a PIGO filmsコミュのみじかいみじかい物語 vol.16

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つけっぱなしのTVが2時間番組の特番の終わりを告げた。
久しぶりに浴槽にお湯を貯めて入ったお風呂からあがってから
頭を無印良品で買ったお気に入りのバスタオルで頭を拭きながら気が付いた。

明日の天気予報は晴れると言う。
まつげが長く、いくぶん化粧の濃いアナウンサーがブラウン管の向こうに座っていた。

浴槽に貯めていたお湯は、入浴するときには設定温度よりも低く
ぬるかった。
一度、頭まで浸かる。
鼻に水が入ったので、慌てて水を吐き出す。
排水溝には毛の塊が溜まっていた。
浴室の隅には湯垢が黴と共に繁殖していた。
シャワーを頭から被った。
最近お気に入りのシャンプーの匂いが心地いい。

もうどれくらいになるだろう。

缶ビールを開ける。
去年の売り上げNo１というビールを飲む。
No1でもNo２でも飲めればどっちだっていいのだが
嬉しそうな顔して買ってきた妻は、本当に嬉しそうだった。

付き合い始めて2年…、いや3年になろうとしてた。
彼女の実家の近くに住み始めた当初は彼女の両親も快く迎えてくれた。
僕は緊張しかしてなかった。そして泣いていた。

床に散乱している絵本。
何気なく手に取り、パラパラとめくる。
長年愛され続けたキャラクターは、愛らしい丸みを帯びた輪郭と
つぶらな瞳と、愛と勇気だけが友達らしい。

首振りが壊れてしまった電気ストーブがほんのりと部屋を照らし
ほんのりと部屋を温めていた。
オレンジ色の光が部屋を照らすその先に部屋干しされた子供服が
きれいに並んでいた。意外にボーダー服が多い。

ビールが切れた為、冷蔵庫に向かう。
冷蔵庫を開ける前に、ゆっくりと寝室へ向かう。

寝室の扉はソプラノ歌手のように高い音を出すので、ゆっくりと開け、
中に入る。

寝息を立てる妻と子供。
2歳になるというのにまだ卒乳が出来てないので寝る前には授乳が欠かせない。
授乳をしながら寝てしまうことは良くあることだ。
だが、妻は、先週から風邪をこじらせてしまい、
家事とパートと英語学校の両立は華奢な身体には負担が掛かり過ぎていた。
僕も、日中に部屋の掃除、炊事、洗濯、子供の面倒を見つつ、夜に仕事をこなした日が続いた。
薬も栄養ドリンクも飲めないのが授乳の大変な所で妻には本当に頭が上がらない。

静かな寝息が交互に繰り返されていた。
いつもありがとう、とささやきながら妻の頬にキスをした。
寝相でずれた毛布を掛け直し、そっと寝室を後にした。

23：30

唯一ある小さいデジタル式の時計が青白く光る。
あと30分で僕は誕生日を迎える。
ついに30歳の時代がやってくる。

冷蔵庫を開ける。
ビールの裏側に大きな箱のケース。
その脇に誕生日おめでとうと書かれたプレートとあなたへと書かれた手紙が一通。

「誕生日おめでとう。ついに３０歳を迎えるね

　
　こういうの三十路って言うんだよ。知ってた？笑
　いつもいつも、お仕事お疲れ様。これからも付き合い始めの頃みたいに
　ラブラブ

でいようね。子供もすっかり大きくなって、私の身長を
　越しちゃう勢いだよね笑　これからもよろしくね

　妻より

　P.S　今日、公園でシャボン玉が吹けるようになったよ！すごいよね！
　　　今度、一緒に公園行った時に見せるね。」

あと10分。

2本目のビールを飲みながら、そっと手紙を元の場所に戻す。
その足でもう一度寝室へ足を運ぶ。

寝ている妻と一緒の格好になり、肘を突き手で頭を支えた。
ビールを片手に、静かに目を閉じた。
30歳かぁ。30…。

やがて、寝室に寝息がもう一つ、増えた。

消し忘れたTVは深夜のバラエティ番組の始まりを告げた。

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