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西部二人組普及促進委員会コミュの第4話「謀略混戦列車」 The Wrong Train to Brimstone

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放送日 1972/5/6
監督 Jeffrey Hayden
原案 Stephen Kandel & John Thomas James
脚色 Sy Salkowitz
ゲスト William Windom:ジェレマイヤ・デイリー[ Jeremiah Daley ],
    J.D. Cannon:ハリー・ブリスコー[ Harry Briscoe ],
    Beth Brickell:セーラ・ブレイン[ Sara Blaine ],
    James Patrick O'Malley:マックダフ[ H.T. McDuff ]


昼間。町の厩舎。馬から鞍を降ろしていた老人がヘイズとカーリーに気づく。
「おや、もうお帰りで」
「そう」
ヘイズが言った。
「考えてみりゃ馬を売ってポーカーの元手を作るなんてのは利口じゃねえって気になってねえ」
「じゃあ馬と馬具を買いたいってんだな?まあ、100ドルきっかりってとこかなあ」
紙幣を手に驚いた表情のヘイズ。カーリーがすかさず言った。
「そんなに持ってないよ」
「そーかい。持ち金いくら?」
「86ドル」
ヘイズがこたえると老人はあきれたといった顔で、
「86ドルで馬具つきの馬を二頭か。そら虫が良すぎるってもんだよ、兄さん。悪いけど話はこれまで」
ため息をつき、カーリーと顔を見合わせるヘイズ。
次に、ヘイズは荷車上で荷物の積み上げをやっている老人に声を掛けた。
「ああ・・・ちょっとうかがいますけど、駅馬車の駅は」
「ホテルの隣だよ」
方角を指し示してやったあともせっせと麻袋を積み重ねながら老人は言った。
「だけど馬車は一時間前に出たぞぃ。まあ急いどるんだったら、今夜八時の汽車があるけどな。そら東行きだぞぃ」
「いやその東へ行くとこなんですよ」とカーリー。
「ありがとさん」とヘイズ。
「なんのなんの」と麻袋を積み重ねながら老人。
夜。ブランバーグ駅の切符売り場のカウンター。駅帽をかぶった年輩の男に向かって訊ねるヘイズ。
「次の駅は、東行きの」
「ブリムストンです。ここから百キロ」
「じゃあ、ブリムストンまで二枚」
男はちらっと二人を見上げて、
「今夜は売れませんな」
「どうして?」
「全部売り切れになってんです。座席がありません」
「・・・じゃあ、次の汽車は?」
「ああ、火曜日の四時です」
こたえて仕事を続けていた男はカサッという音にそっと目を上げた。紙幣を差し出していたヘイズがにこやかに言った。
「どうだね。10ドル余分に出せば、席は見つかると思うんだけどなあ」
ゆっくりと顔を上げ、厳しい表情で男は言った。
「おあいにくでしたな。ないと言ったらないんです。出直してもらいましょ」
がっかりした顔で手にしていた10ドル紙幣をポケットにしまうヘイズ。
重い足取りで裏口から切符売り場を出る二人。出てすぐの戸口の陰でカーリーが言った。
「オタオタできないよ。さっきちらっと見たろ、キングズバーグの保安官」
「じゃあ百キロテクるかよ」
「ほかに手があります?」
そこへ新たな二人組がカウンターに現れた。暗がりでそれとなく会話に聞き耳を立てるヘイズとカーリー。
「八時の列車を二枚」
「それが、全部売り切れでして」
「そんなことはない。私はグラント、こちらはゲインズという」
駅帽の男はやおらクリップボードを取り出した。
「ああ、これですね。ああああ、グラントさんにゲインズさん。そうしますと、お一人9ドルです・・・どうも、お気をつけてどうぞ」
ヘイズとカーリーの横を通って売り場から出てきた二人組。そのままトイレへ入って行った。その二人を見送ったヘイズとカーリーはあらためてカウンターへ向かった。
迷惑そうな顔で二人を見た駅帽。
「切符ならありませんよ」
「今のは買ったじゃないの」
ヘイズが言うと、
「予約なさってたからです」
「じゃあ、おれたちも予約してくれよ」
「なに言ってんの。今度の列車は売り切れ、おしまい!」
