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けんのじのさきちな小説コミュのさき☆ちな 第17話 あなたがわたしにくれたもの

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翌朝・・・

佐紀は起きるとすぐに昨日のリングを見た。夢じゃないんだよね・・・。
机の上に、きちんと折りたたんだハンカチの上に大事に置いといたリング。
そっと手に取り、ドキドキしながら左手の薬指につける。
「・・・えへ。」
幸せな気分だ。どうしても顔がにやけてしまう。

学校に着くと、クラスメイトや友達から沢山のプレゼントをもらった。
中でも思わず笑ってしまったのは・・・クッキーの箱に添えられていた封筒に入っていた「箱根湯本『天山』利用券」二枚。もちろんえりかと舞美からの物だった。ご丁寧に『全部で4枚あったから今度四人で行こう』なんて書いてあって・・・。受
験勉強の息抜きに丁度いい・・・かな?
桃子も、今日はまだマスクはしているけれども学校に来ていた。あんなことがあ
って少し気まずいかな・・・と思っていたのは佐紀だけだったみたいで、顔を合わすといきなり「あ〜ん佐紀ちゃぁ〜ん!会いたかったよぉぅ!」って抱きついてきて・・・。
「ちょっと・・・もも・・・私には千奈美が・・・。」
「わかってるよ?でもいきなりキャラ変えるのも変だし・・・教室の中では佐紀ちゃん独占できるもんっ!」
「わかってなーい!」
思わず笑顔になってしまう。

お昼の休憩時間。
いつもの4人で食べるお弁当はやっぱりおいしい。かわるがわる3人にリングの
ことを突っ込まれる。ももは少し複雑な表情だけど・・・。舞美は今日はきなこ
牛乳ではなく普通のお茶を持ってきていた。その代わりに絹ごし豆腐が二丁・・・。
どうしても蛋白質を大量に摂らないと気がすまないらしい。
えりかは・・・普通のおかずの他に枝豆を爪楊枝にいっぱい挿して油で揚げたものが大量に入っている。
佐紀と桃子のお弁当箱は小さい。舞美の半分もない。桃子のお弁当にはいつも野
菜とフルーツがいっぱいでお肉は殆ど入っていない。佐紀のとは対照的だ。だか
らももっていつも甘い匂いがするのかな・・・。
ふと佐紀の携帯が鳴る。メールだ。えりかと舞美がまたニヤニヤしてる。ももは
済ました顔をしてきゅうりの浅漬けを食べている。
「なになにー、また千奈美ちゃんでしょー?」
えりかが爪楊枝を咥えながら喋る。
・・・雅からだった。
『佐紀ちゃんにプレゼントを渡したいので放課後体育館で待っていてくれる?今日はバスケ部もバレー部も休みだから誰もいないと思うからさ』。
「なになに、千奈美ちゃんからぁ?」
舞美も聞いてくる。
「んーん、違う。雅っていう千奈美と同じクラスの子。小学校の頃から仲のいい
子なんだ。」
桃子の顔が一瞬こわばる。
「なんか放課後にプレゼント渡したいから時間とって、って。」
桃子は制服のポケットから携帯を取り出し、みんなに見えないように隠して左手
でメールを打つ。
『梨沙子。今日多分みやがすごく落ち込んで帰るからフォローしてあげて。私は風邪が治りきってないから・・・。』

放課後。校庭では陸上部と野球部が練習している。舞美は・・・陸上の推薦で行く高校が決まってるからやっぱり部活に顔を出している。佐紀に気づいた舞美が手を振っている。佐紀も大きく笑って手を振り返す。体育館は佐紀のいつも使う昇降口とは反対側、校庭の奥にある。
ガラガラガラ。重たい鉄の戸を開けると体育館特有の匂い。汗と埃とワックスとボールの匂い。なんだか青春の匂いって感じだ。でも私は・・・土埃とお日様と汗の匂いが好きだな。千奈美の匂い・・・えへへ。
中には本当に誰もいない。佐紀の歩く音がやけに響く。どこで待ってような・・・。
演壇の前に木の階段が置いてある。佐紀は取りあえず三段だけ上ると、ちょこんと腰掛けた。今頃千奈美は西中に着いた頃かな・・・。
指のリングを眺める。昨日のことを思い出す。優しい千奈美。暖かい千奈美。
そっと・・・佐紀のことを柔らかくそっと・・・でもしっかりと抱きしめてくれた。
耳元で聞こえた千奈美の甘い声・・・。目を閉じているとすぐ近くにいるような感じがして・・・本当にいつでも一緒にいるんだなぁ、って感じがする・・・。

