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競馬・ダメ予想家のダメダメ理論コミュの東京優駿【1】/結論

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行きつけの居酒屋が暖簾を下ろしてから、今日で7日がすぎた。
毎夜、新しい隠れ家を求めて町を歩き回っているが、明日もここへ帰ってきたいと思えるほどの店にはまだ出会えていない。
それほど期待せず、今日も一軒のバーに足を運んだ。

店内は狭く、8人ほどが座れるカウンター席があるだけ。
すでに2人の先客があり、一人はスマホをいじりながらグラスを傾け、もう一人は静かに葉巻を楽しんでいる。

私は一番端の席に腰を下ろし、マスターに水割りを注文すると、カウンターに競馬新聞を広げた。
仕事を終えたあと、静かな空間で酒を飲みながら、こいつを読むのが何よりの楽しみなのだ。

『競馬ですか?』

水割りを作りながら、マスターが訊いてきた。

『はい。これしか楽しみがなくて』

『いいじゃないですか』

『マスター、競馬は?』

『私はやりませんが・・・どうぞ』

いったん言葉を切って、マスターは水割りを差し出した。

『競馬好きのお客様は、たまにいらっしゃいます』

『そうですか。今週はダービーなんですよ』

『名前は聞いたことあります』

『競馬に関わる人は、みんなダービーを勝つのが夢なんです。ダービーを勝てたら騎手を辞めてもいい、なんて言うジョッキーもいますからね』

『オリンピックとか、ワールドカップみたいなものですか?』

『うーん・・・ちょっと違うかな。まだデビューして1年も経ってない、3歳馬の頂点を決めるレースなんですけどね』

『と言うと、新人王決定戦でしょうか?』

『まぁ、そうなんですけど、ダービーは単なる新人王決定戦ではなくて・・・。何て言ったらいいかなぁ・・・』

もどかしげに天を仰ぐと、天窓から月がこちらを眺めていた。
葉巻の煙が、月の視線をぼやけさせる。

『詳しいことは分かりませんが、どういうレースなのかは何となく伝わってきますよ』

『本当ですか?』

『えぇ。競馬好きのお客様がダービーのことを語られると、決まって皆さん楽しそうな顔をされますから』

『そうなんだよねぇ。ダービーは何て言うか、特別なんだよね』

『お客様は特に楽しそうな顔をされるので、何だか私も馬券を買いたくなってきます』

何ともいえない笑顔で、マスターが云った。
風に乗って、たまに鼻をくすぐってくる葉巻の薫りが心地いい。

『それは嬉しいな。マスター今まで馬券は?』

『一度も買ったことありません』

『人生初の馬券がダービーだなんて、こんな素晴らしいことはないよ』

『ただ、私は競馬のことが何も分からないので、どの馬を買えばいいのか教えて頂けますか?』

『もちろん。その前に、水割りのおかわりをもらえるかな?』

『かしこまりました』

水割りを作るマスターの背中に、私は弾んだ声を投げかける。

『今年はドゥラメンテっていう、強い馬がいてねぇ・・・』

この日、新しい行きつけの店ができた。
この年になっても心が躍る。
やっぱり、ダービーは最高だ。

※この物語はフィクションです。文中の『私』はノブ屋ではありません。



■結論

『マスター、決まった?』

すっかり酔った私は、グラスを磨きながら新聞を眺めるマスターに云った。
気付けば、この席に腰かけてから、4時間が経とうとしている。
もう店内には、私とマスターしかいない。

『難しいですね。あれこれと考えているうちに、どの馬も走りそうな気がしてきました』

『でしょ? でも、この時間が楽しいんだよね』

しばらく新聞に目を奪われていたマスターが、静かに口を開く。

『福永さんはどんな騎手なんですか?』

『さすがマスター、いいところに目をつけるね』

溶けた氷ですっかり薄まってしまった水割りを口に含み、いったん喉を潤してから私は続けた。

『ユーイチは・・・あ、福永の下の名前がユーイチっていうんだけどね。ユーイチの親父さんも騎手をやっててね、現役時代は天才って呼ばれてたらしいよ』

『そうなんですか。では、福永さんもずいぶんと苦労されたでしょうね』

『どうして?』

『偉大な父を持つと、たいてい息子さんは比較されてしまうでしょう?』

『そうかもしれないね。ユーイチは何て言うか、どうもワンパンチ足りない騎手でさ。いつでも平均点以上の成績は残すんだけど、突き抜けるような何かがない。トヨタの車みたいな騎手なんだよ』

マスターの顔がほころぶ。
これまでの会話の中から、マスターが車好きだということを知った。下手な私の例えが伝わったようで何よりだ。
気をよくした私は、さらに声を弾ませる。

