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2015年10月06日23:02

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『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』


 監督 J・C・チャンダー(『オール・イズ・ロスト 最後の手紙』)

 業界内での談合に応じず、ひたすら良いサービスをより安く顧客に提供することによって売り上げを伸ばす新興業者。彼らはいつの時代でも何処の世界でも叩かれる、妨害を受ける。暴力によってだったり行政指導や司法的な圧力だったり。日本でいえば、例えばかつてのダイエーがそうだった。金策も尽き司法からも追い詰められ孤立無援となった時、経営者はさてどうするか。

 1981年ニューヨーク、冬。折しもの不況も相まって、この街が「最も犯罪に溢れた年」(原題)。ラテン系移民の主人公はアメリカンドリームを実現しようとしていた。灯油小売業であくまでもクリーンなやり方で急成長し、妻(獄中の父はマフィアで、兄もそっち系)と子どもたちと豪邸に引っ越す。大枚叩いてユダヤ系移民が所有するタンク付きの土地を購入すべく手付金を払う。しかし配達途中のローリーが度々奪われ、業を煮やして押しかけた検察ではお宅には不正があるので訴えると逆に言われる。家には怪しい男が来るし主人公は追い詰められていくが、めげることなく自分のやり方を貫き通す。しかし、妻や部下は彼ほどは強くなかった…

 この映画の終盤、追い詰められた主人公が鏡を見ながら髭を剃る場面で、ロナルド・レーガンの経済政策についてのラジオニュースが流れる。ここで主人公は「変心」する。追い詰められてもなおウソを嫌い不正を拒み続けた彼が、経理を任せていた妻が夫に内緒で蓄えてきた不正なカネを受け容れるシーンである。非常に、非常に象徴的な場面。イランでの失策で弱腰と非難され第2次オイルショックによるインフレと不景気で現職の大統領なのに二期目を落選したジミー・カーターに代わって、力を信奉するレーガンがホワイトハウスに入ったのがこの年の1月。こののち(レーガン暗殺未遂事件とかを経て)レーガノミクスによってアメリカ経済は復活することになるが、と当時に合衆国は変質していく。ソ連に対峙し大国として世界に君臨するがそれがアメリカの幻の頂点であった。非暴力と公正公平を貫こうとした主人公もまた、そのような時代にまみれていく。文字通り血と油に汚されて。主人公の商売がオイルであるのも非常に象徴的、意図的なのである。手を汚さずには生きてはいけないというこの作品の結論を堕落したとみるか、成長したとみるか。そうではなくてそれは表裏一体なのだ。


 主人公を演じる伸び盛り?オスカー・アイザック(『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』でタイトルロールを演じた)は、『SW』新作などで、さらなる成功が約束されている。


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