「佐紀ちゃん。」
目を開けた佐紀のすぐ横に雅が立っていた。
「・・・みっ・・・みやっ・・・!」
「いつからそこに・・・!」
雅は薄くメイクをしていた。いつも以上に綺麗な顔・・・。
まぶたが少し腫れている。たぶんそれを隠そうとしてメイクを・・・。
「佐ー紀ちゃんっ。何にやにやへらへらしてんのよ・・・傍から見てて面白すぎるよ?」
「え・・・いや・・・あの・・・。」
「・・・ねぇ、佐紀ちゃん・・・。」
「は・・・はいっ。」
「あたし聞きたいことがあるんだけど・・・。」
き・・・きたっ・・・。
雅が近づいてくる。目が怖い・・・。いつもの雅じゃない・・・。
「はっきり答えてよね・・・。」
少し怯えた表情の佐紀。みや・・・怖い・・・。だめだ、私・・・千奈美と付き合ってからすごく弱くなってる・・・。
千奈美・・・助けて・・・。
すこし後ずさる佐紀。雅が階段に足をかける。佐紀は階段から演壇まで移動している。

ガッ!

両手で佐紀の肩をつかむ雅。ビクッと小さくなって目をぎゅっと閉じる佐紀。目尻に少し涙が玉になっている。
震える佐紀の肩をつかんでいた手がふっと緩むと・・・ふわっと優しく包み込まれるような感じで雅に抱きしめられた。
「・・・みや・・・。」
「佐紀ちゃん・・・真剣に答えて。」
佐紀の顔から数cmしか離れていない雅の顔。甘い・・・フローラルの香り・・・。
「ちな・・・千奈美のこと・・・どう・・・どうなのよ!」
「ど・・・どうなのって言われても・・・。」
何て答えればいいんだろう。
眉が釣りあがっていく雅。そしてだんだん下がってくる。私・・・知ってる・・・。みやって・・・泣くのを堪えてる時に・・・。
「わた・・・私は・・・ずっと前から佐紀ちゃんの事が大好きで・・・可愛いお姉ちゃんで・・・。」
雅の大きな目から大粒の涙がこぼれた。
「ホントの姉妹以上に大好きで・・・。」
「佐紀ちゃんが・・・何かするなら絶対に応援するんだっ・・・て・・・決めてたんだよ・・・。」
「みや・・・。」
「早く答えなさいよ・・・。」
俯く雅。おでこがゴツンとあたる。少し震えている・・・。
「・・・言ってもいいの・・・?」
微かに頷く雅。佐紀は深呼吸し、まるで・・・自分の心を整理して再確認するように喋りだす。
「私は・・・佐紀は・・・千奈美が大好き。いえ、大好きなんてもんじゃないの。」
「あ・・・あい・・・愛してる・・・の・・・。」
言いながら真っ赤になる佐紀。
「千奈美は・・・自分の半分なの・・・。半分だから・・・いなくなったら・・・きっと死んじゃう。」
「いつだって・・・どんな時だって千奈美のことばかり考えて・・・。」
佐紀を抱きしめる雅の手に力が入る。
「私だって同じだもんっ!」
雅の声にビクッとする佐紀。
「私だって・・・!」
「私だって・・・千奈美が大好きで・・・うっ・・・いつも一緒でっ・・・うわーん・・・。」
涙が止まらない雅。
泣いても綺麗な雅。
佐紀は雅が羨ましかった。いつでも実直で・・・良くも悪くも判りやすくて・・・。
凄く美人なのに気取らなくて、やたらとテンションが高くて・・・でも落ち込むといつも佐紀のところに来て・・・。
たぶん・・・佐紀の前でだけ弱いところを見せてくれていて・・・。
「・・・みや・・・。」
「ヒック・・・グス・・・昨夜・・・一晩中考えてたけど・・・やっぱり答えなんて出なくて・・・あーん・・・。」
佐紀は逆に雅を抱きしめる。と言っても佐紀の方が小さいので背中に手を廻した形になる。
「ね・・・みや・・・。」
「・・・なによっ・・・。」
「私ね・・・みやが大好き・・・。大好きな友達・・・。大好きな妹・・・。」
「わっ・・・私だって・・・佐紀ちゃん大好きだもん・・・。」
「私も・・・できればみやの事なら何でも応援してあげたい・・・。」
「でもね。」
「千奈美のことだけはだめ。絶対にだめ。何があっても・・・絶対に譲れない。」
「・・・!」
「例え誰に反対されても・・・絶対に負けない。」
「・・・。」
「・・ごめんね、みや・・・。」
「さっ・・・佐紀ちゃんの・・・ばかぁっ!ばかばかばか!」
「佐紀ちゃんなんて・・・大嫌い・・・大っ嫌いなんだからっ・・・うわーん・・・。」
ぎゅーっと佐紀に抱きつく雅。優しく背中を撫でる佐紀。
雅の涙が佐紀の頬まで濡らす。
佐紀は雅の頬に軽く・・・キスをする。小さくチュッと音がする。ちょっとしょっぱい・・・。
ピクッとする雅。
「・・・なによぅ・・・。」
「みや・・・みや・・・。」
「・・・ヒック・・・なによぅ・・・佐紀ちゃんのバカ・・・。」
何も言葉は要らないんだろうな・・・。そう思った佐紀はずっと雅に抱きついたまま背中を撫でていた。

