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高木 竜馬:RYOMA TAKAGIコミュの高木竜馬 ピアノリサイタル 楽曲解説 後半

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         セルゲイ・ヴァシリエヴィチ・ラフマニノフ
    (1873 ロシア ノボゴロド 〜 1943 アメリカ ビバリー・ヒルズ)
        幻想小品集より《前奏曲》嬰ハ短調 Op.3-2

 モスクワ音楽院大学院の作曲科を卒業した翌年の1892年に書かれたこの曲は、『幻想小品集』の第2曲として作曲されました。この曲集には《エレジー》《前奏曲》《メロディ》《道化師》《セレナード》の5曲が収められています。ラフマニノフのピアノ曲集で、最初の出版物となったこの曲集の中で、特に嬰ハ短調の《前奏曲》が有名であり、同年に開催されたモスクワでの電気博覧会で初演されて以降、眩いばかりの賞賛と世界的な人気を集めています。首席でモスクワ音楽院ピアノ科を卒業したラフマニノフは(大金メダルを受賞。通例では、金メダルは首席卒業生が受賞しますが、双璧をなしていたラフマニノフとスクリャビンは、どちらも群を抜いて優秀だったため、ラフマニノフが大金メダル、スクリャビンが小金メダルとして、首席を分け合いました)、既にその年に『協奏曲第1番』を作曲しており、作曲科の卒業制作において、歌劇『オレコ』を完成させるなど、演奏家と作曲家の両面から、将来を嘱望される存在でした。

 《鐘》という表題こそ付きませんが、ロシアの正教会やクレムリン宮殿の「鐘」の響きに満ち々々ているこの曲は、ラフマニノフ屈指の名曲として、作曲当初から絶大な人気を誇りました。主調である嬰ハ短調から「ミスター・嬰ハ短調」というあだ名を付けられ、当時のラフマニノフ自身の演奏会では、アンコールでこの曲が取り上げられない限り観客は帰ろうとせず、「嬰ハ短調 !!!」と観客が要求することも少なくありませんでした。アメリカでは「The Bells of Moscow(モスクワの鐘)」と標題が付けられて大流行し、ベルリンの夕暮れ時に家の窓を開けると、そこかしこからこの曲を練習しているピアノの調べが風に乗って聴こえたそうです。街という街の中央広場に必ずそびえる教会。その「鐘」の響きは、西洋の人々にとって、切り離すことの出来ない生の象徴です。それは天からの啓示であり、永遠性を有した無限の時の刻みであり、そして警鐘でもあるのです。「もし、私が作品の中で「鐘」を、人間の感情と共震させることに成功しているとしたら、それは、私が人生の大半をモスクワの「鐘」の響きと共に過ごしたからだ」と語ったラフマニノフの心の原風景が、この曲によって描写され尽くされています。

 嬰ハ短調 3部形式 中間部の流動的な部分を挟んで、主部は ppp による静謐な鐘が、再現部は怒号にも似た fff による「鐘」が響き渡ります。冒頭のユニゾンによる「ラ-ソ♯-ド♯」は全曲を支えるバスラインで、そのおどろおどろしいまでの支えに乗せて、「鐘」を模写した和音群が奏されます。静かなる「鐘」が、しかし確かな存在をもって、私たちの心を支配していきます。中間部は「鐘」の和音群を、流動化させ変形させるラフマニノフの作曲技巧の側面を見ることが出来ます。一歩、また一歩と響きが拡大し発展していくと、fff による和音連打の下降形に移り、『怒りの鐘』へと移行します。形式は前半の主部と全く同じですが、対蹠的な性格を有するこの部分に、ラフマニノフは人間の根源的感情の一つである怒りへの共鳴を込めます。やがて「鐘」の響きは徐々に衰え、7小節間にわたる『孤独の告白』で、無限の刻みを続けようとする「鐘」に対して、ラフマニノフ自身が、万物の有限を告げるかのように終わりの「鐘」を鳴らすと、曲は闇の中に消えてゆくのです。


