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憧れのイタリアコミュのイタリアへ帰る

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ドイツに住み始めて、16年になる。

ドイツで働き、変化と摩擦の多い社会で生きることは刺激に富み、面白いのだが、疲れる時がないと言えば、うそになる。

そうした時、私は車をイタリアへ向ける。

オーストリアを抜け、アルプスの白銀の頂きを車窓に見ながら、ブレナー峠を越える。

ミュンヘンからわずか三時間のドライブで、イタリアの国境に着いてしまう。

我が家からはベルリンよりもイタリアの方が近いのだ。

イタリアに入った途端に、高速道路が貧相になる。

ガードレールはこげ茶色で錆付いたように見えるし、道幅が狭く、路面もデコボコだ。

でもそんなことは、全然気にならない。

山岳地帯を抜けて、一路南に車を走らせていると、「ああイタリアへ帰ってきた」という、感傷にも似た気持ちで胸が一杯になることがある。

私はイタリアに住んだこともないし、イタリア語も話せないにもかかわらず、この国に来るとふるさとに戻ってきたような気がするから不思議である。

東京生まれの私が京都に行くたびに、帰郷したような懐かしさに包まれたのと同じかもしれない。

ガルダ湖とベローナの間では、ベージュ色の険しい岩山が、高速道路の両側に、屏風のように連なっている。

私は、この谷間に車がさしかかると、イタリアに通じる楼門をくぐっているような気がして、心がうきうきしてくる。

そのイタリアで私はどこへ行くのか。

ローマ、ミラノ、フィレンツェ、ベニスも素晴らしいが、観光客の多さと、いわゆる名所の世俗ぶりに辟易したという方もおられるのではないか。

このため、私は知人の結婚式や特定の美術館など、目的がある時以外は、大都市を避けることにしている。

ドイツ暮らしで心に積もった塵や芥を洗い流すためには、イタリアの小都市の方が適しているのだ。

その内のいくつかをご紹介しよう。

イタリア人でも、バダという町を知っている人は、まずいない。

斜塔で知られるピサの南五十キロほどの所にある、海沿いの町である。

私はある時、車でバダに到着はしたが、あまりにも小さな町で地図も売られていないため、予約を入れていた宿にどう行けばいいのか、わからない。

そこで町の広場に車を停めていた婦人警官に尋ねたら、「ついてきなさい」と行って、自らパトカ−で私たちを民宿まで先導してくれた。

田舎ならではの親切さである。

さて民宿とはいうものの、着いてびっくりした。

一八一五年に建てられた城のような邸宅である。

寝室の天井の高さは、六メ−トルはあるだろうか。

木の天井には、今も唐草模様のような装飾が残されている。

第二次世界大戦中には、英国空軍の第二五五飛行中隊が、この建物を司令部として使っていた。

玄関を入ったすぐ右側の壁には、「二階・将校用食堂」、「三階・読書室」、「三階・伍長の部屋」などという当時の説明書きが、残っている。

戦争中とはいえ、こんな所で勤務できた将校たちは幸せである。

庭は公園のように広く、朝顔やブドウの木が植えられている。

大きな窓からはトスカナ地方の平原、そして優美な起伏を持った山をはるか彼方に見渡すことができる。

近くの農場からは、ときおり馬のいななきが聞こえる。

ことに早朝の、屋敷の土塀や木々が朝の光でオレンジ色に染まる瞬間は、息を呑むほど美しい。

この館には、広いダイニングル−ムが三つもある。

天井にはフレスコ画が描かれており、ビスコンティの映画に登場する邸宅のような雰囲気である。

予約すれば、夕食をこの豪華な晩餐室でとることもできる。

ホテルと違って、他の宿泊客たちと一つのテ−ブルを囲むので、会話を楽しむことができるのがよい。

私が泊まった時は、他の滞在客はすべてイタリア人ばかりで、英語もドイツ語も通じないので、フランス語で世間話をした。

さてバダから十キロ北に走ると、カスティリオンチェロという保養地がある。

これまたイタリア人にもほとんど知られていない村だ。

松林の美しい海岸の村に来ているのは、トスカナ地方の住民などイタリア人が大半で、外国人はほとんど見かけない。

イタリアの女優や映画監督が、別荘を持っていると聞いた。

表通りから一歩路地に入ると、閑静な住宅街で、ちょっと鎌倉か葉山のような趣である。

葡萄棚で日陰が作られたレストランの庭で、海産物をふんだんに使った手打ちパスタ(パスタ・フレスカ)に、舌鼓を打つ。

特にいか墨のパスタは絶品であった。

こうしたレストランは、大型バスで押し寄せる外国人観光客ではなく、舌の肥えたイタリア人を相手にしているため、料理の水準が違う。

私の経験から言うと、大都市よりも、このような小さな町の方が、われわれ訪問者でも良いレストランを見つけやすいような気がする。

私の知人で貴族の血をひく食通のドイツ人も、休みになるとイタリアの名もない町に行っては、地元の人に教えてもらったレストランで、食道楽をしている。

私は自信を持って断言してしまう。イタリアの良さを楽しむには、田舎に行くに限ると。

筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

熊谷 徹

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