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2017年07月04日16:15

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『小っちゃくなっちゃった!』第1話

 カノンが幼児化した話は二作ほど書いたので(『仙境の桃』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5701981『海皇様の海龍愛玩大作戦』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7503210)、今度はサガを幼児化させた話を書いてみようかな、と思って書いた話です。
 聖戦後復活設定。ロスサガ前提ですが、ちょっとカノサガとロスカノ要素もあります。
 幼児化したサガの可愛さよりも、アイオロスとカノンの漫才とか、ギリシャ神話のうんちくとかがメインになっちゃったなぁ。
 今回はアルペイオス河神とネイロス河神にご登場を願いました。二神についての神話は本文を参照。ネイロス河神は『ハルモニアの首飾り』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3513947に、アルペイオス河神は『セクアナの泉』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4970379に、名前だけ出て来てます。
 河の神というのはマイナーですが、流域の土地に根差した神話や系譜があって調べてみると結構、面白いです。例えばテッサリアを流れるペーネイオス河神の息子はテッサリアに住んでいたという伝説的な民族ラピテス族の王になってるし、アルゴスを流れるイナコス河神は彼自身が初代のアルゴス王で、その後もイナコス河神の子孫がアルゴス王位を継承していたのですが、エジプトから来たゼウスの子孫のダナオスに王位を譲ったという、「原住民が外から来たギリシャ人に征服されたんだな」な背景をうかがわせる神話がありますし、トロイア近辺を流れていたスカマンドロス河神は何度もトロイア王家と縁組してます。男系の祖先は箔をつけるためにゼウスとかポセイドンを持ってくるけど、女系の方で河神と縁組してその土地との縁を強調する…という系譜が多い気がする。河神の息子の方は人間の英雄なのに、娘の方はニンフというのもよく分からない…人間と神の違いはどこで決まるんだろう…(トロイア王家の祖ダルダノスは、父親はゼウス、母親は昴の女神の一人エレクトラという血統で、同じくゼウスが父で昴の女神の一人マイアが母のヘルメスが十二神なのに対し、ダルダノスはあくまで人間なんだから、この格差は何なんだ…)
 オケアノス神の子供たちの年齢順というのは、長男がアケローオス、長女がステュクス、次女ピリュラ(ケイロン母)、三女ネダ、末娘イデュイア、という以外は分からないのですが、『神統記』ではネイロスの名前が最初に出てくるので、ネイロス河神の方がアルペイオス河神より兄ということにしました。
 「オケアノス神が子供のサガとカノンを自分の膝に乗せた」という逸話は前から出したかった話。トールキンの『シルマリルの物語』でもエルフのシンゴル王が孤児となった人間トゥーリンを膝に乗せて「こんなことはかつてなかった」と描写されてますが、あれも「膝に乗せる=我が子と認知する」という文化的背景があっての描写です。
 昨中でアルペイオス河神が貨幣をつかった占いをしてますが、実際の古代ギリシャにはああいう占いはないです…多分。ヘルメス神が司る小石を使った占い、というのはあったのですが、具体的にどうやって占うものだったかが分からない…。作中でアルペイオス河神がしている占いは中国の易を参照にしたものです(貨幣の表が出るか裏が出るかで陰陽の爻を重ねていってる)
 双子のオリジナル少年時代設定については『雪解け』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3484101を参照。
 アケローオス河神については『ハルモニアの首飾り』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3513947『ドナウの白波 黄金の酒』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4939909『セクアナの泉』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4970379を参照。


