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青春小説 ■春海■コミュの第2章■入梅・引き合う時■6

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○雨の降る或る日
 
あれから、2日が経過した。
俺の方はバイトがすごく忙しく、徹夜続きでその日の夜は
クタクタになって眠っていた。
夜、十一時、ドンドンドン・ドンドンドン、激しくドアと叩く音で起こされた。
こんな時間に誰だ・・疲れも残っていた所為もあって不機嫌だった。
どうせまた、ナベが女にでも振られて、中野あたりで飲んで
俺の部屋に流れて来たに違いない。
「ヘイヘイ、開けますよ!チョット待ってろ!」

そこにはずぶ濡れの春海が立っていた。
「キテ…キ」俺の名前をかすかに呼ぶと倒れるように俺の胸に崩れ落ちた。
「どうした!春海!何があったんだ!」叫ぶ俺の言葉も耳に入らないように
嗚咽を漏らしている。
雨に濡れた小さな肩が震えていっそう、弱々しさを演出していた。
肩越しに春海を抱いた時、湧き上がるように感情が吹き出した。
この娘をカワイイと想う。この娘を守りたい。
それが愛情なのか、単なる庇護感なのか、自分では区別が難しかったが、
離したくない気持ちだけは、実感として両腕に残っていた。
「泣いているばかりじゃあ分からないよ。とにかく上がりな・・」
少しイヤイヤをしているようにも思えたが、強引に部屋に上げた。

 少しして落ちついて来たので、服を着替えさせた。
サイフォンでコーヒーを入れることはできないけど、
暖かいミルクココアを飲ませて体を温めた。
「落ちついたら話してくれ、何があったんだ?」
「うん・・」まだ春海は話しをする事をためらっていた。
長い沈黙が包み込んでただ二人、抱き合っていた。
しばらくすると・・少し落ち着いたのかポツリポツリと話しを始めた。

「あのね・・あたし・・この近くにガン研究センターがあるでしょ」
「ああ、ガンのそれも末期の患者が入ってるって言う話しは聞いた事がある」
「あのセンターに父が入院してるの」
「えっそれじゃあ・・」
「そう。・・肝臓に悪性のガンが見つかって・・
それであたし・・お見舞に来てたのよ。」

「そうなのか・・あの日も?」
「うん、そう、お見舞の帰りだったわ。
あの日は父の誕生日で、ケーキを持って行ったんだけど。
父の体の調子も何時になく、良かったの。
あたしもすごく気持ちが良くなって、
それで浮かれて足元の氷に気がつかなくって・・」

「俺の股間をつかむハメになったんだな?へへ」
「う・うん、でもそれから、急に様態がいけなくなって。
色々忙しくなったのでここへ来たかったんだけど
どうしても来れなかった・・ごめんなさい・・」

「そうか・・そんな事があったのか・・
それで今日はどうしたんだ?」
そこまで話しをしていた春海が急にまた大声で泣き始めた。
「キテキ!助けて!お父さんを!もう・・もう・・」
「もうだめなのか?」
「うん、今日明日がヤマだろうって…」
「くそお!」言い知れない憤りが吹き上げてきた。
「頭ったまに来た!」
「どしたの?」
少し俺の態度に驚いた表情だった。

「チョット待ってろ!心当たりがある!」
「何処へ行くの?こんな雨の中。
ブラックジャック先生?・・じゃないよね。・・」
「部屋で待ってろ!そんな奴よりすごい人だ!」

俺は憤慨する心の中で無我夢中で部屋を飛び出し、あるところを目指した。

○目的

最終電車を乗り継いでやっとついたところは、白いマンションのエントランスだった。
思ったより立派な作りに少し気後れしたが、
一気にエレベーターを使わず4階まで駆け登った。
「以外に良い暮らししてるじゃネエか・・」
ひとり言をつぶやき黒いベルビアンが張ってある。
鉄扉の玄関の前に立った。

おおきな深呼吸を一つした後、
呼び鈴も押さずにいきなりドアを叩いた。
ドンドンドンもう深夜に近いため音はあたりに鳴り響いてる。

「ニャロー!逃げてるわけじゃあないだろうなあ!出て来い!
おれが来たのは知ってるはずだぞ」ドンドンドン!
「うるせえぞ!」
ガチャッ出てきたのは思ったより若風のヒゲモジャの男だった。

男は驚いたようにキテキの頭からつま先を眺めて、つぶやいた。
「キ・・テキか?」
「おう!あんたがここの作者の北山峻さんか?」食いつくように話しかけてくる。
「ああ、そうだ。まさかな・・お前がここへ尋ねてくるとは思わなかったよ。
まあよく来たな・・・上がれ」

実に落ちついた態度だった。
少し気後れしている自分を奮い立たせるように話し出した。
「そんなゆっくりしている時間はねえんだ」
「分かってる。まあ上がれ!。」その言葉には大きな力を感じた。
「どうした?何故ここに来た?」
「何故?理由はわかっているはずだろう?」
「春海の父親の件か?」
キテキは深くうなずく。
「劇的な話しにしたいんだろ!
だけどな!春海をそこまでいじめるこたあねえだろうが」

