妄想・特撮シリーズコミュの第五話・その二

　結城隊員が、作戦室でボソッと言った。
「どっかのテレビに出てないですか」
　坂田隊員が続いた。
「そんなことどーでもいいだろ。さっさとパトロールに行って来い」
　副隊長の山中が怒鳴った。
「でも、彼女がいないと、なんとなくつまらないわよね」
　普段は、綾乃隊員が座っている、レーダー監視担当の席に替わりにいる
美川隊員が言った。
「だいたい、ネオ・マットにアイドルなんて要らないんだよ」
「そんなこと言って、副隊長だって、アヤピョンのサインを持ってるじゃないですか」
「アレは、友達に頼まれてもらったんだよ」
「そんなこといって、実は、隠れファンなんですか」
「バカもん。いいから、パトロールに行って来い」
　山中が怒ると、坂田と結城隊員は、急いで作戦室を出て行った。
「サインか・・・私ももらっておこうかな」
「隊長まで、何を言ってるんですか」
　山中は、呆れて南に言った。
パトロールに出た二人は、いつものように巡回ルートに従ってポインターを走らせる。
特に異常もなく、普段通りにパトロールしていた。
「そこで止めろ」
　結城隊員が言うので、坂田隊員がブレーキを踏んで、ポインターを止める。
「アレ、見ろ」
　結城が指を刺すと、電気屋のたくさんあるテレビに、綾乃隊員が映っていた。
「派手な服を着てるなぁ・・・・」
「アイドルだから」
　そのテレビは、昼間のワイドショーの特集だった。
大勢のファンを従えて、ミニコンサートをしているアヤピョンの姿だった。
「やってられんな」
　そういうと、結城は坂田隊員にポインターを出すように言った。

　東京から始まって、日本縦断コンサートも無事に閉幕して、残るはマニアの聖地
秋葉原での路上ライブとサイン会である。
　綾乃隊員は、ホテルの部屋を借りて、そこで休んでいる。
明日は最終日とあって、早めに就寝した。
　その日の夜中、東京は珍しく雲もなく、空には星がいくつも見えた。
その星の中の一つが、きらりと光ると、地上に落ちていった。
落ちたのは、流れ星の一つと考えて、ネオ・マットはもちろん、気象庁や
観測センターも特に注意をしなかった。
　それが、小型円盤に乗ってやってきた、宇宙人だとは、まだ誰も気がつかない。
また、同じ時刻、感じるほどではない小地震が起きた。
これも、臨時速報で伝えるほどではないので、地震観測所も警戒しなかった。
　だが、その地震でできた割れ目から、怪獣が現れたのである。

しかし、ネオ・マットのレーダーに映るほどの大きな怪獣ではなかったのと
現れたのが夜中だったので、目撃者がいなかったので、それを確認できなかった。
　そして、朝を迎える。ホテル前には、アヤピョンを一目見ようと
多数のファンが押し寄せていた。
ホテルの警備員がそれを必死に止めている。
　そこにマネージャーの上野がやってきた。
「外はすごいよ。今日もバッチリ盛り上がっちゃうね」
「でも、騒ぎすぎじゃないかしら」
「これくらいがちょうどいいの。それじゃ、着替えたらロビーに着てね」
　そういって、軽い調子で部屋を出て行った。
とりあえず、衣装をバッグに入れて、ジーパンとＴシャツに着替えて
ロビーに下りる。その途中のガラス張りのエレベーターに乗っていると
下にいるファンが見えたので、軽く手を振って見る。
　すると、さらにファンが大騒ぎして、ついには収拾がつかなくなる。
「ちょっと、何したの。外で大騒ぎだよ」
「軽く手を振っただけよ」
「まずいよ。ホテルに迷惑がかかるじゃないか」
「じゃ、どうすればいいのよ」
　そういわれた、上野は、少し考えるとこういった。
「外には、三十人くらいいるみたいだから、外で即席サイン会しなさい」
「えーっ、ここで・・・・」
「アンタが手を振ったから悪いんでしょ。自分で責任を取りなさい」
　そういうと、警備員に話しかけて、ホテルの玄関の外ならと言う許可をもらって
その場で即席サイン会が始まった。
「あたし、まだ、朝ごはんを食べてないんだけどなぁ」
「アイドルが何を言ってんの。これが終わったら、好きなだけ食べていいから」
　そういわれて、アヤピョンは、私服姿で玄関から出てきた。
熱狂的なファンが押し寄せる。アヤピョンは、ファンに笑顔でこういった。
「皆さん、朝からありがとうございます。サインするので、並んでください」
　さすがにアヤピョンのファンは、礼儀正しいのか、素直に言うことを聞いて、
並び始めた。しかし、その長蛇の列は、まだまだ終わらないのである。