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2017年11月18日00:02

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『不変の愛』

 2017年のロス誕第一作です。
 聖戦後復活設定でロスサガ。こんなタイトルですがコメディです。
 冒頭の詩は『ギリシア詩華集』(西洋古典叢書)より。
 ちなみにこのストラトンの詩は「稚児愛詩集(ムーサ・パイディケー)」という編に収録されてまして、その名の通り、古代ギリシャで流行していた少年への愛を歌った詩編です。ストラトンという詩人は、サルディス出身で二世紀の人ということ以外はほとんど来歴不明な詩人なのですが、残っている詩はすべて少年愛を歌ったもので、それがために欧米では近代になるまで現代語訳されなかったという筋金入りのホモォな人です。ギリシャばんざい\(^o^)/
 短編で、あまりお祝いにもなってないので、もう一作書きました。『教皇様だって苦労してるんです』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8919554
 でもやっぱりお祝いになってない…。
 だけど最終的にはアイオロスはサガに「特別なプレゼント」で祝ってもらえたと思うよ!
 アイオロスとサガが出会った当時の話は『サガの料理修行』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5890974『射手と双子の嬉し恥ずかし思春期日記』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6197855を参照。
 昨年の作品はこちら。『接吻』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7529669


うっすらとしたひげが君の頬を覆い、柔かな巻毛の房が君の顔を翳らせようと、愛する君を捨てたりはしないよ。
この美しさはひげが生えようと、髪が覆おうと、ぼくのものだ。