にべもなく断られ、カウンターに背を向けた二人。カウンターにもたれたまま、じっとトイレのドアを見つめた。
汽笛を鳴らし、夜の闇を突いて駅に入ってきた列車。ヘッドライトの丸く黄色い明かりが暗闇にくっきり浮かび、青白い煙が夜空を満たす。
その頃、トイレの個室では二人の男が猿ぐつわを噛まされ、両手両足をばっちり縛られていた。最後の仕上げにと男の頭に帽子を乗せてやり、涼しい顔で個室のスィングドアを押し開いて出てきたのはヘイズとカーリー。カーリーが切符の一枚をヘイズに渡す。二人はそのままトイレをあとにした。
スィングドアの下から縛られた二組の足がじたばたしているのが見えていた。
停車した列車に乗り込もうとしたヘイズとカーリーを車掌が呼び止めた。
「ああ、ちょっと待った。名前は?」
「グラント」
「グラントね。そっちは?」
「ゲインズ」
そしらぬ顔で堂々とこたえるヘイズ。
「ゲインズ。よし、乗って」
ヘイズが渡した切符を受け取った車掌はにやっと笑って、
「もういらねえんだよ」
くしゃっと丸めるやその場へ放り捨てた。奪い取ったばかりの切符をあっけなく捨て去られ、複雑な表情で乗り込むヘイズとカーリー。
二人が乗り込むと車掌はランプをかざして出発の合図を送った。
鐘が鳴り、スチームが上がった。汽笛を鳴らして列車は動き出した。
客車のドアを開け、中へ入ったヘイズとカーリー。席はほぼ満席、話し声でざわつく車内。
そんな中、明るいクリーム色の帽子をかぶり、口ひげを生やした中年の男がじっと二人に見入っていた。
車掌が黒い帽子をかぶった男に言った。
「乗せましたよ、ブリスコーさん」
自分たちの座席を見つけ、やれやれといった顔で腰を下ろしたヘイズとカーリー。それとなく辺りを見回す。通路を挟んだ隣の席ではボンネットをかぶり、毛糸のショールを肩にはおった老婆がせっせと編み物をしている。その隣にも老婦人が座っていた。
先のクリーム色の帽子の男が葉巻を吹かしながら相変わらずヘイズとカーリーのほうを見ていた。視線に気づいた二人は何となく落ち着かない。相手の男の向かいにはオレンジ色の帽子とケープをはおり、豊かなブロンドを肩に垂らした一人の女が座っていた。
汽笛を鳴らし、小気味よい音を響かせ、列車は闇夜の中を疾走していた。
クリーム色の帽子の男は葉巻をくわえたまま、なおもじっと、まるで監視でもしているかのようにヘイズとカーリーのほうを見ている。
腕組みをし、堂々その視線にこたえていたヘイズがふと目線を隣の席に移したときである。
編み物をしていた老婆が無造作にボンネットを脱いだ。その下に現れたのはなんと男の禿頭。驚いてカーリーの腕を突き、目で指し示すヘイズ。禿頭の男は無造作に葉巻を口にくわえた。それを見て隣に座っていた老婦人もかぶっていた帽子を取った。これまた男だった。
あっけにとられた顔で二人の女装した男を眺めるヘイズとカーリー。女装していたのはほかにもいた。狐につままれたような顔で周囲を眺めやる二人。
クリーム色の帽子の男の向かいに座っていた女が手袋を脱ぎながらそっとヘイズとカーリーのほうを振り向いた。優しく微笑んで二人を見ている。なかなかの美人だ。目が合って、とっさに帽子に手をやって挨拶を返すヘイズ。無理やり微笑って見せるカーリー。二人とも心中穏やかではなかった。なんとなくイヤな予感がして、どちらからともなく顔を見合わせた。
「みんなちょっと聞いてもらいたい。話をやめてくれ!」
突然車掌が声を張り上げた。その頃には女装していた男たちはみないつの間にか男の服装に戻って中折れ帽を頭に乗せ、葉巻をくわえて前方を見つめていた。
「ブリスコーさん、お願いします」
「それでは諸君」
席の最前列に立ち、座席を見回しながら、ブリスコーという男が重々しく口を開いた。
「さて人員もそろったところで今度の詳しい作戦を述べておく」
真っ黒の帽子に薄青色の三つ揃スーツをピシッと着込み、これまた口ひげを生やした、蛇の目のように眼光鋭い男だ。
「この列車は臨時列車ではなく普通の定期便であり、本日午後、予定通りの荷物を積み込んだ。言わずと知れたウォッシュバレー鉱山会社の積み荷である。だが一つだけいつもと違う。それは積み荷が通常の二倍ということである。わかったか?二倍だ。つまり、25万ドルを超える金(きん)だ」
どよめきが起こった。制するように口を挟んだのはクリーム色の帽子の男。
