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記憶のなかの棄物コミュの巡る水ー佐倉・太田の湧き水

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 巡る水−佐倉・太田の湧き水(朗読用テキスト)
 
 研生英午(みがきえいご)

  湧き水のある処

 目の前に、水を湛えた水田が広がっている。
 この季節の水田は、巨きな水鏡のように、
 青空を映し撮り、金色のきらめきを放っている。
 ひかりの絨毯の上を、白い羽を広げ、ふわりと、舞い降りてくる水鳥。
 赤く長い嘴で、水田の面をつつきながら、虫を食べている。 
 水田の向こうには、若葉色の里山が、
 やさしく水田を包み、静かに見守っているようだ。
 里山も辺りの緑も、雨の恵みをたっぷりと染み込ませ、潤っている。
 里山の向こうには、太田の集落があり、
 台地から鹿島川沿いに広がる水田へと、湧き水が流れ出ている。
 透きとおった水面から、てのひらで清水を掬い、口に含む。
 口のなかで広がる冷たい感触と甘さが、鈴の音のように転がった。

  凛々、凛々、リンリンリリーン
  凛々、凛々、リンリンリリーン

 堰の上の地に、流れ出る太田の湧き水。
 水量が豊かで、昔からこの一帯の水田の守り神だったのだろう。
 湧き水が流れ出る小川では、村の農家のお上さんたちが、
 炊事や洗濯をして会話を弾ませていたはずだ。
 お上さんたちの明るい声が、小鳥のさえずりと交じわるようだ。
 きっと、この湧き水は暮らしの大切な拠り所だったのだろう。 
 湧き水の回りにはいまでも小川沿いにクレソンが群生し、
 春のひかりを反射して、いく粒もの澄んだひかりと仄かな香りを、
 五月晴れとなった辺りの空気に、漂わせている。


  水の巡り

 太田の湧き水は、いまでも、渾渾と流れ出ている。
 でもそこに集う人たちはいない。
 いまでは、農業用水や水道が整備され、
 湧き水を利用する人はいなくなった。
 地域の湧き水のなかには、
 枯れたところや汚染がすすんでいるところもある。
 工場の汲み上げる用水や商業施設、住宅の開発等が、
 地下の水脈を断つこともある。
 土に染み込む生活排水や産業廃棄物の汚水、
 大量に使用される農薬が地下水を汚染することもある。 
 便利になり、豊かになった暮らしの傍らで、
 自然の水の巡りが狂い始めている。
 飲み水は水道の水さえ危うくなり、
 ペットボトルで売られるのが、当たり前になった。
 ペットボトルはゴミとなり、暮らしのなかに溢れ出す。 
 ぼくたちの暮らしの悪循環が、
 水の惑星である地球の環境を壊している。

 湧き水は砂漠では緑のオアシスをつくる。
 沖縄のように、河川が少ないところでは、
 昔から湧き水は暮らしの大切な資源だった。
 木々の緑や草花、人の命も、みんな水のお陰だ。
 もう一度、自然の水の巡りの大切さを、思い出そう。
 湧き水の有り難さを、ぼくたちの暮らしに、取り戻そう。

  凛々、凛々、リンリンリリーン
  凛々、凛々、リンリンリリーン

 太田の湧き水は、いまでも渾渾と、流れ出ている。



  巡る水


 水田の畔道走る子らの声      

 水と緑 野に弾む野良唄と     


 風 流る  雨 走る       

 野カンゾウのもと水のおと     


 春の水あふれ光をすくうてのひら  

 竹林に染み入る五月雨 波音のごと  


 里山より湧き水流れ水の菩薩    

 台地より水人の暮らしより紅鬼灯  


 水と陽と やがて一面金色の稲田  

 清流 冬から春への観音様      


 里は淡紅いろ ほっ桃の息吹    

 花は野の星 立ち昇る水煙   


  凛々、凛々、リンリンリリーン
  凛々、凛々、リンリンリリーン

 太田の湧き水は、いまでも渾渾と流れ出ている。
 流れ出て、巡っている。
 空と大地と人の暮らしを繋ぎながら、
 渾渾と流れ続けている。

コメント(2)

はじめのモノクロ写真は甲斐カオンさんが撮影したものを転載させてもらいました。

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