ひとしきり泣いて涙がとまった雅。そっと佐紀から体を離す。
階段から降りる。一歩。二歩。三歩。向こうを向いたまま立ち止まる。
「・・・ねぇ・・・佐紀ちゃん・・・。」
佐紀も演壇から降りて雅の後ろに立つ。
「ん・・・?」
「佐紀ちゃんは・・・雅のこと・・・好き?」
「・・・大好きだよ・・・?」
くるっと佐紀に向き直る雅。少し伏し目がち・・・。
「私も・・・佐紀ちゃんが大好き・・・。ごめんね、嫌いとか言っちゃって・・・。」
「・・・いいの、そんなの。」
「・・・でも・・・やっぱり・・・私も千奈美のこと・・・大好きなの・・・。」
「・・・うん・・・。」
「諦めるとかそういうのって・・・よく判らない・・・。だから・・・。」
「自分の気持ちに正直に・・・行動したいの。」
「みや・・・。」
「でも・・・千奈美は佐紀ちゃんの事が大好きなんでしょ・・・?」
「う・・・うん・・・まぁ・・・。」
「私・・・佐紀ちゃんも千奈美もどっちも大好き・・・みんな大好き・・・。」
「だから・・・みんなの悲しい顔見たくないから・・・我慢する・・・。」
また雅の目に涙がたまる。
「でも・・・でも・・・。」
「でも・・・?」
俯く雅。深呼吸しながら天井を見上げて意を決したように佐紀を見る。

「隙があったら・・・取っちゃうんだからねっ。覚悟しときなさいよっ!」

右手で緩く握りこぶしを作って佐紀に突き出す。いつもの雅の顔・・・。涙が乾いてないだけで・・・。
「みやぁ・・・。」
逆に佐紀の目が潤んでくる。
「ふんっ。泣き虫な佐紀ちゃんなんて嫌いだもんっ。ほらぁ、笑いなさいよっ。」
佐紀の頬に指を当てて無理矢理笑わせる。
「えへっ・・・みやぁ・・・。」
「ふふっ。佐ー紀ちゃん。私の佐紀ちゃん。私の・・・ちょっと頼りないお姉ちゃん♪」
「へへっ。」
「ふふっ。」