「それが今荷物車にあるんだ」
「そうだ。デンバーの造幣局まで送るのだ」
ブリスコーの話は続いた。
「しかし諸君も承知しておろうが、こういう情報はえてして法律を無視する輩(やから)の耳に入りやすいものである。で、それを逆手に取ることにした。こちらから情報を流したのである。なにゆえか。その理由はただ一つ。ヘイズとカーリー率いるところのギャングどもを一網打尽にせんがためである!」
ヘイズとカーリーは憮然とした顔を見合わせた。
「過去一年間にこの列車はやつら一味に二度襲撃されておる」
ブリスコーの堂々とした演説は続いた。
「したがって、今度も大量の黄金ありと知れば、これまでの成果に味をしめたやつらは、必ずや襲ってくるであろう」
「そこを待ち受けといて息の根を止めるとね」
口を出したのは編み物をしていた男だった。顔色を変えるヘイズとカーリー。
「そうだ。次の駅はブリムストンであるが、襲撃の予想される地点は、ブリムストンと山のあいだである」
そう言いながら、ブリスコーはゆっくりと座席のあいだの通路を歩き出した。
「ここに乗り込んだ諸君は、いずれも栄えあるバーナマン警備社が誇る敏腕ガードマンであり、精鋭である」
とんでもないことになったといった顔を見合わせるヘイズとカーリー。ブリスコーはふたたび最前列へと戻っていった。
「この際一同、心ゆくまで歓談してもらいたい。だが、いったん緩急あれば敏速なる行動で対処してもらいたい!よろしいな!」
賛意を示して声を上げ、手に手に拳銃を振りかざして意気盛んなところを見せるガードマンたち。満足そうに見回すブリスコー。その目がふと勢いのない二人組をとらえた。目つきが険しくなる。
その視線と表情に気づき、慌てて銃を抜くや笑顔で振って見せるヘイズとカーリー。よしよしとうなずくブリスコー。
「今度こそ一匹残らず退治するのだ。わけてもヘイズとカーリーは絶対に逃してはならん。そのあとはしかりだ。というのも、荷物車には金の延べ棒と一緒に上等のウィスキーが二ケースも積んであるからである!諸君、飲ませるぞ!」
歓声が上がった。周囲の調子に合わせ、銃を振って力なく笑って見せるヘイズとカーリー。
「しかしブリスコーさん」
車掌が訊ねた。
「どれがヘイズでどれがカーリーかってのはわかるんですか?やつらの写真か何かあるんですか」
「それはない。はなはだ残念ではあるが、それが我々の大きな弱みである。しかしながら、今回は期待できる」
ヘイズとカーリーの表情がこれまでにもましてこわばった。
「諸君はこの美しい女性が乗っておるのをさぞ不審に思っておろう」
その声に女がそっと後ろを振り向いた。ヘイズとカーリーのほうを見て美しく微笑んで見せる。
「我が警備社の一員ではない。外部からの協力者という形で参加してもらった。これにはカンザスシティ支社のデイリー君の力に預かるところ大である」
するとクリーム色の帽子の男がみんなに向かって帽子の縁に指を立てて見せた。
「今度のことも彼の発案だ。では参加理由をうかがおう。諸君!セーラ・ブレイン嬢だ!」
女が立ち上がった。いっせいに拍手がわき起こる。ヘイズとカーリーも仕方なく手をたたいて見せた。
「よろしくお願いします」
あでやかな笑みを浮かべ、一同に向かって優雅に会釈して見せたセーラは涼やかな声で言った。
「あたしが出しゃばって参りましたのはほかでもない、みなさまのお役に立つと信じたからです。実はあたし、ハンニバル・ヘイズとキッド・カーリーを知ってますの。二人の人相風体を詳しく存じていますのよ」
不安そうにそっと視線を合わせるヘイズとカーリー。互いに顔を見合わせた二人の表情は完全に凍りついていた。
女が腰を下ろし、ふたたびブリスコーが言った。
「これほど役に立つ人はいない。ギャングどもがこの列車に襲いかかるやいなや、このお嬢さんがヘイズとカーリーはあやつめなりと諸君に指摘してくれるんだ。バーナマン社長ご自身もこのたびの大作戦に賛同してくださる。ヘイズとカーリーを縛れるんだ。やつら二人の賞金だけでも、報酬としては引き合ってあまりあるんだ」
ふたたび歓声と拍手。クリーム色の帽子の男はいつまでもヘイズとカーリーのほうを見ている。セーラが肩にはおっていたケープをはずした。
「さあそれでは、すぐ金の警備についてもらおう」
名指しされた二人の男が荷物車へと消えていった。
