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境界と侵犯コミュの善/灰/悪

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どんなに潔白な善人も、本当の善人であったためしはない。
一点の負い目もないかのような善人の中に、気付きにくい微少な後ろ暗さが隠れていて、それは常に善人の構造そのものである。
善人は悪人を敵視するのが普通であるが、むしろ秘密の守られた範囲での自由は、秘密が守られているがゆえに悪をはぐくむ可能性に晒されていると理解される。
存在のその瞬間から善人もすでに悪への道へと誘われているのだ。
だが取り返しのつかない悪への長い過程に、どれだけの逸脱を経過するとしても
善人は全い悪人に化するその瞬間まで、善人であるふりをやめはしない。
たとえ善人の属性と考えられているもの
たとえば規範を遵守した上での自由の尊重、たとえば勤勉さから来る功績、たとえば人柄の良さから来る恵まれた友愛関係
を表明しているとしても、
後ろ暗さは善人の仮面の影で鳴りをひそめている。
善人も秘密が守られた気になり、ドーキンスを読み人間的愛や自由意志を否定しだしたら悪行を働く事もありえる。
その思考で人生の正道を歩いていた善人も悪への道へ走る可能性もある。
だが――
どんなに闇を背負った悪人も、本当の悪人であったためしはない。
一点の善もないかのごとき悪人の中に、微少な善は、母の子に対する愛のように隠れていて、それは常に悪人の構造そのものである。
存在のその瞬間から悪人はすでに、善人へと生き始めている……


(谷川俊太郎「灰についての私見」参照)

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