『小っちゃくなっちゃった!』第1話

 カッ、カッ、カッと足音が石の床に甲高く響いた。
「それでサガがどうしたと!?」
 教皇の間の通路を大股で歩きながら、カノンは後ろをついてくるアイオロスに尋ねた。
 双子座の黄金聖闘士であると同時に海将軍筆頭・海龍も兼任しているカノンは、普段は海界に住み、その地の統治に当たっている。
 だがその日の早朝、カノンは聖域の教皇であり、双子の兄の恋人でもあるアイオロスに「サガにちょっとトラブルが起きた。急いで来てくれ」と教皇の間に呼び出されたのだ。
 海界での平服である丈長のチュニック姿にサンダル履きのカノンに対し、アイオロスは簡素とは言え、法衣姿だ。アイオロス本人としては「私服なんだからもっと簡単な服でいい!訓練着でもいいから!」という心境だったのだが、聖域の教皇様の体面として、人に会わせるのにそんな姿では…と侍従たちに法衣に着替えさせられたのだった。
 やがて目的の部屋、アイオロスの寝室の前にたどり着いたカノンは、バン!と勢いよく扉を開け放った。部屋の中央には、天蓋に紗の帳のついた大きな寝台があった。帳が開かれ、広々として柔らかなその布団の上には、一人の銀髪の少年が裸身に毛布を巻き付けて座っていた。
「…誰?」
 白皙の顔をさらに蒼白にして震える少年は、美しい空色の瞳に怯えの色を浮かべて、入り口に立つカノンを見た。
「……」
 ぱちぱちと二、三度目を瞬かせ、カノンは少年を見つめた。その容貌には覚えがあった。
「…サガ?」
 首を傾げ、カノンは自問のように呟いた。その可憐な顔立ちの少年は、幼い頃の兄に、正確に言えば十歳くらいの姿に、瓜二つだったのだ。
「…アイオロス、お前、とうとう少年趣味に走ったのか?」
「違う!」
 失礼極まりないカノンの疑問をアイオロスは即行で否定した。アイオロスがサガに良く似た美少年を寵童として寝室に連れ込んだわけではないらしい、と、カノンは改めて少年を頭から足の先までじろじろと眺めた。カノンのぶしつけな視線に、少年はますます怯えの色を強くした。
「誰だ、お前は?」
「僕は…サガだけど…。あなたは誰?」
「……」
 カノンは少年を指さし、自分の後ろに立つアイオロスを振り向いて尋ねた。
「…おい、どういうことだ、これは?何がどうなってる?」
「実はさぁ…」
 とアイオロスは説明を始めた。

 昨日のその夜も、アイオロスは自分の寝室に首席補佐官のサガを連れ込んで激しく愛した。
「ロス…もうやめ…。つらい…」
「サガ、もう一回…」
「だめぇ…。お願い、やめて…」
「もう一回だけ。ね、ねっ!」
 というわけで、アイオロスは旺盛な精力に任せてサガを執拗に愛し続け、とうとう、
「あああ…っ…!」
 何度目かの絶頂ともに、サガに意識を失わせてしまったのだ。
「サガ…?」
 腕の中で突然に脱力したサガをアイオロスが見下ろした。
 サガは快楽に弱く、こうしてアイオロスに愛されているうちに気を失ってしまうことがこれまでにもたびたびあった。
 ああ、やり過ぎたか…と事情を察したアイオロスはサガを離した。そしてしばらくその寝顔を見ていたのだが、不意に、サガの髪の色がいつもの蒼銀から黒銀にと毛先から変わっていったのだ。
「え、えええ…っ!?」
 突如の変化にアイオロスが驚いている間に、サガがまぶたを開いた。普段は空色の瞳も、真紅にと変わっていた。主人格が意識を失った隙に表層に出てきたサガのもう一人の人格は忌々しそうにアイオロスをにらんだ後、
