ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

私の書く物語コミュの地下乃國珈琲店

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
【入り口】

新しいカフェができていた。
いつできたのだろう。
何もない民家ばかりが立ち並ぶ細い裏道には勿体無いくらいのオシャレなカフェだ。
通るたびに気になって窓越しに中を伺う。
誰も居ない。
そりゃそうよね、この辺りにはオシャレすぎるもん。
それに『地下乃國珈琲店』なんておじちゃんやおばちゃんは入りづらいと思う。
特にこれといったモノが無い下町はすっかり寂れ、若い子はあまり住んで居ないのだ。
それでも数日もすればこの心地良い香りに惹かれて誰か入るかと思っていた。
けれど何日たっても客が居る日はなかった。
たまたまあたしが通る時間に居ないだけかもしれないけど。

ある日、とうとう好奇心に負け気て中へ入ってみた。
背の高い木製の扉は思っていた以上に重たい。
ぐっと力を入れて扉を押すと、
「いらっしゃいませ。」と落ち着いた声で背の高い華奢な男性がカウンターの中から声をかけてきた。
店内は明るくはないけれど、むしろ「地下乃國」というには明るすぎなくらい清潔感が漂っていた。
きっと白い壁に白いテーブルがそう思わせるんだろう。
床も白と赤の市松で、「地下」ぽくはない。
「お好きな席へどうぞ」
座面に真っ赤な布が張られた背もたれの高い真っ白い椅子の群れを眺める。
いくら他に客が居ないからとはいえ、4人席に座るのは気が引けたので、カウンター席に座った。
わりとどこのお店もそうだけれど、カウンター席の椅子は高くて、純日本人体型のあたしは座るのにちょっと苦労する。
マスターと呼ぶには若いが店主だろうか。
「何に致しましょう?」とメニューを差し出してくれた。
細面で、細めの切れ長の瞳、大きすぎない鼻に、あひる口。
ちょっとあたしの好きな顔だ。
一般的な「美形」かどうかは分からないけれど、一般的にも悪くはないはず。
本当になんでこんなところで店を出してるんだろう。
もっと立地条件の良いところに店を出したほうが繁盛するだろうに。
とりあえず、コーヒーを一杯頼んでみた。
コーヒーは学生のあたしでも安心できる値段でしかもかなり美味しい。
まあ、比較の対象が家で淹れたコーヒーとかファストフードのコーヒーになってしまうあたしが、味をどうこう言うのは失礼な話しかもしれないけど。
ちょっと手持ち無沙汰だったのでメニューを開いてみた。
へえ。ケーキとか美味しそう。
一応軽食もあるんだ。
突然、「おかわり、いかがです?」と聞かれた。
「え?」
「初めてのお客様なのでサービスです。」
勝手におかわりを注いでくれた。
「初めて?今日初めてってことですか?」
「いいえ、あなたが第一号ですよ。」
やっぱり。今まで客入ってなかったんだ。
それから少し話しをして店を出た。
オーナー兼、唯一無二の従業員だというその人はとても感じが良かった。

あたしは週に2,3回通うようになっていた。
いつ行ってもあたししか客は居なくって毎回貸切状態だったので1回だけ友達を連れていったけれどその日は珍しくお休みで、結局今のところ客といえる人はあたしだけのようだ。
誰も居ない店内に1人座り、無言のまま小説を片手にコーヒーを飲む。
たった一人の店員とたった一人の客の無言の時間。
静かな時間。
その静かな時間を壊したのは「レース、お好きなんですか。」という台詞だったかそれとも私が目を合わせてしまったからか。
「え…?」私は聞いていなかった。
「いつもレースがあしらってある服をお召しになっているので、お好きなのかと思って。」
「あ、ええ、はい。好きなんです。お好きですか?」
「ええ。男なのにオカシイですよね。」
「いえ、そんなことないですよ。」
それから私達はよく言葉を交わすようになった。
音楽の話し、絵の話し、写真の話し、映画の話し、ケーキの話し、
気付けば殆ど毎日通っていた。
おそらく学校よりも出席率は良かったに違いない。

そんなある日、いつものように店に入ると
いつもカウンターにいるオーナーがフロアへ出てきた。
あたしの横をすっと通りすぎ、ドアのプレートを「OPEN」から「CLOSE」に変え鍵を閉め、こちらを見てにっこりと笑ったのだ。


【選択】

ガチャリ

鍵の閉まる音が店内に響いた。
振り向いたオーナー兼従業員はにんまりと笑った。
「あ…あの…今日はもう閉店ですか?」
「ええ。」
「あ、それじゃあたし帰ります。長居しちゃってすみません。」早く残りの珈琲を飲まなくちゃ…それと本をバッグに仕舞って…。
本を持ち上げたその手を上から彼の手が止めた。
思わずびくっとする。
「驚かせてすみません。できればまだ帰らないでください。」
「え…」
思わず顔を見る。
目が合うとにこりと微笑んで「新作が出来たので、お時間宜しければ試飲して戴けませんか。」と言った。

あたしは座り直した椅子の上で少々ふてくされて、足をぶらぶらさせていた。
それならそうと早く言ってくれたら良かったのに。
「驚かせてしまってすみません。先に言えば良かったですね。」
「本当に。」足をぶらぶらさせながら答える。
「怒らせてしまいましたか。」
「いーえ。怒ってなんかおりません。」
「当店唯一のお客様に帰られてはと思い、つい先走りました。申し訳ございません。」
だからって急に鍵とか閉めなくても…。
「鍵は開いておりますので気分悪くさせてしまったのでしたら・・・」
「いいえ、戴きます。」
鍵のことを考えていたことを分かったみたいな口ぶりに動揺し、動揺を隠すために試飲することにしちゃうなんて、あたしはなんてアタマワルイのだろう。自分でも自分がよくわからない。

珈琲が2つ出てきた。
一つは黒い珈琲
一つは白い珈琲
「こちらが、『悪魔の羽』。こちらが、『天使の羽』。どちらか一つお好みの方をお選びください。」
『悪魔の羽』と紹介された珈琲から飲んでみる。
見た目はとても濃い苦めのブラックに見えたが、飲んでみると意外にもキツクなかった。
まず、カップに口を近づけると芳醇な珈琲の香りが体じゅうに染み渡り、
口に入ると素直で深みのある味が広がる。
すうと液体は喉を通り、飲んだ後も香りが続く。
「いかがでした?」
「意外だったわ。見た目は濃くて苦いようみ見えたのに。」
「そうでしょう、悪魔は意外と素直なんですよ。」そう言って彼は笑った。
「では『天使』もどうぞ。」
『天使の羽』と紹介された珈琲は一見ミルク大めのカフェオレにも見えた。
甘い香りが漂う。
飲んでみるとずっしりとした甘みが舌に乗る。
上質な蜜のような甘さがじんわりと広がった。
珈琲を飲むというよりもスイーツを戴いているかんじ。
とろりととろけて喉に落ちた。
その一瞬、珈琲の香りがしたがすぐに甘みが追いかけてきた。

「どうです?天使と悪魔、どちらがお好みでした?」

===============
ここまで『地下乃國珈琲店 』を読んでいただいてありがとうございます。
この物語はエンディングが3つあります。
どのエンディングになるかはあなた次第。
あなたなら、『悪魔の羽』を選びますか?『天使の羽』を選びますか?
それとも”どちらも選ばない(選べない)”?
この物語の先を知りたい方は、
コメントかメッセージでどれを選んだかお知らせください。
メッセージにてあなたの選んだエンディングをお届けいたしましょう。
===============

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

私の書く物語 更新情報

私の書く物語のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング