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私の書く物語コミュの鱗

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街を歩いていたら人魚の鱗を売っていた。
お小遣いで買うにはちょっとばかり高かったのだけれど今まで見た中で一番綺麗だったし誰にも渡したくないって思ったから買ってしまった。
手のひらで綺羅綺羅と光る鱗はすべすべしていて太陽に透かすと鱗の中のちいさな星がチカチカしていた。
鱗を通り抜けて地面に落ちる光は虹を描く。
こういう物こそ宝物っていうべきだわ!
そう思ったのだけれどママに見つかったらまたくだらないものを買ってと叱られるから、机には仕舞わずロケットの中に隠した。
いくらママだって身体検査はしないもの。
飼い猫のハンダが擦り寄ってきた。
「おまえなんかいーもんもってないか?」
ハンダは勘が良くて困る。
「別にぃ。それよかあんた今日猫会議じゃないの?」
「ばーか。それは明日だよ。」
そう言うとハンダはふらりと遊びに行ってしまった。

家に入るなりママがなんか文句言っている。
五月蝿いからとりあえず叱られておいた。
ココロは明日来ていく洋服のことと人魚の鱗のことでいっぱいだから何を怒ってるのかさっぱりわからなかった。
明日はユアやカムと"ピンク合わせ"の日なんだから。
きっとユアはさくらんぼにピンクチェックのフリフリでカムはいろんなピンク色の重ね着おしゃれでくるんだ。あたしは何にしよう。
ママの怒りが収まったようなのでごめんなさいして自分の部屋へ急いだ。
ベッドに寝ころがってロケットから人魚の鱗を取り出す。
部屋で見る鱗は乳白色で光のちょっとした加減で表面がうっすら紫がかった。
ああ。やっぱり綺麗。こんなに綺麗なの持ってるコいないだろうなあ。
ロケットには何の写真も入れていない。
私にはまだ入れる人がいない。
少し前まではパパの写真が入っていた。
もっと前はおばあちゃんの好きだった人の写真が入っていた。
もっと前は誰が誰の写真を入れていたのだろう。

ある夜、家族と喧嘩した。
たぶん初めて自己主張をまげなかった。
そして家族全員を敵にしてしまった。
私は玄関の外で泣いていた。
薄い月がぼやけて見える。
上を向いても涙が止まらない。
猫会議から帰ってきたハンダがちらりと私を見て
そっとそばに座ってくれた。
「おまえさ。。。まさか考えてないよな。」
「黒い森のはなし?」
「うん。」
「・・・。」
「もし行きたくなったら俺に言えよ。」
「うん。」
「でも今日はやめとけ。月の形が良くない。」
なんでハンダは私の考えていることがわかるんだろう。
「ていうか。あれ嘘だ。」
「え?」
「ツクリ話しだよ」
えー!

「おい。ドア。」
「?」
「ドアあけろよ。猫がドア開けるとでも思ってんのか?」
「ごめん」
ガチャリ。
「おう!家族ども!帰ったぜ!」
おかえりハンダー と声がする。そして
あんたももう中へはいりなー と声がした。
ちょっとハンダに助けられた気がした。
ハンダがママにいろいろと近所のおばさんたちの噂の告げ口をしている。
ママがやだーとか言って笑ってる。
弟が黙っていたテストのことまで告げ口したもんだから家の中は大騒ぎになった。
家族はすっかり私との喧嘩を忘れてしまったようだった。
ちらっとハンダが私を見る。
はやく部屋へ行けよと目がいっている。
ありがとう。ハンダ。
たぶん明日にぼしを要求されるんだろうね。


それから毎日、
学校へ行ったり家でゴロゴロしたり友達と遊んだり
どんなときでも
人魚の鱗を持って歩いた。

月に一度だけ
私はハンダと一緒に夜のお散歩に行ける。
ハンダが居るから安心とママが許してくれているのだ。
なんで月に一度だけかっていったらそれはハンダが滅多に相手してくれないからで
ハンダの都合だ。
人間としょっちゅう連れ立って歩くなんて恥ずかしいとかそんな都合らしい。

真っ暗な夜道いつもの道を一緒に歩く。
川原へ出たときにハンダが言った。
「おまえ、あれ持ってんだろ。」
「何?」
「鱗だよ。」
「うん。」
「出してみろよ。」
「見たい?」
「そうじゃなくってさ。出してみろって。」
何かしら。
とりあえず出してみた。
この鱗を買ってから他の誰かに見せるのは始めてた。
「へえ。なかなかイイ鱗じゃないか。」
「でしょ」
「それ。月にかざしてみな。」

鱗はクリーム色に淡く輝き
真ん中の星の廻りに虹が出来て
金色の綺羅綺羅したものが
真綿のようにう渦巻いて
ハンダの目が細うくなったのが映り込んで
さらにいっそう綺羅綺羅していた。

「綺麗だろ。」
「うん。」
「そのままそーっと月の光を入れたまま水につけてみな。 落とすなよ。」
「うん。」

そっと川に端をつけてみる。
川から薄い青い煙がたった。
「手のひらに乗せて。。。そーっとだぞ。 そーっと水に浸すんだ。」
「うん。」
鱗全部が水に浸った瞬間。
金木犀とミントを足したような香りがしたかと思うとパチパチと青い火花が散って一瞬。本当に一瞬金色のヒカリが月を目掛けて一筋。本当に一瞬だけ。