「あ、忘れるところだった!これ!」
「誕生日おめでとー佐紀ちゃんっ!」
「あ・・・ありがとー!やーん嬉しいぃ・・・。」
薄い紫色の紙で綺麗にラッピングしてあるプレゼント。
「ね、ね、ね、開けてもいい?」
「もちろん。」
がさがさっ。
水色のエナメルの、小さくて可愛いボストンバッグ風の鞄。中に・・・手作りのクッキー・・・。
がばっと雅に抱きつく。
「ありがと・・・ありがとう・・・みや・・・だぁい好き・・・えへっ。」
「よかったぁ、喜んでくれて・・・。」
「あ・・・。そのクッキーさ、できたら千奈美にも食べさせてみて?」
「えー?私だけ食べようと思ったのにぃ・・・。」
「だーめ。千奈美の意見も聞きたいの。」
「みやの心のこもった手作りクッキー・・・独占しようと思ったのに・・・。」
少し俯き加減で口を尖らせる佐紀。
「ふふっ。可愛い・・・。」
今度は雅が抱きついてくる。抱き付いて・・・頬に・・・。
ちゅっ。
「・・・ふぉぇ!」
「へへっ・・・。じゃーね、佐紀ちゃん。またねー!」
体育館の中を走っていく雅。
頬に手を当てて顔を赤くしている佐紀。
みや・・・。
はっ!しまった・・・いま何時だろう。佐紀は壁に掛かっている時計を見る。
まだ4時・・・凄く長い時間に感じた・・・。
この時間ならまだ余裕で間に合う。帰って用意しないと・・・。
一旦教室に戻った佐紀は自分の鞄と貰ったプレゼント達を持って家に帰る。

「ただいまー。」
やっぱり誰もまだ帰ってきていない。佐紀は二階に上がり鞄とプレゼント達をベッドの上に置く。
雅からもらった水色のバッグだけを持ってキッチンへ向かう。
やかんにお湯を沸かす。冷蔵庫からタッパーを取り出す。昨夜から用意しておいたもの。
お気に入りの500ccの水筒を用意して・・・。
1Lのパイレックスにお湯を400cc入れる。ブリタのポットに入っているお水を少し入れる。
まだちょっと熱いかな・・・。お母さんが『70℃以上だと成分が壊れちゃうんだよ』って教えてくれたから・・・。
タッパーをあける。蜂蜜に沈んでいるスライスしたレモン。
佐紀は指ですくって舐めてみる。少し・・・酸っぱさが足りないかな・・・。
スプーンですくった蜂蜜をパイレックスに入れて溶かす。少しくらい・・・甘めの方がいいよね。
取り出したレモンをぎゅっと絞る。手に付いた蜂蜜・・・舐めちゃお♪
少し飲んでみる。甘さはいいけどやっぱり酸っぱさが足りないかな?
もう一枚・・・あ、舐めた手で絞っちゃった・・・まぁいいや・・・いつもキスしてるから・・・同じだよね・・・。
赤い顔でニヤニヤする佐紀。
「できたっ♪」
まだかなり熱いけど、佐紀の特製の、愛情たっぷりのレモネード。
水道で手を洗い、水筒をタオルで包むとさっき雅にもらったバッグに入れる。
千奈美の汗拭き用のタオルも入れて・・・ちょうどいい具合にクッキーも納まった。千奈美・・・喜んでくれるかな・・・。
他の子たちにからかわれたりしないかな・・・。
でも・・・でもっ・・・頑張る千奈美に何かしてあげたいんだもん・・・。

佐紀の家から西中までは歩いて15分くらいかかる。
佐紀は制服の上にコートを羽織り、家を出た。
外はもうすっかり日が暮れている。吐く息がうっすらと白い。
歩きながらいろんな事を考える。桃のこと。みやのこと。舞美とえりかのこと。茉麻と熊井ちゃんのこと。
来年自分と入れ替わりで入ってくる、梨沙子のこと。そして何より、千奈美のこと。
千奈美にみやのこと何て言えばいいのかな・・・。みやは我慢するって言ってたから黙ってた方がいいのかな・・・。
うーん・・・。もし千奈美に聞かれたら言えばいいか。

西中ではまだ試合をやっていた。ナイターの照明が白くまぶしい。
千奈美・・・。あ、いたっ。やっぱりすぐに見つけられる。
そっと校門を入り、サッカー部員が集まっているところから少し離れた所にある花壇の前に立つ。
かっこいいなぁ・・・。走るたびに揺れる髪の毛。寒いのにいっぱいかいている汗で額が光っている。
しなやかに動く均整の取れた体。長い脚。細い腕。
ふと千奈美がこちらを向いた。気づいてくれた・・・!
嬉しくって手をぶんぶん振る。千奈美もにっこり笑って小さく手を振ってくれる。
「千奈美ぃー!そっち行ったよー!」
「えっ・・・?」
千奈美に渡されたパスを相手にカットされた・・・。うう・・・ごめんねちぃ・・・私が手なんて振っちゃったから・・・。

「気をつけー!礼!」
「ありがとうございましたぁー!」
皆がそれぞれの場所に戻っていく。監督を囲んでミーティング。
あ・・・千奈美が怒られてる・・・。
佐紀は悲しくて少し涙目になって俯く。
「よーし、解散!」
「ありがとうございましたー!」
選手たちがそれぞれの荷物の置いてある場所に移動する。
佐紀はなかなか近づくことができずにもじもじしている。
千奈美が・・・にこにこしながら走ってくる・・・。

「佐紀ちゃぁん!どうしたの?いるとは思わなかったよー!」
「ご・・・ごめんなさ・・・い・・・。迷惑だった・・・?」
まだ涙目の佐紀。口を尖らせたまま上目遣いで千奈美を見る。
「もー!なに言ってんの。嬉しいに決まってんじゃん!」
「だって・・・私のせいで監督に怒られて・・・ごめん・・・なさい・・・。」
「違うよー!全然違うことで注意されてただけっ。」
「ホント・・・?」
「うんっ。あー!喉かわいたぁー!」
佐紀の顔がぱぁっと明るくなる。
「わ、私飲み物用意してきたんだっ。あとタオルもっ。」
バッグから飲み物とタオルを取り出す。
「あー、このバッグ可愛いー♪佐紀ちゃんこんなの持ってたっけ?」
微妙に鋭い千奈美。
「あ・・・今日みやにプレゼントでもらったの。あとね、みやの手作りのクッキーもあるんだよ?」
早速タオルで顔と髪を拭く千奈美。
「あ・・・タオル・・・汚れちゃうけど・・・いいの?」
「いいのー。そのために持ってきたんだからぁ。」
「えへっ。ありまと。」
「じゃ飲み物を・・・。」
蓋を開けて注ぐ佐紀。なんか湯気がいっぱいたってる・・・。あ・・・熱いかな・・・。
「いただきまーす♪」
ずずっ。
「・・・。」
「あ・・・熱かっ・・・た?」
「うん・・・ちょっとだけ・・・。でもっ。大丈夫だよ?すごくおいしいー!疲れた体にこの甘みと酸味が・・・きくぅー!」
小躍りしてる千奈美。えへ・・・よかった・・・。

ふと何かを感じた佐紀。恐る恐る左方向を見る。
他の生徒がみんな着替え終わってバッグを持ったまま二人の近くまで来てにやにやしている・・・。
「あ・・・すみません・・・。」
佐紀がちょこんと頭を下げる。
みんなのにやにやが大きくなる。
「バイバーイちなー。」
「また明日ねー。」
「なんか・・・えー?千奈美・・・えー?」
「じゃーねー。あー!なんかアツいなー!」
「がんばれ千奈夫!」
みんなが口々に声を掛けていく。
恥ずかしすぎて真っ赤になって俯く佐紀。
「もー!いいから早く帰んなさいよあんたたちー!」
「『清水先輩』さよならー♪」

