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青春小説 ■春海■コミュの第4章■秋・予感■2

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○流されて…

春海は息が止まるかと思った。
「はいっ?!」
電話の向こうでは聞きなれない男の声がしていた。
「もしもし・・春海ちゃんですか?」
「…・・はい?(誰だろう)」
「誰かわかるかな?」
「(ウッ!こう言う風に切り出す奴は大っ嫌いだ!)
えーっ・・わかんないなあ・・誰?」
「いやああ、わかんないかなあ・・俺だよ俺。」
「(バーローこう言う奴って決まって、俺だよ俺って言うんだよ
どうせモテない奴に決まってる)
ムッ!わかんないから聞いてるんですけど!
用事がないのなら切りますよ。」
「あっ・・あっ・・切らないで…・鍋島ですよ。」
「えーーーーーっ!鍋島先生!?」

鍋島といえば、前回にも名前だけは登場したが
例の陽子ちゃんをデートに誘った憎っくき奴だ。

「雨だねえ」
「えっ?・・あっ・ああ・・雨ですね・・ぇ・・」
「何だかこんな雨に日は寂しくてさ」
「(何が言いたいんだろ、この人)そうですか?」
「今、暇かな?」
「えっ?・・ええ・・まあ・・」
「そっ!良かった。実は僕も暇でさ。」
「(もしかして・・もしかして・・)???」
「ねえ、良かったらちょっとドライブでもしないかな?」
「えーーーっ、鍋島先生とですか?」
「そうだよ。嫌かな。」
「嫌って言うか・・そのお・・」
「ああ・・例の噂を心配してるんだね?
大丈夫さ、あれは本当にただの噂だよ。」
「(何言ってるのよ、私は知ってるんだぞ!)そうですかあ?」
春海はバカバカしくなって切ろうとした。
「私、お洗濯している途中なのでこの辺で・・」
その言葉を遮る様に鍋島の言葉が耳に届いた。

「実はこの間ね、陽子ちゃんに相談を持ち掛けられちゃってね。」
「何言ってるんですか!?デートに誘ったのは、鍋島先生の方でしょ。」
「冗談じゃない。誘われたのは僕の方さ。最後は泣かれちゃって…」
「そ・そんな・・」
「困ってるのは僕の方だよ。いい加減な噂を立てられちゃって」
「そのことで、一番仲の良い春海ちゃんに聞いてもらおうかなって思ったんだ」
「そうですか・・」(う〜ん、陽子ちゃんの言葉に嘘は無い気がするし。
でも、ずっと鍋島先生の事が好きで悩んでいたのも知ってるし・・
まあ・・キテキもあんな風だしちょっと会って話を聞いてみよっかな。
だって・・キテキがいけないのよ。私をほったらかしで・・)

「少しだけでも会えないかな?」
「ええ・・じゃあ、ちょっとだけ。」
「ホント?ありがと、すぐに迎えに行くから待っててね。」
すぐに電話は切れてツーーィツーーィツーーィツーーィ・・と電子音を響かせている。

「結局会うことになっちゃった・・大丈夫よね。
キテキが・・いけないんだから・・」

▲一週間さかのぼる・・キテキの部屋 ▲

「????もしかして・・美・・緒?」
電話の主は答えず言葉を続けた。
「ゴメンナサイ・・何だか大変な事になっちゃって・・」
すこし泣いているのかもしれない。

「ああ・・聞いたよ・・いいさ・・話したかったんだろう」
「うん・・いつかあの時の話しをしたいって思ってたんだ。」
「大丈夫なのか?」
「あんまり大丈夫じゃあないみたい・・ウッ・・ウッ」
嗚咽が聞こえてきた。
「社長さんから物凄く怒られちゃった。」
「そうりゃそうだろうなあ・・」
「うん・・これで賞取りはパーだって・・」
「そうか・・でも・・しょうがないよなあ・・」
「へへ・・なんとなく・・そう言う風に言ってくれると思ったんだ
それで・・電話したくなっちゃったの・・わたしがTVに出てるの
見てくれてたかな?」
「ああ・・あんまりTVは見る方じゃあないけどな、
あれだけ出てれば否が応でも目に止まるさ」
「そうだよねえ・・」
持ち前の明るさを徐々に取り戻してきたのか声が明るくなっている。