「うわあ。。。」

ハンダを見ると泣いていた。
「え?」

ハンダはこの鱗の人魚を知っていたのかな。

人魚の鱗は月の光の中で水に触れたり空気に触れたりするとほんの一瞬光を放つ。
その色はそれぞれ人魚によって違うんだ。
人魚は何千年と生きて
死ぬ間際にひとかけらの鱗を残す。
死んで陸の生き物になる。
滅多にないけれど中には人間になるのもいる。
人間になった元人魚は海岸に打ちあがる人魚の鱗を拾って売る人もいる。
ふつうの人間には人魚の鱗は見えない。
人魚だった人間には見えるんだそうだ。
人魚だった人間の目で見ればわりと落ちてるものなんだって。
拾った鱗をどうにかすると人間にも見えるようになるんだって。
前に会った鱗売りが言っていた。

「おまえ。。。それなくすなよ。」
あ。
そうっと水面から手をひきあげる。
水につかると鱗は見えなくなるからそっとそっと。
よかった。
流されてなかった。
ハンダはまだ目に涙を溜めていた。
「それ。。。俺に。。。」
「ん?」
「いや。なんでもない。」
もしかしてハンダって元人魚だったのって聞こうと思ったけどやめた。
もしかしたら悲しい話しかもしれないから。


それから数日ハンダはずっと黙っていた。
ハンダはおしゃべりだったかと思うとまったく話さない日もあるから、最初は気にしてなかったママもパパもさすがに10日過ぎると心配になったのか、ハンダのご機嫌をとろうと話しかけてみたりミルクをあげてみたりしていた。
けれど、それでもハンダは黙ったままだった。
他の猫達も心配して窓から家の中を覗き込んだりしていたけれどハンダはすっかり無視していた。
カズイなんか毎日来ては「贈り物」をくれるのでとても困った。
だってほら猫の「贈り物」って鼠のアレとか、アレのアレとか・・・・ね。でしょ?
「ちょっとカズイ何考えてんのよ」
「だってほら。大将元気ないから」
「誰がこれ処分すんのよ!あんた食べてくれんの?」
「食べる?これを?俺が?まさか!喰うわけないだろこんなもの!」
「だったらなんで獲るのよ。」
「キモチだよ、キモチ。これでも気ぃ使ってんのよ?ここいらの雀やネズミはハンダにいさんと仲イイやつもいたりするからわざわざ隣街まで行ってんのよ?どうよ!縄張りを越えて狩をするスリル!!!見つかったら半殺しよ?!」
「あ。そ。」
「ちょっと姐さん。そんなあ。冷たいよう。」
「わかった。ありがとう。だからもうそんな危険冒さなくていいから。ね。」
「えーーー。あのスリルがたまんないのにィ」
つまりあんたの楽しみのためかよ!
バケツに水を汲んでぶん撒いてやった。
カズイはきゃっきゃと喜んで塀に登り、上から私を眺めて笑っている。
ヤなやつ。

カズイは細身の綺麗な猫だ。
グレイの目のつまった短毛の背中は撫でるととても気持ちがいい。
他の猫は滅多に触らせてはくれないけれどカズイはそれを誉めると喜んで触らせてくれる。
長い立派な髭が自慢でいつも手入れを怠らない。
大きなビー球みたいな目は黄緑色をしている。
本当は蝶やネズミを見たら追い掛け回したくて仕方のないのだけれど
このへんではたまにだけれどハンダと仲がいいのがいたりするので我慢しているらしい。
人間には悪態ばかりついてるくせに他の生き物には気を使うんだから。
一応私はハンダの家の人間てことで特別待遇らしいけどね。
どこが特別なのかしら。



十五夜がやってきた。
珍しくハンダから私を夜の散歩に誘ってきた。
「どうしたの。」
「うん。ちょっとね。」
月がよく見える丘へ登った。
「なあ。。。黒い森の話覚えてるか。」
「うん。」
「まだ、行きたいか?」
「うん。」
「そうか。。。。」
ハンダはしばらく黙ってそして
「一緒に行かないか。」
「ツクリ話しじゃなかったの?」
「あれは本当だ。」
沈黙。
「まさか1人でいっちゃわないよね?」
「・・・。」「十五夜の日から3日」
「え?」
「その時しか森の入り口は開かないんだ。」
「え。。。」


「さよならだ。」


「え。。。」


「ごめん。」


「そう。」


「さよなら。」
「さよなら。」





気が付くとカズイが藪の中から見ていた。

「止めないんですか。」
「うん。」
「どうして。」
「止めたってハンダは行くでしょう。」
「離れたくなかったんでしょう。」
「うん。」
「だったら何故。」
「仕方ないじゃない。」
「姐さんは一緒に行くんだと思ってました。」
「あたしは人間だよ。」
「でも鱗持ってるでしょ。それがあれば。。。」
「そうだよね。でも。」

「一番行きたいって言ってたのは姐さんじゃないんですか。だからハンダにいさんは知り合いに頼んで自分の…」

「ん。。。だけどね。。。」
「だけど?」
「森へ入ったらね鱗は割れて人間に刺さり、鱗が刺さった人間は記憶をなくしてしまうのよ。ハンダのこと忘れてしまうの。あたしやっぱりハンダのこと忘れたくない。」
「さみしくないんですか。」
「寂しいよ。でもこの鱗があればいつでもハンダを思い出せるわ。」


黒い森
人魚だったものたちの楽園。
人魚じゃなかったものがそこへ行くには人魚の鱗が無いと入れない。
鱗が刺さった人間は森の外で一度死に、森の中で生まれなおす。
楽園の住人として生まれなおす。
そこは永遠の眠りの世界。
人魚だったものは生まれ変わったら死ねない。
だから「時」が来ると黒い森へ行く。
黒い森は永遠の眠りをくれるから。

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