『親父さんは現役時代にダービーを勝てなかったから、ユーイチもダービーに対する想いは人一倍強いだろうけどね』

『福永さんはまだダービーを?』

『勝ってない。あと少しで手が届くってときは何度かあったけど、そのあと少しを埋める何かが足りないんだろうなぁ』

天窓を見上げると、いつの間にか月はそこから姿を消していた。
ユーイチの父が常識はずれな騎乗で天才の名を欲しいままにしていたこと、さらに落馬事故で騎手生命を絶たれてしまったことを、マスターに話す。

『でもユーイチは、親父さんのことも競馬のことも愛してるからね。競馬を盛り上げるために、単なる一騎手の枠を超えて頑張ってるよ』

『応援したくなりますね』

『うん。ユーイチがダービーを勝つときは、その単勝馬券を持っていたいと思うね』

やや間があって、マスターの瞳が輝いた。

『では、私はそれにします』

『ユーイチ?』

『馬券をお願いしてもよろしいですか?』

そう言って、マスターが財布から差し出したのは、5枚の一万円札だった。

『こんなに買うの?』

『ご覧の通り、私は商売がギャンブルみたいなものですから、賭け事はしないことにしてるんです。ただ、今回はお客様の話術にすっかり魅せられました』

『俺のせい? 外れても責任とれないよ?』

『もちろんです。これが最初で最後の馬券ですから』

『言ってなかったけど、最近のダービーは外枠が全然勝ててないんだよ。だからこんな大金を賭けるのはリスクが大きすぎる』

何も言わず、マスターは涼やかな笑顔で返した。

『本当にいいんだね?』

『お願いします。お客様のおかげで、久しぶりに週末に楽しみができました。それに・・・』

いったん間を置いて、マスターは口髭をいじった。

『勝ちそうな気がします』

『ユーイチが?』

『はい』

『マスター、それ完全に気のせいだから。馬券買うヤツはみんなそう思うんだよ』

『そうかもしれませんね』

と言って、マスターは穏やかな顔をさらに崩して見せた。

『恨みっこなしだよ、マスター』

『恨むだなんてとんでもない。お客様のおかげで楽しい時間を頂きました』

『もうそのお客様っていうのやめてよ』

『では、何とお呼びしたら?』

窓から窓へ、やわらかい風が吹き抜けていった。
私はどの馬に夢を託そうか。
今年は、マスターの馬券だけでダービーを楽しむのも悪くない気がする。


※この物語はフィクションです。実在の人物、店とはいっさい関係ありません。

コメント(34)

新シリーズですね!!消さないでくださいよ!
いいなぁ。。。これ。かっこいいウッシッシ  続き読みたいですわウッシッシ
>>[001]

新シリーズというか、何を書いていいのか分からないので、こんなものを書いてしまいました。
ちょっと後悔しています(笑)
>>[002]

結局、閉店まで喋ってたみたいですよ。
マスターがまた聞き上手でね。
>>[003]

続きは、酔っぱらいの適当なうんちくばかりだから、聞いてもつまらないですよ(笑)
>>[4]
ほっといたら消すだろうな、と思って釘をさしました(笑)
止まり木ブルースみたいにシリーズ化希望!!
>>[007]

さすが鋭い!
言われなかったら、たぶん書いた翌朝に消していたでしょう(笑)
>>[008]

ありがとうございます。
毎週だとすぐ飽きられてしまうので(笑)、忘れた頃にまた書いてみたいと思います。
私が忘れてしまいそうですが(笑)
>>[009]

たまにはいいでしょ?
今週はまったく能書きが思い付かず、こういう形で逃げました(笑)
>>[013]

ありがとうございます。
今年はマスターの馬券だけでダービーを楽しむことにしようかな(笑)
自分もリアルスティールです。が、5パーセント上乗せ馬連で(笑)
>>[015]

父とは違い、大舞台で狂気になり切れない福永騎手。
近年、まったく勝ち馬を出していない外枠。
間にスプリングSを挟んだことで、少なくともドゥラメンテよりは皐月賞からの上積みが期待できないローテーション。
1番人気に比べて、ほとんど結果を出せていない2番人気。

あらゆる要素で、リアルスティールは危険な人気馬です。
それでも、買うんですか?(笑)
>>[016] ◎ミッキークイーンでした。普通に血統判断でリアルスティールですよ。馬連でリアルスティール流しです。ディープは全部買います。サトノクラウン、ドゥラメンテ、キタサンブラック、スピリッツミノルまで。馬連千円サトノラーゼン、サトノクラウン、ポルト、キタサンブラック、スピリッツミノル、馬連5千円ドゥラメンテ計10000円です(笑)展開を考えたら買いたいのはキタサンブラックとスピリッツミノルですけどね。
>>[17]

