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記憶のなかの棄物コミュの謎(スフィンクス)の黒い食事

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 謎(スフィンクス)の黒い食事


 研生英午(みがきえいご)


 1.
 深夜の食卓(テーブル)のうえで
 唸りながら光りだす 巨きな白桃
 その滑らかなスロープつたい
 爪先立ちに練り歩く 金泥の象形文字
 あるときそれは濡れた翼で現れる
 暗い古代の木乃伊の眼で
 書物の断崖から投身
 ふいにこの夜の海浜に 
 溺死体で浮きあがる
 灰いろの犀の背を
 寝台がわりに揺られながら

 2.
 黒い食器の軋り音に
 急に膨れる 夜の沈黙
 夜が奇妙な生命を孕むとき
 胎児が泡で 泡が白桃
 皿の汀に肌を沈め
 貴婦人の顔で笑う白桃
 影のなかの影に追われ
 歪んだままに 夢踏み吃る発声法で
 バラバラに くノ字舞踊(ダンス)
 白桃の薄い表皮に ゆっくりひろがる生の腐蝕
 夜が渇くまで
 血が起き上がるまで 殴打する
 患部のような文字の地形を その蒼い面を
 淫祠ににた手のない悪癖
 くりかえし叩いては
 薄明の星空に
 薄命の深海魚を解き放つ
 めくるめく鏡の水紋から
 柔らかい果肉の内へ
 骨の樹きらめく貝塚へ
 独りだけの夜間遊泳
 
 3.
 卓上に並べられた
 コップや灰皿
 肉の破片
 革表紙の本の類
 温室づくりの果実など
 等しくそれらは食卓(テーブル)の水中の奥ふかくに
 自らの機能を捨てて
 石化したまま 立っている
 眼の高さに位置した地点を
 限りなく侵蝕しながら
 
 4.
 卓上の日時計に一撃の稲妻が刺されば
 いっせいにざわめき立つ 闇の生き物たち
 文字は 茶色い蟷螂に
 コップは 虹色の水母に
 化身しては集まってくる 辻界隈の花街へ
 真紅の壁に 生える森
 喘ぎのたうつ交合図
 館の空気にこびりつく 憂鬱な薫煙の香音から
 その夜の唇から
 吐かれては夢游する オレンジ色の万寿菊(マリーゴールド)
 そこは火の館
 館に群れる巫女たちが
 互いに 生の屍肉を量り買う
 五指を窄めた皺だらけの手で
 ガラスの陳列棚のなか
 狂気が炎の鳥を炙りだす
 
 5
 しかし 果てのない碇泊に
 一瞬にして 恐怖がすべての体毛を剃りおとす
 顔のない「私」から 少女のような巫女たちを奪いとる
 それでもなお生きるために
 屋根を持たない血滴(しずく)を溜め
 空間のスープをすする
 飢えてはだた 貪り喰う
 房状の時間を
 字間の葡萄を
 食べつつも食べられる時間の生贄か
 否
 それは生の棲処「現在」
 の彼方に蹲る 謎(スフィンクス)の黒い食事
 日常的には 口髭紳士の貧しい晩餐
 
 6
 館はまた呼吸する風琴(オルガン)
 その器官(オルガン)の芯にもう一つ隠している
 生の棲処を
 踏み入ればたちまちに 死の狼煙
 燻りたつ縄の舌が鉱石の扉を封じる
 犀の扉
 闇のなかの断層
 扉に堆積された「叫び」の縞の胴像(トルソ)
 火の粘液に爛れた市街(まち)に
 棒立ちのまま 独唱しつづける
 在ることの欠落を
 この夜の海浜の明暗法を
 それでもここは最後の市街(まち)
 最後の望楼
 
 7
 暗号めく入口はときとして
 館に訪れた愚者の翡翠であばかれる
 この蒼い月を燃やす眼球よ
 鋼鉄の猟犬の姿で
 存在の痛みを遠吠えにして
 館の血天井まで
 響かせる 生の飢餓を
 揺すり起こす 染みついた死者の栄光を
 黴のはえた冷気に身ぶるいしては
 絶えることのない晩餐に 繋がれている
 一匹の肉のまま
 鉛の涎を垂らしながら
 
