歴史　ちょっといい話コミュの帝国の黄昏　フランツヨーゼフ

　ヨーロッパに長きに渡り君臨してきた。

オーストリア帝国。

　
　ルドルフ、マクシミリアン、マリアテレジアなど、多くのヨーロッパの歴史を作ってきたキーパーソンたちを生んだこの国もついに滅びる時がきます。

　その、実質的な最後の皇帝がフランツヨーゼフ。かの絶世の美女エリザベートの旦那さんといったほうがわかりやすいでしょうか。

　啓蒙思想の流行った１８世紀、啓蒙専制君主といわれる名君の時代を経て、ついにフランスで革命が起こり共和国が誕生します。

　ナポレオン戦争の終結により、一時は王政復古するのですが、その後、多くの国で革命が頻発。

　フランツヨーゼフは、思想の統制をしようと検閲を強化しますが、もう、それ以上に国民の多くが政治に関して賢くなっていました。

　
　かつて、プロイセン王フリードリヒは、啓蒙思想を政治に取り入れるために、わざわざフランスから啓蒙思想家のヴォルテールを宮廷に招きいれたといわれています。

　ところが、１９世紀ともなると、啓蒙思想はもう、すでに国王のためにある帝王学ではなくなっていたのです。

　当時流行っていた言葉でこんなのがあります。

「ヴォルテールよりも機智ある者がいる、それは世間だ」

まさに、革命が起こることと共和国の誕生は時代の流れであったといえます。

　フランツヨーゼフも決して無能な王ではなかった。むしろ、時代が時代であれば、啓蒙専制君主として偉大な王と称されていたかもしれないほどの人物。

　しかし、たとえ、優れた帝王学を身につけていようとも、世はすでに、帝王を必要としない時代へと進んでいっていたのです。

　そんななか、民族主義に理解のあった弟をイタリア王から罷免。
弟は、失意のうちにフランスの誘いにまんまと乗り、メキシコ皇帝として即位し、間もなく革命が起こり射殺されることとなります。

　その後、皇太子ルドルフは自殺、ルドルフは新聞記者に知り合いがいたり、民族主義に理解があったりと父親の検閲の政策などに批判的でした。

　妻エリザベートは、宮廷での生活に辟易し諸国を旅をしてまわっている間に暴漢に殺される。

　ハンガリーでは独立運動が起こり、イタリアでは統一運動が起こる。

　

　かつて、あれほど繁栄をきわめた、多民族国家オーストリアも、すでに多くの民族にとっては、オーストリアハプスブルグ家は窮屈な存在でしかなくなっていたのです。

　そのような時代背景の中、新しく皇太子になった甥のフェルディナンドが視察先のサラエボで暗殺される事件が起こります。

いわゆる

　「サラエボの銃声」

　多くの近親者を失い、孤独の中で生きつづけたフランツヨーゼフ。どんなにがんばって執務に取り掛かっても、それとは逆に時代が進んでいく。

　フランツヨーゼフは、毎日１０時間以上の執務をこなしたといわれています。

　そして、オーストリアは、フェルディナンドを殺したセルビア人の引渡しを要求しますが、それを受け入れないことがわかると、ついにセルビアに対し宣戦布告することとなります。

　ところが、この小さな事件、小さな戦争が、次々に連鎖を起こし、ついには、全世界未曾有の大戦争。

　第一次世界大戦の勃発の瞬間でもあったのです。

オーストリア側には同盟国ドイツが参戦そして、オスマン・トルコ、イタリア。セルビア側にはロシア、そして、フランス、イギリス。

　のちに、アメリカ、日本、中国までもがその戦いに名前を連ねることとなり。大量殺戮、大量破壊を経て、、ついに、オーストリアは敗戦。

　フランツヨーゼフは、第一次世界大戦中に肺炎で死去していたため、新しい皇帝が一時的に即位していましたが、やはり、最後の皇帝といえる象徴的な人物だったと思います。

　この敗戦により、オーストリアは共和制となり、国王は亡命。多くの領土はオーストリアから独立することとなり、ヨーロッパの小国として再出発することとなります。