アサクサキングスのときは、確か8枠でしたよね。
まぁ、この人気ではあのときのような積極果敢な競馬はできないでしょうけど。
一瞬の切れ味では、到底ドゥラメンテに適わない。それは前走で十分痛感したと思います。
福永騎手が、この枠からどういう競馬をするのか楽しみですね。
ドゥラメンテの前走は何かにビックリして逃げるようにして走っただけでしょう(笑)草食の馬は被捕食動物なのでビックリしたら全力で走りますよ(笑)ポニーでもビックリしたら全力で凄いスピードでますよ(笑)話によると、ドゥラメンテの内にいた他馬の鞭の音か見せ鞭でビックリしたらしいですよ(笑)ミルコが乗りこなしちゃう可能性はありますが、他馬を気にしすぎる性格の幼さが悪い方向に出たら、簡単に負ける事もあるでしょうから、馬券を考えたら◎リアルスティールしかいませんよ。
マスターは福永祐一に託したんですね!
マスターにとって素晴らしいダービーになるように祈ってます(^-^)v

また、この続きを是非!!
>>[19]

なるほど。
そのあたりの馬の性質の見極めは、ふくうまさんならではですね。
確かに、ドゥラメンテは荒削りなところがあります。
ただ、ディープインパクトにしても、オルフェーヴルにしても、三冠をとるような規格外の馬は、どこか常識では計れないものを持っていると感じるのも事実。
もし、ドゥラメンテがそういう常識外れの馬だったとしたら、それを負かすにはそれ以上の非常識さ、狂気が求められるかもしれません。

皐月賞の後、福永騎手は矢作調教師に、『抜け出して1頭になっても集中して走れるよう、単走で走らせる調教をしたらどうか』と提案したとか。
そして、今回は中間も単走で追い切られていたそうです。
つまり、福永騎手がイメージしている作戦は、そういう競馬なんだと思いました。

まぁ、これは私の馬券ではなく、マスターの馬券なんですけどね(笑)
そしてマスターの50000で馬券を買わずにのんで、話術で金を出させてはのむ『ノブ屋』さんが完成する、という図式ですね?
私は何とお呼びしたらよろしいでしょうか?今日は楽しみましょうexclamation
おいおいマスター、張り付けましたなぁ(笑)

いや、これぞダービー。ノブ屋さんにこんな熱い馬券が買えるなんて(笑)

トヨタ云々には笑いました。確かにそうだ(笑)

がんばれユーイチ!

>>[020]

ありがとうございます。
私もマスターと一緒に、福永騎手の夢に賭けてみようかと思いましたが、他に気になる馬が何頭かいて悩んでいます。
せっかくのダービーですから、ギリギリまで楽しみたいですね。
>>[022]

普通なら、初めて来た客に5万なんか渡しませんよね(笑)
しかし、このノブという方はちゃんと馬券を買ってきた。
それだけマスターに、人を見る目があったということでしょうか(笑)
>>[023]

『宿敵』と書いて、『とも』と呼んで下さい。
今日は思い切り、競馬を楽しみたいですね。
今年も、目黒記念を勝つのは蛯名騎手でしょう。
>>[24]

いやいや、これを買ったのは私ではなく、あくまでマスターですからね(笑)
POG指名馬を応援するため、現地観戦した共同通信杯を勝たれたときから、何となく嫌な予感はしていました。

リアルスティールは、POGでライバルが指名している馬であり、社台グループの馬でもある。
いろいろと素直になれない点もありますが、鞍上が福永騎手なら応援したい。
トピックの文中で、一度も馬の名前を出さなかったのは、私のささやかな抵抗です(笑)
おもしろい!マスターがリアル5万ていう展開も「おっ」て感じでいいですね。止まり木ブルースより面白くなりそうですね。次は「ノブさん」の女がでてくるのかしら。
おもしろい読み物でした。
人間交差にほっこりしました。
>>[029]

ありがとうございます。
今回は何を書いていいか分からず、苦肉の策で書いたものでしたが、意外にもご好評を頂けたので、ほっとしています(笑)
続編が書けるかどうかは分かりませんが、また書くことに困ったら、マスターにご登場願おうかと思います。
>>[030]

ありがとうございます。
競馬予想のコミュとしては、理論も結論も書かない卑怯な切り口ですよね(笑)
JRA免許取得初年度に、ルメール騎手がいきなりダービーを制してもおかしくない今年のダービー。
いよいよゲートが開きますね。ワクワクしてきました。
ドゥラメンテ強かった!わかっていたけど素直になれませんでした。

これでマスターもリベンジせざるを得ないですね(笑)

続編期待してます!
>>[033]

ドゥラメンテは強かったですね。
あの枠順と位置取りから、あそこまで完勝されてしまっては、何も文句は言えません(笑)

久しぶりに派手な馬券で散った、今年の日本ダービー。
唯一の救いは、新シリーズが好評だったことだけです(笑)
また来年のダービーへ向けて、新しい一年が始まりますね。

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