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2006年01月31日00:35

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「耽奇館主人の日記」自選其の二十三

2003年12月01日(月)
三人の魔法使いのこと。

会社の中で、自分の好きな魔法使いは誰か、という話題で盛り上がっている。今時っぽく、ハリー・ポッター、ロード・オブ・ザ・リング、陰陽師を持ち出すのは構わないのだが、好奇心が先走って、さらなる分野へ分け入るのは、はっきり言ってうるさいだけだから、そういう話題は軽く受け流すに限る。
私もさらりとアレイスター・クロウリーだよと答えておいた。
前世紀に実在した人物で、色々な伝説がつきまとう黒魔術師だが、彼の書いた著作を読む限り、私としてはあまりにも人間くさい魔術師であったように感じる。
ちなみに、クロウリーの容姿は、ビートルズのアルバムの「サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブバンド」の背景にコラージュされた人物像の中に見られる。インドでサイババに感化されたビートルズらしく、四人が好きな人物にクロウリーが加わっているというわけだが、私は何となくにやりとしてしまう。
サイケ世代の上司や先輩たちは、クロウリーと聞いて、ああ、彼かと頷いていたが、私よりも若い世代は誰のことだかさっぱりだったので、丁寧に説明してあげた。
現在、「666」は、黙示録の獣、即ち悪魔の数字として知られているが、第二次世界大戦前後の時代は、クロウリーの代名詞だったのである。
さて、ここ、日記においては、クロウリーは実はたいして好きな魔法使いではない。一人の人間としてなら好きだが。
架空の物語において、私の好きな魔法使いは、リチャーズ氏、カンタン・モルチュス・カッサーヴ、加藤保憲の三人である。
まずは、リチャーズ氏。
イギリスの作家、エドワード・ジョージ・ブルワー・リットン男爵の「The Haunted and the Haunters;or,The House and the Brain」に登場する不老不死の妖術使いで、クライマックスにおける、主人公の「余」との心霊問答はなかなか読みごたえがあった。この作品は、今日では、平井呈一翁の名訳で「幽霊屋敷」というタイトルで創元推理文庫の「怪奇小説傑作集第一巻」において読めるが、元々は小泉八雲が英語で書かれた一番怖い話であると紹介したくらい、我が国では古典的な作品なのだ。
次は、カンタン・モルチュス・カッサーヴ。
ベルギー最大の幻想文学作家、ジャン・レイの最高傑作と謳われる「マルペルチュイ」(月刊ペン社)に登場する薔薇十字団に在籍していたと言われる魔術師で、ギリシャ神話に造詣が深く、部下を使ってギリシャの海の孤島から神々を生け捕りにしてきて、マルペルチュイという館に幽閉するということをやってのけたところは、全く度肝を抜かれてしまった。本人は物語の冒頭で死に、残された家族が遺言を執行して、本人の遺志が宿る館そのものが不気味に蠢動するという展開なので、濃密、濃厚な読みごたえがあった。
最後に、加藤保憲。
荒俣宏の「帝都物語」シリーズ(角川文庫)に登場する、明治、大正、昭和の東京を暗躍した魔人である。映画版はつまらなかったが、長い顎がインパクトたっぷりの俳優、嶋田久作さんが演じていたあれと言えば、ああ、と思い出す方もいるだろう。現在では陰陽道というと安倍晴明だが、元々はこの加藤保憲が陰陽道の知名度を広めたのである。
私の好みは、上の三人を読んだことのある方なら、頷かれることと思うが、ものすごい魔法を使うことではなく、人間としての欲望がどぎついという点である。リチャーズ氏は自分の思いどおりにならぬことには耐えられず、その強い意志で不老不死をものにしてしまうし、カンタン・モルチュス・カッサーヴは熱狂的な収集家のようにギリシャの神々を生け捕りにするし、加藤保憲は東京を憎むのと同時に、東京を愛してしまう。
架空の人物とはいえ、やはり、アレイスター・クロウリーのように、人間としての強烈な何かがなければ、読ませるだけの魅力がないのだ。
そして、それは、人生において、生き方の指標にもなりうるのである。
今日はここまで。
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