「あとはくつろいでくれ。先は長い、焦らずに待つことだ」
ブリスコーがそう言ったあと、セーラが席を立った。通路を歩いてヘイズとカーリーの前にやってくる。人相風体を知っているわりにはいやに愛想がいい。
二人の前に立ったセーラがにこやかに言った。
「まだ紹介されてませんけど、失礼」
前の空いていた座席を向き合わせてヘイズがすすめた。
「どうぞ」
「あら、すみません」
二人の前に腰を下ろしたセーラに、ぎこちなくヘイズが言った。
「私、あのう、グラントです。それからこちらゲインズ」
「そう。よろしくね」
「よろしく」
セーラの視線に、言葉少なにこたえるカーリー。二人を交互に見つめ、笑顔を振りまいてセーラは言った。
「これでみなさんと知り合えたわけですわ。頼もしい方ばかり」
不安を押し隠し、硬い笑みを浮かべてセーラを見つめるヘイズ。
ヘイズに不安そうな視線を投げたカーリー。
そんな二人を見つめるセーラはあくまでにこやかに微笑み続けていた。
空がしだいに白んでくる中、列車は走り続けた。
「どうしてヘイズとカーリーをよく知っているのか興味がありますねえ」
カーリーが言った。セーラははにかむように微笑んで、
「あれはもう大変な経験でしたわ。おそらく一生忘れないでしょうねえ」
「強烈な印象で迫ってきたわけね?」
ヘイズも微笑んで言った。
「しかし美女と無法者、ちょっとした絵になるじゃないですか」
セーラはまんざらでもない様子で微笑むと、
「美女だなんて」 
一方、座席前方ではブリスコーが地図を手にデイリーの隣に腰掛けて言った。
「一応は見当はつけたがやつらのことだ、どこで襲ってくるかはしかと定まらん。あらゆる地点を考えねばならん」
デイリーは葉巻を手にセーラたちのほうばかりを見ていて話を聞いてない様子。
「デイリー」
「は?」
「きみの意見は」
「ああ、そうですなあ。やはり、万全の備えをすべきでしょう。相手が相手だから」
「去年、シャイアンの西で列車強盗がありましたでしょ?」
こちらはセーラ。ヘイズが応じる。
「新聞で読みました」
「あたし、そのときの列車に乗り合わせてましたの。フリスコにいる母のところへ行く途中でしたけど、ダイナマイトが爆発しまして」
「ダイナマイトが?」
カーリーが言った。セーラは情感たっぷりに、
「金庫を吹っ飛ばしたんです。そりゃもう、ひどいもんで」
「それも、読みました」
冷静にヘイズが応じた。セーラは愛嬌を振りまいて、
「爆薬の量が多すぎたんじゃないかと思うんですけど。とにかくあたしは藪の中まで吹っ飛ばされましたの」
無言で顔を見合わせるヘイズとカーリー。
「そのとき石で頭を打って失神しているあいだに汽車が出ちゃったんです」
不思議そうにヘイズが言った。
「そらあ読んでなかったなあ」
「新聞には出てません。すると、キッド・カーリーが見つけてくれまして。ヘイズと一緒にキャンプへ連れてってくれましたの。そこで何日か休ませてくれた上に、シャイアンまで送ってくれましたわ。フリスコまで行く旅費までくれましたのよ。だからあたしも今まで、そのことは伏せてたんです。ほんとに紳士らしい態度で世話してくれたんですもの、二人に味方したくなるのが人情でしょ?」
「そうですねえ。人間としちゃあやはり恩に着ますからねえ」
投げやるような口調で相槌を打つカーリー。そのとき、葉巻をくわえたデイリーが通路を歩いてきた。最後部の仕切りカーテンに手を掛けてセーラを見つめる。セーラは話を続けた。
「でも、警備社のデイリーさんに世のため人のためって口説かれて、結局、証人として乗ったんです」
デイリーがカーテンを閉めながらセーラを見た。その視線にセーラは立ち上がった。
「ちょっと失礼しますわ」
カーテンの奥へ入り、デイリーに向き合ったセーラ。
「なあに?」
「何を話していたんだ、あの二人と」
「・・・どうして?」
「何を話してたんだ、言え」
「ああ、別にたいしたことじゃないわよ。ヘイズとカーリーをなんで知ってるかって訊くから話したのよ。例のデマカセを」
デイリーの表情は硬かった。
「どうしたっていうのよ」
「いや、おれは別にどうもしてない。しかしどっかで手違いがあったんだ。やつら、グラントとゲインズじゃないぞ」
驚きの目を見張ってしばしまじまじとデイリーを見つめていたセーラは、
「ほんと?」
困惑した様子で視線をさまよわせるセーラ。
