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青春小説 ■春海■コミュの第2章■入梅・引き合う時■5

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○ライブ

その一週間後ライブがあった。
荻窪の小さなライブハウスだ。
俺とイシは荻窪の改札口で待ち合わせをした。
「ウス!どうだ調子は?イシ?」
「まずまずでシ」
「そっか・・」
そんなたわいの無い話をしている後ろで声が聞こえた。
「わぁ『藤原withイシ』だあ・・パチパチパチ」
振り向くと春海が立っていた。
「おりょ?何してんだ君?」
「あはははは・・イシに連絡もらったんだ」
「にゃにおぅ!イシ!連絡したのか?」
「あい!しました。」
「なんで?」
「私が聞いたの・・だって自分でアーティストだって言っておいて
ぜんぜんライブの日とか教えてクンないし・・だからと言って
まあ、その事を疑うわけじゃないけど出来たら見たいなあと思ってさ・・
キテキに言ってもまともに教えてくんない気がしてこの間の時に、
連絡頂戴って頼んだのよ」
「んな回りくどい事せんでも・・なあ」
「んじゃなんで教えてくんなかったの?この間の時だって
何も言ってなかったじゃない・・イシさんが教えてくれなかったら
知らずに終わってたわよ・・ありがとう・・イシさん」
「あい」

「あ・・まあ・・事情って物があるんだわさ・・」
「事情!ふぅ〜〜〜ん!今の私に話せない事情なの!?」
「そうじゃあねえけどさ!色々と考えるところがあるっちゅう話だよ!」
「あーそーなの!へーわかったわ!ひとり、色々と考えてなさい!」
大変にやばい空気だった。
その時だ。

多分あの時、春海が頭に来てそのまま帰っちゃいそうな感じが
あったんだな多分。
そこを感じ取ったイシが機転を利かせたんだ。
「へぇ〜〜〜〜っクチン!」
イシが周りの人間が全員振り返るようなくしゃみをした。
見ると鼻から鼻水がかなり強烈に出てたんだ。
俺はそれを見て大笑い。

ギロと横目で春海が見たかと思ったら。
自分のポケットティッシュを出して
丁寧に拭き始めた。
「おいおい・・小学生じゃあないんだからそこまでやるこたぁねえんじゃあねぇか?」
俺の言葉を尻目に彼女は拭き続けた。
両手をダランと伸ばしたイシの手と世話をしている春海が
本当に小学生とお母さんに見えた時。
それを眺めながらまた俺は感じていた。
彼女をあえてライブに呼んでいなかった理由を。

ライブハウスに着くと
まずまずのお客さんの入り。
いい感じでモチベーションが上がってゆく。

そしてライブが始まった。

オープニングソングは毎回同じ『To South(地上“ここ”より南へ)』だ。
何故オープニングソングとラストソングは毎回同じなのかと言うと
これは昔、俺が場末のキャバレーで呑み助相手に
弾き語りをやっていた時の名残だった。

当時19歳のペーペーの俺に色々教えてくれた先生モドキがいた。
ちょっぴりオカマが入っている人で
「フジワラちゃん一頭(いっとう)最初は(良くこんなしゃべり方をした)
同じがいいヨ(この“ヨ”がカタカナっぽいところがちょっとオカマちゃんしているのだ)
最後の曲もそう、常連さんがたくさんいるお店ではさあこれから始まりますよ。
って教えてあげる方が聞いてくれる確率が高い!
そして最後の曲が同じなのは。
今日はもう終わりだからリクエストはしないでねって
思いにさせたほうが早く帰れるんだそうだ。
実際やってみると、オープニングとエンディングはいつもバラバラよりも
同じ方が確かにそういう運びに成り易かった。
まあ。それがライブの方でも残ったってわけ。

この『To South(地上“ここ”より南へ)』と言う曲はすごくパンチの聴いた曲で
きいたお客一瞬にして釘付けにした。
俺のカウントが始まる。

「ワン・トゥ・スリー・フォー」
それを合図に俺がダウンストロークから裏で2泊アップストロークにつなぐ
同時にイシがオーバードライブ気味なエフェクトを効かせたリードが被さる。
踵から脊椎を渡り脳天へ気持ちが到達と同時に
アドレナリンが体中に行き渡り始め
俺は俺でなくなってゆくのがわかる。
俺はSOUNDに身を委ねSOUNDそのものになってゆく。

