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糸瀬茂コミュの公立大学が私立大学に引き離されてしまう理由(2000.04.3)

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公立大学が私立大学に引き離されてしまう理由(2000.04.3) 

仙台に来て3年になるが、どうもこの街は楽しくない。例えば、美味しい魚が食べたくなったとする。言うまでもなく、仙台は活きの良い魚介類に恵まれている。そこで私は、よそ者の常道として、一流ホテルのバーに行き、バーテンダーに、「どこか魚の美味しい割烹を教えて欲しい」と聞く。バーテンダーは、2、3件を私に紹介し、その内の、(私の好みに合いそうな)1件に予約を入れてくれる。出かけてみると、確かに魚は美味しい。しかし、それだけなのだ。材料が新鮮・上質というだけで、調理の腕やセンス、店の造り、サービス、店主・従業員の会話センス、客自身が創り出す店の雰囲気や格、等々、どれをとっても見事に普通なのだ。

魚(和食)の場合は、まだ良い方だ。少なくとも、これと「同様の失敗」を数回繰り返すだけの「選択肢」がまだ存在しているからだ。ところが、フランス料理が食べたくなった時などは、悲惨だ。フランス料理で一流と「言われて」いるのは、あるホテルのレストランと、某酒蔵が経営するレストランだが、これらの店でも、味・雰囲気・サービスは、せいぜい二つ星程度でしかない(注)。美味しい店とは、素材、腕、雰囲気、サービス、価格等の「総体」としての満足感のことであり、それは街の魅力を凝縮したものだと思うのだが、そうした満足感が得られる店がほぼ皆無なのである。

さて先日、あるバーで、「仙台は退屈な町だね」と愚痴をこぼしていたところ、となりに座っていたホステスが、「当たり前よ。だって仙台の男性の精子の数は、博多の男性の10分の1なんだもの」と囁いた。この一言で、すべての謎が解けた気がした。「だから」この町に住む人たちの欲求、欲望、そしてその実現願望は希薄なのか、と。

そんな仙台で、まことにがっかりする事件が私の身に起きた。ある外資系企業が、私に「アドバイザーにならないか」と打診してきた。金融論という、マーケットから離れてしまっては空論でしかない分野を専門とする者にとっては、「現場」に片足を突っ込むことは、願ったり叶ったりであるし、研究・教育へのフィードバック効果も絶大だ。そこで、報酬の多寡は二の次で、早速、大学の設置者である宮城県に許可を求めた。元一橋大学教授の中谷巌氏のソニー社外取締役就任を人事院が認めず、世論の批判を浴びるという事例があったばかりだったから、さすがに県も前向きに対応するだろうと高を括っていた。

ところが、県の回答は見事に私の期待を裏切った。「無報酬であり、有給休暇を適用するのであれば認めてもよい」というのがその回答だった。これでは、「認められない」という返事に等しい。しかもその理由は、「外で金を稼いでもらうと具合が悪い」というものである。そこで、「なぜ具合が悪いのか」と尋ねると、「他の教員の手前云々」という返事で説得的な説明はなされない。県のこうした見解の背景には、現代金融は、(歴史や文学などの分野と異なり)限りなく理系に近い社会科学分野であるという認識も、存在していない。

学外の活動に対する県の対応に関してついでに述べておくと、外部で講演の際はもちろん、政府関連の審議会や研究会等にも「職務専念義務免除申請書」や「営利企業等従事許可申請書」といった書類を提出するか、有給の適用を受けてからでないと出席できないというのが、県の「常識」となっている。こんなことでは、公立大学の教員は、ドッグイヤーと形容される時代に、市場の変化から完全に取り残されてしまうし、民間と活発に交流する私立大学の教員に完全に水をあけられてしまう。当然、教員の任期制や(公立大学の)財政的独立といった発想も、こうした風土からは生まれてこない。

これで、学生の存在を除けば、私を仙台につなぎとめる絆はなくなった。すでにワイフと娘が仙台に愛想を尽かして東京に戻った今、私自身もひたすら東京に戻れる日を待ち侘びるしかないということか。


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