千奈美がジャージとベンチコートを着るのを待っている間も佐紀はまだ照れていた。
『清水先輩』って・・・なんで私の名前を・・・。
「おまたせー佐紀ちゃーん!」
「あ・・・うん・・・。ねぇ・・・ちぃ・・・。」
「んー?」
二人で寄り添って歩く。
「さっき・・・『清水先輩』って言ってた子が・・・。」
「あー・・・。」
千奈美が顔を赤くしながら言う。
「だってさぁ、佐紀ちゃんさぁ、いつも練習みてたじゃん?」
「うん。」
「みんな気づいててさぁ、『あれって誰のこと見てるんだろう』って・・・。」
「え・・・えぇぇぇぇ?!」
「でさ、ちぃが活躍した時に佐紀ちゃん喜んでるのもバレバレで・・・。」
「あばばば・・・。」
「『ちなー、知ってる人?』って聞かれて・・・。」
「い・・・言っちゃった・・・の?」
「言ってないけどー!・・・私が『清水・・・佐紀ちゃん』って言った時の顔が
真っ赤でー・・・。」
「あうあうあう・・・。」
「みんなに凄く冷やかされて・・・ムキになったら『確定じゃん』って・・・。」
「バレちゃったんだ・・・。」
「うん・・・。」
「うう・・・恥ずかしすぎてもう練習みられない・・・。」
「でもみんな・・・誰も変に思わないで応援してくれるって・・・。」
「ホント・・・?」
「うん・・・。」
「でも・・・やっぱ恥ずかしいよぅ・・・。」
顔から火が出そうってこのことなのかな・・・顔が熱い・・・。

家に向かう途中の小さな公園に寄ってみる。初めて来た公園。入って見ると・・・。
ブランコと滑り台、小さい鉄棒。木でできたベンチが一つ。茂みに隠れて通りからはまったく見えない。
「こんな静かなところあったんだねー。」
「ほんとだー。気づかなかった。」
ベンチに並んで腰掛ける佐紀と千奈美。普通に座っただけなのに自然にぴったりとくっつく。
バッグからまたレモネードを出して注ぐ。湯気をたてながら両手でもってちょっとずつ飲む千奈美。
「あったかーい。おいしーい。」
吐く息がいつもよりも白い。
「あ・・・みやの作ったクッキー・・・食べる・・・?」
「うんっ。食べるー!」
可愛くラッピングされたビニールを開けて食べてみる。しっとりした柔らかめの甘さ控えめのクッキー。
「お・・・おいしぃぃぃぃ!」
「ホントだ・・・上手・・・。」
みや・・・ずるいな・・・。あんなに美人でクッキーも焼くの上手だなんて・・・。私なんて全然できないのに・・・。