一気に16小節イントロを駆け抜けた後
爆発的に俺のヴォーカルがカットインされる。
『そいつをー!笑わせたのは 誰だったかは忘れちまった』
中々排他的だがどっこい俺は生きているって感じの詞の流れだ
(ん?おい!イシ!走ってるぞ!)目で知らせる。

今日は春海が見ている事もあってちょっぴり二人ともテンションが高い
そんな日は決まって走り気味になる。
ちなみに走ると言うのは通常よりもテンポが速くなる時の事を言う。

もう一回イシを見たらすでにイっちゃってる目だった・・が少し落ち着いてきた。
すかさず合図を送り三連のブレイクで整えた。
曲はワンコーラス目の中盤に差し掛かってる
もう少しでサビに入る
少し小さな声で「弾けろ!」イシに呟いた。
うなずくより先にイシのギターの唸りが更に高みへ俺達を押し上げてゆく。
『いつの世も時代は戦場だったし いつの世も幸せいっぱいだった』
「はあああああああああああああああああ!」
『ともかく 俺を乗せた列車はTO SOUTH南へ走り始!め!て!る!』
「COME ON HEART」
イシのコーラス共にワンコーラスを終える。

この曲の間奏はイシの独断場だ。
誰も触れる事は出来ない。
日常はいつでも俺の背中を見て歩いている控えめな男が
突如として「俺について来い」と言わんばかりに俺に牙を剥く
俺も震えが来る様な瞬間だ!

ツーコーラス目に入り同じ流れを維持しつつ
エンディングへとなかなかうまくランディングした。

「ドム!こんばんはぁ!」
少しおどけ気味の挨拶をしてみた。
様子を伺う。

一番前に陣取っている次に出演者のお客の女の子の二人組みが
「こ〜んば〜んわぁ」と返してきた。
「おっ!ノリがいいねえ・・」と言いつつ
今日はこっち側かなと一人合点。

ちょっぴり今日電車で来る途中で会った奇人の話で
場を和ませた後次の曲に行く
「次の曲は隣の相棒イシの曲『Tokyo Sunset Station』です。」

一呼吸間を置いてイシのソロ部分のイントロが始まる。
そんなこんなでいつも通り歌ってしゃべって大汗かいて・・
そんなエネルギッシュなライブが続き。
いよいよ最後の曲になる。

最後の曲はSfwizHi-Manにとっていわずと知れた曲という事になる
「Dan’s Story(ダンズストーリー)-若い兵士に捧げる歌-」だ。
さっきの論法から言うとこの曲は最後の曲として選ばれた曲だ。
この曲を語るには実際の話が元になっているので
その話からする必要がある・・・

俺の友人で沖縄にライブハウスを経営している奴がいたのだが
そいつが夏の間、ライブを一ヶ月住み込みでやらないかと持ち掛けてきた。
少し迷ったが行く事にした。
行ってみるとお客のノリがいい事や
大人たちの音楽に対する寛容さに驚いた。
勿論、日本有数の観光地沖縄にあって
周りの風光明媚(ふうこうめいび)さには言葉も失うほどだったし。
また。昔から言われているように美人が多いと言うのも嘘ではないと
生活レベルで確認できるなど・・とにかく浦島太郎のような
夢の生活を続けていた訳だ。

そんな中一番興味を持ったのは米軍基地からいつもやってくる
アメリカ人たちだった。
(あえてアメリカ兵とくくらないのはその恋人や奥さん友人などで
兵士と言うよりアメリカの人と言う雰囲気の方がかなり強かった)
正に生活レベルの息をしているアメリカ人にはじめて触れる事が出来
俺のカルチャーショックはレベル5を遥かに超えた。

カタコトの英語でジョークを交えた会話をしホームパーティーにも招かれた。
そんな中一人の若いアメリカの兵士と特に親しくなりよく二人で遊ぶようになった。
そいつの愛称が「ダン」だった。

面白い奴で俺に日本人の女に対しての口説き方を聞いてきたり。
アメリカ式の口説き方を教えてもらった。
お互いカタコトの言葉で会話しお互いうまく通じず大笑いした。
なんせここは日本有数の観光地沖縄なのだ!
そこで友人のアメリカ人とジープに乗って海に出かけるなぞ
一生できるもんじゃない。
俺は毎日を謳歌した。