「…どけっ!」
 と、彼を足で蹴っ飛ばした。
「悪のサガ…!?何でお前が…!?」
「お前が『あいつ』を気絶させたからだろうが!」
 十二宮の戦いの果てにアテナの盾によって悪の心が浄化されたサガだが、もう一人の人格が完全に消滅したり、主人格と融合したというわけではなかった。悪の心も、サガの精神を構成する重要な要素の一つなのだ。それを失うことは、サガの精神が不完全で不安定になってしまうことを意味する。ハーデスとアテナとの講和による復活に伴い、悪のサガの人格もサガの意識の底で蘇った。とはいえ、以前のように主人格を押しのけてまで肉体を支配するほどの力は持たない。もう一つの人格はかけらとして普段はサガの深層意識に留まり、眠り、サガの精神を奥底から裏打ちして支える役目を果たしている。だがこの時のように主人格が意識を失えば、その隙に表に出てきて、主人格の代わりに体を動かすことも可能となる。もう一人のサガにとっては「主人格が眠って無防備になっている間は、自分がこの肉体を守って世話をしなければなるまい」というところだ。
 体を起こした黒髪のサガは、情事の痕跡が残る己の体を気持ち悪そうに見下ろした。
「…ああ、くそっ、どこもかしこもお前の精液だらけで…。汚らわしい…!」
 乱れた黒髪をサガは払い、寝台から抜け出ようとした。きっと早く浴室に行って体を清めたかったのだろう。
 だがその体を、アイオロスは引き戻し、押し倒した。
「…おい?」
 いぶかしそうな顔をした黒髪のサガに、アイオロスはうっとりとした口調で告げた。
「サガ…黒髪のお前も綺麗だ…。白い肌に真っ黒な髪が色っぽくって…」
「…ッッッ!」
 欲情を浮かべたアイオロスの眼差しに黒髪のサガは全身を総毛立たせて、彼を押しのけようともがいた。
「き、貴様!?私も抱く気か!?」
「どちらのサガもおれにはサガだよ!二人とも愛してる!」
 実のところ、アイオロスは内心では銀髪のサガと同じくらい、黒髪のサガにも惹かれていた。というか、それが「サガ」だというなら、アイオロスは善も悪も、表も裏も、全てを自分のものにしてしまいたかったのだ。ましてその時のアイオロスは、サガが途中で気絶したことで欲求不満をくすぶらせていた。その欲求に、黒髪のサガの凄艶な姿が火をつけてしまったのだ。
 これは黒髪のサガもおれのものにする千載一遇の好機!とアイオロスは雄の本能をむき出しにして彼に襲いかかった。
「こ、このアホオロス…!あれだけやってまだやり足りないのかーっ!」
「全然、足りない!あと一回だけでいいから!」
「やめろーっ!」
「サガ、おれのものになってくれ!」
「うわああああーッ!」
 二人は寝台の上で取っ組み合った。本来ならサガの力はアイオロスと互角といっていいのだが、それは主人格が表に出ている場合の話だ。今の黒髪のサガは、アテナの盾の力で小宇宙の大部分を失った状態で、その力は前よりも格段に弱体化していた。となると、最強の黄金聖闘士たる射手座のアイオロスを相手にするには、明らかに力比べでは不利だった。
 とうとう黒髪のサガは爛々と欲望の小宇宙を燃やすアイオロスに組み伏せられた。だが彼はアイオロスに犯されようとした瞬間、
「…くっ!」
 とっさに自分に光速拳を撃ったのだ。