   アレクサンドル・ニコライエヴィチ・スクリャビン(1872 モスクワ 〜 1915 モスクワ)
            ピアノソナタ 第5番 嬰へ長調 Op.53

                『法悦の詩』抄訳
「私はお前を生へと招く、おお神秘の力よ / 創造の精神の模糊とした深みに沈む
生のおどおどした胎児 /  そのお前に、私はいま大胆さをもたらす」A.N. スクリャビン 佐野光司 訳

 スクリャビンの作品の中でも、最も完成度が高いこのソナタは、初期のロマン派作風と後期の神秘(神智)主義作風の過渡期である中期に書かれました。1907年にスイスのローザンヌにて僅か一週間ほどで書き上げられましたが、その構想は、代表作の『管弦楽のための《法悦の詩》』作品54(仏語:Le Poème de l'extase 英語:The Poem of Ecstasy)と共に、前年のアメリカ演奏旅行中に練られました。このソナタの冒頭にも、スクリャビン自身が作詩した300行にわたる『法悦の詩』の一説が、書き入れられます。

 エクスタシーを、“法悦” とした日本語訳は名訳であり、神と接し神を感じる宗教的現体験の歓びを、作曲家の意図として忠実に汲み取っています。スクリャビンは、その短い43年の人生を懸けて、音楽を神、宗教、宇宙と結びつけようとした作曲家でした。10代の頃から熱心なロシア正教徒で、その姿勢が極致に至るのが、1891年の自ら手を痛めてしまった際の神との対話です。当時のモスクワ音楽院において、ラフマニノフに勝るとも劣らない屈指のピアニストであったスクリャビンですが、手の大きさには恵まれず、その手にそぐわない執拗な猛特訓により、完全なマヒ状態に陥ってしまったのです。当時の手記に記されます「生涯最大の不幸である手の痛み。栄光と名声への限りない渇望と、治る見込みのない障害。人生の価値や、神について想いを巡らす。教会へ通い、熱烈に心から神に祈る。私は、運命に、神に、叫んだのだ」。スクリャビンは生涯を通じて、世界に存在するあまたの宗教を吸収しようとします。そして、1905年に神智学協会設立者である神秘主義思想家ヘレナ・プラヴァッキー女史著作の「神秘への鍵」と出会います。その神智学の教理はスクリャビンを虜にします。神智学が説く「不滅なる永遠性」は、スクリャビンが絶望の淵で邂逅した神そのものと繋がる、唯一の手段だったのです。

  単一楽章で形成されるこのソナタは、ソナタ形式という枠組みの中で、極限まで拡大された見事な形式を誇ります。導入部の、右手にトリル、左手にはトレモロをもつ短9度のマグマが激しく煮えたぎり、最低音部から最高音部まで、まるで太陽を我が手で掴み獲らんとするかの如き飛翔は、一瞬のうちに終わります。Languido=弱々しく、嘆き悲しんで Dolcissimo pp と、優しく甘いながらも倦怠を感じさせるパッセージは、主和音への解決を許されず、また拍子も頻繁に入れ替わり、まるで時の流れが歪んでしまったかのようです。提示部では3つの主要主題が提示されます。属9の和声に合わせて、今後の曲の発展に胸を躍らせるような躍動感に溢れる第1主題、躍動感に力強さと、リズムの厳格さが加わる第2主題、打って変わって静謐で甘い詩情を称える第3主題が奏されると、主題提示の要約の機能を果たすコーダが、第3主題において求めに求められ続けた変ロ長調の主和音を、トランペットの音色によって高らかに謳います。導入部のコンパクトな再現を経て、展開部へと移行します。長大な展開部では、ここまでに登場した動機の数々が、組み合わさり、交じり、火花を散らし、ぶつかり、解れ、まるで錬金術のように変幻自在に姿形を移ろわせます。主題再現部の前では、第3主題を音型こそ残すものの、正反対の性格をもたせ野獣の咆哮の如き力強さで執拗に反復させます。展開部の長さからか、或いは、曲の一番の盛り上がりをもつコーダへの準備からか、再現部はモーツァルトやショパンも用いた下属調によって、不必要に手を加えられず定石通りに再現されます。第3主題が終わると、リズム動機に誘われ、一歩また一歩と頂点へと歩みを進めていき、その後2ページに渡ってミ♭のバスが響き渡り、狂乱と法悦の極地となるコーダを迎えます。展開部前に用いられた要約のコーダが再奏され、突如、冒頭のトレモロによって太陽への飛翔がついに果たされ、曲は突然終わります。