「今でもね・・出番の前にあの時の事思い出してステージの袖で
胸を撫で下ろすの・・そうするとすごく落ちついて歌が歌えるんだ。」
「そっか・・役に立ってるんだ・・へへ・・そりゃ良かった。」
「もぉ〜もっと喜べよ。天下の『中田美緒』様が電話してやってるんだゾ」
「へっへっ・・そりゃあ・・光栄の行ったり来たりです。」

「ねえ・・来週・・会えない?」
「えっ?天下の中田美緒姉さんにお目通し願えるんですかい?あな恐ろしい・・」
「チャンと答えて!・・ずっと会いたかったんだけど、もぉすっごく忙しくてね
今日のことで社長さんに家で謹慎してろってお休みもらっちゃった・・
今週、静かにしてれば来週はきっと会えると思う」

「はっはっは・・お休みかあ、良かったなあ・・」
「こんな時のんきに良かったなあって言えるの日本中でキミくらいじゃない?」
「そうかな?・・俺はバイト休めるからいいけど・・でも、会うのヤバイんじゃないか?」
「大丈夫よォ。変装なら得意だから・・」

キテキの頭を春海の泣いてる顔がチラリと横切った。
「あっ・・ああ・・そうか・・」
「えっ?ダメなの?」
「いやっ・・そう言うわけじゃあ・・ないんだけどな・・ちょっと・・」
「う・・・ん・・言っちゃおっかな?・・」
「ん?何だよ」
「うん・・あのね・・会いたいのって・・ホントはね・・ちょっと相談があるのぉ・・」
「相談?何のだ?俺なんかに相談しても良い答えなんて出てこないぜ」
「う・・ん・・そうだね・・そうだ・・」
「何ひとりで納得してんだ?まあいいや、わかったよ。」
「ホント?」
「ああ・・但し絶対泣かない事。何があってもオタオタしない事。この二つが
守れるんなら会っても良いぜ。」
「うん。大丈夫大丈夫まっかせといて!」

「ほんとかい?・・」
「わたしは本気よ!」
「わーったわーった。何時に何処に行けば良い?」
「あのね・・一度やってみたかったんだけど。渋谷のハチ公前で待ち合わせしたい。」
「おまーなあ、自分の立場わかってんのか?そんな目立つ所じゃあ・・」
「わたし・・一度も普通の女の子のようにそう言う所で待ち合わせした事ないんだもん
絶対ハチ公が良い!」
「・・ったくわがままな奴だなあ・・OKいいよ・・いつにする?」
「来週の水曜日、10時半でどう?」
「来週の水曜って言うと・・丁度一週間後か・・ああ・・いいぜ・・10時半な・・」
「絶対だよ!絶対来てね」
そう言うと電話が切れた。

もう・・充分普通の女の子のようになってるじゃあねえか。
何で俺なんかに相談があるのかな?
ステージの前今でも胸を撫で下ろすって言ってたけど・・
あれかな・・鳥が卵から産まれた瞬間
目の前にいるものを親と間違えるって言うけど・・
あれと同じかな?
訳のわからない論理だったが、今はそれが一番筋が通ってるかなと
ひとり、納得をして受話器を置いた。

スンナリとドキドキの1週間が過ぎた。
午前10時25分俺は美緒との約束で渋谷のハチ公前に立っていた。
昨日の夜中過ぎから降り始めた雨がまだのこっていて少し肌寒い。
長めのコートを羽織ってる姿も少しあった。
「ホントに来るかな?」
独り言をつぶやきながらセンター街に流れて行く人達の姿を眺めていた。
「おっまちどぅう!」
甲高い声がハチ公前に鳴り響く、振返ると真っ赤なミディアムコートの
中田美緒が右手を上げて立っていた。
「お・・おお」
俺は余り気後れするタイプではないんだが、流石に中田美緒だと思うと緊張する。

今年の初めから売り出して今や新人賞の呼び声も高く
主演の映画も今年になって2本も出てるし。
新曲のナントカってのでミリオンセールをかっ飛ばしてる。
まあ今、のりにのってる女の子なんだから無理もないか。
え?良くわからない?
そうだなあ・・今で言うと・・
『松浦亜弥』と『伊東美咲』をたした感じかな?
いいか・・言っとくけど2で割るんじゃねえぞ!
あくまでたしただけだ。
わかったか?そんな娘から電話掛かってきて
デートしてくれって言われたらどうする?
やっぱ会いたいだろ?