 8
 フラスコのなかの禁書や灰の惑星
 泡から孵化した百合の女像柱(カリアティド)
 磁器に盛られた聖女への書簡
 櫃に籠められた白日の海と世界地図
 これらの時空游泳艇(タイムシップ)の好物
 棘のある美食は すなわち
 入口の鍵となる愚者の密儀
 
 9
 処方箋のない貪食の量と速度が狂いだせば
 巻貝状に回りだす食卓(テーブル)の遠心力で
 館の中心あたり
 育つ 黒い喬木
 「捩じれた臓腑(ブレダン)」の樹木
 繁りだす沈黙は 緑の髪
 熟れた孤独は 兜の果実
 それぞれ不安の燐光で篝火を焚き
 紡いだ苦悶の糸を 垂らしている
 地下の脳髄へ
 冥府の暗黒へ
 それはまた 千の舌をもつ針
 地上に咲き乱れる月下香(チュベローズ)に
 苦い毒汁を 吸いあげる
 
 10
 ざらついた木肌に頬ずるする
 胃袋にひろがる空の一画が
 ボキリ 崩れる音がする
 指先からそっと
 耳のからだが化粧をおとせば
 聞こえる 遠い木魂の心音
 波紋のような死者たちのポリフォニー
 最後の棲息者たちを千々に裂く
 地鳴りのような音楽が
 柔らかな剃刀の爪で殺ぐ 眼球のある耳を
 落下する 耳の変死体
 らっかする 愚者の翡翠
 廃坑ににた管の奈落から
 どす黒い血が吹き出してくる
 樹液は逆流し 槍先を立てて襲ってくる
 愚者の密儀を
 苦しまぎれに食卓に頭を漬ける
 愚者の胴像(トルソ)
 
 11
 静かな夜の海浜に
 ささくれた杭が打たれる
 凍結した渚のあたり
 匿名の「私」から
 文字の消えた通信文が漂着する
 海草に縛られた ひとつの欠員
 それは「私」への宣戦布告か
 樹間の空洞に
 火の螺旋階段は舞い立ち
 ゆっくり下降する 蝋の騎士
 あるいは
 鎧を着た「自我」の落人
 その時
 いきなりとどろく 砲煙弾雨
 ドドッ
 ドグマ!
 食卓は 絶叫し
 樹木は 張り裂け
 館は 墜落し
 海浜は 罅割れる
 メラメラ 混淆(メランジュ)のなか
 愚者の脳の胎内で
 終りのない内乱が始まる
 
 12
 そこはすでに幾世紀の昔から
 朽ち果てた古戦場
 吹き過ぎる生渇きの疾風に
 絡みつく 戦死者のまぼろし
 ときに
 嗚咽ににた嘆きの侯鳥を
 蝙蝠のような亡霊たちを
 羽搏かせる 時間の彼方へ
 倒れかさなる死者のうえ
 漂い歩けば つぎつぎに出会う
 「私」ににた千の顔
 こわれた羅針儀を背に
 額をもたげる死者たちへ
 夥しい生の呪縛へ
 ただ贋の弔鍾を乱れ打つ
 この脳の胎内に しぶく錆びた騒音
 世紀を隔て木乃伊(ミイラ)を呼ぶが
 死ねない「現在」
 死なない「未来」
 だから
 鉄の触手を鍛えながら
 空の心臓まで出口を手探る
 盲いたままの「自我」の百態
 
 13
 冬ざれた脳の胎内に澱む
 闇の生き物たち 
 鱗を剥がれ 弓なりのまま弾かれる
 魚や文字の夜光虫
 繊毛に覆われた嗅覚が
 自ら細心すぎる孔をも塞ぐから
 ザザッ 一瞬の転落
 渦巻く白い虚空の淵へ
 この「精神」の破れ目に
 打ちおろされる 朱の金槌(ハンマー)
 炸裂した頭蓋の内に
 なだれこむ 肉の濁流