          セルゲイ・ヴァシリエヴィチ・ラフマニノフ
 パガニーニの主題による狂詩曲 作品43より 第18変奏曲 変ニ長調 / 江口 玲 編曲

  極めて甘美なメロディをもつこの曲には、ラフマニノフの『哀しきリリシズム』が存分に詰まっています。1917年にアメリカに亡命後、31年にようやくスイスのルツェルン湖畔に別荘を建てヨーロッパの活動の拠点とするや、次第に創作意欲は復活し、34年には、かの有名なパガニーニのヴァイオリン独奏曲『24の奇想曲』第24番「主題と変奏」を主題とする、オーケストラとピアノのための「狂詩曲」を完成させました。24の変奏曲の中で最も美しく、『グレゴリオ聖歌』のレクイエム「怒りの日」も挿入された「第18変奏」。ピアニストの江口 玲 氏がソロピアノのために編曲したものを、氏の承諾を得て演奏いたします。嵐の前の静けさ。スイスの美しい湖ルツェルンのほとりでの、短いけれど、幸せなひと時です。

  第18変奏 Andante cantabile 変ニ長調 「パガニーニの主題」の反行形をもとに、優美で、そしてどこまでも甘い音楽の世界が広がっていきます。今は亡き祖国への望郷の念と、在りし日の穏やかに幸福だったロシアでの生活。その一コマ一コマが、ラフマニノフの心という心を、巡っているかのようです。


         セルゲイ・ヴァシリエヴィチ・ラフマニノフ
  ピアノソナタ 第2番 変ロ短調 作品36 ホロヴィッツ版 / 山口 雅敏 採譜

 1913年に、大作曲家としてまた偉大なピアニストとしてロシア国内のみならず、世界的な名声を得た40歳の時に作曲されたこの曲は、後期ロマン派の最高傑作の一つに数えられます。この「ソナタ」を作曲する以前に、ラフマニノフは、既に3つの「ピアノ協奏曲」と2つの「交響曲」を書き上げており、後期ロマン派の円熟した作曲手法が、西欧の近代が激しく沸騰する有様を、まるで映画のように伝えています。同年の夏にローマで『合唱交響曲《鐘》』を完成させますが、この「ソナタ」は帰国後に脱稿した分、より濃厚にロシア正教の「鐘」の響きが、強く全曲を支配します。  
 やがて4年後に、ニコライ二世の退位で「ロシア革命」が成立すると、ラフマニノフは、社会主義政権を嫌い、パリを経てアメリカに亡命します。今はもう、跡形さえ無くなってしまったロマノフ王朝の、名門貴族であった少年時代への狂おしいまでのノスタルジーと、社会を根底から覆した革命政権への恐怖とが、熱い筆跡で楽譜に刻み込まれています。 