俺だってそうさ。
「ねえ・・何処連れてってくれる?」
少し上半身を傾げた姿は余りにも輝きすぎていた。

大きめのサングラスをしていたが周りの人たちはすぐに気付いた様子だった。
「あれっ?中田美緒じゃあないか?」
そんなセリフが聞こえてきたのであわてて手を引いて駆け出した。
「あはははは・・楽しい!来て良かったあ」
「ばかやろ!周りを気にしちゃって気が気じゃあないよ」
「そう?気にしなくて良いのに」
「こういう天真爛漫の所が若者に受けている原因なんだろうなあ
・ ・とぼんやり考えていた。

少し離れた場所に連れて行くと、
「ちょっと待ってな」と言って俺は路地に入って行く。
「ねえ何処へ行くの?」
少し不安げに話しかける顔がまたかわいいんだなあ・・
俺は有頂天になっていた。

ここの路地を抜けた所にあるクレープ屋はちょっとその辺のクレープとは
レベルが違うんだ
特にチョコバナナは逸品さ
今度食ってみな。

俺はチョコバナナのクレープを2個買うと急いで戻った
美緒がいなくなっているような気がしたからだ。
しかし、その場所で俺をぼんやりと待っている中田美緒がいた。
その顔を眺めながら、また俺は夢の中にいるようで震えが来ていた。
一度大きく深呼吸をしてから
「よう、お待ちどう」
とチョコバナナの入ったクレープを差し出した。

********************
丁度同じ時間帯の春海のアパート。

鍋島からの電話を切ってからシャワーを浴びた。
お湯を顔で受けながら、本当に鍋島と出かける約束をしてしまった事は
良いのか何度も自問自答を繰り返していた。
お風呂から上がると髪を乾かして服を着替えた。
そしてお化粧をしようと鏡の前に座ったのだがどうしてもお化粧をする気になれない。
鏡に映る自分の顔をぼんやり眺めていると自分が嫌に思えてくる。
何故あんな約束をしてしまったのか・・
鍋島には悪いがやはり止めようそう思い立って受話器を持ち上げた時、
表でクラクションの音が聞こえた。

*********************
「あーーっもしかしてこれ【甘味堂】のチョコバナナクレープ?」
オクターブ高い声で美緒が叫ぶ。
「そうだよん。知ってたのかな?」
「うん知ってたよ、私ずっと前から食べたいなあって
思ってたんだけどマネージャーさんが
毎日カロリー計算をしていてほとんど甘い物は食べれなかったんだ。
だからすっごくうっれしぃ!」
「そうか・・アイドルもなかなか大変なんだなあ」
「そうだよ、ただ笑っていれば良いってもんじゃないんだゾ」
「わかった、わかった。じゃ食べろ!
普通のデイトしたいって言ってたろ?じゃこれ食べながら
公園通りを歩いて、代々木公園に抜けなきゃな」
「わっほー!修平ありがと」
「てっ!修平って・・まっ・・いっか・・」

***************************

窓から顔を出してみると真っ赤なオープンカーに乗った鍋島だった。
「えっもう?」
春海はそう思ったが、実際にデートと約束をしたのは自分だし、
今更断るわけにも行かず笑顔で話しかけた。

「あっすみません。もう少し待ってください。」
そう言うと
「は〜〜い。いいですよぉ、いつまででも待っていますから
僕も早く着すぎちゃったんで」そう言うと大声で笑った。

その笑い声を遠くに聞きながらまた自己嫌悪に襲われる自分がいた。
しかしその対角には陽子の話しをほんの少し疑うような気持ちが
よぎった事も事実だった。

***************************
二人してクレープを頬張りながら丸井のあるT字路の信号にさしかかった時だった。
俺の食ってたチョコバナナクレープの底のほうからバナナが顔を出していて
今にも落ちそうな事に気がついた。俺はポケットからティッシュを取り出し手を拭きつつ
真上を向いてそのバナナを口で受け止めようと格闘をしていた。

*******************************
急いでお化粧を済ませて車に乗り込むとすぐに車は発車した。
加速が始まるとシートに身体がのめり込む感触に襲われたがすぐに治まり
秋の風が気持ち良く髪を撫でて行った。
「すごい車ですねえ、ハンドルは左についているしメーターがいっぱいついてる」
「お褒めに預かって光栄であります」
芝居がかった言い回しに少しうんざりしたものの余りの気持ち良さに
どうでも良くなっていた。
車の振動と風の音や匂いは
女性を気持ち良くさせる何かの効果があるのかもしれない。
「春海ちゃんとの電話を切ってすぐに雨が止んで空が晴れて来たんだよ。
何だかツキがでてきた気がしてうれしくなっちゃった。」
鍋島の浮かれた口調がますます春海を憂鬱にさせていった。