「だって名乗ったわよ」
「それが嘘なんだ。これじゃ計画が狂っちまうじゃないか」
「あ、ちょっと待って」
しきりに頭を回転させている様子でセーラは言った。
「大丈夫よ。たいしたことじゃないわ」
こちらはヘイズとカーリー。カーリーがささやくように言った。
「あの女の狙いは何か見当つくかい?」
「つきませんねえ、グラント君。ぜんぜんわかんねえや」
「おれあゲインズだろ?グラントはおまえさんだ」
カーテンの奥。
「ブリスコーがあの二人にすげ替えたようにも見えないわよ」
そう言ったセーラはやおらデイリーに向き直った。
「あんた話してきて」
「何を?!」
「二人が何者か探るのよ!」
汽笛を鳴らし、列車は走り続ける。フル回転する車輪。
カーテンが開く音にそっと後ろをうかがったヘイズとカーリー。デイリーが二人の背後にそっと忍び寄った。
「私はデイリー。カンザスシティ支社のデイリー」
「やあ、これはどうも」
振り向き、にこやかにヘイズが言った。
「おれはグラント、こっちはゲインズです」
「違うね。そら違う」
怪しい雲行き。ヘイズは前に向き直り、今度はカーリーが首をねじ向け、二人は同時に言った。
「どういうこと?」
「だから言ったろ。きみはグラントじゃあないし、きみもゲインズじゃない」
堂々とヘイズが言った。
「そんなこと言い切っていいのかねえ」
「いいんだなこれが。私は以前フォートワース支社にいた。だからグラントとゲインズが転勤になる前に一緒に仕事をしてたってわけだ。支社長はブライト。偽者だよきみたちは」
「それじゃあ」
カーリーが言った。
「どうするつもりです?デイリーさん」
「そらきみたちしだいさ。つまり、なんだな・・・どうやって乗り込んだか、なんのために来たか」
カーテンの奥ではセーラがじっと聞き耳を立てていた。
「実は、この前の町を出たかったんだ」
慎重に言葉を選びながらヘイズが言った。
「それも早々に。ところが、切符が買えねえときた。で、いただいたわけ。グラントとゲインズのをね」
「はあん」
「ほんとは譲ってもらうつもりだった」
とってつけたようにカーリーが言った。
「ところがあのう・・・ゲインズだっけ?ガンを抜きやがって。あれこれ訊いてきたんだなあ。で、やむを得ず」
「ブッ倒して切符を取って乗ったと」
「・・・そういうこと」
ヘイズがこたえた。
「いいだろ。信用しとこう。その代わり、本名を名乗ってもらうよ」
「ハンニバル・ヘイズとキッド・カーリーだ」
ヘイズがこたえた。ヒヤッとするカーリー。とたんデイリーは低い忍び笑いをもらした。
「冗談はよしたまえ」
さもおかしいと言わんばかりに笑っている。おかげでヘイズもカーリーもやや緊張を解くことができた。内心どぎまぎしながら、二人はぎこちない笑みを浮かべて前方を見た。
おもむろにデイリーが言った。
「じゃあ訊くまい、わけがあるんだろう。私もこれでもののわかった男のつもりだ。ブリスコーにはきみたちのことは黙っておくからな」
首を向けてカーリーが言った。
「・・・どうして?」
「ま、私には私で、ちょっと、わけがあるのさ。きみたちが町を出たがるのと似たようなもんだ」
「似たようなもんて・・・どういうわけ?」
「調子に乗るんじゃないよ、おまえさん、え?ブリスコーにひとこと言やあ偽者だってんで大騒ぎになるんだ。そうなりゃ困るのはそっちだろう?ま、ここは素直にね、厚意を受けておくことだ。いいじゃないか。あとでお返しに何かやってもらうってこともあるんだからさ。じゃあま、よろしく頼むよお二人さん」
二人の肩をポンと叩き、デイリーはカーテンの奥へ戻っていった。カーテンの向こうで神経質そうな表情を見せているセーラ。
カーテンを素早く閉め、デイリーが言った。
「まず心配ない」
「どうして」
「野郎たち本名も言いたがらない。だがわけあって前の町を急いで出ることになったって言うんだ。それでグラントたちをぶん殴ってだな、切符をもぎ取って乗ってきたってわけ」
「グラントたちがいないと困るじゃないの」
「なあに、ガンを扱えるやつが二人いりゃいいんだよ。それならあいつらでも用は足りる。じわっと脅しをきかせておいたが、言う通りにするさ」
「でも今言っちゃだめよ。早まっちゃドジ踏むから」

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