「…で、黒髪のサガが何か光速拳っぽいものを自分の頭に撃ったなーと思ったら、サガの髪の色が銀色に戻ってね。同時にサガの体が縮んで、こんな子供の姿になっちゃってさぁ。記憶も子供の頃に戻ってるみたいで…」
 無言のまま、カノンはアイオロスの腹を蹴り飛ばした。
「…ぐおっ!痛いじゃないか、カノン!?」
「うるせー!徹頭徹尾、お前が諸悪の根源じゃないかーっ!ああ、くそっ、サガとやりまくっただと!?腹立つ、腹立つー!死ね、今すぐ死ねーっ!」
 げしげしとカノンはアイオロスを蹴り続けた。
「や、やめてよ、カノン!と、とにかく、サガの人格が元に戻ったのはおれが原因だとしても!何で子供の姿になったのか分からなくて…。サガと同じ技を持つお前なら理由が分かるかなと…」
「……」
 カノンの怒りは収まらなかったが、とりあえずアイオロスを蹴るのはやめた。アイオロスの寝室に踏み込んだカノンは、子供の姿になった兄の横に腰かけた。びくりと、少年のサガが身をすくませる。
「誰…?」
「おれはカノンだ。お前の双子の弟の。おれのことも記憶にないのか?」
「…嘘だ!」
 声変わりしていない甲高い声でサガが叫んだ。
「カノンは僕と双子だもん!あなたは大人じゃないか!?」
「…ああ、本当に記憶も十歳の頃なんだな。サガ、本当はお前はおれと同じ大人なんだ。今はちょっと事情があって子供の姿に戻ってるだけで…」
「……」
 不審そうにカノンを見やるサガに、カノンは自分の長い銀髪を触らせた。
「ほら、この髪、お前と同じだろ?」
 おそるおそるカノンの髪を触りながら、それでもサガは得心するところがあったようだった。
「…本当だ…。エルセルート母さんと同じ髪…」
「な?」
「じゃあ、じゃあ、ここは本当に地上の聖域なの?何で僕、そんな所にいるの?」
 寝台の上からサガは改めて周囲の部屋の様子を見回した。
「…まあ、色々あって…。おれたちはアイアイエの島を出て、聖域に来たんだ。ずっと前にな」
「…嘘…。だってキルケは…」
 呆然とサガが呟く。実の両親を失った双子たちを引き取り、慈しんで養い育ててくれたあの美しく優しい養母の元を離れて、彼女が息子の仇だとあれほど忌み嫌っていた聖域に自分が身を寄せるとは、この頃のサガには思いもつかぬことだったのだ。
「とにかく、色々あったんだ。まあ詳しいことは後でいい。こっちに来い、サガ」
「……」
 まだ不審げな顔をしていたが、サガはそれでもカノンに近づいた。カノンは子供になった兄の顔を手で包むと、自分の額をサガの額とこつんと合わせた。
「…う〜ん…」
 サガの精神の状態をカノンは探った。
「何か分かったか、カノン?」
「記憶領域の一部が封じられてるな」
 額を離し、兄の精神を探り終えたカノンがアイオロスに答える。
「黒髪のサガが自分に光速拳を撃ったというなら、そのせいだろう。おそらく、アイオロス、あいつはお前を嫌うあまり、お前に関する記憶を頭から排除した…というか、お前の記憶にアクセスすることができないように封じたんだ。その結果、サガの精神がお前と出会う以前、つまり十一歳にまで戻って、肉体の方もそれに引きずられて十一歳に戻ったんだ。今のサガの肉体は、ハーデスとの講和で冥王が与えた仮のものだからな。生身よりも不安定で、中身が変われば外見も簡単に変容してしまうんだろう」
「元に戻す方法は?」
「問題はそれなんだよなぁ…。幻朧魔皇拳の派生みたいなものだから、元に戻るには何かのきっかけ、例えば魔皇拳の場合なら『人一人が目の前で死ぬこと』というような解除方法があると思うんだが…。黒髪のサガが何を解除の条件にしたのかまでは、おれにも分からない」
「その記憶の封印とやら、お前には解除できないのか?」
 難しそうな顔でカノンがうなった。
「『鍵』が分からないのに強引に開かせるのはなぁ。下手したら精神に傷が残って、最悪、崩壊するかもしれんし…。黒髪のサガを呼び出して聞けば手っ取り早いが、あいつが教えてくれるかどうか…。というか、そもそも呼びかけに答えられる状態なのか…」
 どうしたものかね?とカノンが少年の兄を困ったように見つめる。まだ状況が理解できていないサガは、不思議そうな顔でカノンを見つめ返した。
「アイオロス、日本におられるアテナが次に聖域に来られるのはいつだ?」
「来月の末だ」
「そうか。神であるアテナなら何かお分りかな、と思ったが…そこまで待てないなぁ…」
 その時、「あ!」とカノンが声を上げた。
「あいつに聞いてみるか。アテナよりは格下とはいえ、あれでも一応、神だし」
「あいつ?」
「アケローオス。あんなのでも聞かないよりはマシだろ?」
「……」
 アテナの母方の伯父であり、河の神々の筆頭であり、幼かった時分の双子たちの兄替わりであった「河の王」も、カノンにかかれば「あれでも」とか「あんなの」とか散々な扱いである。そのうち神罰が下っても知らないぞ、と、アイオロスに口には出さなかったがカノンに呆れた。
 とりあえずカノンは十二宮を下り、ふもとの泉でアケローオス河神の館に「水鏡」の術で連絡を取った。これは水脈を通じて姿や声をやり取りする、海界でもニンフや魔導師たちによってよく使われる術だった。
 ところが。
「お父様はお留守です」
 というのが、アケローオス河神の娘であるニンフのカリロエの返答だった。
「つくづく使えねぇ奴だな!」
 苛立ちを隠そうともせず、完全に八つ当たりでカノンは吐き捨てた。とことん、アケローオス河神に対して態度がぞんざいな男である。
 「水鏡」に映るカリロエが続けてカノンに言う。
「お父様は父王(バシレウス)の御用で水天宮に出向かれています。父王(バシレウス)の辺境視察に同行されるということですから、当分はお帰りになれませんでしょう。お留守の間に何かあればアルペイオス叔父様に任せる…という言伝ですが、アルペイオス様にご連絡を取りますか?」
 アルペイオスとは、ペロポネソス半島のアルカディア地方から体育競技で有名なオリンピアのあるエリス地方を流れる河の名前だ。この河の神はアケローオス河神にとっては弟に当たる。
「…頼む」
 はぁ、とため息をつき、カリロエはアルペイオス河神への連絡を頼んでカノンは「水鏡」の術を切った。


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