*******************************
その様子がおかしかったか、笑いながら美緒ちゃんが俺の口元を拭いてくれたその時。
「あっ!」と美緒ちゃんが叫んだ。

************************
自宅方面から代々木公園を擦りぬけパルコ通りの坂を下って行った時
春海は少し向こうに気になる光景を見つけた。
初めは何だか良くわからなかったが女の感とでも言うのか・・。
それを凝視していて更に近づいた瞬間、「キャッ!」思わず叫んでしまった。
その声にビックリしたのか鍋島はタイヤをロックさせながらカーブに突っ込んで行った。

************************
と同時にものすごい勢いで真っ赤なオープンカーが今俺達が目指している代々木公園方面から
下ってきたかと思うとキキキッ!とタイヤをきしませて渋谷の駅の方へ駈け抜けて行った。
「急に叫ぶから何かと思ったよ」
「凄い車だねえ女の娘と二人っきりよ、デートかな?かっこいいね」
と話しかけてきたが、
俺はバナナに集中してた為に後姿を一瞬見ただけだった。
「へっどうせどっかの金持ちのボンボンだろ」
「ふ〜ん・・あたしもあんな車でドライブしたいな・・」

************************
「いやービックリしたよ。どうしたの?思わずブレーキを踏んでしまったよ」
「イイエ・・ナンデモ・・アリマセン・・」
そう一言いうと春海は凍りついたように、シートにもたれかかった。
頭の中が真っ白になっていて何をどう考えて良いのか判らなくなっている。
(今の・・キテ・・キ・・よね…。美緒・・ちゃん?・・何故?
しかもあんなに顔を寄せて、・・楽しそうに・・
判らないわ・・あたし・・あたしが・・
こんなに心配・・心配?

私は何をしているんだろう?
こんな、居たくも無い場所に座って・・
どうしてこうなってしまったの?キテキ!
あたしを守ってくれるって・・言ってた・・のに・・。何故?)

ギュゥゥゥゥンンンン、バォウウウウウウウンンン。
車は快いエグゾーストノイズを響かせ軽快に街を走り抜けてゆく。
閉ざされた視界と聴覚の外に一人の男がいて
何やらグラグラとくだらない話をしているのだが
しばらく何も反応する事が出来なかった。

「・・・・・って言ったから・・あれ?春海ちゃん?眠ってる?どうしたのかな?」
春海は、その鍋島の顔をはっきりと確認した瞬間から腹が立ってきた。
(なんで、あんたがそこにいてうれしそうな顔であたしを見てんのよ!
せめて、うれしそうな顔は止めてよね!)・・と・・しかし・・出てきた言葉は・・・。
「ウフッ!先生!何だか天気も良くなってきたし・・
このまま海にでも行きませんか?」
「でぇぇぇぇぇぇ!!!」鍋島は声にならない言葉で驚いた。
「海かい?いいねえ。僕ね、良い所知っているんだよ・・良し行こう!」
そのまま車は、ハチ公前のスクランブル交差点を通り過ぎ
国道246へ入っていった。

どれくらいの時間が過ぎたのだろうかあっという間のような気もするし
かなりの時間が経過しているようにも思えた。
春海の頭の中は今だぼんやりと薄くもやがかかっているように思考が
はっきりしないまま、風は潮風に変わった。

******************************
キテキと美緒は代々木体育館の脇を抜け、
代々木公園に来ていた。
これも美緒の希望で
「青空の下でお弁当を食べた〜い」と言い出したのだ。

キテキは隠れるように街を歩いて、
何処かに入ってご飯でも、と考えていたので当てが外れたが
美緒の行動には全くそう言う所が無く、
ごく普通に歩きごく普通に振舞っていたのだ。

しかし今は状態が状態だけにあまりにも
オープンすぎる美緒の行動には何か引っかかるような
気持ちはあったのだが、
普通の当たり前のデートを楽しみたいという
美緒の気持ちを優先して美緒の言うままにしていた。、
けれどキテキの心の隅に(何かおかしい)
そうつぶやいている自分がいた。

