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音楽書を読み込もう!コミュの「音楽のある知的生活」

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渡辺昇一、渡辺玄一著『音楽のある知的生活』(PHPエル新書)を紹介します。

この本は、英文学者として有名な渡辺昇一氏とその子息でありチェロ奏者である渡辺玄一氏とが交互に章を受け持って執筆している本です。子息の玄一氏の担当した部分から1箇所、引用によってご紹介します。

玄一氏のジュリアード音楽院での体験談。同氏は生徒に「美しい音で弾く」ということを徹底して教えているハーヴィ・シャピロというチェロの先生のレッスン風景を描いた部分です。ここを読むと音楽の原点が何かを新たにする思いです。

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ぼくは初めて彼のクラスをのぞいたときのことをよく覚えている。夜に開かれたクラスだったが、電気スタンド一つしかつけていないうす暗い部屋の奥に、彼は多くの生徒たちに囲まれて”雷神ユピテル”のように座って、八十歳を過ぎているとは信じられないくらい太く強い声で、生徒を怒鳴りつけていた。
噂にはきいていたが、その迫力に圧倒された。昔通っていた柔道の道場なんてものではなかった。緊張の極に達して、ほとんど何もできなくなっている生徒たちに業を煮やした彼は、やおら自らのチェロを弾き出す。そしてぼくに衝撃が走る。その音の美しさ、高貴さ、そしてフレーズの目の覚めるような確かさ。
「おれは信じられない!信じられないぞ!!(Just I can't belive this!!)くそったれ。お前は不感症で、お前の音は意味がないんだ。何回言ったらその糞みたいな弾き方をやめるんだ!!そうだ、お前、おれをからかっているんだろ!?(You are making fun of me, aren't you!?)だからそうやってわざと何回も同じことをしてみせるんだろう。そうだと答えろ。すぐにこの部屋から叩き出してやるから!!(I'll kick you out!!」
「すみません(I'm sorry.)」
と生徒が謝ると、
「謝るんじゃねえ!(Don't be sorry!)いいからこういうふうに弾いてみろ(Play like this!)」
そして彼が再びリウマチで異様な形になった指で楽器を引き出すと、優雅で確かな音楽が部屋中に溢れる。ぼくは不覚にも涙をこぼしそうになった。一体なんだ、この人は。痺れるような感動と、畏怖を伴った衝撃で、ただ呆然と立ちつくした。(82〜83ページ)

(中略)

彼がレッスンで最も大切にしたのは、まず音そのものであった。いかにトーン(色彩)のある音を出すかに全身全霊を傾けさせた。そのことは一貫してゆるぎがなかった。意味のない、美しさを伴わない音を一音でも出すと怒声が飛んだ。人によっては楽譜の最初の二段を進むのに半年かかったし、ぼくなども一回のレッスンで二小節しかできないこともざらであった。
音楽をやっていると、音楽とはどうあるべきか、この曲はどう弾くべきかという議論に埋没しやすい。本当はどのような音を出すかということが演奏する上で最も重要なことなのに、シャピロー先生から見ると、すごくおざなりにされているように見えるのだろう。(86ページ)
−−

こういう信念をもったレッスンを生徒にしようと思ったら相当音そのものを研究した技術と実績がないとだめでしょうね。生徒に向かって「お前の音など糞なのだ」と言い切るゆるぎない自信には脱帽です。

しかしこの玄一氏の記述にあるように、そのシャピロー先生が模範演奏を示すと、「不覚にも涙が出そうになる」ほど感動的な音だということです。生徒の立場からすれば、たしかに怖い先生ということになりますが、こういうレッスンの経験を積むことによって、「楽音(がくおん)」とはどういうものかということをしっかりと身体にしみこませることができるのではないでしょうか。

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