 この曲において、欠かせないのが版の問題です。初版の1913年版と改訂版の1931年版があり、加えて1943年ホロヴィッツ版等があります。改訂に踏み切った理由は諸説ありますが、ラフマニノフ自身がロシア国内で演奏した際に評価が芳しくなかったこと、余りの演奏難度のために他のピアニストたちが公演で取り上げるのを怖れ躊躇したことで、同調であるショパンの『変ロ短調ソナタ《葬送》』を引き合いに出し『ショパンは、19分だけですべてを表現している』として、自身の作品も26分から19分に短縮しました。しかし、ラフマニノフと深い親交のあった20世紀の大ピアニスト ウラディミール・ホロヴィッツは、その改訂に終始賛同せず、死の床に就くラフマニノフを訪れ、初版と改訂版を折衷した形で公開演奏する許しを、作曲者に申し入れます。ラフマニノフは畏友からのこの申し出を喜んだばかりか、自らの少年時代の古き良き故郷ロシアに思いを馳せ、涙を流したという逸話はあまりにも有名です。この22分の『ホロヴィッツ版』は出版されていませんので、ピアニストの山口雅敏 氏が、ホロヴィッツの演奏から採譜された貴重な版で演奏いたします。

  第1楽章 Allegro agitato 変ロ短調 4/4拍子 自由なソナタ形式  突然、急降下する音形から、曲は荒々しく始まります。この分散下降形の直後に現れる2つの主和音は、1楽章のみならず「循環形式」の2楽章と3楽章においても重要な動機を構成します。第1主題は、まさに混沌とした状態で曲は進みますが、これらは、不気味に進行するロシア革命への戦慄や、近代の危うさへの恐怖なのでしょうか。曲は全く落ち着くことなく、方向の定まらない推進力に支配されます。一転、『グレゴリア聖歌』の「怒りの日」を模した第2主題が、半音階を用いながらノスタルジックな響きで現れ、第1主題と見事なまでの対比を形成します。展開部では、第2主題の展開はしばしば抑制され、第1主題を縦横に突進させ、曲は劇的な盛り上がりを獲得します。再現部で、主題が ff で再現され、曲は悩ましげにコーダへと入っていきます。やがて、『諦観の念』を伴ったかのように第1主題が再奏され、2楽章へ向かいます。

  第2楽章 Non allegro - Lento ホ短調 4/4拍子 3部形式  Non Allegro の、彷徨うかのような短い主題によって始まり、Lento の主部へと移行します。この3楽章の導入部分にも登場する Non Allegro は、現在と過去とを結ぶ「タイムトンネル」の役割を果たしています。過去に戻るや始まる主部は、ラフマニノフの幼少の温かい時を象徴するかのように、慈愛に満ちています。しかし、それはあくまでも現在からの幻想であって、それゆえ主部は、哀しみと切なさに溢れたセピア色の心象風景なのです。主題は、その後徐々に盛り上がりをみせ、やがて悲痛な叫びの ff に変化します。その直後、1楽章第1主題の動機が現れ、社会主義への言い知れぬ恐怖へ変質してしまったロシアの「鐘」が不気味に鳴り響いて、近代の即物的で醜悪な情景への怨嗟が表現されます。左右で異なる頂点をもつ不安定で激しい上昇音形により、それらが消え去ると、主部の主題が、よりセンチメンタルな響きをもって再現され、2楽章は静かに閉じられながら、3楽章冒頭の、あの「タイムトンネル」へアタッカで向かいます。

  第3楽章 Non allegro - L`istesso tempo Allegro molto 変ロ長調 3/4拍子 自由なソナタ形式 「タイムトンネル」を抜けて、現在に戻るや否や、突然 ff の Allegro molto が鳴り響きます。それは、1楽章の第1主題の展開した「循環主題」であり、なおかつ、変ロ長調に明転した高らかな響きです。やがて、第2主題が厚みのある和声に守られながら朗々と展開し、その後は「循環主題」が荒々しく再現されます。この再現部で、再現と展開と発展が執拗に繰り返された後、ついに第2主題による『歓喜の歌』が誇りをもって歌われます。コーダは絢爛と豪華を極め、この曲の最後に相応しいホロヴィッツの加筆によって、更に一層の派手やかさを増しながら、全曲はついに大団円を迎えます。

 ※ 本楽曲解説中、誤りや勉強不足の点がありましたら、ご指導下さいますようお願い申し上げます。                            piano.ryoma@gmail.com 高木 竜馬

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