朝方の雨はすっかり止み、
抜けるような秋空が広がっていて
代々木公園はけっこうな人ごみになっていた。

大きなスジ雲が群れをなして空をより広く見せ、
濃い青の空はまるで宇宙の入り口だった。
「気持ち良いねえ。私の夢が少しづつかかなっていくのが
すごくうれしい。ありがとう。」
「そっか・・うん・・良かったな・・そうだよな・・」
自分を納得させるようにうなずくキテキだったが
それにも気付かないほど美緒ははしゃいでいる。

「ねえ!あそこが良いよ。」
美緒が指差す方向に小さなベンチが木陰になっていた。
すぐに走り出してベンチに座り大きな声でキテキを呼んだ。
「はやくぅ!早くして!」
呼ばれた声にはじかれたようにキテキも走り始めた。
「おうおうおう・・悪いなあ・・ボンヤリしてた。」
「さあさあ、ここで食べよう。
美緒ちゃんの特製のお弁当だゾ。ヒヒヒ」
アイドルとは思えない笑う肩に
キテキもさっきまでの猜疑心が吹っ飛んだ。
「うれしいなあ!あの!中田美緒ちゃんが
俺の為に作ってくれたんだあ・・わああ」
ちょっと芝居ががった口調だったが
美緒ちゃんにも気持ちは伝わったようだ。

「今日は朝はやくから起きて一生懸命作ったんだゾ。
ドーーーダァァァァ」
掛け声と共に弁当の蓋を開けて見て驚いた。
その中身は実に女の子しているお弁当で
たこさんのウィンナーや海苔で巻いた卵焼き
昆布巻きの佃煮・・?・・?・・?
昆布巻きの佃煮ぃ?なんじゃそれ・・
「こ・こ・この昆布巻きは?」
「へっへっへ・・すげぇだろー朝4時起きで作ったんだ。
ちゃんとかんぴょうで巻いてあるんだゾ」
「へぇぇこりゃすげえ・・
超一流のアイドルはお弁当作りでも超一流だなあ」
「『うううん・・愛があるからだヨ』」
「がっ・・それ・・お・お・俺でも知っとるぞ・・
はあはあはあ・・あ・あ・あのナンチャラっていう映画の
キャッチフレーズになっとった・・セリフだろ?・・
だって・・TVで何度も宣伝やってたから
映画は見に行ってねいけど俺・・知っとるもん」
「あっはっはああ・・バレた?でも良かったでしょ」
「んんんんん・・ナンだか知らんけど興奮した・・
ほんとうに美緒ちゃんとおるんだなあって思い知らされたがぁ・・」
「おっ・面白―イ」
「ン?何が?」
「ナンだかしゃべり方」
興奮し過ぎですこし田舎のなまりが出ていた。

「ふぇふぇふぇ・・俺の田舎は広島なんだ。」
「ふ〜ん、田舎があるんだ・・いいなあ・・私も欲しい田舎。」
「えっと・・美緒ちゃんは出身は東京だっけ?」
「ううん。横浜よ。色んな船がね、
いっぱい出たり入ったりしている港の近く」
「そうなんだ・・じゃあ、にぎやかな所で育ったんだね。」
「賑やかっていうか・・ドタバタうるさいとこだよ」
「両親は何をやってんの?」
「おかあさんが小さなスナックをやってたの」
「やってた?って事は今はやってないのかい?」
「うん・・」
そこまでしゃべると、
今までの明るさが少しくぐもったようになる。
「じゃあ・・お父さんは?」
お父さんと言うキーワードに彼女は反応して
ピクンと身体が跳ねた。
「あんな奴・・」
「あんな奴・・って・お父さんの事を
そんな風に言うもんじゃあっぷ・・ムグッ」
そこまで行った時いきなり美緒は俺の口を塞いだ。

話しに夢中になって周りに気持ちを配ってなかったのがいけなかったのか
気が付くと俺達の周りにはいつのまにか人垣が出来ていた。
「あれって・・美緒ちゃんだよねえ・・」・・とか
「じゃああの横にいるのはもしかして・・SFさん?キャー・・デイトぉ・・」
だんだんその取り巻いている輪が小さくなって来ている。

まあ無理も無いな・・今、この日本国内で押し押されもしない天下の中田美緒だ。
そんなアイドルが炎天下の中、男と弁当食ってりゃあ騒ぐなって言う方がおかしいや。
なんて事をボンヤリ考えていた時だった。
(ボシャ!・ボシャ!・ボシャ!)と目の前を光の渦がグルグル回る。
「な・な・な・・」
俺はビックリして言葉も出ずにおろおろするばかりだった。
「シッ!いい?何もしゃべらないで。私に任して・・」

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