「そうか?俺がこの話しを書いている以上あの娘の父親を
生かすも殺すも俺次第だな」
「クッ!」
キテキの拳が強く握られた!
そして

いきなり両手を床につけると土下座を始めた。
「お願いします!春海の父親を助けてください。お願いします」
「ホウ?・・そんなに春海の事が大事か?」
「いや?まだ自分にも分からないんだ。だけど、
身体が勝手に動いてここに来ていた」
「さすがに、後先考えない性格がにじみ出てるな」
「長話してる暇はねえんだ!頼む!北山!」
「話しには流れと言うものが有るからなあ。そう簡単にはいかんぞ」
「へえ・・そんな事言っても良いのかな?」
「な・なんだよ」

「俺を誰だと思ってんだよ。キテキ様よ〜ん。あんたのあんな事もこんな事も
全〜部知ってるんだからな」
「なに!俺のあんな事もこんな事も!う〜む。そりゃマズイ。ヤヤヤ・・まずいぞぉ・・」
「さあ!どうするんだ!北山!」
「分かった分かった。しかし、二つの事を約束してくれそうしたら考え直しても良い」
「二つの事?いいだろう。約束する」
「まずはひとつめ、今後何があっても、もう俺の目の前にあらわれんでくれ。
あとひとつ、俺がこの『春海』を書いていて、どうしても助けが必要になった時。
必ず来てくれ。この2点だけだ」
「よし。いいだろう。約束する!北山」

「面白い奴だ・・キテキ・・だがな、名前を呼び捨てにするなよな。」
「あっそうだ・・俺の名前まだ無いんだ考えておいてくれよ」
「はん?そうだったか?それなら考えてある『藤原修平』だ」
「ふ〜ん、修平かあ、まあいいや。じゃあな、邪魔したな北山」
「だからあ・・作者の俺を・・呼び捨てに・・すんなって・・」
バタン!
「あっ・・行っちゃたよ・・」

○再び雨の降る或る日…

あれから、2日が経過した。
俺の方はバイトがすごく忙しく、徹夜続きでその日の夜は
クタクタになって眠っていた。
夜、十一時、ドンドンドン・ドンドンドン、激しくドアと叩く音で起こされた。

誰だこんな時間に・・疲れも残っていた所為もあってちょっと不機嫌だった。
どうせまた、ナベが。
女にでも振られて、池袋あたりで飲んで俺の部屋に流れて来たに違いない。
「ヘイヘイ、今開けるから!チョット待ってな!」
ガラリ…
そこにはずぶ濡れの春海が立っていた。

「キテ…キ」俺の名前をかすかに呼ぶと倒れるように俺の胸に崩れ落ちた。
「どうした!春海!何があったんだ!」
叫ぶ俺の言葉も耳に入らないように嗚咽を漏らしている。

「私・・うれしくて・・うれしくて・・さ」
「何?何があったんだ?・・まあ上がれ」
「うん・・」
「そんなずぶ濡れじゃあ話しもできないよ
俺の前に立つ時いつもお前、服が濡れてるなあ。ハハ・・」
「ごめん・・」
「いや・・いいんだ・・コーヒーでも入れよう」
トレーナーとスウェットを出してやって着替えさせた。
「あのね・・私の父の事なんだ。」
「例のセンチメンタルジャーニーの親父か。」
「うん、実はね、この近くにがんセンターがあるでしょ」
「おう。そこに入るともう危ないって噂は知ってる」
「あそこに父が入院していたの。
肝臓に悪性の腫瘍があって、しかも全身に転移していて
もう危ないって言われてた。」
「そのお見舞でこの近くにいたのか?」
「うん、あの日も父のお見舞に帰りだったわ」
「それでね。病院から電話があって、すぐに来てくれって。私は覚悟したわ、
だって、いつ死んでもでもおかしくないって状態がもう長かったから。」
「…………・・」
「そしたらね・・そしたら・・」
「ダメだったのか・・」
少しドキドキした。
約束はしたものの実際はどうなのか分からないからだ。

「ううん。身体の中のガンが全てきれいに無くなっているって。
まるで奇跡だって先生が言ってた・・」
「そうか・・良かったな・・」
「私うれしくって、雨が降ってるのも構わずにここへ走っていたの・・」
「キテキに話したくて…・・」
最後は嗚咽に隠れてしまって声にならなかった。
俺の胸に泣き崩れる春海をしっかり抱きしめた時、
色んな感情が溢れて止まらなかった。
この娘を守るのは俺だ!そう心で叫んでいた。

「春海・・よ〜く聞け。あのなあ・・神様ってきっといるんだよ。
何時もそばにいてずっと見ててくれる。
もう大丈夫だ・・これからは俺がずっと側にいる。もう、独りじゃあない。」
春海の頭がコクンとうなずく。

(北山 峻にでかい借りを作っちまった・・)
俺は、春海を抱きながら空中へ向かってウィンクをした。
「ケッ・・」
はにかみながら笑う誰かの声が聞こえた…。

                                            第2章  完

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