これは、浅野いにおによる同題漫画をアニメ化した2部作の前章。尚、浅野いにお作品は、「ソラニン」、「零落」、「うみべの女の子」などが映画化されているが、意外にもアニメ化は本作が初めてなのだ、と言う。
声の出演としては、YOASOBIのボーカル、幾田りらと、マルチタレントのあのが声優初挑戦。監督は「ぼくらのよあけ」の黒川智之。
某年8月31日。東京湾沖に突然現れた巨大な円盤形宇宙船は、米軍のA爆弾による攻撃であっけなく機能停止――それから3年が経過しても東京上空に浮かび続けていた。宇宙船からは時折、小型飛行物体が出て来るが、それは自衛隊と米軍により撃退され、都内の住民は宇宙船の下で日々の暮らしを続けていた。
そんな東京で、高校3年生の小山門出は暮らしている。親友の中川凰蘭たち5人組の話題は、ゲームやマンガ、そして恋バナと他愛のないものだ。だが、ある日、5人組のひとり、栗原キホが宇宙船と交戦した自衛隊の巻き添えとなって死んでしまう――
この映画が描くのは、命に関わるような非日常に慣れてしまう人々の姿――原作漫画がベースとしたのは東日本震災だろうが、その「慣れ」はコロナ禍でも多くの人が体験しただろう……そうした、実感できるリアリティを積み重ね、本作が描いて見せているのは、何かが起きそうで起きない不穏さ……何かが起きるのが、映画後章なのだろうし、原作とは構成を変えて、門出と凰蘭の小学生時代を描いているのも、後章に起きる「何か」を引っ張る為の工夫だろう。それだけに、早く後章を見たくなる一方、1本の映画としては、いささかフラストレーションの残るものになっているように思う。
それでも映画としては、なかなか見どころはある。リアルに描き込まれた日常の風景など、アニメとしての完成度は高く、ビジュアルの完成度も高い。作中で門出が好きな漫画として登場する「イソベやん」はドラえもんのパロディだろうが、これを物語に絡めて行くのも巧い。全体的に軽妙な作りだが、そんな中でも、キホの死に直面した時の凰蘭の振舞いには、思わず涙してしまった。
ただ、女子高生5人組が主人公なのに、主人公の門出以外は可愛くないのは、浅野いにおらしい所だろうし、それがアニメ化が敬遠されて来た一因であるように思う。
声優としては、幾田りらがプロ顔負けなのは「竜とそばかすの姫」で判っていたが、あのの声優としてのポテンシャルの高さにも驚かされた。
これは本当に後章が楽しみな映画だ。
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