2016年ロス誕作。
ロスサガほのぼのラブラブ系小話。
冒頭の詩は呉茂一『ギリシア・ローマ抒情詩選』より。
『接吻』
幸せなものよ、もしあの娘が
私の唇に唇をさしそえて
ただ一息にこの魂を飲みほしてくれさえしたのなら
紀元前一世紀の古代ギリシャの詩人メレアグロスの恋愛詩より
十一月三十日、教皇アイオロスの誕生日は、聖域では様々な祝典が行われる。
競技会だの、人々から祝いを受ける謁見だの、女神に感謝する祭儀だの、集まった人々への演説だの、一通りの儀式を終えたアイオロスは、私室の居間に戻って休憩していた。
「アイオロス…」
首席補佐官を務める双子座のサガが扉を開いて声を掛ける。すると、彼は法衣姿のアイオロスが長椅子に横たわって昼寝をしている光景を目にした。
「アイオロス、寝てしまっているのか…?」
静かにサガが呟いた。今日は忙しかったから仕方ない、と思う。様々な式典の合間に通常の業務もあったのだ。休息をとろうと横になって、そのまま寝入ってしまったのだろう。
『そろそろ晩餐会に備えて着替えをした方がいいのだが…』
だが安らかに寝息を立てているアイオロスの顔を見ていると、サガは彼を起こすのが可哀想になってきた。もう少しくらいは良いか、とも考えた。
「……」
その時、無防備に眠るアイオロスの寝顔に、サガはいたずら心がふと動いた。
きょろきょろ、と、室内を見渡す。当たり前のことかもしれないが、彼とアイオロスの他に人はいなかった。
サガは足音を忍ばせて長椅子に近寄った。そして眠るアイオロスに顔を近づけた。彼に口づけをこっそりとしようとしたのだ。
だが。
『ああ、やはりだめだ…!』
直前で気恥しくなり、サガは動きを止めた。
やっぱりやめ…と、サガが顔を離そうとした時、途端に彼の後ろ髪が捕まれた。
「…んっ!」
ぐいっとサガの頭が後頭部から押され、彼の顔はアイオロスに急接近した。サガの唇がアイオロスの唇と合わさり、奪われる。
「ん、ん、んんーっ!」
舌を入れられ、無理やりなディープキスを存分にされてから、サガは解放された。呼吸を止められたこともあって真っ赤になった顔を上げたサガは、唾液で濡れた唇を手でぬぐった。
「ア、アイオロス、お前…!?」
見ると、腕を伸ばしてサガを引き寄せ、口づけを奪ったアイオロスは目を覚まして楽しそうに笑っている。
「起きていたのか!?ずるいぞ、寝たふりでだますなど!」
「サガが近づいた気配で目が覚めたんだよ。キスしてくれるかな〜と思って待ってたのに、止めちゃうなんてひどいじゃないか」
笑いながらアイオロスは体を起こした。
「もう、もう…!」
自分がアイオロスに秘かに口づけしようとしていたことまで気付かれていたと知って、サガは羞恥でうろたえるばかりだった。
アイオロスが、自分の唇に指を添える。
「ねぇ、サガ、キスしてよ」
「…え?」
「サガからキスして欲しいんだよ。ほら、誕生日のお祝いだと思って」
「う…」
キラキラとした期待の眼差しで見られ、サガが言葉を失う。
「ほら、早く〜」
アイオロスは唇を尖らせてサガにキスをせがんだ。サガはわずかに頬を染めて目を伏せた。
「…アイオロス、目を閉じてくれ…」
「どうして?」
「どうしてって…は、恥ずかしいではないか!」
サガの白い顔には血潮がのぼって薔薇色に変わっている。視線を合わせるのも恥ずかしいとばかりに、目はどこを見るとも定まらずに瞳をさまよわせている。そんなサガの様子に、アイオロスは微かに笑った。恋人になってずい分と時間がたつというのに、サガはいつまでたっても初々しい反応を返してくる。その清純さがまたアイオロスを喜ばせ、楽しませた。
「はい」
アイオロスが言われたとおりに目を閉じる。サガは顔を近づけて瞳を閉じ、そっと唇に触れるだけの口づけをした。
「…お誕生日おめでとう、アイオロス」
「ありがとう、サガ」
そうして目を開けて見つめ合った二人は、やがてどちらからともなく再び顔を近づけて、深い口づけを交わしたのだった。
<FIN>
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