二世紀の古代ギリシャの詩人ストラトンの恋愛詩より

『不変の愛』

 十一月三十日の朝。己の誕生日であるその日、教皇の間の寝室で眠っていたアイオロスの意識は睡眠から覚醒へと浮上した。
「…うう〜ん…」
 冷涼とした秋の空気がアイオロスの顔の皮膚を冷やす。柔らかな布団に包まれた体幹は暖かく、そのぬくもりの中でいつまでもうとうとと惰眠を貪っていたいという欲望に堕ちてしまいそうになる。
 それでも朝になったからには起きねばならぬという義務感から、アイオロスは重いまぶたを開いた。
 教皇を務めるアイオロスの仕事は存外忙しく、早朝には朝の礼拝があるし、アイオロスの誕生日であるこの日などは、祝賀のための競技会だの、謁見だの、食事会だの、行事が目白押しになっているのだ。
 そうして眠りの神と戦いながら嫌々ながらにアイオロスが開眼した時、目の前に飛び込んできたのは、深刻そうな表情で自分を見つめるサガの姿であった。
 双子座の黄金聖闘士であり、教皇の首席補佐官であり、アイオロスの最愛の恋人でもある彼のいきなりのどアップに、アイオロスはしばし固まった。
「…あ、え〜と…おはよう、サガ」
「…おはよう、アイオロス」
 アイオロスが身を起こす。昨晩、同衾して思う存分に愛の営みを楽しみ、交歓を極めた愛しい人は、眉根を寄せていつになく真剣な顔でアイオロスをにらみ続けていた。
「あの…サガ、どうかした?」
 サガは何かとよく苦悩しては憂愁の気色を表情に浮かべることの多い男ではあるが、そしてその姿も美しいとアイオロスはのろけたりするのだが、二人で愛を交わした後朝の朝に、しかも起き抜けでの重いどんよりとした雰囲気に、アイオロスは何か大変な事件でも起きたのかと心配になった。
「アイオロス…」
 そしてサガは深刻そうな表情のままで、美しい白い手を伸ばしてアイオロスのあごを撫でた。
「ひげが…」
「ひげ?」
 アイオロスのあごに触れられたサガの手には、ざらざらとした彼のひげの感触が当たっていた。
「ひげが…伸びて…」
「ああ」
 さして驚きも関心も湧かないままに、アイオロスは自分のあごを己の手で撫でた。
「そりゃ男だからな。朝になったらひげくらい伸びてるさ」
「ひげ…」
 サガは今度は己のあごを撫でてみた。ひげの伸びた感触はほとんどなく、指の先に引っかかる感触が少しばかりある程度だった。
「ひげ…。私にはほとんど生えない…」
「まあ、ひげの生え方も個人差があるだろうからな」
 アイオロスは深く考えもせず答えた。サガは全体として髪の毛以外の体毛が少なく、ひげも、生えはしてはいるのだが極めて薄く、毎日剃る必要などないほどだった。アイオロスから見ると、ひげを剃る手間がはぶけて、どちらかと言えば羨ましい体質だ。
「…で、ひげがどうかしたのか、サガ?」
 相変わらず眉根を寄せて懊悩しているサガにアイオロスが問う。サガは顔を上げ、こう尋ねた。
「ア、アイオロス、私は男らしくないだろうか?」
「…は?」
 唐突な質問にアイオロスが戸惑っていると、サガはせわしなく自分のあごや腕を撫でて言葉を続けた。
「だ、だって、ひげもほとんど生えなくて、手足もこんなにつるつるで…。お、女みたいではないか!?女々しい、軟弱な肉体だと思わないか、アイオロス!?」
「…え、えーと…」
 アイオロスが返答に困っている間にも、サガの自虐は続いていた。
「わ、私だってもっと男らしくなりたい!ひげももっともじゃもじゃに生やして、手足だって剛毛で覆われて…」
「ちょ、ちょっと待ってよ、サガ…!」
 慌ててアイオロスはサガの言葉を制し、慰めの言葉を口にした。
「そんなことはないよ!サガの体はとても綺麗だ!おれは好きだよ!手足も頬も本当につるつるで、撫でるとすごく気持ち良くて…」
「……」
 だがその言葉は、サガの別の自虐のスイッチを押してしまったようだった。
「…アイオロス、お前は、私を女の代用品だと思ってはいないか?」
「え?」
「ほ、本当は、私ではなく女性を抱きたいのではないか?その代わりに私を…。い、いや、ひょっとして、実は思春期くらいの少年の方が好みなのでは…!だからひげも生えない私を…!」
 思考の迷路を斜め下の方向に入り込んで半狂乱になりかけていくサガに、アイオロスはうろたえ、慌てた。
「ち、違うって、サガ!」
 がしっとアイオロスはサガを抱きしめ、耳元で叫んだ。
「おれはサガが好きなんだ!サガだから、いいんだ!サガがどんな姿でも…ひげがなくても、逆にひげでもじゃもじゃでも、おれのサガへの愛は永遠に変わらないよ!」
「アイオロス…」
「愛してる、サガ!」
「…ああ、アイオロス」
 ようやく落ち着きを取り戻したサガは、温かいアイオロスの体を抱き返した。
「ありがとう、アイオロス。私もお前を愛してる」
「サガ…」
 しばらくの間、二人は優しい抱擁に身を委ねていた。
「さあ、起きよう。そろそろ朝の支度をしないとな」
「うむ」
 ちゅっと朝の挨拶代わりのキスを交わし、二人は寝台から起き上った。夕べ、愛の喜びに耽った二人は、どちらも生まれた時の姿のままだった。
 アイオロスはふっとサガの腹部に視線を下ろし、そして言った。
「あのさぁ、サガ…」
「ん?なんだ、アイオロス」
「今日はおれの誕生日だよな?」
「ああ、そうだな」
「おれ…特別な誕生日プレゼントがサガから欲しいんだけど…」
「うん?なんだ?」
 珍しいアイオロスからの要求に、サガは彼の横に腰を下ろして聞く態勢に入った。
「おれたちが出会ったのは、まだ少年の頃だったよな。おれにとってはサガは初恋でさ…」
「…ああ…」
 懐かしい思い出にサガがはにかむように微笑む。
「だからさ、その出会った頃の気分で愛し合ってみたいんだよね。サガのその下の毛を全部剃っ…」

 バッチーン!

 その日、朝の礼拝に参列した神官たちは、教皇アイオロス様の頬に赤い平手打ちの跡がくっきりと残っているのを、必死で見てみぬふりをしたのだった。

<FIN>

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