 14
 まず欲望の恐るべき侵略
 かりそめの要塞から
 全身めぐる血脈の埠頭まで
 めくら撃つ 鮫の散弾丸を
 その陰鬱な独裁者の面がまえ
 磔刑ににた爆発をくり返し
 煮えたぎる 朱の熔岩
 増え始める 欲望の重戦車
 闇の生き物たちを
 踏みしめ 踏みしだき
 「私」の胸倉の緑地帯に
 ぶち開ける 不快すぎる風穴を
 
 つぎに 苦悩の濃霧(ガス)の泡立ち
 痙攣する脳の胎内から
 堕胎された幾千の衣蛾
 「仮死」の獲物に 群がり犇めき
 滅びる 羽搏きの不協和音
 舞いちる鱗粉 灰の光
 文字の屍骸に降り積みながら
 塗りかえる
 病んだ脳の密林を 灰金色に
 
 欲望と苦悩
 これらの二人の野蛮なやから
 闇に潜む火の隠者たち
 たがいに
 黄色い義歯を研ぎあい
 その巨きな塊で
 続けざまに突きあげてくる
 饐えた快楽 闇の藻屑を
 
 15
 この魂の辺境に打ちつづく「自我」の内乱
 だが ここにも生を焚く「私」は不在
 不在のまま
 睡れる神経にまといつく手の陰翳(かげ)
 やみくもに 抗おうと振りほどけば
 牙をもつ火の片の龍巻
 闇の灼けた岩塊から 白い蛇が這い出てくる
 在るべき「地」を領せずに
 蒼ざめた輪舞のなかを逃げまどう
 闇の生きものたち
 
 16
 ある者は 翼を打たれ憤死
 奇書の瓦礫に瓦礫を重ね
 高々と築いた灰の望楼
 だが そこからは見えない
 触れない 女神の聖衣(ころも)に
 
 ある者は 両眼を抉られ沈黙
 枯れた血の河底をなめる
 即興の苦い挽歌
 鳥類の飛翔をまねて
 吐く 化石の天使を
 
 ある者は 四肢をもがれ冬眠
 不毛の大地に声を喰われ
 暗い森の果てるまで
 重い鎖を噛み切ろうと
 躄りゆく吟遊の狼
 
 ある者は 去勢された罪の禽獣
 地獄の業火に刺され
 倒れる 幾枚もの糞土の肉
 立ち昇る紅い悪臭のため
 果肉まで裂けてゆく柘榴
 
 ある者は 剥がれた仮面で仁王立ち
 廻る鏡の壁に
 「私」の額をぶつけ
 滴る体液でつづる問いの魚雷に
 八つ裂きにされる
 
 それぞれ 自転をつづける分秒の牢獄に
 みな 不具の裸体をさらし
 汚れた陽光の精液で 腐らせる
 生の月桂樹を
 
 17
 この夜の海浜に
 つぎつぎ 浮きあがる
 金泥の象形文字
 溺死体
 灰いろの犀の背で 聞いている
 生ける者たちのための鎮魂歌(レクイエム)
 夜の潮騒がからだの血を凍らせる
 されば「私」は
 飛べぬ 否!
 飛ばぬ スフィンクス
 髑髏の頭部に 女神の胸部
 石の翼をつらねながら
 海水で耳を洗う
 黒い牙を天に向けては
 踞る 時間(とき)の窮冬に
 
 時間(とき)の余白へ
 汚点(しみ)のようにひろがり
 皺よる砂の風紋
 光の霜が 降りるまで
 生の呪縛が 解けるまで
 闇の果実を喰らいつつ
 月下の狼たちと 代々の歯ぎしり
 風の王国で 不死のまま
 睡り 目醒めている

コメント(5)

愛さんへ

 この欄に一度、当時の事情を少し書いたのですが、読みましたか。
過去のことなので、書いても意味が無いと思い削除しました。
読みにくい長い詩に付き合ってくれてありがとう。

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