それを合図にするかのように暗い部屋に突如照明がついた。


「暴走を始める時代は、亡霊によってその意義を試されるのさ」


 <ファントムギアス>がこの後引き起こした事件は、やがて全てを巻き込んでいく。彼のみが知る計画の記されるままに……嵐は、世界に吹き荒れようとしていた。





読んでみてください♪ 

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