「ねぇ・・・佐紀ちゃん。」
「な・・・何?」
「みや・・・なんか言ってなかっ・・・た?」
「うん・・・言ってた・・・けど・・・。」
「けど・・・?」
「あの・・・その・・・。」
「・・・言いづらかったら・・・言わなくてもいいよ?」
「ちぃ・・・。」
「ちぃね・・・例え誰が相手でも絶対負けたくない。誰が来ても佐紀ちゃんは渡さない。絶対に離さないっ・・・。」
「例えそれが親友のみやでも・・・。」
「いやあのその・・・私じゃなくて千奈美の事を・・・。」
「・・・へっ?」
しまった・・・言わなきゃよかった・・・。
「ちょっと待って佐紀ちゃん・・・。いま私の事を・・・って・・・。」
しかたなく今日あったことを千奈美に話す。
暫く流れる無言の時間・・・。千奈美はじっと下を見たまま動かない・・・。
どうしよう・・・千奈美が気分悪くしちゃったりしたら・・・。ううん、私なんかよりずっと美人でクッキーもうまく焼けるみやの方がどう考えたって上だもん・・・同じクラスだし・・・。やだ・・・。千奈美がみやにとられちゃったりしたら・・・。そんなの絶対やだっ・・・!
「佐紀ちゃん・・・。」
「は・・・はいっ!」
既に泣いている佐紀。
「・・・なに泣いてんの・・・。」
「だっ・・・だって・・・千奈美がみやに・・・とられたりしたら・・・うっ・・・ひっく・・・。」
すごく・・・優しい顔の千奈美。私の大好きな、少し細めた優しい目・・・。
そっと・・・抱きしめられる。
「さっきも言ったでしょ?ちぃは・・・佐紀ちゃんが大好きなの。佐紀ちゃんだけが大好きなの。誰よりも、一番。」
「う・・・ちぃ・・・ひっく・・・。」
「・・・佐紀ちゃんはどうなの・・・?」
「やだ・・・やだよぅ・・・絶対やだぁ・・・どこにも行かないで・・・ずっと一緒にいてよぅ・・・。」
「ばか・・・佐紀ちゃんはちぃの半分なんだよ・・・?絶対離れられないんだよ・・・。」
耳元で囁かれる千奈美の優しい・・・甘い声。体に染みてくる・・・。
「私、徳永千奈美は、あなたの事が大好きです。あなただけが大好きです。」
「えへ・・・こないだと逆になっちゃったね・・・。」
もう涙は止まっている。きっと私いま・・・すごい幸せそうな顔してる・・・。こうして目を閉じているとここが二人だけの特別な空間に感じる・・・。
ちゅ。
「えへ・・・。」
ちゅっ。
「ふふ・・・。」
「佐紀ちゃんは甘えっこだなぁ・・・。これから『佐紀』って呼んじゃうよ?」
「えへっ。いいよ?呼んで・・・。」
「・・・佐紀・・・。」
「・・・。」
「やっぱり何か変・・・。」
「うん・・・。」
「やっぱり今まで通り佐紀ちゃんって呼ぶ・・・。」
「・・・なんか残念な気もする。」
「じゃあ・・・特別な時にだけ・・・呼んじゃおうかな・・・。」
「うん・・・そうして・・・。」

「ねぇ、ちぃ・・・。」
「ん・・・?」
「明日から・・・みやと普通に・・・できる?」
「まあ・・・なるようになるよ。」
「そうだよね・・・今からあれこれ考えてもしかたないか・・・。」
「うん・・・。」
「えへっ・・・あったかい・・・。」
「ずっと・・・くっついていたいな・・・。」
でも時間がない。早く帰らないと二人とも怒られちゃう。
「帰ろっか・・・。」
「そだね、また明日もあるもんね。」
「手・・・繋いでかえろ?」
「うん・・・。」

また明日・・・。なんてことない言葉なんだけど嬉しいな・・・。




つづかせる。

コメント(6)

ああああああ、もうたまらんっ!!!!!1

風呂上りに全裸で悶えてたら親に見られた(ノ∀`)wwww

さきと、みやのやり取りが凄く純粋で好きです(*´д`)
みやびちゃん・・・なんて健気な子なんだ・゜・(ノД`)・゜・。
>ぬこさん

風呂上りに全裸で正座して悶えるなんて変態紳士の鑑です(ノ∀`)シクシク
多分漏れの精神年齢は小学生のまま止まってるからアダルトなやり取りが書けないのれす(ノ∀`)シクシク
>やかんさん

多分にびちゃんにはこうあってほしいみたいな含まれてます。・゚・(ノД`)・゚・。
漏れの中ではキッズはみんな純粋すぎるくらい純粋なんです(ノД`)シクシク
>じみ〜ぴぇじさん

ホントは雅ちゃんの出番はもっといっぱいあって台詞も多かったんですけどどうしても「みやちな」でくっついてしまいそうになって(ノД`)シクシク
びちゃんは後ほどりたことくっつく予定です(*´艸`)

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