そんなある日いつものようにダンに「遊ぼうぜ!」
と言うといつもと様子が違う。

「どうしたんだよう!」
としつこくたずねると
「オカーさん・・テガミ・・カク・・」
そう言うと帰って行った。
その時、電撃で打たれたように俺は気付いた。
ここがもう一つの場所、沖縄である事に。
彼はれっきとした兵士でありアメリカ人だった。
周りの照りつける太陽や華やかな町並みに見とれて忘れていた
もう一つの事に気付いてしまった。
ここからまだセンソウは無くなっていないって事を。

そしたら一度連れてってもらった事のある、
ちょっと薄暗い兵舎で手紙を書いているダンの姿が
急に脳裏に浮かんだんだ。
それで一気に書き上げたのがこの「Dan’s Story」だった。
話がそれて長くなってしまったけれど
これだけは言いたかったんだ。
その気持ちが今夜も曲になって叫び声をあげる!
「もう随分祖国を離れてしまって 流れてゆく自分の姿も見えない
何故?俺はここにいるのか・・一体俺は何の為に・・ここにいるのか」
絞り上げるような声を残像に残してライブは終わった。

まわりのお客さんに挨拶をすませ
マスターに挨拶をした後店を出た。
開口一番春海が叫んだ!

「すっごかったあ!びっくり!なんで?ねえねえキテキ?」
「ん?」
「なんであんなにかっこいいの?」
「あん?普段からかっこいいでしょうがあ・・このキテキ様は」
イシが俺に代わって春海に話しかける。
「シシシシ・・わかりましたか?僕もそれなんでシ」
と春海に小さくウインクした。
ああ・・と、うなずくように春海もウインクした。

俺はそれに気付かない振りで
「あ〜あ〜腹減ったなあメシ食おう。池袋西口の『万福屋』まだやってっかなあ・・・」
そうつぶやいた。
「うん!行こう行こう!」
春海が俺の腕を取り駅へと急ぐ
後からイシが付いて来た。

○雨の降る或る日
 
あれから、2日が経過した。
俺の方はバイトがすごく忙しく、徹夜続きでその日の夜は
クタクタになって眠っていた。
夜、十一時、ドンドンドン・ドンドンドン、激しくドアと叩く音で起こされた。
こんな時間に誰だ・・疲れも残っていた所為もあって不機嫌だった。
どうせまた、ナベが女にでも振られて、中野あたりで飲んで
俺の部屋に流れて来たに違いない。
「ヘイヘイ、開けますよ!チョット待ってろ!」

そこにはずぶ濡れの春海が立っていた。
「キテ…キ」俺の名前をかすかに呼ぶと倒れるように俺の胸に崩れ落ちた。
「どうした!春海!何があったんだ!」叫ぶ俺の言葉も耳に入らないように
嗚咽を漏らしている。
雨に濡れた小さな肩が震えていっそう、弱々しさを演出していた。
肩越しに春海を抱いた時、湧き上がるように感情が吹き出した。
この娘をカワイイと想う。この娘を守りたい。
それが愛情なのか、単なる庇護感なのか、自分では区別が難しかったが、
離したくない気持ちだけは、実感として両腕に残っていた。
「泣いているばかりじゃあ分からないよ。とにかく上がりな・・」
少しイヤイヤをしているようにも思えたが、強引に部屋に上げた。

 少しして落ちついて来たので、服を着替えさせた。
サイフォンでコーヒーを入れることはできないけど、
暖かいミルクココアを飲ませて体を温めた。
「落ちついたら話してくれ、何があったんだ?」
「うん・・」まだ春海は話しをする事をためらっていた。
長い沈黙が包み込んでただ二人、抱き合っていた。
しばらくすると・・少し落ち着いたのかポツリポツリと話しを始めた。

まわりのお客さんに挨拶をすませ
マスターに挨拶をした後店を出た。
開口一番春海が叫んだ!

「すっごかったあ!びっくり!なんで?ねえねえキテキ?」
「ん?」
「なんであんなにかっこいいの?」
「あん?普段からかっこいいでしょうがあ・・このキテキ様は」
イシが俺に代わって春海に話しかける。
「シシシシ・・わかりましたか?僕もそれなんでシ」
と春海に小さくウインクした。
ああ・・と、うなずくように春海もウインクした。

俺はそれに気付かない振りで
「あ〜あ〜腹減ったなあメシ食おう。池袋西口の『万福屋』まだやってっかなあ・・・」
そうつぶやいた。
「うん!行こう行こう!」
春海が俺の腕を取り駅へと急ぐ
後からイシが付いて来た。

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